アルチンボルドは、その奇妙な絵画で何を伝えたかったのか?

2019.10.09

16世紀後半のヨーロッパの宮廷画家アルチンボルドは、3代の神聖ローマ皇帝に使え、最後には貴族の称号を与えられたアーティスト。一見、だまし絵とみられるコラージュ作品は、実は、深い本当の意味が隠されているのです。その謎解きをしていきましょう。

アルチンボルドの真骨頂。緻密な「寄せ絵」

アルチンボルドの絵画は、テーマに合わせた野菜や魚を数十種類以上組み合わせて作られた肖像画が有名です。いわゆるだまし絵のような、寄せ絵のような絵画です。どうしてそんな絵を描いたのか、その秘密は、当時の世界状況にありました。

当時のヨーロッパは、博物学が大ブーム

大航海の時代を経て、ハプスブルグ家をルーツにもつ神聖ローマ皇帝たちは、世界中から見たこともない動植物や自然鉱物、機械や考古物など、ありとあらゆる万物を集めることに熱中していました。現代の博物館のような「驚異の部屋」というコレクションを飾る部屋を持っているほど。それが富と権力の象徴にもなっていたのです。

ひとつひとつを学術的に精密に描写

アルチンボルドの肖像画は、近寄ってみると万物ひとつひとつが、正確に描写されたもの。例えば水性生物を集めた肖像画は、魚、カニなどが、博物図鑑のように精密かつリアルに描かれていて、それらを緻密に組み合わせて、肖像画として成立させているのです。

当時はもちろん写真やフォトショップなどもありません。その職人芸とも言える技は、アルチンボルドしかできない画法でした。

連作「四季」では季節と人間の姿を重ねて表現

2017年に日本で開催された「アルチンボルド展」では、春、夏、秋、冬と4つの肖像画で構成された「四季」が、日本で初めて展示されました。これらは、数十種類以上の植物で構成された、横顔が描かれています。

春では芽吹いた若々しさを、夏は農作物で

「春」では、花々が登場。顔だけでなく、上半身の体や当時の衣装も、花弁だけでなく葉や茎をを使って細密に表現しています。

「夏」では、トマトやきゅうりなどみずみずしい野菜や果実で、肖像画を構成しています。一つ一つのみずみずしい植物や農作物が、そのまま人物の若々しさ、初々しさの表現に繋がっています。

秋・冬は、成熟して枯れていく男を表現

一方、「秋」では、かぼちゃやぶどうなど渋い色味の実で、「冬」は、枯れ木や今にも落葉しそうな植物を使って枯れた姿を描いています。「春」「夏」と違い、老齢していく人間の姿を表現しています。

これらの「寄せ絵」は、単純に人を驚かそうとして描いたものではありません。宮廷画家であったアルチンボルドは、季節の恵みを使って自然の摂理を連想させ、世界の秩序までも手中に収めている皇帝を賛美する目的で描いたのです。

実際、皇帝たちは、アルチンボルドの描く絵画にこめられた、動植物の緻密さと、その寓意的な意図を読み解くことに夢中になったとされています。

水、火、大地、大気。連作「四大元素」では宇宙を表現

アルチンボルドのもう一つの傑作「四大元素」は、火、水、大地、大気の4作から構成されています。その意味を、探って見ましょう。

水では水性生物、火では火を司る道具を描く

「水」は、一番有名な作品といってもいいでしょう。ヒラメやおこぜのような魚だけでなく、カニ、タコ、エビ、オットセイ・・離れて見ると見事な女性像となっています。

「火」では、燃え盛る炎で髪を表現、目にはろうそくを用いています。元素にちなんだ道具で、アルチンボルドは見事に描き分けを行っています。

鳥が登場する大気、動物がいっぱいの大地

「大気」、すなわち空がテーマの肖像画は、多数の鳥で構成。あごひげは、オナガ鳥の尻尾を使い、華やかな肩のパフスリーブはクジャクの羽で表現しています。一方「大地」は、動物を使った肖像画。羽飾りをつけたヘアスタイルは、多数の動物のツノを使って表現されています。

この世界を構成する四大元素で描かれた肖像画。これらを構成する動植物も、ひとつひとつ意味があり(勇敢さを意味するライオン、思慮深さを表すゾウなど)、さらにこれを治める皇帝を賞賛する意図も隠されているのです。

謎解きしたくなるアルチンボルドの奇想な絵画

近寄ってじっくり見ていると、密度濃く描き込まれた植物や、隙間なくみっちり密着している生物など、目が離せなくなるアルチンボルドの絵画。16世紀当時の鑑賞者にとっては、見たことがない動植物だらけだったでしょう。その驚きを想像して、鑑賞してみてください。

その他のテーマ

ART

CULTURE

CRAFT

FOOD

TIME