スピノザの哲学ってどんなもの?『エチカ』をもとに簡単に解説

2019.12.06

スピノザは17世紀に生きたユダヤ人で、ヘーゲルやマルクス、現代思想にも多くの影響を与えた哲学者です。彼の哲学にはどんな特徴があるのか、そしてスピノザ哲学は歴史上でどんな意味をもつのか、わかりやすく解説します。

スピノザの生きた時代

まずスピノザの生涯と彼の生きた時代背景から追っていきましょう。

ユダヤ教会から追放されたスピノザ

バールーフ・デ・スピノザ(1632-1677)は17世紀のオランダに生きた哲学者です。大都市アムステルダムで貿易商人のユダヤ人のもとに生まれました。

しかし長じて自由な宗教観をもつようになったため、23歳のときアムステルダムのユダヤ共同体から追放処分を受けます。その後スピノザはオランダ国内を転居しながら、レンズ磨きで生計を立てつつ、執筆活動をつづけました。

スピノザの主な著書としては『デカルトの哲学原理』『神学・政治論』そして『エチカ』などがあります。

合理的に世界を捉えようとした時代

17世紀のヨーロッパでは、市場経済が発達し、ルネサンスや宗教改革も経て、合理的な考え方をする人たちが登場しました。合理的というのは、物事を捉えるときに信仰ではなく理性で、あるいは数学を基礎において考える姿勢のことです。

デカルト、パスカル、ライプニッツ、ボイル、ニュートン、そしてスピノザ……。かれらは皆、ユダヤ教やキリスト教の従来の世界観に満足することなく、合理的解釈でこの世界を一から見直そうとしたのです。

スピノザにおいて、その見方が結実したのが、彼の主著『エチカ』です。

スピノザの汎神論

『エチカ』では、スピノザの汎神論にもとづいた独自の哲学が展開されていきます。ここからは『エチカ』の内容を見ていきましょう。

汎神論とは?

汎神論(はんしんろん)とは簡単にいうと、神とこの世界とは同じであり、一寸の虫にも一枚の葉っぱにも神が宿っている、あるいは神の一部であるとする考え方です。ここで想定される神は人の姿をしておらず、人の言葉もしゃべりません。存在の根源、エネルギーみたいなものです。

スピノザが合理的に思考していった結果たどりついたのも、こういう神だったのです。神は無限だ、ならば神には外側がない、じゃあ神はこの宇宙そのものでしかありえない。これがスピノザの「神=自然」という考え方です。

命令を下す人格神を否定する

ところがユダヤ教においては(キリスト教においても)、神は人の姿をして人の言葉をしゃべる人格神です。これを否定したため、スピノザはユダヤ共同体から追放されたのでした。

人格神を否定することで、スピノザは善悪の基準を変更します。そもそも何が善で何が悪かというのは、誰かの命令にもとづいています。現代日本社会でいえば、法律や政府あるいは道徳や世論などですが、17世紀ヨーロッパにおいてそれは神でした。

絶対的な善悪の基準を示し、人間に命令を下す人格神はいないと、スピノザは主張します。だからスピノザにとって善悪の基準というのはまったく相対的なものとなりました。

『エチカ』で示される新しい倫理

ただ、善悪の基準がなければ人間の社会はうまくいきません。そこでスピノザは『エチカ(倫理学)』のなかで新たな基準を提示していきます。

コナトゥスの増減こそ善悪の基準

まずスピノザは、あらゆるものには自分を維持しようとする力(=コナトゥス)があるといいます。現代科学用語でいえばエントロピーの反対、ネゲントロピーに近いでしょう。

この自己維持の力を助け、促進させるもの、それがそのものにとっての「善」です。また自己維持の力を低下させ、害するもの、それがそのものにとっての「悪」だと、スピノザは主張しました。

たとえば他人に食べ物を分け与えたときその人の活動能力が上がるなら、その行為は善になります。あるいは暴力が被害者の活動能力を低下させるなら、その行為は悪です。そしてコーヒーを飲むことがある人には活力となりある人には頭痛の原因となるなら、コーヒーは善でもあり悪でもあるのです。

自由意志を否定する

またスピノザは、人間の自由意志を否定しました。なぜなら汎神論からみれば、人間の体も人間の精神もともに神の一部であり、そこに独立した主体はないからです。

よってスピノザからすれば、自己責任論は成り立ちません。あらゆる行為、あらゆる結果が神の必然性の一部であり、それを受け入れて肯定すること。そうすることで、人間はこの宇宙、つまり神へと近づけるとしました。

こうしたデカルト的二元論の克服と、新プラトン主義にも通ずる考え方が、のちのヘーゲルやドゥルーズらに影響を与えたのでした。

「私はスピノザの神を信じている」

以上のように、まだキリスト教にどっぷりつかった17世紀ヨーロッパにおいて、スピノザの哲学はかなり異端でした。

しかし時代が下るにつれ、ヨーロッパはじめ世界中に合理的・科学的な見方が広まっていきます。それとともにスピノザ哲学も再評価されていきました。たとえば20世紀前半の科学者アインシュタインは「私はスピノザの神を信じている」と言っています。

『エチカ』をはじめスピノザの本には、現代人こそヒントとなる何かがあるのかもしれません。

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