イギリス絵画の秘宝『オフィーリア』の人気の秘密とは?

2019.08.31

流れる川に浮かぶ、うつろな瞳の美少女・・。今にも沈みいき、息絶えそうな瞬間を描いた「オフィーリア」は、1851年~1852年にかけて描かれた油彩画。死をリアルに、かつ美しく描き、現代も人気絵画である「オフィーリア」の人気の秘密を紹介します。

「ハムレット」の一場面

オフィーリアは、実はシェークスピアの戯曲「ハムレット」の登場人物。主人公・デンマーク王子のハムレットの恋人として登場しますが、最終的にはハムレットに父を殺され発狂し、最後は川で溺死する悲劇のヒロインです。

イギリス絵画の秘宝

「オフィーリア」は、イギリス人画家・ジョン・エヴァレット・ミレーによって1951〜1952年に描かれました。現在は、ロンドンのテート・ブリテンに所蔵されており、イギリス絵画の宝として、世界中の人に知られています。 花が咲き誇る河岸と、その川に浮かび青ざめた顔で死に行く乙女との対比が素晴らしく、イギリス・ビクトリア朝時代の傑作として名高い作品です。

絵画「オフィーリア」を見る:こちら

テート・ブリテンの公式WEBサイト:こちら

セリフから想像する、花持つ乙女

じつは、オフィーリアが死ぬ場面は、「ハムレット」の中でも登場しません。あくまで、王妃のセリフの中で「オフィーリアは川に落ちて溺れ死んだ」と語られるのみです。 そのセリフを元に、ミレーはオフィーリアの姿を想像し、その美しさとははかなさ、悲劇を表現しようとしたのです。

リアリズムの徹底追及

あくまで徹底したリアルさを追求したミレーは、数々の工夫をこらして、この絵を完成させました。

モデルは風呂に浮かんでいた!?

色鮮やかな花をもちながら、川に浮かぶオフィーリア。身に着けたドレスが少しずつ水を含みはじめ、徐々に沈み始める姿を克明に描くために、ミレーは、なんと当時の人気モデルにポーズを依頼しました。 彼のアトリエにバスタブを用意し、水を一杯張った中に、彼女を横たわらせたのです。

河岸は、ロンドンにある実在の川がモデル

もう一つの主役と言ってもいい河岸の風景は、徹底した写生を行っています。 実は、「ハムレット」はデンマークのお話ですが、「オフィーリア」に出てくる自然の描写は、すべてミレーの住むイギリスのもの。花だけでなく、水草や小さな木立なども、徹底したリアルさを追求しているのです。

象徴主義の先駆:ラファエル前派

どうしてミレーは、ここまでリアルさにこだわったのか?それは、彼が仲間と立ち上げた「ラファエル前派」というグループに、理由がありました。

既存の美術界に対するカウンターカルチャー

イギリス随一の美術学校、ロイヤル・アカデミー付属美術学校の学生だったミレーは、学校がラファエロ(ルネサンスを代表する画家)を基準に、優劣を判断することに不満を描いていました。 ついに仲間とともに「ラファエル前派」というグループをつくり、独自の美を追い求め機関紙を発行します。これは、当時のイギリス芸術界に新しいアドレス突風を起こしました。そして、のちにフランス、ベルギーをはじめヨーロッパ中に起こった象徴主義と呼ばれる芸術運動につながります。

見たことがない風景を想像で描く

ラファエロが登場する前の時代を理想とした彼らは、神話や中世の物語を元に、想像力を駆使したモチーフを描き始めます。明るい色調で、当時の人々にもわかりやすいテーマを、細密に描く特長がありました。

ミレーは、当時誰もが知っていた戯曲から、ヒロイン・オフィーリアを通じて、自分の理想とする表現を追求しようとしたのです。死と美を同時に描くことは、当時とても人気のあるモチーフでありました。

死はタブーではなく描かれるものだった

現代では、死を描くことはタブーとされているため、私たちは、オフィーリアの横たわる姿をみるだけで、一瞬ぎょっとします。そしてその美しさに、目を引かれるのです。ミレーは実際の死を描いたわけではありませんが、その徹底したリアリズムには心奪われてしまいます。

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