どれから観る?谷崎潤一郎の真骨頂『春琴抄』映画6作をまとめて比較

2019.10.24

1933年に発表された谷崎潤一郎の名作小説『春琴抄(しゅんきんしょう)』は、合計6回も映画化されている作品です。この記事では、『春琴抄』の映画版6作品を比較しながらご紹介します。

『春琴抄』の原作あらすじ

物語は、「鵙屋春琴伝(よもずやしゅんきんでん)」という書物を手にした「私」のモノローグとして語られます。

病で失明した大阪の薬商の次女・春琴は、身の回りの世話を丁稚の佐助に委ねていました。三味線の名手となった春琴は、佐助に厳しい稽古をつけるようになります。あるとき春琴は妊娠し、佐助そっくりの子供を産みますが、二人は関係を否定し続けます。

やがて春琴は三味線の師匠として独立し、佐助は引き続き献身的に世話を続けます。あるとき春琴は、美貌目当てで弟子入りした名家の息子・利太郎に怪我をさせてしまい、まもなくして、何者かに熱湯を浴びせられ、顔に火傷を負てしまいます。春琴は顔を見られたくないとして佐助を遠ざけようとしますが、佐助は自らの目を潰して、春琴のそばに仕え続けるのでした。

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モノクロで観る、往年の名女優出演の『春琴抄』映画版

『春琴抄』は発表後数年で初の映画化が実現しています。ここでは、まず往年の大女優たちが春琴を演じたモノクロフィルムによる『春琴抄』映画をご紹介します。

田中絹代主演/島津保次郎監督『春琴抄 お琴と佐助』(1935年)

この作品は『春琴抄』の最初の映画化作品で、春琴と佐助に当時のトップスターであった田中絹代と高田浩吉を起用した松竹キネマの意欲作でした。

監督は、庶民の生活を写実的に描いた作風で知られ、メロドラマの名手として松竹を代表する名監督であった島津保次郎。

丁寧な風景描写や琴や三味線の調べを効果的に挿入して、情緒豊かな大阪の雰囲気を見事に演出しました。田中は盲目の琴の師匠に実際に弟子入りし、その所作を学んだそうです。

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京マチ子主演/伊藤大輔監督『春琴物語』(1954年)

戦前より数多くの映画を手がけた巨匠・伊藤大輔が本作の撮影を始めると、ライバルの溝口健二が自分が撮りたかったと怒りをぶつけたとか。

豪華な半衿や芸術品のような簪など、衣装にも気を配って制作されていて、舞の名手でもある京の所作や立ち姿が際立っています。

西洋人のように彫りの深い京マチ子の顔も、盲目の役柄ゆえに始終目を伏せているため仏像のような優雅さを感じさせます。

終盤、佐助(花柳喜章)が自ら針で目を痛めるシーンは、針山や針を持つ手指などのカットバックにより鬼気迫る雰囲気が演出されています。

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アート映画から文芸映画まで、多彩な『春琴抄』映画版

映画がカラーで制作されるようになってからも、画面構成の見事さや奇抜な演出、文芸映画の清新さまで、多彩な魅力を持つ『春琴抄』が作られてきました。続いてカラーフィルムで撮影された『春琴抄』をご紹介します。

山本富士子主演/衣笠貞之助監督『お琴と佐助』(1961年)

3作目の映画化にして初のカラーとなった衣笠版の『春琴抄』。かつて前衛映画を手がけた監督の作品なだけあり、カメラの構図や色彩の組み合わせなど、画面の絵画的な美しさが綿密に追求されています。

映画監督の衣笠貞之助は、ミスコンから芸能界入りした山本富士子を繰り返し起用し実力派女優に育て上げた人物でもあり、本作では山本富士子のかわいらしい春琴が見どころです。

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渡辺督子主演/新藤兼人監督『讃歌』(1972年)

日本のインディペンデント映画の先駆者であり、冒険的な作品を数多く残した監督・新藤兼人による異色の「春琴抄」が『讃歌』です。

春琴は尼そぎの断髪で、日本人形や少女のようでありながら、佐助を折檻によって支配するというところにこれまでにない倒錯感を感じます。

佐助が目を潰すシーンやラストシーンには新藤監督らしい前衛的で象徴的な演出が取り入れられています。

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山口百恵主演/西河克己監督『春琴抄』(1976年)

山口百恵が、西河克己の監督の下で演じた文芸映画の5作目、のちに夫となる三浦友和との共演としても5作目となったのが1976年版『春琴抄』でした。

従順あるいは純情な役柄が多かった山口百恵が、気が強い支配的な女性を演じているところが新鮮です。しかし、文字通り盲目的な愛を貫く二人の関係がかもし出す耽美さや官能性がもの足りないという評価が多いようです。

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長澤奈央主演/金田敬監督『春琴抄』(2008年)

2008年、『春琴抄』は前作から実に32年ぶりに映画化されました。メインビジュアルなどを見るとこれまでの作品と異なり、斎藤工が演じた佐助の献身と美しさに焦点が当てられているようですが、春琴を演じた長澤奈央の凜とした美しさや、利太郎を演じた松田悟志のコミカルな演技なども評価されています。2018年にはメイキング付きのDVDが発売され、再び注目を集めました。

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舞台版の『春琴抄』も見逃せない

谷崎美学のぎっちり詰まった『春琴抄』は、舞台化も繰り返し行われてきました。特に宝塚では、『殉情』と改題されながら4度も公演が行われている定番の演目となっています。海外での舞台化もあり、作品が持つ妖しい魅力は多くの演劇人をも惹きつけているようです。

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