『舞姫』の主人公は作者自身?森鴎外の傑作短編小説を読もう

2019.09.02

森鴎外の初期の代表作『舞姫』とはどのような物語なのでしょうか。この記事では、『舞姫』のあらすじから登場人物のモデル、特徴的な文体などをご紹介します。

鴎外の初期代表作『舞姫』とは

陸軍軍医としてドイツに留学した鴎外が、帰国後初めて発表した小説が『舞姫』です。ここでは、その概要とあらすじをご説明します。

鴎外滞独三部作

『舞姫』は、『うたかたの記』、『文づかい』とともに森鴎外の滞独三部作に数えられる短編小説です。鴎外の1884年からの4年間のドイツ滞在経験をもとに記され、1890年、徳富蘇峰が創刊した雑誌『国民之友』に掲載されました。結末にはいずれも別離があり、優雅な擬古典的文体が異郷の情緒を際立たせています。『舞姫』は、19世紀末のドイツに留学した主人公・太田豊太郎が帰国の船上にて綴った回想という形で記述されています。

『舞姫』のあらすじ

ドイツで法学を学ぶ豊太郎は、ある日街角で涙に暮れる若い踊り子エリスに出会い、亡父の葬式のための資金を援助します。二人は距離を縮める一方、豊太郎は仲間の留学生にからの中傷によって日本からの後ろ盾を失います。

エリスの家に身を寄せ、新聞社の駐在員として生活費を工面する豊太郎は、旧友の相沢謙吉の紹介で大臣・天方伯のロシア訪問に通訳として同行し、信頼を得ることに成功します。日本での復職の目処も立ち、帰国の約束をしてドイツに戻ると、エリスのお腹には豊太郎の子どもが宿っていました。故郷での巧名とエリスとの愛情に引き裂かれた豊太郎は、心労で寝込み、その間、相沢から豊太郎の帰国の意思を聞かされたエリスは、衝撃のあまり発狂してしまいます。豊太郎は、エリスとの別れのきっかけを作った相沢に、微かな遺恨を抱きながら、帰国の途につきます。

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『舞姫』の登場人物と実在のモデル

鴎外のドイツ滞在経験をもとに記された『舞姫』の登場人物には、実在のモデルがいると考えられ、議論の的になってきました。ここでは、その説の一部をご紹介します。

主人公・太田豊太郎

豊太郎のモデルとなった人物は複数考えられています。主人公の名字は、モデルの一人とされる鴎外の友人武島務の出身地埼玉県秩父郡太田村にちなんでいて、名前は鴎外の本名である林太郎の最初の一字を変えたものです。武島務は、日本から送金されるはずの学資金が届かず、豊太郎同様に帰国か滞独かの決断を迫られた後、新聞などへ寄稿しながら生計を立てました。そして、鴎外自身には、豊太郎同様、ドイツ人女性の恋人がおり、その恋は別離に終わっています。

舞姫・エリス

豊太郎の恋人エリスのモデルは、鴎外のドイツ留学時代の恋人であったエリーゼという女性であるとされています。しかし、エリーゼは鴎外の帰国に際して、エリスのように精神に支障をきたすことなく、日本まで追って来ています。鴎外の家族や周辺の人物たちの説得に応じて、エリーゼは1ヶ月後に帰国の途につき、鴎外もまた別の日本人女性と結婚させられていますが、二人はその後も文通を続けていたそうです。

天方(あまがた)伯

特派員として食いつないでいた豊太郎にとって、日本での立身に繋がる糸口となった天方伯のモデルは、山縣有朋であるとされています。『舞姫』作中で唯一具体的な時期が記されているのが、豊太郎が天方伯と出会う明治21年冬のことです。山縣有朋は、実際にこの年の冬に欧州視察に訪れています。

舞姫の文体について

『舞姫』は、現在の私たちには読みにくい、雅文体とよばれる文語で記されています。鴎外はなぜこの文体にこだわったのでしょうか。現代語訳もあわせてご紹介します。

なぜ雅文体(がぶんたい)なのか

『舞姫』が発表された当時の日本では、それまで文語体で書かれていた文学作品を、話し言葉に近い口語体で記す、言文一致運動のさなかにありました。しかし、鴎外は『舞姫』を雅文体とよばれる王朝風の優雅な和語、すなわち文語体で記しています。鴎外は、自分自身を客観的に表現し、美しく懐かしい夢として描き出すために、この高雅な文体を利用したのかもしれません。回想という枠組みで描かれる物語に、遥かな余情を与えています。

現代語訳版もおすすめ

ロマンチックな雅文体の『舞姫』ですが、現代の私たちにとっては極めて読みにくいのも事実です。そんな『舞姫』には現代語訳版が複数刊行されています。代表的なのは、『天平の甍』などで知られる小説家の井上靖によるバージョン。丁寧な注や解説に加えて、鴎外のベルリン時代やエリスの謎に迫る資料が掲載されています。また、荻原雄一氏による現代語訳は、資料などから内容までも補足し、井上版よりも軽快な日本語で書かれています。

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川端康成に同名の小説

近代的自我の目覚めを悲恋とともに描いた鴎外の『舞姫』は、日本の近代小説の嚆矢(こうし)とされています。川端康成に同名の小説『舞姫』がありますが、これは戦後日本の家族像を描いた作品で、鴎外作品との関連性は認められていません。しかし、川端康成が鴎外の作品を知らなかったはずはないので、どこか比較できる点がないか、読み比べてみてはいかがでしょうか。

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