剣道では面を着用する前に、頭に面タオルと呼ばれる専用の手ぬぐいを巻きます。面タオルを巻くことで試合前の精神統一にもつながるため、選び方や巻き方にこだわりをもっている剣士も多くいます。剣道の密かな重要アイテム、面タオルについて解説します。
剣道で使われる面タオルとは
剣道の面タオルには、いわゆるタオルではなく、手ぬぐいが使われることがほとんどです。具体的にどのような手ぬぐいが使われているのか、素材やサイズについて見ていきましょう。
綿の手ぬぐいを使用するのが一般的
面タオルには、一般的な手ぬぐいよりも少し大きめの綿の手ぬぐいがよく使われています。手ぬぐいはタオルに比べて汗をよく吸う上に、乾きやすいのが特徴です。
また肌触りが良く、試合中快適なのはもちろん、洗濯が簡単でいつも清潔な状態を保つことができます。
サイズは長さ1m程度
面タオルは頭に巻くものですから、だいたい1m程度の長さが必要となります。実際に販売されている剣道用の面タオルも、約1mのものがほとんどです。
通常の手ぬぐいの長さは約90cmなので、面タオルはこれよりも少し長めということがわかります。しかし必ず1mでなければならないという決まりはありません。
自分の頭の大きさに合った長さのものを使っても大丈夫です。
面タオルの役割
面タオルの役割は、本来は面の内側を保護し劣化を防ぐことにありました。しかし面タオルを巻くことで、汗が顔に流れ落ちることを防いでくれますし、攻撃を受けたときの頭部への衝撃も緩和されます。
さらには面タオルを巻く時間そのものが、試合前の精神統一にも役立つなど、剣道をする上で非常に重要な役割を果たしています。
面や頭を守る
先ほども紹介したように、剣道の面をそのまま頭につけると汗により面の内部が汚れ、劣化が早まってしまいます。そのため、面を保護する目的で面タオルが使われるようになりました。
同時に、面タオルがクッションの代わりとなって面を打突されたときの衝撃を和らげ、頭を守るという役割も果たしています。
汗を吸収する
剣道の胴着はとても暑く、少し動くとすぐに汗が出てきます。しかし面をつけている状態では、頭部や顔の汗を拭くことができません。汗だくになり不快な上に、汗が目に入ると前が見えなくなり危険です。
面タオルを巻いていれば、頭の汗を吸収し顔に流れるのを防いでくれます。面タオルは面や頭を保護するだけでなく、汗を吸い取り快適に試合や練習ができる、優秀なアイテムといえます。
面タオルの選び方
面タオルの素材やサイズ、デザインについて明確な規定はなく、自分の好みに合ったものを使うことができます。快適な素材でカッコいいデザインの面タオルを選んで、気分よく練習や試合に臨みましょう。
色やデザインで選ぶ
面タオルには、よく使われる定番の色や柄があります。気分を落ち着かせる青や生命力を感じさせる緑、情熱的な赤が多く使われます。
柄では、とんぼや麻の葉柄がよく用いられます。とんぼは前に飛ぶことはできても後ろには飛ぶことができません。このことから、絶対に退却しないという心意気を象徴する柄として、昔から武士が好んで使ってきました。
また、魔除けの効果があるとされるほか、まっすぐに成長する特徴を持つ麻の葉も、邪魔されず、剣の道を強くまっすぐに進むという意味で、面タオルの柄としてよく使われています。
プリントではなく本染めのものを
手ぬぐいの色柄を染める方法には、プリントと本染めがあります。剣道の面タオルとして使う場合は、プリントより本染めを選ぶようにしましょう。
本染めの作業工程では生地を最低でも3回洗い、もともとついている糊を落とします。このため非常に吸水性が良く、柔らかい肌触りに仕上がるのが特徴です。
プリントの場合は、糊を落とさず直接顔料を載せるため、通気性や肌触りがどうしても悪くなります。汗をきちんと吸い取って、快適に過ごすためにも、プリントより本染めの手ぬぐいを使うことをおすすめします。
手ぬぐいの文字のカッコいい意味とは
剣道の面タオルには、筆文字のような書体で文字が染められていることがあります。道場や学校単位で同じ文字を染めた、お揃いの面タオルを使用するケースも多く見かけます。
この文字には、気持ちを高めたり、逆に冷静になったりできるような熟語や単語が選ばれます。試合の前に、面タオルに書かれた文字を見て、精神を集中させる様子はカッコいいですね。
面タオルに主に使われている言葉と、その意味を紹介します。
明鏡止水
明鏡とは、一点の曇りもない澄んだ状態の鏡のことです。また、止水は波紋などの動きがない、静止している水を指します。つまり明鏡止水とは、澄んだ鏡のように邪念がなく、静止した水のように静かで落ち着いていることを表した言葉なのです。
剣道では、無意識に繰り出される『無心の技』こそが最高の技とされています。その時の精神状態はまさに明鏡止水ということで、その次元に達することを願って用いられています。
守破離
『守破離(しゅはり)』とは、剣道や茶道などで使われる修業段階を表す言葉です。守は、師の教えや技を忠実に守りながら確実に自分の身に付ける段階となります。
破では、師以外の教えや考え方などに触れ、良いと思うものは積極的に取り入れながら自分なりに発展させていきます。最後の離では、ついに独自の境地をひらくことを目指します。
剣道に真摯に向き合い、いつかは自分の理想とする境地に到達したいという強い意気込みを感じさせる言葉です。
質実剛健
この文字は、目で見るだけでも、また、耳で聞くだけでもカッコいいですね。飾り気のない真面目な様子、そして心身ともに強く美しい様子をよく表している言葉です。
質実剛健は、まさに剣士のあるべき理想の姿と言えるでしょう。
剣道の面タオルのつけ方
面タオルは剣道の練習や試合でとても重要な役割を持っています。正しくつけないと面が途中でずれてきたり、手ぬぐいがきつすぎて苦しくなったりしますので、しっかり練習しておきましょう。
手順を覚えて練習を重ねよう
面タオルをつける手順は意外と簡単で、慣れれば10秒ほどでつけることができます。手が自然に動くようになるまで、練習を重ねましょう。
まず手ぬぐいの左右の上端を持ち、手ぬぐいの中心部が顔の中心になるように顔の前で広げます。そのまま手ぬぐいの下端が眉毛の上に来るように、手ぬぐいを頭の後ろまで移動させます。
その状態で右手を前にまわし、たるまないように引っ張りながら左の側頭部に手ぬぐいの端を持って行きます。その端部分を挟み込むように、今度は左手を右側頭部へとまわします。
ここでもしっかりと引っ張って、たるまないように注意してください。手を離しても落ちてこなければ大丈夫です。
最後に顔の前に垂れ下がっている手ぬぐいを頭の上にかぶせ、たたんで内側に折り込みます。面からはみださないよう、きちんと折り込んでおきましょう。
手ぬぐいの巻き方を動画でチェック
手ぬぐいの巻き方はYouTube動画でも観ることができます。細かいコツなどが参考になりますので、上手くできない方はチェックしてみてください
【Kendo/剣道】【剣道初心者向】分かりやすい面手ぬぐいのつけ方、巻き方
気合が入る面タオルを選ぼう
面タオルは、巻いて面をかぶってしまうと外からは見えません。このため剣道を始めたばかりの人にとっては、あまり重要性が感じられないかもしれません。
しかし面タオルは、吸汗やクッションなどの実用面だけでなく、精神面でも剣士を支える縁の下の力持ちです。つけるときに気合が入るよう、ぜひこだわりの色やデザイン、文字を選んで愛用してくださいね。