三島由紀夫の『仮面の告白』を解説。LGBTQの時代にこそ読みたい傑作

2019.10.03

1949年刊行の「仮面の告白」は、三島由紀夫が24歳のときに執筆した長編小説です。自伝告白本ともいわれ、幼少のころから魅力を感じる男性の肉体や、女性との恋愛遍歴を描いています。現代のLGBTQの理解を深めるきっかけになる作品ともいえるでしょう。

同性愛と性的不能が題材の作品

絵画の男性裸体像に興奮した少年期、どうしても女性に心動かせない青年期…。ただの告白ではなく、哲学的視点をもって自分を客観的に描いている小説です。

一人称による告白の体裁

全4章のうち、前半は自分の生い立ち、後半は、青年期の自分の恋愛について描かれています。

子供のころから、男性の汗臭い姿や、血まみれの裸体像絵画に惹かれたことを美しい思い出を語るように綴った前半に対し、後半は、どうしても性的不能になり童貞のままでいる屈辱や、ある女性を好きになりつつも、どうしても肉体的に興味がもてないことなどを描いています。

これは三島本人の自伝か?違うか?

刊行当時は、まだ戦後4年目。日本はまだまだ敗戦の傷跡が多い時代でした。この時代に、センセーショナルな内容をまとめた本作は、当然、三島本人の自伝か?否か?が話題になりました。

ただ、あまりにも異彩をはなった内容と、その静謐で美しい文章に、多くの先輩作家や文芸評論家から絶賛されたのです。後年の調査では、登場人物の多くにモデルがいたことがわかっていますが、真実かどうかよりも、本作品自体が名作として話題が高かったことが伺えます。

刊行当時に激賞されたわけ

戦前のデビュー作「花ざかりの森」で、16歳とは思えない類稀なる才能をほとばしらせていた三島。書き下ろし長編小説だった「仮面の告白」は、「1949年度の読売ベスト・スリー」として選ばれるほど、高評価のものでした。

それまでの私小説と違う洗練さ

三島自身はあとがきの中で「完全な告白のフィクションを創らうと考へた」と語っており、一大ブームを作った私小説と一線を画して、徹底した客観主義で自身を見直しています。

いわゆる自身のアイデンティティを見つめるために、執筆前に心理学者や精神病理学の医師などを訪ね、ただ実話を重ねて記すのではなく、学術語や英語、ときにはフランス語を駆使して文章をねりあげています。

ヨーロッパ文学へのオマージュ

三島が好んだヨーロッパの文学では、異性だけでなく同性に向けた愛の言葉や、肉欲をテーマにした小説が多々ありました。エピグラフ(文章の巻頭におかれる句や文)が、ドストエフスキーということも、そのひとつの証拠としえるでしょう。

ほかにも、スタンダールの小説の影響が感じられ、当時の文筆家からも「あの小説へのオマージュだ」「ここが本歌取りね」とも読める知識探求の奥深さがあり、三島の博学さも魅力のひとつでした。

現代に通じる面白さ

本当の自分自身を隠して、人とうまくつきあおうとする…誰にでもある経験です。「仮面の告白」でも、子供の頃に気づいた自分を隠して青年期を過ごす苦悩や矛盾を描いています。

惹かれる人はみな男性

「仮面の告白」の主人公は、自身が男性に惹かれることを幼少期に気づいてしまいます。これは現代のLGBTQの問題を先駆けたものといえるでしょう。

戦後の日本に暮らす主人公は自らの性癖を隠し、女性との恋愛を試みようとしますが、どうしても肉欲が感じることができず、その女性と別れる道を選びます。

プラトニックな不倫

戦後、すでに人妻となったかつての恋人と逢引を重ねる主人公。以前同様、精神のつながりは感じるものの、肉体の接触を試みるきになれず、自分もどうしていいか逡巡します。

一方、相手の女性は、厳格なクリスチャンのため、プラトニックな関係でも、だらだらと続く密会に悩みます。ラストの場面はすっきりした解決ではなりませんが、今後の二人の道を示唆しています。

世界各国で読まれる画期的作品

三島由紀夫は、どうしてノーベル文学賞をとれなかったのか?と言われるほど、世界各国でも評価の高い作家です。その三島が書いた自らを投影した本作品、当時の世相を鑑みて読むと、現代の生き方を示唆するヒントがあるといえるでしょう。

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