歌舞伎の化粧の色に込められた意味とは。隈取について徹底解説

2018.11.28

白塗りの顔に赤などで力強い『隈取』(くまどり)を描く歌舞伎の化粧は、他の伝統芸能にはないインパクトがあります。歌舞伎の化粧はなぜあんなにも独特なのか、隈取の色や形に込められた意味から探ってみましょう。

歌舞伎の化粧に使われる色の意味の違い

歌舞伎といえばダイナミックな化粧法である『隈取』(くまどり)をイメージする人も多いのではないでしょうか。実は、隈取には色や形によって100種類を超えるバリエーションがあり、それぞれの色や形には意味があります。

歌舞伎をもっと楽しむために、隈取をはじめとする歌舞伎の化粧の世界についても理解を深めてみましょう。

化粧のベースが肌色ではなく白の理由

そもそも歌舞伎の化粧はなぜ白色がベースになっているのでしょうか。その由来は歌舞伎が誕生した約400年前、江戸時代にまでさかのぼります。

当時は現代のように電気がなく、天候が悪い日や夕方以降には真っ暗になるのが普通という時代です。当時の歌舞伎の舞台に現代のような照明機器は当然ないため、太陽の光が届かない時には、ろうそくなどの灯りだけが頼りでした。

そんな中では役者の顔も見づらく、観客もなかなか舞台に感情移入できません。そこで考案されたのが『白塗り』という、顔を認識しやすくする化粧法でした。現代のスポットライトのような効果をメイクで表現したというわけです。

白塗りではなく赤塗り(赤っ面)の人物が悪役として登場することもあります。これは善人を白塗り、悪人を赤っ面とすることで、役柄を分かりやすく演出するためです。

赤色は正義の象徴

歌舞伎の特徴的な化粧である隈取は、顔のパーツでいうと血管や筋肉の筋に当たります。役者の顔の動きをオーバーに浮かび上がらせ、感情の変化を伝えやすくするのが目的です。使用されている隈取の色によって、役のおおよその性格も決まっています。

赤色を基調とした『紅隈』(べにぐま)は、主に善人役やヒーロー役が施す隈取です。正義・勇気・力強さ・若さなどを表現するといわれています。

中でも顔に蜘蛛の巣のようにたくさんの赤い筋を書き込む『筋隈』(すじぐま)は、英雄や勇敢な豪傑に使われることの多い隈取です。

青色は悪の象徴

青色を基調とした『藍隈』(あいぐま)は、紅隈の反対で悪役を表す隈取となっています。子悪党ではなく、巨大な悪の権力者など、身分の高いスケールの大きな悪人が施す隈取です。

よく「血も涙もない」と言いますが、それは昔の日本人が「極悪人には赤い血ではなく青い血が流れている」と考えていたことに由来があります。そのため庶民の娯楽としてスタートした歌舞伎の世界でも、悪役には青い隈取を施すことになったのです。

茶色は人外の象徴

茶色を基調とした隈取を『代赭隈』(たいしゃぐま)といい、邪悪さや陰気な凄みを表現します。鬼や妖怪、土蜘蛛の精など、人間以外の『不気味な役』が施す化粧色です。

歌舞伎の化粧に使う化粧品や道具

『化粧も芸のうち』という精神にも表れているように、歌舞伎の世界では役者が自分自身で化粧を行います。それでは歌舞伎の化粧はどのような手順で施されているのでしょうか。まずは実際に役者たちが使用している化粧品や道具を見ていきましょう。

歌舞伎の化粧に使う化粧品

歌舞伎の化粧に使用する化粧品には、白粉、歌舞伎油(かぶきあぶら)とも呼ばれる鬢付け油(びんつけあぶら)、トノコ、頬紅などがあります。

白粉は白塗りの材料で、水でとかして顔に塗ります。鬢付け油はいわゆる化粧下地のことです。また、トノコは今でいうチークの役割を果たすもので、女形などが顔を明るくするために使用します。

歌舞伎の化粧道具

歌舞伎のメイクに必要な化粧道具は、筆や刷毛(はけ)、水分を押さえるためのスポンジなどです。

刷毛は2種類ありますが、一般的な形の『板刷毛』は広い面を塗るために、毛が張り開いた形の『牡丹刷毛』は、おしろいや頬紅をつけるのに使います。

隈取を描く(隈取を取る)ために必要になるのが筆です。隈取のラインの太さに合わせて数種類の筆を使い分けて描きます。隈取は筆だけでなく指も使って描いていきます。

歌舞伎の隈取の化粧法

歌舞伎以外の世界でも用いられることのある『白塗り』に比べ、『隈取』は現代では歌舞伎に特有の化粧法です。鑑賞者にかなりのインパクトを与える隈取ですが、いったいどんな風に描いているのでしょうか。

隈取の基本の化粧法

歌舞伎の化粧は、下地となる鬢付け油を顔の全面に付け、その上から白塗りをするのが基本です。白塗りが完成した後で、顔の表情を作る目張りや隈取を施していきます。

隈取に使う化粧品は色により異なりますが、赤い隈取には固形の油紅を用います。筆や刷毛で綺麗にラインを取り、その後に指でラインをぼかして仕上げるなどの方法で描きます。

隈取は役者の顔の動きをより的確に観客に伝えることが目的なので、遠くから見てもはっきり分かるように、大胆に描くことが重要とされています。

隈取は色以外にもバリエーションが豊富

隈取の色は大きく3種類に分けられますが、同じ色でも描く柄によって意味が変わり、100通り以上ものバリエーションがあります。

前述のとおり、隈取の目的は役の感情を鑑賞者に伝えやすくすることです。例えばエネルギッシュで血気盛んな人物を表現する場合、隈取の数も多く設定することになります。

同一人物であっても、場面とともに抱く感情が変化するものです。主役が敵に対して激怒するような場面では、顔に描かれる隈取の太さや形も変わってきます。

役者が自分自身に化粧を施すため、隈取にその役者ならではの個性が現れるのもポイントです。早変わりの後に歌舞伎役者の隈取の変化を見て取るのも、歌舞伎ならではの醍醐味といえるでしょう。

ちなみに隈取は男形のみに見られる化粧法で、色気を強調する女形では使われることがありません。

隈取の種類にある筋隈の化粧法

隈取の中で最も代表的なのが、前述の『筋隈』です。筋隈は江戸歌舞伎ならではの力強い演目である『荒事』(あらごと)に適しており、重要な役に多く使われています。

筋隈の特徴は、頬骨・目尻・目頭・顎から延びる赤いラインです。役のエネルギッシュさを大々的に伝えるため、黒々しい眉毛も外側に大きく跳ね上がっています。

隈取の種類にある二本隈の化粧法

『二本隈』(にほんぐま)は、眉と目元に平行な2本の赤いラインを描く隈取です。力強さを表すのは筋隈と同じですが、二本隈はより堂々たる器の大きい人物を表現するために使用されます。

隈取の化粧落としの方法

白塗りや隈取などの歌舞伎の化粧は一般的なメイクよりもかなり厚く塗られていますが、いったいどのように落としていくのでしょうか。肌荒れを起こすことはないのでしょうか?

化粧落としはクレンジングと洗顔料で

歌舞伎の化粧を落とす手順は、基本的には一般的なメイクを落とす手順と変わりません。ただしクレンジングはクリームタイプのものをたっぷりと使い、クレンジングの後には必ず洗顔料を使用する必要があります。

歌舞伎役者が化粧で肌荒れしない理由

歌舞伎役者は1日でいくつもの役を演じるため、舞台が終われば楽屋に戻って化粧を落とし、さっそく次の化粧をしなくてはなりません。一般の人よりも肌に負担がかかりそうなものですが、歌舞伎役者は肌荒れを起こすことが少ないといわれています。

その理由は歌舞伎の化粧の下地となる『鬢付け油』にあります。鬢付け油は汗をかいてもメイクを崩れにくくする化粧品ですが、それと共に肌を守る効果もあり、結果として肌荒れが起きづらくなっているのです。

歌舞伎の衣装や化粧体験ができるスポット

数ある日本の伝統芸能の演者の中でも、歌舞伎役者ほど派手な見た目の演者は他にはいないでしょう。そんな歌舞伎役者ならではの化粧を体験したい人に、都内のおすすめスポットを2つ紹介します。

三善メークアップ研究所

三善メークアップ研究所では、実際に歌舞伎で使われている化粧品メーカー『三善』によるメイク講座を開催しています。歌舞伎の化粧の他、一般的なメイクやプロのダンサー、舞踏家など、さまざまな分野の講座も人気です。

歌舞伎のメイク講座では隈取や女形、立役などの化粧方法を学べます。

講座はすべて予約制なので、参加を希望する人は電話で事前の申込みが必要です。年齢や性別、国籍などを問わず、誰でも気軽に参加できるメイク講座となっています。

  • 施設名:三善メークアップ研究所
  • 住所:(飯田橋スタジオ)東京都新宿区揚場町1-3 グロリアビル7F
  • 電話番号:03-6280-7763
  • 公式HP

歌舞伎衣装で撮影できるcocomo東京

cocomo東京は、本格的なメイクと衣装で歌舞伎役者や侍、舞妓(まいこ)や花魁(おいらん)になりきれる浅草の変身写真スタジオです。

高性能カメラと高機能なストロボ、そしてTVや映画の撮影で数多くの役者を手掛けてきたスタッフの熟練の技で、だれでも迫力ある歌舞伎役者に変身できます。一生に一度の記念として、ぜひ気軽に利用してみてください。

歌舞伎の化粧体験メニューは、歌舞伎十八番のイケメンヒーロー『助六』体験、天下の大泥棒『石川五右衛門』体験、赤と白の長いかつらでおなじみの『連獅子』体験の3種類が用意されています。

  • 施設名:cocomo東京
  • 住所:東京都台東区浅草1-29-8 2F
  • 電話番号:03-3847-0763
  • 受付時間:10:00~20:00
  • 定休日:不定休
  • 公式HP

歌舞伎は化粧までもが奥深い

歌舞伎の化粧と一口に言っても、隈取の色や形によって100種類以上のバリエーションがあります。

隈取からは善人や悪人といった役柄はもちろん、感情の高まりなども見て取れるため、隈取の種類を知っておくだけで歌舞伎の世界を深く楽しめるはずです。

当記事で紹介した隈取は、ほんの一握りです。他にもどんな隈取があるのか、ぜひ劇場でチェックしてみてください。

その他のテーマ

ART

CULTURE

CRAFT

FOOD

TIME