美しい文章が光るスイスの詩人「ヘルマン・ヘッセ」。代表作と波乱の生涯

2019.10.02

ヘルマン・ヘッセ(1877年~1962年)は、ドイツで生まれスイスに国籍を移して活躍した作家です。自身で描いた風景画などの水彩画を美しい詩に添えた詩集が評価されノーベル賞を受賞しています。彼の代表作やどんな人物だったのかなどをご紹介します。

ヘルマン・ヘッセの生涯

 「ガラス玉演戯」などでノーベル文学賞を受賞したヘッセ。詩人・小説家として、美しく牧歌的な世界観の名著を遺したヘッセについてご紹介します。

挫折続きの少年時代

ヘッセは、南ドイツの小さい町カルヴに生まれました。父親は牧師で、内面的な信仰を重んじる敬虔なプロテスタントの家庭で育ちました。4歳のころから詩を書き、メロディーを付けて歌っていたといいます。幼いころは魔術師になりたいと思っているなど、ロマンティックで想像力豊かな少年として育ちました。

14歳の時、難関で知られる全寮制の神学校に入学します。しかし繊細なヘッセは厳格な神学校の規律に耐え切れず、寮からの脱走を繰り返します。追い詰められたヘッセは自殺未遂を図り、最終的に苦労して入学した神学校を退学になってしまいます。

その後は体調を回復して高校に入りなおしましたが、教科書を売ってピストルを買うなど素行不良が目立ち、こちらも退学になります。その後就職した本屋の見習いも三日で逃げ出し行方不明になったりと、少年時代には何をやってもうまくいかない憂鬱な日々が続きました。このときの深い挫折の経験は、後の彼の著作に大きな影響を与えました。

この頃から彼は、現実に縛られず、言葉を自由に操る詩人になりたいと願っていました。つらい現実の中のよりどころとして、憂鬱な歌を作っては歌い、創作活動への萌芽が徐々に芽生え始めていました。

作家として成功する

やがて彼は本屋の店員として働きながら、自らの作品を発表していきます。特に神学校での憂鬱と挫折の経験を下敷きにした「車輪の下」「ナルチスとゴルトムント」「ガラス玉演戯」などは、20世紀初頭~大戦の時代の抑圧的な世相と相まって高く評価され、徐々にヘッセの名声を押し上げていきました。

その後第一次世界大戦を経験し、ドラスティックな精神的な転換を経たヘッセは、大戦終結後の1919年に発表した「デミアン」に代表されるような内省的で平和主義的、さらに現代文明への批判が多分に含まれる作品を発表し、その名声は確固たるものとなりました。

平和主義とナチスからの弾圧

やがてナチス・ドイツの非人間的な暴政と侵略により大混乱に陥った欧州。ドイツ生まれでスイスを拠点としていたヘッセもまた、じっくりと落ち着いて作品を書けない状態となりました。

その平和主義的な作品群から、ナチス・ドイツから「好ましくない作家」だとされたヘッセは、著書への紙の配給を停止されてしまったのです。本を売ることができなくなった彼は、代わりに絵を売って生計を立てていたそうです。

ノーベル文学賞受賞、ドイツを代表する作家へ

やがて第二次世界大戦を経てナチス・ドイツの圧政から解放されたヘッセは、ようやく正当な評価を受けることとなります。大戦終結後にはドイツ最高の文学賞と言われるゲーテ賞を受賞すると、1946年には大戦後初となるノーベル文学賞を受賞することになりました。ヘッセが59歳のときでした。

幼年期から壮年期にかけて、不遇な時代を送ることが多かったヘッセですが、最終的には名実ともにドイツ(スイス)を代表する作家とみなされるようになったのです。そうして1962年、85歳でその生涯を閉じました。

ヘルマン・ヘッセの代表作

そんなヘッセの作品群は、美しくも儚い、牧歌的な人間の生活を描いた物語が多くなっています。ヘッセのよく知られた代表作をご紹介します。

「車輪の下」1906年

ヘッセ自身が体験したことを元に書かれた自伝的作品です。主人公の少年ハンスは優秀でエリート学校である神学校に2位の成績で合格し、周囲から将来を期待されます。しかし、彼は学校教育に疑問を持つようになり、友人関係で悩み、成績は下がり、教師からも期待されなくなります。

多感な少年期に勉強をして勝ち得たエリート校への進学でしたが、そこから一気に落ちていきます。それを冷たい目でみる社会。教育とは何かを問い、現代にも通じる問題を提起している作品です。

  • タイトル:車輪の下
  • 著者:ヘルマン・ヘッセ(著)高橋健二(訳)
  • 価格:320円(Kindle版)
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「郷愁」(ペーター・カーメンチント)1904年

「詩人になれないのなら、他の何にもなりたくない」といい、色々な苦しみから逃れ、自らの繊細な心を守り続けたヘッセ。そんなヘッセの処女作であり、出世作でもあるのが「郷愁」です。

アルプス山中の美しい小さい村で育ったペーターは、出逢いと別れを繰り返して成長していきます。美しい文章に心が洗われ、ノスタルジーに浸れる作品です。

  • タイトル:郷愁
  • 著者:ヘルマン・ヘッセ(著)高橋健二(訳)
  • 価格:472円(Kindle版)
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「春の嵐」(ゲルトルート)1910年

若気の過ちで身体障害者となった主人公クーンは、音楽家です。情熱的で破滅的でもある友人のオペラ歌手ムオト。高貴で優雅な女性ゲルトルートはクーンから愛されますが、正反対のムオトと結婚して悩みます。音楽家たちをめぐる儚い恋愛模様を描いた魅力的な作品です。

  • タイトル:春の嵐
  • 著者:ヘルマン・ヘッセ(著)高橋健二(訳)
  • 価格:562円(Kindle版)
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「知と愛」(ナルチスとゴルトムント)1959年

修道院に入学したゴルトムントという生徒を主人公とする作品です。ゴルトムントはその修道院で、教師であり、知性と美貌を兼ね備えた青年・ナルチスと出会い、熱烈に憧れます。

ナルチスのような知性の備わった人間になりたいと学問に励むゴルトムントですが、「君は芸術に奉仕する運命にある」とナルチスに教えられたゴルトムントは、学問を離れ放浪の旅に出ます。解き放たれたゴルトムントは放浪の旅で芸術家となり、愛した女性の彫刻を制作したのち、ナルチスのもとへと戻っていきます。

知性の象徴であるナルチスと、芸術(=愛)の象徴であるゴルトムントが、互いの道を究めながら最後には同一となっていく、人間の本質を象徴するかのような示唆の多い作品です。

  • タイトル:知と愛
  • 著者:ヘルマン・ヘッセ(著)高橋健二(訳)
  • 価格:729円(Kindle版)
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ヘルマン・ヘッセの詩

詩人ヘッセの18歳のころから晩年に及ぶ全詩集から代表作を抜粋した叙情的な美しい詩集をご紹介します。

「ヘッセ詩集」

ヘッセならでは深い味わいのある詩集です。母のような温かさや生命を慈しむ優しさに溢れています。

  • タイトル:ヘッセ詩集
  • 著者:ヘルマン・ヘッセ(著)高橋健二(訳)
  • 価格:472円(Kindle版)
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「4つの最後の歌」

リヒャルト・シュトラウスの最晩年の作品。ヘッセの詩に書いたソプラノのための歌曲「4つの最後の歌」があります。「眠りにつくとき」「九月」「春」「夕映えの中で」。死を前にした静寂な歌曲です。

穏やかに生きる術を身につけた詩人

ヘッセは若い時に大きな挫折を味わい、何をやっても物にならず自分を追いつめ自殺未遂をしました。彼の自伝的小説「車輪の下」で、ハンスは車輪の下敷きになり死んでしまいますが、ヘッセは作品を書くことで穏やかに生きる術を身につけたのではないでしょうか。

人生を苦しく感じている方や、この記事を読んで興味のわいた方は、ぜひ手に取ってみてください。ヘッセの美しい文章と物語に、きっと心が洗われることでしょう。

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