ムンクの『叫び』の人物は、叫んでいる訳じゃない!?誰もが知る名画の豆知識

2019.08.28

赤い雲がうねった空の下、橋の上でたちつくし、両手を頭にそえてこちらを向いた坊主頭の男…。誰もが見たことがある名画『叫び』は、ノルウェーの画家ムンクの作品です。どうしてこんなに有名なのでしょうか?その秘密を解き明かしていきましょう。

ムンクの『叫び』の全図を見たい方は、以下オリジナルサイトからご確認ください。

叫び|オスロ市立ムンク美術館

ポップカルチャーのアイコンにもなる名画

画面中央で揺らいだ体で大口をあけてたちつくす男性。赤みがかった空と、うねるような禍々しい背景。作品全体に広がる異様な雰囲気のためか、この作品を見ると、何か恐ろしいような、それでいて親しみ深いような、不思議な印象を受けます。

世界中でよく知られているこの絵画にオマージュを捧げた作品は多く、イラストや顔文字などあらゆるシーンに使われており、いまや一種のアイコンと化しています。

この名画を描いたムンクは、どんな人物だったのでしょうか?まずは画家のことから紐解いていきましょう。

ノルウェー画家・ムンクの生い立ち

エドヴァルド・ムンク(1863~1944)は、ノルウェーの画家です。幼少のころから病弱で、母や姉を早くに亡くし、また父が医師だったため、つねに死や病苦を感じる環境にいました。『叫び』以外の作品にも通じる幻想的ながらも不安定さを感じる表現は、そんな子供時代も関係しているといわれています。

初期の作品は、タッチなどに後期印象派からの影響を色濃く残しており、後のムンクの作品とはやや異なる作風が見て取れます。

描かれた19世紀末は混沌とした時代

ムンクの活躍した1880年代〜は、のちに世紀末美術といわれる、幻想的で自己の内面を表現したような絵画が多く登場しました。

パリを中心に、印象派たちが自然や人物を新しい表現方法で発表している反面、人間の魂を表現しようとするムンクの絵画は、印象主義を脱却し、精神の内面を切り取ろうとする「象徴主義」と呼ばれるジャンルへと向かっていきました。

はじめノルウェー国内では評価されず、ドイツに活動拠点を移したり、精神を病んだりといった苦難も経験したムンクでしたが、やがて画家として確固たる地位を築き、現在ではノルウェーの国民的画家と呼ばれるまでになったのです。

ムンクの『叫び』鑑賞のポイントは?

そんなムンクの代表作『叫び』をじっくり見てみると、かなりデフォルメ(単純化)されつつも、彼自身が強調したかったと思われるポイントが見受けられます。順に解説していきます。

姉妹作『絶望』では、表情がある

じつは、『叫び』は、同じような構図で描かれた『絶望』という絵画があります。姉妹作とも言えるこちらの作品では、中央の男性はきちんと髪も表情もあり、うつむきがちな視線は画面右下へ注がれているように見えます。

うねった赤い空や後方の二人の男性などは同じ構図ですが、中央の男性の静かな絶望が感じられる絵です。

叫び声が聞こえてくるようなリアルな禍々しさ

一方、『叫び』では、筆触(タッチ)も大きく、赤い雲と激しく湾曲した入江(フィヨルド)が、より禍々しさを感じさせます。遠近法を使って画面の奥行きを強調された構図は、単純ですがその奥行きに引き込まれるような印象をたたえ、この絵のもつ不安な気配をよりいっそうあおっています。

また、中央の男性の人間らしさを感じられない人形のような不気味な姿が最大のポイント。白い大きな目でぽっかり口を開け、指もない両手が、頭と顔を両サイドから支えています。その単純化された姿が、ポップに見えて人気があるともいえますが、まるでガイコツやミイラに見える人物からは、なんともいえない不気味さと陰鬱さを感じます。

作品全体に漂う不気味な雰囲気、特にそれを象徴するような中央の人物、姉妹作『絶望』との違いといったポイントに目を向けると、何か見えてくるものがあるかもしれません。

実は人物が「叫んで」いるわけじゃない?

そんな様々なポイントから鑑賞が楽しめる『叫び』ですが、てっきり「叫んでいるのは、中央の人物だ」と思い込んではいませんでしたか?実はムンクの『叫び』について、ムンク自身が語った記録が残っており、それを読むとムンクは違った意図を持ってこの絵画を描いたことがわかっています。

中央の人物は叫んでおらず、耳を塞いでいるだけ

ムンク自身が語った、叫びを描いた経緯は以下のようなものです。

夕暮れに道を歩いていたー

…(中略)…

太陽が沈んでいくー雲が赤くなったー血のように

私は自然をつらぬく叫びのようなものを感じたー

叫びを聞いたと思った

私はこの絵を描いたー

(出典:「ムンク展—共鳴する魂の叫び 図録」2018年10月27日発行 朝日新聞社発行 より)

つまりこの絵は、描かれている人物自身が叫んでいるのではなく、「自然の叫び」を聞いて耳をふさいでいるのだ、ということになります。

画材をかえて何度も登場

1893年に登場した最初の「叫び」は、現在オスロ国立美術館に所蔵されている油彩画です。その後、クレヨン画、テンペラ画、パステル画、リトグラフ(石版画)と、画材(絵の具)や表現方法を変えながら何度もムンクは「叫び」を作品化しています。

彼は、作品を複数種類展示することで、同じモチーフがどう鑑賞者に伝わるかを模索していた、という記録があります。

世界的に有名な絵画の豆知識

ムンクの残した文章を見ると、叫んでいるのは自然で、描かれている人物は耳を塞いでいるということになります。そう思うと、いままでとはまた違ったように見えてきたのではないでしょうか?

解釈は様々あれど、いずれにせよ不思議な魅力をたたえた名作であることは間違いありません。機会があればぜひ、本物を見てみることで、あなたなりの解釈を加えてみてください。

その他のテーマ

ART

CULTURE

CRAFT

FOOD

TIME