歌舞伎の揚(あげ)はお菓子だけじゃない?舞台を彩るかつらの秘密

2018.11.22

日本の伝統芸能『歌舞伎』の魅力はたくさんありますが、かつらの『揚』(あげ)もそのひとつです。かつらにも様々な種類があり、知っておくと歌舞伎がより一層楽しめます。かつらの『揚』や歌舞伎がもっと楽しめる舞台裏を紹介します。

歌舞伎の揚とは何のこと?

『歌舞伎揚げ』というと、甘辛いしょうゆ味が癖になるあのお菓子をイメージする人も多いかもしれませんが、伝統芸能である歌舞伎の『揚(あげ)』には、『揚幕』と『揚巻結び』の2つがあります。

花道や舞台の揚幕

歌舞伎の『揚』のひとつである『揚幕』(あげまく)とは、花道の突き当りや舞台の上手などにかけられている、一見すると暖簾のような幕を意味します。

花道の先にあるものを『鳥屋揚幕』(とやあげまく)、舞台に向かって右側(上手)にかかっているものを『上手揚幕』(かみてあげまく)と呼びます。

揚幕は一般的に黒や紺の布地に、劇場の紋(シンボルマーク)が染め抜かれていて、各劇場でデザインが異なるのが特徴です。

金属製の輪っかを使って吊るされているため、開け閉めする際に独特の音が鳴ります。この音が鳴ると、観客は一斉に注目し、役者が出てくるのを心待ちにするものです。

女方のかつらの揚巻結び

もうひとつ歌舞伎で『揚』というと『揚巻結び』があります。『揚巻結び』は、女方のかつらにつける金糸飾りの一種です。

最上位の花魁(おいらん)であり、歌舞伎の役どころの中でも大役である『揚巻』にのみ使用される、特別な結び方になっています。

いわゆるお姫様のかつらは、前からの見た目が豪華ですが、『揚巻結び』は頭の後ろに着ける飾りです。

花魁のかつらは、後ろからの見た目も美しいのが特徴で、揚巻結びの他にも、梅結び・菊結びなど役柄によって異なる飾りが使用されます。

揚巻結びの由来

『揚巻結び』は、役名の『揚巻』に由来があります。揚巻の役どころについて紹介しましょう。

助六由縁江戸桜の傾城役

『揚巻』は、『助六由縁江戸桜』(すけろくゆかりのえどざくら)に出てくる花魁の役名です。通称『助六』と呼ばれるこの作品は歌舞伎十八番のひとつ、上演回数も非常に多い人気の演目となっています。

この通称『助六』に登場する全盛の花魁である『揚巻』は、花魁の中でも最上位の存在である『傾城』(けいせい)と呼ばれています。傾城は『お城が傾く』ほどお殿様が夢中になる絶世の美女ということに由来する呼び方です。

演目の特徴や見どころ

『助六由縁江戸桜』は、美男子の『助六』と、助六に対する思いを堂々と表現する豪華絢爛な『揚巻』、さらに憎まれ役である『意休』を中心とし、多彩な登場人物が見どころの演目です。

舞台には華やかな吉原の雰囲気が漂い、花魁の衣装も見ごたえがあります。

『助六』の登場シーン『出端』も見どころです。江戸紫の鉢巻きに傘を持った井出達で登場した助六が、花道でたっぷりと見得を切る姿は、歌舞伎ファンならずとも、一度は目にしたことのある一幕ではないでしょうか。

お寿司の助六にも関係あり?

太巻きといなりずしが詰められた折を『助六』と呼ぶことがありますが、実はこのお寿司の『助六』は『揚巻』とも関係があるのです。

『助六』という呼び名は、当時爆発的にヒットした『助六由縁江戸桜』の『助六』人気にあやかろうとしたのが由来とされています。さらに、ただ単に流行に乗ったというだけでなく、それ以前の助六寿司は『揚巻』と呼ばれていたのです。

『助六由縁江戸桜』が流行した江戸中期、いなりずしに使用している油揚げの『揚げ』と太巻き(海苔巻き)の『巻き』から、いなりずしと太巻きの折は『揚巻』と呼ばれていたようです。

同じ名前のヒロインが登場していた、というのも『揚巻』から『助六』に呼び名が変わった理由のひとつといわれています。

歌舞伎のかつら

歌舞伎の演目の時代背景である江戸時代は、年齢や身分、職業などで髪形に定めがあった時代です。そのため、歌舞伎のかつらは装飾品としてだけでなく、役柄のバックグラウンドを映したものとしても楽しむことができます。

かつらには多数の種類がある

かつらは時代を反映したものだけであるだけでなく、その役を表現する手段のひとつとして、大胆さや力強さなど性格を表す役割も担っています。

そのため、一見すると似たようなかつらでも、実際には役によって細部に違いがあるのも歌舞伎ならではの特徴です。

その数は女方で数十種、立役(男役)では千種以上ともいわれていて、立役のほうが種類が多くなっています。

立役

立役(たちやく)とは、歌舞伎の男役のことです。

男役といえば、シンプルな髷(まげ)のイメージが強いかもしれませんが、ボリュームのある形の『百日』(ひゃくにち)や、棒のように固めた毛束を何本も張りだした『車鬢』(くるまびん)など様々なスタイルがあります。

同じように見える髷も、役柄によって太さや形などに細かい違いがあり、絶妙な作り分けがされているのも特徴です。髪につける油の量で風合いを変えるなど、微妙な配慮がされていて、演出の奥深さを感じられます。

女方

女方(おんながた)は、古くは年齢に応じて、若女方と花車方(かしゃがた)の2種類に分けられていましたが、徐々に役柄は細分化され、遊女の中でも位の高い『傾城』から、『赤姫』『奥方』『世話女房』など、様々な種類があります。

同じ遊女でも位によってかつらは異なり、役柄の性格によっても見た目が大きく異なります。

文字通り悪事をはたらく『悪婆』(あくば)の役では、迫力のあるスタイルが使用されるなど、華やかさだけでなく役柄の味を引き出すのもかつらの役割です。ストーリーを反映したかつらは、演出としても見ごたえがあります。

かつら作りも伝統技術

日本の伝統芸能である歌舞伎のかつらは、日本の伝統技術によって支えられています。その技術を担い、かつらの髪を結う職人を『床山』(とこやま)と呼びます。

公演ごとに手作り

歌舞伎のかつらは、床山の手でひとつひとつ丁寧に作り上げられています。あまり知られていませんが、このかつらは、公演ごとに作り直されているのもポイントです。

同じ役者が演じる場合でも、体型の変化などで頭の大きさが微妙に変わり、合わなくなることがあるためです。

また役者の体格によっても、衣装とのバランスが変わったり、全体的な見え方が変わったりします。その微妙な変化にあわせて調整するなど、床山には繊細な髪結いが求められるのです。

千種以上ともされる歌舞伎のかつらを支えているのは、ほかならぬ床山の技術といえるでしょう。

役者のイメージで調整

体格に合うものを作るだけでなく、演じる役者によってかつらを調整するのも床山の重要な仕事です。

役柄によってかつらのデザインは大方決まっていますが、俳優の役に対するこだわりや好みを理解し、満足のいく舞台を支えるためにかつらを調整するという役割も担っています。

共演する俳優とのバランスも考え、相手役が小柄な場合には少し小さめに作ったり、花魁でも格下の役柄は控えめにしたりと、他の役とのバランスも考慮されています。

こうした細かい配慮もまた、伝統技術として代々受け継がれているのです。

かつらに注目して歌舞伎をもっと楽しもう

日本の伝統芸能『歌舞伎』は、豪華絢爛な衣装も見ものですが、その公演のためだけに作られたかつらも、鑑賞の大きなポイントです。

揚巻結びのように、特別な演目にのみ使用されるものもあります。ストーリーだけでなくかつらにも注目して歌舞伎を楽しみましょう。

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