ダリの『記憶の固執』とはどんな絵画?シュルレアリズム絵画の代表作を解説

2019.11.17

「記憶の固執」は、スペインの画家サルバドール・ダリが1931年に描いた油彩画です。特に溶けて柔らかくなった時計は印象的で、その後のポップカルチャーにも登場するモチーフです。実は、モチーフひとつひとつに意味のあるダリの絵画を解説しましょう。

現実にはありえないモチーフを組み合わせた奇妙な絵

一見して不思議に思える、実在のものや実在しないものの組み合わせ。地球上どこかわからない不思議な大地に突如現れる、不思議な生き物と、溶けたようにぐにゃりと曲がった時計たち。そして、この大地は遠く遠くどこまでも続いている。

空間も時間も現実感のない「記憶の固執」は、シュルレアリズムの傑作としてニューヨーク近代美術館に所蔵されています。

記憶の固執をニューヨーク近代美術館公式HPで観る:こちら

20世紀前半大流行したシュルレアリズム

シュルレアリズムとは、日本語に訳すと「超現実主義」。つまり現実を超えて、現実にはないものや風景が登場する絵画です。この芸術運動は、絵画だけでなく詩や文学にも起こり、現実を無視して、夢や無意識の世界を覗くような不可思議さを表現しようとしています。

柔らかい時計は何を表している?

ダリの絵画も同様で、鑑賞者が混乱を起こすような画面となっています。混乱の理由は、現実にはないものの組み合わせや見たことのないモチーフにも関わらず、モチーフのひとつひとつが細密な写実をもって描かれているからです。

「記憶の固執」にある登場する柔らかい時計も、一見してすぐ時計とわかるように写実的に描かれていますが、それが布のように木の枝にひっかかったり、見たことのない生き物の上にのっかっていたりするのです。

20世紀最大のトリックスター・ダリの代表作

ダリは、自らを演出する画家でした。ピンとはった長いカイゼルひげ(口ひげ)と目玉をぎょろつかせた姿が多数写真に残されています。

自らを天才と呼ぶ

ダリには、ガラと名の伴侶がおり、彼にとって美のミューズ(女神)でした。ガラは、モデルとして優秀なだけでなく、マネージャーとしてダリを支え続け、時には奇行を起こすとされたダリを、うまく演出していたのです。

そのかいあってかダリは、シュルレアリズムの画風ともあいまって、トリックスターとしての位置を確立しました。

偏執狂的批判的方法で制作

ダリは、自らの絵画を「偏執狂的批判的方法」で描いていると述べています。これは偏執的に写実にこだわってモチーフを描いているのに、そのモチーフの存在を否定するかのような登場のさせ方をしている、ということ。

つまり、物自体の意味だけでなく、ほかにも多重な意味を持たせて、絵画全体をまとめて表現しているのです。

例えば時計は、誰がどう見ても時計とわかるように写実的に描いているのに、現実的な役割・時間を計る、という本来の存在意義はもたせていないのです。

溶けた時計や不思議な生き物は何を意味する?

では、「記憶の固執」に登場する時計や、変な生き物は何でしょう?ダリの他の作品にも何度も登場するこれらを追究します。

ダブルイメージを追求する

ダリ自身は、「溶けるカマンベールチーズをみて思いついた」と溶ける時計のことを述べていますが、もともと「柔らかいもの」と「硬いもの」の両極端なものに執着がある、とも答えています。

ダリ研究家の間では、子供の頃のトラウマから性的不安を持つ反面、健康な男性としての欲望もあったダリは、この相反するものをモチーフとして描きたかったのでは?と推測されています。

また絵の中央に位置する大きな生き物は、1929年に描かれた作品「大自慰者」では、画面中央に大きく描かれており、ダリ本人と言われています。「記憶の固執」では、この生き物は目を閉じているため、おそらく夢を見ているのではないかとも言われています。

「記憶の固執の崩壊」というリメイク作品

「記憶の固執」にはリメイク作品があり、1954年に「記憶の固執の崩壊」という作品名で描かれています。大地は細切れなレンガ状になっており、水没しています。

ダリとされる生き物は、くらげのように漂い、溶けた時計は、まがったまま木の枝にひっかかっています。これは、当時ダリが注目していた量子力学(分子や粒子などほとんど見えないものを記述する力学)を想像の世界に生かしたとか。

印象派の作家のように連作をつくるのではなく、続編のリメイク作品をつくる、というのも、ダリらしいトリッキーな表現です。

記憶の固執の崩壊をTHE DALI MUSEUMの公式HPで観る:こちら

モチーフの意味を読み取る面白さ

シュルレアリズム絵画の中でも、ダリの作品はひときわ不可思議でいつまでも目が離せない魅力があります。「記憶の固執」は約A4サイズほどの大きさしかない作品にも関わらず、シュルレアリズム作品の中で最も有名な作品となっています。ひとつひとつのモチーフをじっくり見ながら、どんな意味があるか考えるのも、謎解きのようで興味深い鑑賞方法です。

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