法事の後には、お返しについて考える必要があります。頂く香典の金額や品もさまざまなら、年齢も趣味も違う人たちそれぞれに喜んで頂けるようなお返しをするのに悩む人も多いでしょう。そんな法事のお返しについて、相場や選び方のポイントを解説します。
法事とは
『法事』は故人の忌日に縁のある人々が集まり、冥福を祈るための仏事です。
しかしその本質的な意味は、意外に知られていないようです。法事を理解するために、その仏教的な意義を含めて確認しましょう。
追善法要を指している
法事とは『追善法要』のことです。それは仏教の『六道輪廻』(ろくどうりんね)という考え方と関係しています。
人間は亡くなると『地獄道』『餓鬼道』『畜生道』『修羅道』『人道』『天道』という、6つの『境涯』(きょうがい)のいずれかに転生するとされます。
故人ができるだけ良い境涯に転生できるように、遺されたものが故人に代わって供養を行うのが追善法要です。
一周忌などの法事の種類
没後の翌年からの法事は、1年後に『一周忌』の法要があり、2年後に『三回忌』が営まれます。そこから4年間は法要の間隔が空くのが特徴です。
そして、故人の命日から丸6年を経ると『七回忌』になります。
仏教上では意義深い七回忌は、とりわけ大切な仏事です。年数は空きますが、三回忌と同じく遺族、親戚はもちろん、友人、知人と僧侶を招きます。七回忌は大きい節目と言ってよいでしょう。
その後は、法要の規模は徐々に小さくなっていきます。遺族、親族以外の縁者は基本的には招待せずに、身内だけでひっそりと供養していくのが一般的なやり方です。
しかし、地域や宗旨によって法事のあり方はさまざまにあるので、一概には言えません。
日数の計算
忌日法要は、故人の没後7日おきに、合計7回とり行われるしきたりです。最初の法要は『初七日』(しょなのか)といって、これらは法要ごとに違う名称になります。
法要の日数の数え方は『命日が初日』として数えるのがポイントです。最初の法要である初七日は、没した7日後ではなく6日後にあたります。
その先の二七日(ふたなのか)・三七日(みなのか)・四七日(よなのか)・五七日(いつなのか)・六七日(むなのか)も、命日を初日として数えた日です。
そして、故人の没後七七日(なななのか)が、節目となる『四十九日』(しじゅうくにち)になります。
年単位の法要もこの数え方と同じで、三回忌や七回忌は3年後・7年後のことではなく、2年後・6年後です。
意味を使い分けるため、命日の1年後のことは『一周忌』というように『回』ではなく『周』を使います。
そのほかの法要の種類
追善法要つまり法事のほかにも、さまざまな法要があります。主だったものを紹介しましょう。
『開眼法要』(かいげんほうよう)は仏像や仏画などが完成したことを寿いで行われる法要です。『魂入れ』ともいわれます。
『施餓鬼法要』(せがきほうよう)はお盆の頃に、特定の先祖ではなく、有縁無縁の霊を供養する法要です。寺に檀家が集まってとり行われます。
『落慶法要』(らっけいほうよう)は本堂や山門などのお寺の建造物の補修工事をしたり建てかえたりした折りに、完成を祝ってとり行います。
この際、幼児に『水干』(すいかん)という装束を着せ、周辺をねり歩く『稚児行列』(ちごぎょうれつ)もあわせて行うのが一般的です。
法事の流れ
法事は多くの親類縁者が集まる催し事です。式次第がとどこおりなく進むように、流れを把握しておくことが大切になるでしょう。法事の流れを解説します。
事前準備
法事の当日までに身内で話し合って、最低限準備しておくことは、以下の6項目です。
- 施主を決定
- 日程の決定と僧侶の依頼
- 会場の決定
- 招待者の決定
- 案内状を発送
- お斎(とき)の手配
『施主』は、葬儀の折に喪主をつとめた人がつとめるのがごく一般的です。
日程や会場に関しては、『菩提寺』つまり先祖のお墓がある寺をもっている家なら、そこの僧侶と相談して決めるのがよいでしょう。自宅か菩提寺が通例です。
法要後には参会者全員でのお斎(とき)と呼ばれる会食があります。
全員が余裕を持って座れる広間が必要です。自宅や菩提寺ではお斎ができないという場合は、お斎だけを法要会場の近くの料理店の座敷で行うこともあります。
当日の流れ
- 施主による開始の挨拶
- 読経・焼香
- 施主による法要終了の挨拶
- 施主によるお斎の献杯での挨拶
- 食事・歓談
- 施主によるお斎終了の挨拶
以上のように、シンプルな施主の挨拶によって式次第が移ります。
ここでの挨拶は簡潔なものが求められます。法要という場の『おごそかな雰囲気に見合った、まごころがこもった挨拶』がよいでしょう。
お斎がない場合は、終了の挨拶の際にその旨を告げなければなりません。
その場合、参会していただいた人たちをそのまま帰らせるのは礼儀を欠くことになります。お礼の品を用意しておいて、できれば施主自身が1人1人に手渡すのが望ましいでしょう。
法事のお返しについて
法事にて頂く物に関しては、お返しが必要です。そのときに注意しておくべきポイントがいくつかあります。具体的に見ていきましょう。
お返しや引き出物
『香典』とは本来、故人の霊前に供えるものです。
四十九日を過ぎてから、つまり故人が成仏したとみなされた日より後は、お参りされる人からいただくお金は、仏への『お供え』と解釈されます。よってそれは『香典』にはなりません。
また、お返しの品にも同じことが言えます。『香典返し』ではなく『お返し』や『引き出物』という位置づけです。
金額の相場
法事で頂いたお供えへの金品へのお返しの相場は、頂いた金額、あるいはお供え物の相当額の『1/3から1/2ぐらい』が目安です。
注意点は、当日のお斎(とき)の食事代や引き出物の費用もあわせて考えるという点です。
たとえば、当日の食事代が8000円で、お持ち帰り頂く引き出物が4000円程度の品物とすれば、合計で1万2000円相当がお返しということになります。
香典を2万円頂いた人には、すでに半分以上を返したことになり、もうそれ以上する必要はありません。しかし、3万円頂いた人には、半分以下のお返しになってしまいます。
この場合、追加で3000円程度の品を、後日お届けすれば問題ないでしょう。
表書きについて
四十九日までの忌日法要と、それから後の年忌法要では、お返しの表書きに、それまでの法要との違いが出てきます。
墨の濃さと水引
法事の際の引き出物の表書きは、薄墨ではなく、普通の濃さの墨で問題ありません。
四十九日までは、故人の悲報に触れて驚き、墨をする時間もなければ、涙で墨が薄くなるという意味合いから薄墨を使うのが通例です。
四十九日を超えていれば、仏教ではもう成仏しているという認識になりますので、それ以降の法要では特に悲しみを字の色で表現する必要はありません。通常の濃さの墨や筆ペンを使用しても大丈夫です。もちろん、薄墨を使っても問題ありません。
水引においては、一周忌までの法要は黒白か双銀を、三回忌以降は青白か黄白の結び切りです。結び切りは、悲しいことは繰り返さないようにという願いがこめられています。
書き方
表書きは『志』『御礼』『粗供養』などにしましょう。地方により違いはありますが、関東でよく使われるのは志で、関西では粗供養とすることが多いようです。
表書きの下に、施主名の姓のみを書くのが通例ですが、フルネームで書いても問題はありません。〇〇家とする場合もあります。
渡し方やお礼状について
引き出物は参会者に、感謝の気持ちとともに渡すものです。しかしながら、法要当日は、施主は色々とすることがあります。余裕をもって1人1人きちっと渡すのが難しい場合も考えられるでしょう。
当日、混乱せずにスムーズなお渡しができるように、前もって準備をしておきましょう。以下、注意点をあげておきます。
事前にしっかり準備を
お返しの引き出物は、前もって持ち帰りやすいように袋に入れて準備を済ませておくのが礼儀です。
準備が足らないと混乱してしまい『渡さないまま、すでに帰宅してしまった人』も出るかもしれません。そのような事態は極力避けた方がよいので、入念に準備しましょう。
渡すタイミング
法事のお返しは、本来『法事に集って頂いたことへのお礼』という意味で渡すものす。お返しのタイミングとしては、当日の法事の式次第がすべて終了した後、お見送りする時に、1人1人にお礼を言いながら手渡しで渡しましょう。
法要のあとに会食がある場合は、会食の終わりの挨拶をしたあとに、施主が参会者に1人ずつお礼の言葉をかけて配っていくのが望ましいとされています。
料亭・ホテル等の場所での会食の場合には、あらかじめ席が決まっているので、事前に座席に置いておいて、会食が済んだらそれぞれ持って帰って頂くという方法もあります。
このやり方なら当日渡したかどうかの無用な混乱を避けられて、確実に渡せるでしょう。
お礼状のマナー
お礼状に関しては四十九日の法要と、その後の年忌法要では違いがあります。
四十九日を無事に迎えられたことや、お世話になった感謝を込めた『忌明け礼状』を品に添えて渡すのが一般的です。ただし、必ず用意しないと礼を欠くというものではありません。
年忌法要で、散会の際に直接お礼の品を渡せる場合は、施主から一言お礼の言葉を添えて手渡す形がよいでしょう。その場合は、お礼状は必要ありません。
ただし、何らかの都合で当日に渡せず後日宅急便などで届ける場合は、お礼状を添えて届けるようにした方がよいでしょう。
法事のお返しや引き出物の選び方
法事のお返しについて、避けるべきこともあれば望ましいこともあります。礼儀としてわきまえておくべきことと、選び方を紹介します。
消えもの
葬儀や四十九日の香典返しなら、悲しみが長く残らないようとの意味を込めて『消えもの』であるお茶やお菓子・せっけんなどを選びます。
しかし、年忌法要は状況が違うため、茶器・お盆・タオルなど『後に残る品』でもよいとされています。つまり、香典返しよりも選択肢が多く選びやすいといえるでしょう。
だからといって、後に残らないものがダメなわけではありません。
最近では、もらった人が掲載されている中から好きな商品を選べる『カタログギフト』が人気で、お返しの1つとして増えてきています。
持ち帰りやすいもの
法事で渡す引き出物は、来て頂いた人が持ち帰りやすいものをという配慮も大切です。遠くからはるばる来てもらった人に、かさばるものや重いものをお渡しすると負担になります。
そのようなものは極力避けて『持ち運びやすいもの、負担が少ないもの』を選びましょう。
お茶や海苔などは割と軽くて、持ち運びやすいのでおすすめです。進物を扱う店は、持ち帰りやすい品物を豊富に取りそろえているので、選ぶのには困らないでしょう。
一般的なお返しや引き出物
一般的に法事のときの当日の引き出物や、のちのお返しなどで選ばれることが多い品物を紹介します。
お茶
「お茶を飲みつつ故人を偲ぶ」という意味から、法事の引き出物にお茶は人気の品です。お礼の品なので普段飲んでいるお茶よりも『少しグレードを上げた』高級銘柄のお茶を選ぶと喜ばれるでしょう。
京都の宇治茶や静岡茶、福岡の八女茶など全国各地の銘茶を進物店でも扱っている場合が多いです。お茶の種類も、緑茶・煎茶・玄米茶・ほうじ茶など、さまざまなものがあります。
お茶は日持ちもするうえに、渡す人の年齢を問わずに喜ばれる可能性が高い品物です。法事の引き出物としてぴったりでしょう。
お菓子
お返しとしてお菓子を渡すことは『引き菓子』と言って、参会者が家に帰って家族と一緒に食べることで故人を偲ぶためのおみやげという意味があります。
引き菓子として、お菓子の詰め合わせなどを選ぶとよいでしょう。定番的なせんべいなどの和菓子ももちろんですが、バームクーヘンなどの洋菓子も非常に人気があります。
乾物
繰り返しになりますが、法事の当日の引き出物に相応しいものは、あくまでも慶事ではないため、食べてなくなるものや実用品、消耗品などです。
『かさばらず軽いもの』として、乾物の詰め合わせがお返しとしてよく選ばれています。乾物は食べてなくなるものですし、軽くて持ち帰りやすいからです。そうめんなども、特に夏の法事にはぴったりです。
実用的なお返しも増えている
最近では形式に縛られずに、受け取る側にとって嬉しい『実用的なお返し』が選ばれるケースも増えています。例えば以下にあげるものです。
カタログギフト
最近は、香典返しや法事のお返し、あるいは結婚式のお祝い返しも含めて、カタログギフトの利用がかなり増えている傾向にあります。
確かに同じ法事のお返しなら、お蔵入りになりそうなものよりも『自分が使えそうなもの、好みのものを選べる』カタログギフトは無駄がなく、現代的と言えます。
ただし、誰にでも共感を生む価値観とは言い切れないので、地域性やご年配の人のことも考慮して、「大丈夫そうなら選ぶ」ぐらいの気持ちでいるのがよいでしょう。
商品券
高額のお供えを頂いた場合は特に、どんなお返しを選んだらよいのか、選ぶのが難しくなるでしょう。
その点、商品券であれば、相手に好きなものを自由に選んで購入してもらえるというメリットがあります。商品券はさまざまな種類があるため、最近では商品券を贈るケースも増えてきました。
特定店舗でしか使用できないものだと相手も困りますが、全国百貨店共通商品券や、JCB、VISAなどのカード会社が発行するギフト券なら使いやすいので無難です。
また、例えば2万円の商品券を贈る場合は、1万円を2枚にするよりも1000円を20枚にして贈るほうが使いやすくて、喜んでもらえるでしょう。
商品券で考えるべきポイント
便利だからという理由でお返しに商品券を選ぶ場合も多いのですが、かといって全面的におすすめはできない理由があります。
品物でお返しした場合は、先方もだいたいの値段は想像がつくとしても、商品券の場合のように『額面が明確にわかる』わけではありません。
そのため、人によって商品券は『あからさますぎる』と感じることもあるようです。
また、立場が上の方に商品券のお返しをするのは、まるで現金でそのまま返すような印象を与える場合もあります。
商品券でお返しをするときには、手紙でお礼の言葉を添えるなどの配慮をするようにしましょう。
心のこもったお返しを
法事のお返しは昔ながらの定番的なものも人気がありますが、時代の変化を反映して『形式よりも実用を優先する考え』も出てきています。
その方が喜ばれる場合も多いので、新しい選択肢の1つとして念頭に置いておきましょう。
どのような品を贈るにせよ、本来の意味である『感謝を伝える』という根本を忘れることさえしなければ、おのずと心のこもったお返しになるはずです。