将棋のタイトル戦に登場する封じ手とは。使い方と対局時のエピソード

2018.12.31

将棋のタイトル戦に登場する封じ手は、将棋の違った楽しみを与えてくれます。8つあるタイトル戦の4つでしか見ることのできない封じ手について紹介します。使い方や書き方、封じ手にまつわるエピソードを見ていきましょう。

特別な対局、将棋のタイトル戦

将棋の特別な対局として、数多くの棋士が目指して挑むのが『タイトル戦』です。2016年までは7つのタイトル戦が行われていましたが、2017年から8つに増えています。まずは、どのようなものがあるのかチェックしていきましょう。

1年間に8つのタイトル戦が行われる

将棋の特別な対局として、4月から始まり、翌年の3月が終わるまでの1年間に『8つのタイトル戦』が行われています。それぞれのタイトル戦は時期をずらして行われているため、同時に行われることはありません。

これらの8つのタイトル戦は、将棋歴の長いファンからは、それぞれが行われる時期から『季節の訪れを感じさせる』という声が聞こえるほど注目されています。下記はタイトル戦の一覧です。

  • 竜王戦
  • 名人戦
  • 叡王戦(えいおうせん)・・・2017年に追加された新タイトル
  • 王位戦
  • 王座戦
  • 棋王戦
  • 王将戦
  • 棋聖戦(きせいせん)

上記の8つのタイトル戦は、棋士にとって最高の栄誉を得るための場所です。他の試合以上に気合いの入った棋士が魅せる名勝負を楽しむことができます。

全国各地の有名ホテルや旅館を使用

タイトル戦での対局は『全国各地の有名ホテルや旅館』で行われます。普段の対局は東京と大阪にある将棋会館で行うのが通常ですが、タイトル戦は和服を着てホテルや旅館で将棋を指す『非常に特別な対局』なので、多くの人が注目しています。

全国のホテルや旅館を使ってタイトル戦を行うのは、古くからの慣例を守って行われています。開催者となるホテルや旅館側にとっても、宣伝効果が見込めるメリットがあると言われています。

タイトル戦でよく聞く、封じ手って何?

対局者が公平に対局を続けるために定められたルールが『封じ手』です。さっそく、封じ手がどのようなものなのかを確認していきましょう。

2日制のタイトル戦で使われる

現在行われているタイトル戦には、1日制と2日制の2種類があります。2日制では、日付をまたいで対局を行うので『封じ手』と呼ばれる『次の一手』を書き記した封筒を用意することで公平に2日目の対局が行えるようにしているのです。

どちらが封じ手を行うかどうかの駆け引きや、解説での封じ手の候補の予想なども『2日制のタイトル戦の醍醐味』と言われています。

竜王戦、王将戦、王位戦、名人戦

封じ手が行われるのは4つの2日制タイトル戦だけです。その他では、1日で対局が行われ決着します。

2日間という期間が用意されている理由がそれぞれで『持ち時間』が違うためです。最大9時間もの持ち時間が用意されているため、その日には決着しないことも多く『2日間』の日程が組まれています。

この持ち時間は、対局に使用できる時間の限度で、それぞれの対局のルールとしてあらかじめ決められています。

決められたルールの持ち時間は、自分の手番のときに減っていき『持ち時間が無くなる』ことで『切れ負け』として負けてしまうのです。『秒読み』と呼ばれるルールがある場合は、持ち時間がなくなり秒読みの時間内に指せなければ『切れ負け』が適用されます。

名人戦の持ち時間が最も長い

もっとも持ち時間が長いのが『名人戦』の9時間です。1人の対局者に9時間の持ち時間なので、対局者の2人の持ち時間を合わせると最大18時間もの時間が用意されています。ほぼ1日に近い持ち時間があるので1日では対局が終わらないのです。

プロの対局では1手に2時間から3時間程度の持ち時間をかけることもよくあります。9時間という持ち時間があっても、使い切ってしまい『秒読み』で対局が進むこともめずらしくはありません。

最後の一手を記録して封をし、翌日開封

長い持ち時間から、2日制のタイトル戦では1日で対局が終わることがほとんどありません。稀に1日目で勝負が決まることもありますが、基本的に次の日まで持ち越してしまいます。

そこで、2日間にも及ぶ対局を公平に行うために『封じ手』と呼ばれるルールが適用されます。

封じ手とは、その日の『最後の1手』を紙に記入して封筒に入れて封をすることです。翌日に開封し、封じ手を指すことで対局がスタートします。最後の1手を封筒に記しておくことで、片方だけが次の1手を考えるという不公平を避けられるのです。

封じ手を開封する動画

では、実際に封じ手はどのように行われているのか動画でも確認してみましょう。

まずは最初に、前日の流れを確認しながら前日の流れ通りに盤面を進めていきます。前日の最後の一手まで進めば『立会人がお互いの目の前』で封じ手に記されている次の一手を読み上げて対局が再開されます。基本的に、この一手は変えることができません。

では次に、封じ手の書き方について紹介します。

書き方にルールはある?

2日間の対局で行われる封じ手の書き方にも細かいルールが決められています。適当に紙に書いておくだけでは、封じ手を誰かに見られてしまうなど『不正』のきっかけを作り上げてしまうのです。

まずは、封じ手の書き方からチェックしてみましょう。

手番が赤ペンを使い矢印を記入

封じ手は手番が赤ペンを使い矢印を記入します。この紙にはあらかじめ、時間になるまでに指された最後の一手まで記入が行われているものです。紙に盤面を記入するのは『記録係の奨励会員』が、動きがないと考えられる駒から順番に記入して完成させています。

紙に矢印を記入する作業は、対局者に見られてしまわないように別室に移動して行われます。記入するときにも不正が行われないように立会人が付き添うので安心です。

封じ手2名と立会人が署名

次の一手が書かれた紙は2枚用意されます。それぞれを別の封筒に入れて封じ手を2通準備しておくのです。それぞれの封筒には、封じ手2名と立会人が名前を記入していきます。

2通用意するのは、会場と立会人が保管することで不正が行われる可能性を低くし『公平』な対局を実現するためです。そのまま次の日まで厳重に管理され、次の日に立会人が見ている中で封じ手の開封を行い対局が進みます。

昼休憩の封じ手

封じ手は、通常の対局で使われることがありません。しかし、ファンのために公開対局やプロとの対局で『特例』で行われたケースがあるので紹介します。

1日制の対局では通常行われない

封じ手は、対局を次の日に持ち越すために決められたルールなので、1日制の対局では通常行われません。

しかし、特例で封じ手が行われたのが、佐藤天彦名人と対局できる、「タイトル戦体験」という企画です。この企画はヤフオクに出品され『300万円』で落札され、タイトル戦に勝るとも劣らない対局が行われて注目を集めました。

1日制でも、タイトル戦と同じ形式で行われたこの企画では『封じ手の体験』をしてもらうために昼休憩の時間を使い行われています。実際に行われた封じ手は、ルールに決められた通りに行われ、昼休憩が終わったときに開封して対局が進みました。

場の状況に応じて行われたケースはある

他にも、場の状況に応じて封じ手が行われたケースがあります。例えば、テレビ中継が行われるタイトル戦の対局では、尺の調整のために『封じ手を使って休憩を挟む』ということが行われました。

テレビの尺を考えて行われる封じ手は何度も行われており、テレビ局への配慮を行うことで『見ているファンの人たち』により将棋を楽しんでもらいたいという気持ちがうかがえます。

また、非公式戦でも『公開対局』を行っている場合、実際に対局している棋士の経験のためにも封じ手を行うことで、よりタイトル戦に近い対局が楽しんでもらえるように工夫をしています。

本来、あまり見ることができない封じ手を楽しみにしているファンも少なくはないのです。変わったものでは『懸賞として封じ手を予想するイベント』も行われ、盛り上がる要素として使われたこともあります。

通常であれば2日間に及ぶ対局を公平に行うために用いられているルールなので、実際には封じ手とは呼べません。しかし、他の呼び方もないため、便宜上の呼び名として封じ手と呼ばれています。

さまざまなところで、ルールや状況に基づいて封じ手が行われていますが、やはり封じ手に関する揉め事などのエピソードは少なからず存在するものです。次は、封じ手に関するエピソードを紹介します。

封じ手に関する対局中のエピソード

封じ手に関する対局中のエピソードでは、封じ手を行う時間に関してや『公平性』に関してなどがあります。中でも話題となったエピソードを紹介するのでチェックしていきましょう。

1996年の名人戦にて

1996年に行われた名人戦では羽生善治名人と森内俊之八段の対局が行われました。

この名人戦では、封じ手の時間に声をかけられた森内俊之八段が「指すつもりなんですけど」と一手を指します。その一手は認められ、羽生善治名人が封じ手を行うことになったのです。

ただし、実際には『声がかかった時点で封じ手を行うのがマナー』です。今後このようなことが2度と起きないように『記録係の時計が公式の時間を示すこと』を改めて2人の対局者に伝えるという異例の対応が行われました。

このことについて一部メディアでは、森内俊之八段は初挑戦の名人戦だったこともあり、慣れない封じ手を避けたのではと大きく報じられる結果となっています。

相手が有利になることが理由と推測された

相手が有利になることが理由で封じ手が行われなかったケースもあります。

例えば、定番の手筋の途中であれば、次の一手からの動きがある程度予想できるので『封じ手』を行う側が有利になってしまう可能性があるのです。あくまで可能性の話ですが、片方に有利となってしまう封じ手で揉め事が起きるケースも少なくありません。

このことについては、プロの棋士たちの間でもこの『公平性』について意見が分かれています。定番の手筋のときでも、変わった手筋が次の一手に記されていた場合は『公平』とも言えるのです。

将棋では、公平性の観点からも封じ手についての意見交換が常に行われて研究が続けられています。

封じ手はタイトル戦の見どころのひとつ

たくさんの見どころがあるタイトル戦を楽しみにしているファンは多くいます。それぞれの対局で見逃せないポイントは人によってさまざまです。自身が楽しめる将棋の見どころを見つけてみるのも将棋の醍醐味と言っても過言ではありません。

タイトル戦でしか見られない封じ手だけではなく、棋士が持つそれぞれの得意な手筋などを見つけてみるのもおすすめです。

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