スペインの巨匠・ベラスケスの代表作。黄金時代を築き上げた宮廷画家の生涯

2019.11.18

ディエゴ・ベラスケス(1599年~1660年)はバロック期のスペインの画家です。美術史を飾る天才の中でベラスケスほど波乱が少ない生涯を送った画家は珍しく、作品の中にだけ画家の痕跡を残しました。宮廷画家として活躍した彼の代表作をご紹介します。

ベラスケスについて

ルーベンス、レンブラントと並びバロックの三大巨匠といわれています。芸術家によくあるエピソードもスキャンダルもほとんど何も残っていません。敢えて痕跡を残さないように努めていたのではないかといわれています。

少年時代から修業時代

ベラスケスは、ポルトガル出身の貴族の父親のもと、スペインのセビーリャに生まれました。10歳のころ、フランシスコ・デ・エレーラのアトリエに入りましたが、2年ほどしてフランシスコ・パチェコのアトリエに移っています。感情の起伏が大きく激しい気性のエレーラと肌が合わなかったようです。

パチェコは温厚で知的な雰囲気に溢れ、芸術を論じる彼に大きく影響を受けました。正式に画家になることが許される資格試験に合格し、18歳のときにパチェコの娘と結婚します。

宮廷画家として

フェリペ4世の宮廷画家に任命されたベラスケスは、24歳のときから死ぬまで宮廷を舞台として生活しました。宮廷における彼の地位は宮廷画家から王の私室の取次、王室肖像画審査官、国王の衣装係り、王の側使、王宮建設工事監督など、次第に重要なポストを与えられていきます。

ベラスケスは少なくとも2回イタリアへ旅行し、イタリア巨匠たちの作品を国王のコレクションのために購入しています。現在プラド美術館に所蔵されている名作はベラスケスに購入されたものが多いといわれています。

ベラスケスの代表作

約120点遺されている彼の作品から代表作をご紹介します。

「ブレダの開城」1634年~1635年

オランダの要塞町ブレダが10カ月にわたる攻防戦の後、スペイン軍に降伏しました。その戦勝を記念した作品。ブエン・レティロ宮殿の王のホールに飾るために描かれました。画面の上に描かれている槍が特徴的で「槍」というタイトルでも広く知られています。現在はマドリード プラド美術館に所蔵されています。

「柱につながれたキリスト」1631年ころ

柱につながれたキリストのもとへ守護天使に導かれたキリスト教徒の魂がやってきてキリストを礼拝している作品です。人間の魂を子供の姿で表現するのは中世以来よく見かけられますが、キリスト教徒の魂の礼拝をこのように描き出した図像は極めて珍しいといわれています。現在はロンドン ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。

「鏡のヴィーナス」1648年~1650年ころ

スペインで描かれたゴヤの「裸のマハ」よりも前に描かれた珍しい裸婦像であり、ベラスケスの他にはない裸婦像です。彼は神話をテーマに描きました。女神の背中に暴徒によってナイフで切り裂かれた跡があります。現在はロンドン ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。

「宮廷の侍女たち」(ラス・メニナス)1656年

アルカサール宮殿の一室の中央に可愛らしい姿の王女マルガリータが立っています。周りには二人の侍女、道化女や女官たち、とても大きなキャンパスの前で作品を制作中のベラスケス自身がいます。画面の背景にみられる鏡の中に国王フェリペ4世と王妃の姿が映し出されています。現在はマドリード プラド美術館に所蔵されています。

「王女マルガリータ」1659年

「ラス・メニナス」の中央に登場した王女。皇帝レオポルド1世への贈り物として数年後に王家から注文により描きました。お人形のように可愛らしい8歳の王女。輝くようなブロンド、目を引く青いサテンのドレス、白いレースの飾り。ベラスケスの驚異的な表現力に魅了されます。現在はウィーン美術史美術館に所蔵されています。

マルガリータの肖像に魅せられて

先述の代表作の一つ「王女マルガリータの肖像」は、ベラスケスの中でも大傑作と目されており、後世に多大な影響を与えました。日本でも人気がある画家ルノワールも、王女マルガリータの肖像に魅せられたといわれています。

そんなマルガリータの肖像に魅了された一人の作曲家、モーリス・ラヴェルについてご紹介します。

モーリス・ラヴェル

オーケストラの魔術師といわれたラヴェルは、ベラスケスの描いた「王女マルガリータの肖像」をルーブル美術館で初めて見た際、衝撃を受けます。マルガリータは、わずか21歳という短命で亡くなった悲運の王女でしたが、そんな彼女の儚い運命が小さく可愛いマルガリータの肖像と相まって、ラヴェルは強いインスピレーションを受けます。

「亡き王女のためのパヴァーヌ」1899年

ルーヴル美術館にあるマルガリータの肖像に魅了されたラヴェルは、まだパリ音楽院でフォーレに学んでいた時でした。そんな彼が書いた悲しく美しいピアノ独奏曲の名作「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、マルガリータに捧られた曲といわれ、1910年にはオーケストラ版も出版しました。

ラヴェルは、多くの演奏家がタイトルのイメージから遅く演奏するのを嫌い「私は亡き王女のためのパヴァーヌを書いたのであって、王女のための死んだパヴァーヌを書いたわけではない」と語ったという有名なエピソードがあります。

「印象派の父」マネが心酔したベラスケスの才能

スペインを訪れたマネがベラスケスの作品を観て「画家の中の画家」と賛美したエピソードはあまりにも有名です。彼の傑作「ラス・メニナス」は王女マルガリータとその侍女たちを中心に、道化師や女官たち、鏡の中に国王夫妻、そしてキャンパスに向かうベラスケス自身の姿まで、見事な臨場感をこめて描かれました。印象主義の先駆といわれるベラスケスの魔法のような筆さばきは後世の画家に大きな影響を与えました。

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