レヴィ=ストロースの構造主義が明らかにした、近代人類学の偏見とは?

2019.11.08

「構造主義」「レヴィ=ストロース」という名前は聞いたことがあるけれど、どちらもよくは知らない…。そんな方のために、この記事では構造主義とは何か、そしてレヴィ=ストロースはどんなことを主張したのか、わかりやすくまとめました。

構造主義とは何か

まず構造主義とは何か、どのように生まれてきた考え方なのか、といった点から共有しましょう。

われわれは偏見のとりこである

構造主義とは現代思想のひとつです。それは、端的にいえば次のような考え方です。

私たちは常にある時代・地域・社会に生きていて、その時代・地域・社会に特有の条件(=構造)によって考え方や行動が決定されている、だから私たちは自分が思うほど自由に物事を見ているわけではない、むしろ私たちの背後にある構造によって特定の考え方や行動をさせられているのだ。

つまり、私たちはいつだって偏見からは逃れられない、神のような視点で物事を曇りなく見ることは不可能だ、という点を強調するのが構造主義になります。

構造主義はこうして生まれた

私たちの思考や行動の背後には見えざる構造がある。こうした考え方はすでに19世紀からマルクスやフロイトなどが表明していました。

この構造を言語という分野で深く掘り下げて研究したのがソシュールです。ソシュールはあらゆる言語が持っている、「ことばそのもの」と「ことばが指す内容」という構造に注目し、各言語に固有の価値観が私たちを常に縛っていることを明らかにしました。

[関連記事] 近代言語学の父『ソシュール』を5分で解説。現代に与えた多大なる影響を紐解く

ソシュールの研究によって、20世紀前半には言語構造の研究がさかんになります。こうした構造言語学の方法を人類学に応用して、「構造主義」というものを一気にスターダムにおしあげたのが、レヴィ=ストロースなのです。

親族の基本構造が社会の変化をつくる

1949年、レヴィ=ストロースは『親族の基本構造』という論文を発表します。その内容は、あらゆる人間社会には共通の親族構造が存在し、その目的は近親相姦を禁止することだという衝撃的なものでした。

親族の基本構造は2ビット

構造言語学の成果のひとつに、世界中のあらゆる言語は12ビットで分類できるというものがあります。「母音or子音」「鼻音or非鼻音」など12項目の選択によって、すべての言語が分類されてしまうのです。

レヴィ=ストロースはこの方法を親族の構造に当てはめて、世界中すべての親族は2ビットで分類できるとしました。

  • 父と息子は「親密or疎遠」で、甥と母方のおじは「疎遠or親密」
  • 夫と妻は「親密or疎遠」で、妻とその兄弟は「疎遠or親密」

ここからわかるのは、たとえば夫婦が親密で妻とその兄弟も毎日遊ぶというような社会はどこにもない、必ずどちらかが親密ならどちらかは疎遠、しかもそんな基本構造は二項目しかない、ということです。

次世代への贈与と返礼が社会を維持する

なぜ世界中あらゆる社会で、親族はこんな基本構造を持っているのか?レヴィ=ストロースは「近親相姦の禁止」が目的だと言い切ります。ではなぜ人間社会は近親相姦を禁止するのか?それは「女性の交換」によって、社会が絶えず流動していくためです。

たとえば男性が妻をもらった場合、妻の父親にたいして「贈与された」という負い目をもちます。この感情は、義父にビールを贈るくらいでは解消できません。その代わり、やがて自分の娘が成長して嫁いだとき、「(相手はちがうけど)返礼した」という優越感を義理の息子にたいしてもつのです。

こうした贈与と返礼の、閉じることのない継続のおかげで、社会は流動し、社会に変化がもたらされます。こうして人間社会は何万年も維持されてきたのだとレヴィ=ストロースは主張したのでした。

レヴィ=ストロースが提示した社会観がいかに衝撃的でセンセーショナルなものだったか、これだけでもお分かりいただけるかと思います。

  • タイトル:親族の基本構造
  • 著者:クロード・レヴィ=ストロース(著)、福井和美(訳)
  • 刊行年:1949年(原著)、2001年(和訳)
  • 価格:15,400円
  • Amazon:商品ページ

野生の思考

レヴィ=ストロースはまた、1962年に『野生の思考』という本を発表します。この本でストロースが暴いたのは、「『未開人』たちの思考は、われわれ『文明人』とは違う劣ったものだ」という偏見でした。

「近代文明のほうが優れている」という偏見

たとえばある部族が自分たち部族の象徴(=トーテム)としてコウモリを持つ場合、それは決して素朴な自然信仰ではありません。

つまり、コウモリという動物を、ただ何の脈絡もなく信仰しているわけではなく、彼らはコウモリの「狩る」という行動の特徴を人間社会とリンクさせ、「狩りをする自分たち」と重なった存在として、部族のアイデンティティを理解しているのです。それはちょうど、現代のプロスポーツチームが通称やエンブレムやスタジアムを持ち、そこにチームを象徴させているのと同じようなものです。

しかし、近代の人類学は、こうした部族を「未開」「原始」などと位置づけ、西欧文明の「進歩的」な社会よりも劣ったものとしてみなしてきた過去があります。

これがいかに偏見に満ち溢れているか、私たち日本人が実感を持てる例を挿入してみましょう。たとえば、「巨人とは何か」と問うたヨーロッパ人に対し、「野球チームだ」と答えた日本人がいたとします。つまり、ヨーロッパ人はそのまま「巨大な人間」のことを聞いたのに、日本人は「読売ジャイアンツ」のことと認識した、という例です。

その違いは単に社会構造、あるいは社会における象徴の違いに根差す認識の相違であり、優劣の問題ではないはずです。しかし、近代以前の人類学は、このように答えた日本人のことを「あの未開人は巨大な人間という概念を理解していない」とバカにするものだった、それは構造というものを理解していない偏見にとらわれた見方であるとレヴィ=ストロースは批判したのでした。

  • タイトル:野生の思考
  • 著者:クロード・レヴィ=ストロース(著)、大橋保夫(訳)
  • 刊行年:1962年(原著)、1976年(和訳)
  • 価格:5,280円
  • Amazon:商品ページ

「現代神話の史料」としてサルトルを批判

『野生の思考』のなかでレヴィ=ストロースは、当時フランス思想界の第一人者だったサルトルをも痛烈に批判しました。

サルトルは歴史というものを、未開から文明へと進歩するプロセスだと捉えていました。そうした見方に対してレヴィ=ストロースは、「私たちの時代の神話がどのようなものか知りたければ、サルトルの哲学が第一級の民族学の資料となるだろう」と言って、その西欧文明中心主義を糾弾したのです。

これによって、フランスはじめ多くの国々で実存主義から構造主義へと思想が移りました。21世紀の現代日本でも、構造主義の考え方が多くの人に無意識に受け入れられています。

こちらの記事もチェック!

関連記事:サルトルの実存主義とは?5分で簡単に解説します

関連記事:文化人類学の面白さを簡単に解説!視点を変えて常識を変えてみよう

関連記事:社会学者「マックス・ウェーバー」の思想を、5分でわかりやすく解説!

関連記事:知の巨人・フーコーの思想を『狂気の歴史』と『監獄の誕生』から読み解く。

関連記事:哲学者アーレントが示した「我々の誰もが巨悪に陥る」危険性とは?

その他のテーマ

ART

CULTURE

CRAFT

FOOD

TIME