ベルン美術館に見る、自由の国スイスの中立な倫理観とは。

2019.10.01

 ベルン美術館はスイスで一番古い美術館で、クールベからセザンヌ、ピカソなど800年にも及ぶ美術界の巨匠達の作品を網羅しています。伝統ある美術館でありながら、過去には本物の「ホルマリン漬けの胎児」を使った斬新なアートの展示を巡って表現の自由を争うなど、自由の国スイスならではの問題提起をしている美術館でもあります。19・20世紀の名画から現代アートまで包容力の大きいベルン美術館についてお話ししていきます。

ベルン美術館の概要

ベルン美術館はベルン鉄道駅から歩いてすぐのところにあり、ベルンの街の中心地にあります。

マチス、ピカソ、シャガール、カンディンスキー、クールベ、セザンヌ、ゴッホなど名だたる巨匠の名画が揃っています。

ホドラーやアンカーといったスイスの芸術家の作品も多く、写真やビデオなど約48000点を所蔵しています。

かつてはスイスを代表する画家パウル・クレーの作品を多く所蔵していましたが、今ではいくつかの代表的な作品を残して、作品の多くがパウル・クレーセンターに移されてしまいました。

さまざまな企画展と子供向けのワークショップ

ベルン美術館では、膨大なコレクションの中から選ばれた企画展や、シュールレアリスム、キュビスム、印象派などの芸術運動特集など、様々な展覧会が開催されています。

また、大人向けの企画展だけではなく、週末には子供に向けての絵画鑑賞会や、お絵かきや工作などが楽しめる子供のワークショップなども常時催されています。

表現の自由に挑戦したベルン美術館の倫理観

2005年6月にベルン美術館で始まった「麻将〜シック・コレクションによる中国現代アート〜」の作品のひとつに、シャオ・ユ(Xiao Yu)氏作の6つの大きなガラス容器が並んだ連作「RUAN」がありました。

容器にはそれぞれ、ホルマリン漬けになったオブジェが入っていましたが、その中に本物の胎児にガラスの眼球をはめ込み、カモメの翼をつけたものがありました。

胎児は中国科学歴史博物館から譲り受けたもので、作品の意図するものは、遺伝子工学に対する疑問であったそうです。

この作品に対してスイス人ジャーナリストのアドリエン・デ・リードマッテン氏は、作者のシャオ・ユ(Xiao Yu)氏とベルン美術館、作品の所有者であるウーリ・シック氏の3者に対し、暴力的表現、死者に対する尊厳の侵害、動物虐待にあたるとして訴えを起こしました。

ベルン美術館はこの展示をめぐって、さまざまなところから脅迫を受けたことから、美術館の保安のため作品の展示を一時取り止め、リードマッテン氏を逆提訴しました。

また即時ベルン美術館において「表現における限界」についてのシンポジウムを開催し、美術館館長と中国文化専門家や宗教学者など、各界の専門家と聴衆が討論し活発な意見が交わされたそうです。

日本人の倫理観からすれば、とうてい理解できない作品ではありますが、死生観やその表現方法は各国、各人それぞれに違います。

一方的な国民性や感情論だけで処理せず、広く芸術の表現に対する倫理を問うベルン美術館の姿勢は、さすがに永世中立国を樹立した自由の国スイスの面目躍如たるところといえるでしょう。

ナチスに略奪されていた貴重な美術品がベルン美術館に寄贈!

2016年、ナチスに略奪されていたとみられる貴重な美術品がドイツ人の故コーネリウス・グルリット氏の遺言によりベルン美術館に寄贈されました。

この美術品は故コーネリウス・グルリット氏がナチス専属の美術商であった父ヒルデブラント氏しから受け継いだもので、ピカソ、セザンヌ、シャガール、モネやロダンなど絵画1400点以上の膨大な数に及びます。

ドイツ人の故コーネリウス・グルリット氏が何故遺贈先にベルン美術館を選んだのかは未だ解っていません。

「ナチスに略奪された絵画のコレクション展」2017年・2018年に開催

2017年「ENTARTETE KUNST」

故コーネリウス・グルリット氏のコレクションのうち約160点が展示されました。

作品のほとんどがナチス政権下に「退廃芸術」としてナチスによりドイツ国内の美術館から没収されたものです。

作品展では、当時の芸術に対するナチス政治との歴史的な状況についても解説されています。

2018年「GURLITT STATUS REPORT PART 2」

ヒルデブラント氏が入手した絵画や彫刻など計130点が展示されました。

ベルン美術館では「不当に没収されたとみられる全ての芸術品が一堂に会した」と話しています。

作品の一部は持ち主に返されたものもありますが、この作品展のため貸し出しを受けたそうです。

ベルン美術館の魅力とは?

数奇な運命を辿った幻のナチス略奪絵画の寄贈や、現代アートの胎児の展示による表現の自由訴訟など、何かと話題の多いベルン美術館ですが、その根底にあるのは、芸術に対する限りなく自由な表現への希求なのではないでしょうか。

ナチス略奪絵画寄贈の受諾も、胎児の展示もどちらも受け入れるにはかなりの勇断であったであろうと考えられます。

芸術とは何か?表現の自由とは何か?をさまざまなかたちで問題提起してくれるベルン美術館は、今後も注目していきたい美術館のひとつです。

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