砥石で包丁を研ぐのは、実は難しくありません。包丁に合った砥石さえ分かれば、誰でも簡単に自分で研ぐことが可能です。砥石は、材質や種類、硬さなど様々なものがあるので、本記事では砥石の基礎から選び方、おすすめの商品まで紹介していきます。
切れ味を蘇らせる包丁の手入れ
包丁は、使っていると切れ味が鈍くなっていきます。切れ味が悪くなったときに砥石で包丁を研ぎますが、この『研ぐ』行為には2種類があるのです。
1つは、砥石を利用して鈍った刃を削りだすことで、切れ味を元に戻す方法です。この研ぎ方を『ホーニング』といいます。
もう1つは、砥石がない場合に行う方法です。『タッチアップ』といい、キャンプなどで道具がないときに、刃の先を切り角度をつけて切れるようにします。
ここでは、ホーニングについて詳しく解説していきましょう。
簡単な手入れにはシャープナーが便利
最近では、砥石を使うよりも『シャープナー』を使用して包丁を研ぐ人が多くなっています。
砥石を使う場合は、あらかじめ水に浸しておくなどの準備が必要な場合が多いでしょう。砥石の手入れも自分でしなければなりません。また、技術的に研ぐのが上手くないと、かえって刃がボロボロになる恐れもあります。
シャープナーは、そのような煩わしさが一切ありません。研げなくなってきたらシャープナーの砥石を取り替えるだけでよく、手入れの必要もほとんどありません。
より簡単に使用できるのは、ローラーシャープナーです。技術は必要なく、誰でも同じように研ぐことができます。日頃の包丁の手入れであれば、ローラーシャープナーで充分でしょう。
砥石を使った手入れをすすめる理由
簡単に研ぐだけならシャープナーでもできますが、ここでは砥石を使って研ぐことをおすすめします。それは、砥石の月1〜2回の使用で、包丁を長持ちさせられるためです。
シャープナーは便利ですが、砥石で研ぐよりも切れ味が長持ちしないので、少なくとも週1回は研いだほうがいいでしょう。また、シャープナーはあくまで簡易的なものなので、包丁を3カ月〜半年に1度くらいは砥石で研ぐか、メーカーに出してメンテナンスをする必要があります。
砥石の成分による種類分け
砥石には様々な種類があります。成分によって『ダイヤモンド砥石』『セラミック砥石』『天然砥石』『水砥石』『油砥石』などに分けることが可能です。
ダイヤモンド砥石
『ダイヤモンド砥石』は、金属の板にダイヤモンド粒を接着剤でつけた砥石です。ダイヤモンドを使用しているので研磨力はとても強く、軽い力で研ぐことができます。ただし、砥石が高価なのが難点です。
研磨力が強いため、力を入れすぎると刃の寿命を短くしてしまうことがあります。そのためダイヤモンド砥石は、ゆっくり優しく研ぐことが大切です。扱いづらい部分もあるため、中上級者向けといえるでしょう。
また、ダイヤモンド粒は接着剤でつけてあるため、剥がれてしまう恐れもあります。その代わり材質は硬いので、平らでよい状態を長く保つことが可能です。
セラミック砥石
ダイヤモンドの次に硬く、セラミックの粉を入れて焼き固めたのが『セラミック砥石』です。通常の砥石よりも研磨力が高いため、より短時間で研ぐことができます。
砥石が硬い場合は研磨力は弱くなるのですが、セラミック砥石は硬い上に研磨力も高いです。材質が硬いため、砥石自体が削れていくスピードも遅く、平面を維持したまま長く使用できるメリットもあります。
難点は、砥石の『面直し(つらなおし)』です。砥石は使用していくと次第にへこみができ、平らではなくなります。そうすると上手く研ぐことができないため、砥石を平面に戻す作業が必要です。その作業を面直しといいます。
セラミック砥石は硬いため、面直しを行うのが大変です。面直しするには、他の砥石より労力も時間もかかります。
天然砥石
自然にある岩石から切り出した砥石が『天然砥石』です。日本の職人の研ぎ師は、ほとんどが天然砥石を使用しています。
昭和初期に1000近くあった天然砥石の採掘場は今はほぼなくなり、産地も非常に少なくなりました。そのため、天然砥石の中には数百万円するものもあり、非常に高額になることが多いです。
一般家庭では必要ありませんが、和食の料理人など包丁にこだわる人は最終的に天然砥石にたどり着くといわれます。天然の石なので同じ砥石でも品質にバラつきがあり、購入する際は叩いて響く音や重量、吸水スピードなどを比べることが必要です。
水砥石と油砥石
一般的に、砥石といえば水をかけて研ぐイメージがあるかもしれません。しかし、それは『水砥石』が日本でよく使われているからです。
水ではなく油を含ませて使用する砥石を『油砥石』といいます。油砥石は、水が資源として豊富ではないアメリカなどの国でよく使用されるものです。日本は水が豊富にあるため、水砥石のほうが広まっています。
水砥石は、もともと包丁や日本刀、農具、大工道具などを研ぐために使用されていました。砥石自体は柔らかいですが研磨力は強力です。その代わり、磨り減りるのが早い難点があります。
油砥石はナイフなどにも使用されますが、ドリルの刃やチェーンソーなどの工具にも使用されることが多いです。水砥石よりはるかに硬度があるため、多少の研ぎで磨り減りませんが、水砥石ほど鋭い切れ味にはなりません。
砥石の粒度による種類分け
砥石は、『荒砥石』『中砥石』『仕上砥石』の3つに分類することができます。しっかり研ごうと思うなら、この3種類は持っておいたほうがいいでしょう。
また、最適な砥石を選ぶためには自分の包丁をよく知ることも大切です。研ぎたい刃物の材質や刃の状態を確認しておきましょう。
番手とは?
砥石の粗さは#220や#1000といった数字で表し、この数字が『番手』です。番手は、粒子の細かさである『粒度(りゅうど)』を示しており、砥石にはこの番手が必ず記載されています。
番手の数字が小さいほど粒度が荒く、逆に大きいと粒度が細かいのです。荒砥石は#200前後、中砥石は#1000前後、仕上砥石は#3000以上というのが一般的な指標になります。
荒砥石
『荒砥石』は通常時にはあまり使用せず、主に大きく欠けた刃先を直す際に使用します。刃先が1mmでも欠けてしまうと、中砥石で研ぎ直すのは大変ですが、荒砥石だとそこまで大変ではありません。
また、刃の形を大幅に変更するときに使用する場合もあります。刃の形を修正する場合には荒砥石を使用したあと、中砥石で研磨していくイメージです。
中砥石
一般家庭でよく使われるのが『中砥石』です。初心者の人は、まず#1000ほどの中砥石を1つ持っておくといいでしょう。
日々のメンテナンスには、中砥石を使用します。刃先の微調整や刃先のラインを作ることによって、切れ味をよくすることが可能です。
ほとんどの場合は中砥石だけでも充分ですが、より切れ味にこだわりたい人は仕上砥石も使用するといいでしょう。
仕上砥石
『仕上砥石』は、中砥石で研磨したときにできた細かいキズを消したり、さらに切れ味をよくしたりするために使用されます。刃先を鏡のように磨くことも可能です。
通常の仕上砥石は#3000以上ですが、中には#8000の超仕上砥石もあります。切り口が重要な柳刃包丁などで使用され、一般家庭で使われることはほとんどありません。
ステンレス包丁には何番がよい?
ステンレスは硬度が高くないので、ステンレス包丁の場合には柔らかめの砥石が向いています。そのため、中砥石の中で番手が高いものを選ぶといいでしょう。
硬い砥石を使用してもいいのですが、柔らかい砥石を使ったほうが研ぐのが楽です。砥石が硬すぎると刃こぼれしてしまう可能性もあります。適当に砥石を選ぶのではなく、包丁に合ったものを選んでください。
一般的には中砥石だけあれば充分ともいわれますが、荒砥石、中砥石、仕上砥石の3つを所持することがおすすめです。3つを使用すると切れ味がよくなり、食材の切り口に違いが出て味のしみ込み方も変わってくるため、料理の味も自然とあがるでしょう。
砥石の性能、付属品による種類分け
砥石は同じように見えて、それぞれに違いがあります。製造会社や商品によって長所や短所があるのです。また、メーカー各社で様々な付属品があり、砥石を乗せる台やケースにも工夫がこらされています。
吸水性と不吸水性の違い
砥石には、水を吸収する『吸水性』のものとほとんど吸収しない『不吸水性』のものがあります。それぞれのメリット、デメリットを見てみましょう。
吸水性の砥石には小さい穴があり、そこから水を吸収します。砥石の中に水が浸透するため、使用するときに水を使う必要がありません。その代わり、使用する前に砥石を水に浸けておく必要があります。
不吸水性の砥石は水をかけながら使用するため、すぐに利用できます。使用後の乾きも早く、手入れも簡単です。ただし水を吸収しないので、頻繁に水をかけながら使用しないといけません。
一概にどちらが優れているとは言い難いので、自分が使いやすいものを選ぶといいでしょう。
付属品による違い
砥石は、商品によって様々な機能を持ったものがあります。例えば台に乗った砥石は、普通の砥石よりも研ぎやすく割れにくいことがメリットです。
他にも、初心者用に補助器具がついているものもありますし、中にはケースがそのまま研ぎ台になる機能的な砥石もあります。
砥石を使った研ぎ方
砥石で包丁を研ぐためには、基本をしっかり覚えて、あとは自分の手で慣れてくいくことです。自分で研ぐと包丁に愛着が湧き、料理をするのも楽しくなるでしょう。
包丁の種類によって研ぎ方は違う
包丁は、大きく『片刃包丁』と『両刃包丁』に分類可能です。
片刃包丁は表裏があり、切ったものが離れやすく断面が美しく仕上がります。刺身包丁なども片刃包丁の仲間です。
両刃包丁は片刃と違って表裏がなく、両方が表になります。三徳包丁や菜切包丁が該当し、切り込むと左右同じに切れるのが特徴的です。
これら2種類の包丁は刃の形が違うため、研ぎ方にも違いがあります。そのため、自分の包丁の種類を把握しておくことが大切です。
片刃の場合
片刃包丁は裏表で研ぎ方が変わります。表面は砥石に当てる角度を15度ほどにして動かし、裏面は砥石にぴったりと当てて上下に滑らせるのが基本です。
利き手で包丁を握り、反対の手の人差し指と中指、薬指で押さえて研ぎます。研ぐ際には刃を自分のほうに向け、砥石に対して包丁は45度くらいに傾けて、押すときに力を入れ、引くときに力を抜くのがポイントです。
また、砥石で研ぐと『かえり』というでこぼこが刃先にできます。そのため、もう1度軽く交互に研いでかえりを取ったら完了です。
両刃の場合
両刃包丁は表裏がないので、基本的には両面でやることは同じです。包丁は砥石に対して45度に当てて置き、人差し指と中指、薬指で押さえて研ぎます。
ただし、表面は押すときに力を入れ、引くときに力を抜きますが、裏面は押すときに力を抜き、引くときに力を入れることがポイントです。
両面を10往復くらいしたら、片刃包丁と同様にもう1度研いでかえりを取って仕上げましょう。
砥石の手入れ
砥石は平らでないとキレイに研ぐことができません。使ううちにへこんでいってしまうため、包丁を上手く研ぐには砥石のメンテナンスも必要です。
面直しとは?
包丁を研いでいると、砥石の中央が削れてきます。包丁が何度も真ん中を通るため、特に消耗しやすいのです。
でこぼこになってしまった砥石は、平らに修正しなければいけません。面直しには、面直し用の砥石を使用します。砥石のでこぼしている部分を面直し砥石で削っていき、平面に直していくのです。
仕上砥石・中砥石の面直し
仕上砥石と中砥石の面直しをするときは、面直し砥石か荒砥石を使います。包丁を研ぐときと同様にでこぼこになった砥石を置いて、面直し砥石を上下にこすりつけてください。
出っ張っている部分が削れていき、徐々に平らになっていきます。最後には角も削りますが、角が尖っていると手を切ってしまう可能性があるので気をつけましょう。
荒砥石の面直し
荒砥石を面直しするときは、面直し砥石かコンクリートブロックのような硬いものを使うといいでしょう。ただし、真っ平らなものを使用するようにしてください。
もしくは同じ粒度の荒砥石があれば、荒砥石同士でも面直しができます。そのために、荒砥石を2つ所持しておくと便利です。
初心者におすすめの砥石
ここまで砥石の材質や種類、番手など様々なことを説明してきました。しかし種類が多すぎて、初心者はどれを選んでいいのか分かりづらいかもしれません。
そこで、ここでは初心者におすすめの砥石を紹介します。
荒砥石と仕上砥石がセットの貝印
荒砥石、中砥石、仕上砥石と3つを揃えるのはハードルが高いと思っている人におすすめしたいのが、貝印の『コンビ砥石』です。
この商品は、片面が荒砥石で、もう片面が研磨にも仕上げにも使用できる中仕上砥石になっています。台もついているため、初めて砥石を使うときには非常に便利です。
台の裏には合成ゴムがついており、滑らず安定します。さらに、砥石上の水を流す溝がついているため、キッチンを汚さず作業が可能です。
グリーンカーバイトという材質を使用していて硬度が高いため、ステンレス包丁を研ぐこともできます。
- 商品名:貝印 KAI コンビ 砥石セット(#400・#1000)AP0305
- 価格:2,021円(税込)
- Amazon:商品ページ
研磨力が魅力のシャプトン刃の黒幕
初心者が砥石を使うと、きちんと研げているか不安になることがあるでしょう。砥石によっては研磨力が低く、研いでいる感覚が少ないことがあるためです。
『刃の黒幕』は、研磨力が非常に高く、初心者でも簡単に包丁を研ぐことができます。水に浸けておく必要もないため、すぐに利用できるのも利点です。
粗さごとに色分けされているため、見た目にもわかりやすく、初心者でも安心して使用できます。付属のケースはそのまま台としても使用でき、さらにケースには穴が空いているため、砥石を入れたまま乾燥させることも可能です。
- 商品名:シャプトン 刃の黒幕 オレンジ 中砥 #1000
- 価格:4,150円(税込)
- Amazon:商品ページ
切れ味維持には砥石でのメンテナンスが不可欠
いつも使っている包丁を砥石で研いでみると、驚くほど切れ味がよくなることがあります。自分で研ぐと包丁に愛着が湧き、料理が楽しくなるかもしれません。
初めは、砥石で研ぐのは難しく感じるかもしれませんが、1〜2度やると慣れてきて上手くなっていきます。これから自分で包丁を研いでみようと思う人は、本記事を参考に包丁に合った砥石をぜひ探してみてください。