作家と医師の顔をもつチェーホフの代表作とその生涯とは?

2019.10.12

19世紀末のロシアで活躍した偉大な作家アントン・チェーホフ(1860年~1904年)は医師でもありました。二足のわらじを履いて短編小説を第一線で絶えず発表した書き手はチェーホフ以外いないでしょう。チェーホフの代表作や人物像についてご紹介します。

チェーホフについて

チェーホフは、誰からも好かれ誰からも尊敬される人柄だったといわれています。作家として医師として貧しい生家を支えたチェーホフについてご紹介します。

貧しい中でも必死に生家を守った青年期

南ロシア、アゾフ海に臨む港町タガンローグに食料雑貨店を営む家庭の6人兄弟の三男に生まれました。二人の兄は貧しい生家を顧みることなく捨て去りますが、チェーホフは妹マリアと協力して生家を守ろうとします。

父の破産をきっかけに一家はモスクワに引っ越し、その頃チェーホフは生家を出て一人暮らしを始めます。生家を出てもチェーホフは家庭教師をして得た収入を励ましの手紙とともに母に送り続けます。そのような生活を続ける中で、チェーホフはモスクワ大学医学部に進学し、その頃ユーモア短篇を週刊誌に寄稿し始めます。

医学を志す傍ら作家として短編小説を400以上執筆

医学部で勉強しながら、短編小説を怒涛の勢いで書くチェーホフ。7年間で、なんと400編以上の短編を書いたといいます。ほとんどがユーモア作品でしたが、生きることへの侘しさ、哀しみや喜びの中であくせく生きていく平凡な世間の人々の描写などの作品も含まれ、次第にチェーホフの文名は広がっていきました。

医学部を卒業して、病院を手伝ったり自宅診療しながら執筆を行っていましたが、仕事の行き詰まりと疲労で憂鬱症に陥ってしまいます。

囚人島とよばれるサハリン島への旅行

30歳のとき、受刑者の事情を調査するため単身でサハリン島へ旅行します。この旅行を通してチェーホフは暗い出口のない憂鬱を吹き払い、旅行から戻ると見違えるほど行動的になりました。ロシアを襲った大飢餓では農民救済運動を精力的に行ったと言われています。

無料で百姓を診察し、小学校を建てたり、コレラの流行にも医師として25の村落を駆け回りました。チェーホフは社会奉仕を通して、醜悪で日文化的で無教育なロシアの民衆の生活と、怠惰で無気力で利己的なロシアの知識人の生活を認識します。

チェーホフの代表作(4大戯曲)

チェーホフは日本でも教科書に登場するような著名な作家なので、作品名をご存知の方もいることでしょう。ここではチェーホフの4大戯曲といわれる作品をご紹介します。

「かもめ」1895年

チェーホフの作劇術が突然の開花をみせた戯曲です。ペテルブルクんで初上演されましたが、さんざんな悪評をこうむりました。静的な密度の高いチェーホフ劇を舞台化する術を知らなかったからです。「かもめ」はモスクワ舞台で成功をおさめ今日に至っています。

主人公ニーナのモデルはかつてチェーホフに恋をしていた妹の友人です。声楽家志望の美しい女性でチェーホフも満更ではなかったのに、チェーホフが求婚しない腹いせに妻子のある作家に身を任せ子供を産んで捨てられ、子供も死んでしまいます。この悲劇が「かもめ」の着想になりました。10人の登場人物が織りなす日常生活、入り組んだ人間関係が書かれています。

「ワーニャ伯父さん」1897年

「かもめ」「三人姉妹」「桜の園」と共にチェーホフの作品を代表する4大戯曲といわれています。

主人公のワーニャ伯父さんは、亡くなった妹の夫セレブリャコフ教授の領地を守り、47歳まで結婚もせずに献身的に経営したのに、若く美しい後妻を連れて領地に戻ります。教授の俗物性に失望し、領地を売りだすことを提案され逆上し襲いかかります。ワーニャ伯父さんの人生は崩壊しますが、それでも耐えて生きていくしかないと姪のソーニャは慰めます。

「三人姉妹」1900年

チェーホフの4大劇の中で最も完成された戯曲といわれています。田舎に赴任した軍人の三姉妹を主人公に、人間の抱く夢と現実の衝突や葛藤を知識階級の生活を通して浮き彫りに描いています。

プローゾロフ家の三人姉妹は、長女オルガ、次女マーシャ、三女イリーナ。高級軍人の父親が亡くなってから、せっかく身につけた教養も田舎では無用の長物となります。一家がモスクワで華やかに暮らしていた時代を夢想して、モスクワに戻ることが唯一の希望となります。

「桜の園」1904年

暗い基調にも関わらず、チョーホフは喜劇と銘打ったので演出家を悩ませたといわれています。死期の迫ったチェーホフの目には破産して落ちぶれようと、哀しみも喜びも現世の人間の笑うべき劇でしかないということを感じて喜劇としたのでしょうか。それは今日も謎のままです。

19世紀末の農奴解放令後のロシアが舞台。没落した貴族一家は裕福だった華やかな時代を忘れられず、その時の感覚でお金を浪費し首が回らなくなってしまい、生まれ育った家や桜の園を売り出されることになります。

チェーホフの代表作(短編集)

ロシアの短編小説家の大家チェーホフの数ある作品から、おすすめの作品をご紹介します。

「可愛い女」1898年

トルストイが絶賛した作品です。主人公オーレンカは気立ての良くて情にもろい女性です。不運にも二人の夫と死別します。献身的に尽くす相手が居ないと生きる気力もなくなるオーレンカ。独りぼっちになった彼女は新しい生きがいを見つけます。愛する人がいないくなることに怯えながら。

「犬を連れた奥さん」1899年

後期のチェーホフを代表する短編小説で簡潔ながら密度の濃い名作です。チェーホフのなじみ深い土地ヤルタが舞台。不義の愛に苦しむ一組のカップルの物語です。一旦は別れてお互いに安堵しましたが、どうしても忘れられずに逢瀬を繰り返します。幼い娘を学校に送り届けた足でグローノフはアンナに逢うのです。

どうしたらこの関係を断ち切ることができるのかと、チェーホフは読者に想像を委ねています。

シャンパンを飲み干し亡くなったチェーホフ

結核の治療のために訪れたドイツの病院でチェーホフは44歳の生涯を終えます。彼の最後の言葉は「シャンパンは長いこと飲んでいなかったな」でした。人生の最後に妻オルガに微笑んで、シャンパンを飲み干し静かに息を引き取ったと言われています。

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