哲学者ヒュームが明らかにした、「人間の知」の仕組みとその不確実性とは?

2020.06.12

18世紀の哲学者ヒュームはあまり有名ではありません。しかし彼の哲学は「経験論」「懐疑主義」などの言葉ではくくれないほど奥深く面白いものです。カントのまどろみを破り、いまだ克服できないとラッセルが評したその哲学を、わかりやすく紐解きます。

ヒュームとはどんな人物?彼の主な著作は?

まずヒュームとはどんな人物か、彼のおもな著作と関心事は何か、そこから見ていきましょう。

アダム・スミスと付き合い、ルソーを匿う

デイヴィッド・ヒューム(1711-1776)はスコットランド生まれの歴史家・経済学者・哲学者です。12歳でエディンバラ大学に入学し、14歳で退学、その後は各地を転々としながら執筆活動を続けました。

40代頃から『イングランド史』などの本でようやく名声を確立し、経済学者のアダム・スミスとも親しく付き合うようになります。またヒューム54歳のときにはパリでルソーと知り合い、彼をロンドンに連れて帰りますが、ルソーの偏屈な性格からか、1年たらずで仲違いしています。

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主著は『人間本性論』

ヒュームの主著は『人間本性論(人性論)』です。タイトルからわかるとおり、この本は人間本来の性質とはどんなものかを論じた本で、

  1. 知性について
  2. 情熱について
  3. 道徳について

という章立てになっています。

ヒュームのいちばんの関心は、「人間はどのように知識を得るのか、またどこまで知ることができるのか」という点にありました。そうした知識の形成過程と知識の限界を、人間本来の性質に沿って解き明かそう、これがヒューム哲学の核心になります。

知識はどのように作られるのか?

まずヒュームは人間の知識を、経験に基づくものとそうでないものに大別します。そして経験に基づく知識がどのように作られるか解説していきます。

経験的知識とは「観念」が結びついたもの

ヒュームによれば、経験に基づかない知識とは、数学や論理です。たとえば「3+2=5」や証明された定理などですが、これらの知識はすべて同義反復にすぎません。つまり「3+2」を「5」と言い換えているだけなので、こうした知識は現実との接点をもちません。

対して、経験に基づく知識とは、さまざまな「観念」が結びついたものだとヒュームは言います。たとえば「鳥は恐竜の子孫である」という知識は「鳥」「恐竜」「子孫」という3つの観念が結びついてできています。これらの観念は現実から得られる感覚がもとになっています。

類似・近接・因果関係が知識を作る

そして、観念の結びつき方には

  • 類似(似ていること)
  • 近接(時間や空間において接近していること)
  • 因果関係(原因と結果)

の3種類があるとヒュームは主張しました。

たとえば「鳥は恐竜の子孫である」という知識は両者が似ていることから来ています。また「彼は会社員だ」という知識は彼の生活と会社とが接近していることから来ています。そして「歯磨きをしなかったら虫歯になる」という知識は、原因と結果という関係をわたしたちがイメージすることによって作られます。

知識の不確実さと限界を暴く

しかし、こうして得られた知識は本当は確実ではない、そう見破ったのがヒュームでした。

因果関係は人間の思いこみ

「歯磨きをしない」という原因によって「虫歯になる」という結果がもたらされる、人はこうした因果関係を正しいと思いこんでいます。しかし本当は、歯磨きをしないという過去が虫歯になるという未来をもたらす確率が高い、としか言えません。

それを人間はただ習慣によって、因果関係があると信じるのです。だから「空気を熱すると膨張する」という知識も「電子は陽極に引かれる」という知識も、実際にそうだった場合があまりに多いから信じているだけのこと、そこに確実性は存在しないとヒュームは主張したのでした。

神を知ることはできない

そしてヒュームは、神の存在も疑います。なぜなら「神が存在する」という知識は、以上見てきた知識のありさまからすると、真ではないからです。

まず「神が存在する」という知識が経験に基づかないものだとすると、その真偽は確かめようがありません。数学や論理の同義反復は現実との接点をもたないからです。

また「神が存在する」という知識が経験に基づくもの、つまり「奇跡」がその証拠だという主張も疑わしい。なぜなら神の存在と奇跡とのあいだには類似や近接が見いだせないからです。

そして因果関係も人間のたんなる習慣である以上、すべての第一原因こそ神である信念もまた、十分に疑えるのです。

人間の知識はどこまで確実なのか

ヒュームのこうした考え方にたいして、当時は教会や市民たちからの反発もありました。ヒュームが「懐疑主義者」という烙印を押された理由もここにあります。

しかしヒュームの哲学の神髄は、人間の知識の確実性をつきつめて考えたところにあります。ヒュームの哲学は現在、統計学や人工知能などさまざまな分野で生きています。21世紀の社会を見通すうえでも、彼の哲学は有効な考え方だといえるでしょう。

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