細雪は谷崎潤一郎版若草物語。昭和初期の優雅な生活を描いた傑作

2019.10.27

ノーベル文学賞の候補にもなった谷崎潤一郎の長編小説「細雪」(ささめゆき)は、世界各国でも翻訳されている日本文学を代表する傑作です。日本だけでなく、世界で愛される秘密を紐解いていきます。

「細雪」谷崎潤一郎著は、四人姉妹の優雅な日常生活

「細雪」の舞台は、昭和初期、第2次世界大戦の足音も聞こえない平和な時期の大阪・船場の裕福な商家・蒔岡家です。谷崎が実際に妻の姉妹をモデルに描いた姉妹たちの日常生活は、とても優美でおっとりとした時間が流れる素晴らしいもの。まずはその姿に、古き良き日本の美を感じます。

三女­・雪子の見合い話が軸のストーリー

蒔岡家には、鶴子、幸子、雪子、妙子と四人姉妹がおり、鶴子は既に結婚して娘を設け、跡取りの夫と共に本家を守っています。幸子も結婚して、高級住宅地である芦屋に、分家をかまえています。ふたりの願いは、三女・雪子が幸せな結婚をすること。必死になって嫁入り先を探しているのです。

裕福な一家の先行きにたちこめる暗雲

なぜ雪子の嫁入り先を探す話が軸なのか?それは、この時代の女性の幸せ探しを意味します。当時の良家の子女の幸せとは、格式ある裕福な嫁ぎ先を見つけることを意味しました。

鶴子と幸子は、親の代では大阪での裕福な商家だった実家が没落し、店も人手に渡ってしまった今、雪子に安心する嫁ぎ先を見つけることが、妹の幸せと信じているのです。一方で、末娘の妙子は、それに反発し、自由奔放な振る舞いをしています。

「細雪」は谷崎潤一郎が戦前の日本の美を表現した長編小説

季節ごとに姉妹は優雅な遊びを行います。それは、日本の旧家では、ごく当たり前に行われていた季節行事で、とくに京都での花見のシーンは世界中で評価される特筆すべき場面です。

絵巻物を見るかのような描き方

谷崎潤一郎は、「日本の美」というものに敏感な作家で「陰翳礼讃」(いんえいらいさん)という随筆をまとめています。

まだ電灯がない時代の日本の美〜陽の光と影の美しさ、自然と生活の一体感など〜日本の風雅についてまとめたもので、彼の描く小説には、その考えが体現されているものが多く残っています。とくに「細雪」の中では、意識して日常に残る日本の美を表現しています。

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新旧の女性の生き方の違い

この時代は、女性の生き方が大きく変わる時代でもありました。同じお嬢さん育ち、という中でも、四人姉妹の性格はかなり違います。

とくに末娘の妙子は、自活の道をもとめてもがき苦しむキャラクターと言っていいでしょう。どのお見合い相手にも納得しない雪子の優柔不断なキャラクターも際立っており、様々な女性キャラクターを描いた表現力も楽しめる要因です。

「細雪」谷崎潤一郎著が、世界各国で愛されている理由を解説

「細雪」は、じつは戦時中に発表禁止になった小説です。当時の緊迫した戦況の時代には、華美で豪奢な小説とされ、言論統制されてしまったのです。一時はそんな評価のあった小説が、なぜいま世界中で愛されているのか?解説します。

隠れたノーベル文学賞候補にもなった谷崎

戦後、日本がおちつき出版された「細雪」は、今度は、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)からの検閲を受けます。戦前に描かれたため、戦争肯定や連合国批判になっている箇所があったためです。

それでも、日本の美をわかりやすく描写した本作は、日本を紹介する名小説として世界に翻訳され、谷崎潤一郎は、じつはノーベル文学賞の候補にもなっていたという話があるほどです。

現代でも映画や舞台に

また、美しい四姉妹の姿は舞台や映画になっています。とくに映画は今まで1950年、1959年、1983年と3度上映されており、当代の名女優たちが演じています。

「細雪」谷崎潤一郎著は、文庫や青空文庫でも読める日本小説のマスターピース

その長さゆえ、教科書などには収録されず読む機会が他名作に比べ少ない「細雪」ですが、現在も文庫や青空文庫(著作権が消滅した作品や、著者が許諾した作品が読めるインターネット上の電子図書館)でも読むことができます。文庫では上中下と3冊に分かれたかなりの長編ですが、読みやすい文章でストーリー展開もわかりやすいので、谷崎入門編としてもおすすめです。

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