猟人日記で知られる狩猟の名人『ツルゲーネフ』の代表作

2019.09.21

イヴァン・ツルゲーネフ(1818年~1883年)は、ドストエフスキー、トルストイと並び19世紀ロシアを代表するロシアの文豪です。代表作やその壮絶な生涯を解説します。

ツルゲーネフについて

ツルゲーネフは、モスクワの南方オリョール県下のスパスコエ・ルートヴィノヴォ村に生まれました。この村一帯はツルゲーネフ家の領地で家柄は貴族でした。

裕福でもいざこざの絶えなかった生家

母親のヴァルヴァーラはもともと孤児で、幼いころは血縁関係がない父親や気の短い伯父から冷たい仕打ちを受けていました。ところが、彼女が34歳のときに大金持ちの伯父が急死し、伯父の遺産がそっくり彼女のものになりました。

突然、県内で指折りの資産家となったヴァルヴァーラ。結婚相手には大勢の候補者の中から6歳年下でハンサムなセルゲイと結婚しました。父親セルゲイは冷たい性格で気が弱く女好き。母親ヴァルヴァーラは、すぐに叱りつけるヒステリックで我儘な女性。家庭内でのいざこざが絶えなかったといわれています。幼いツルゲーネフは孤独に耐えながら森や野原の中で夢想に耽って、憂鬱で悲しい日々を過ごしたとされています。

暴虐に苦しむ農奴制度に対する反抗心

父セルゲイが急死すると母親ヴァルヴァーラは幼いときに受けた侮辱を召使や農奴に対して浴びせ、女王のように振舞いました。このような環境の中で育ったツルゲーネフは母を反面教師のようにして、農奴制に対する反抗心が芽生えたのでした。

ヴィアルド夫人を慕い独身を貫く

25歳のとき、ペテルブルクへ巡業に来たフランスのオペラ歌手ヴィアルドという女性に出逢います。しかし、彼女は人妻でフランスに家庭を持っていましたので、ツルゲーネフはヴィアルド夫人に愛情を捧げながら、生涯独身を貫きヴィアルド夫人の近くで、パリで暮らしたのです。

ツルゲーネフの代表作part1 農奴制を批判した作品

ヴィアルド夫人と知り合って間もなく、ツルゲーネフは農奴制を批判した作品を出版していきます。

「猟人日記」1852年

猟人日記は、「狼」「あいびき」「音がする!」など25の短編小説を集めてまとめたものです。巧みな自然描写と詩情溢れた背景のもとで、人々の生活を題材にした物語を展開させる新しい短篇小説が作り出されました。狩猟の名人でもあったツルゲーネフは、中央ロシアの野原や森で獲物を追いながら見たり聞いたりした農奴の悲惨な生活ぶりを作品に反映させ、全編通じて農奴制度に反対する思想感じ取れる作品となっています。

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「ムムー」1854年

ツルゲーネフの母親が残酷な女主人のモデルとなった短篇小説。耳が不自由で声を出せず、話すことができない農奴ゲラーシムと子犬「ムムー」との物語です。ゲラーシムが溺愛していた「ムムー」を仕えていた女主人は処分するように命じます。ゲラーシムは自らの手で川で「ムムー」を溺死させます。

奴制に対して強い批判を込められた「ムムー」と、知人のニコライ・ゴーゴリに対する追悼文を発表したことが法に違反したとし、郷里のスパスコエ村へ追放され財産を没収されます。

ツルゲーネフの代表作part2

日本の文豪、武者小路実篤や志賀直哉は、実はロシア社会の転換期に生きたツルゲーネフから影響を受けたといわれています。ツルゲーネフが最も愛した作品などをご紹介します。

「初恋」1860年

半自伝的な中編小説で、ツルゲーネフが生涯最も愛した作品といわれています。主人公は16歳の貴族階級の少年ウラジーミル。別荘地で過ごしたある夏に、年上の美しい公爵令嬢ジナイーダに初めての恋をします。しかし彼女には何人もの崇拝者がおり、彼はその中の一人に過ぎませんでした。

そんな中ウラジミールはジナイーダが誰かに恋をしていると気が付きます。なんとその相手は父親でした。ジナイーダとの不倫が原因で一家は別荘から離れ別の街へ引っ越します。ある日、父のことが忘れられないジナイーダが父を追いかけて密会している現場を目撃します。口論となって苛立った父はジナイーダの手を鞭で打ちます。ウラジミールはこれこそが恋なのだと思い知るのでした。

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「父と子」1862年

当時、知識人といえば貴族だけでしたが、農奴解放令の後は、商人や僧侶の家庭からも若い知識階級が現れ、従来の貴族文化が新しい平民文化へと変わっていくという時代背景の中、世は古いものと新しいものとの思想上の対立が起こっていました。そのような名中で父と子の考え方の相違によって生じる衝突をテーマに書かれた長編小説です。

「散文詩」1882年

ツルゲーネフが亡くなる3年前頃から、折に触れて自分の感慨を美しい散文詩にして書き綴った作品です。詩人ツルゲーネフの芸術が見事な結晶となってまとめられた作品といえます。

祖国ロシアに対し激しい望郷

裕福な家庭に生まれながらも、決して温かい家庭には恵まれず、母を反面教師にするかのように強く農奴制に反対し、その想いを作品に反映させたツルゲーネフ。

その人生の大半をフランス・パリで過ごしましたが、年齢を重ねる中で、祖国ロシアの大自然やそこで生活している人々を恋しく感じていたと言われています。

最期まで祖国の土を踏むことなく、脊髄癌にかかり65歳でパリでその人生に幕を閉じたツルゲーネフですが、農奴制への激しい反発は、祖国を愛するが故の思想だったのかもしれません。

日本を代表する文豪も影響を受けたとされるツルゲーネフの作品にぜひ触れてみてはいかがでしょうか。

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