三島イズムの集大成。遺作となった長編小説『豊饒の海』を紹介

2019.08.28

日本文学においてその名を知らぬものはいない「三島由紀夫」。衝撃的な最期を遂げた彼は、その作家人生の中で様々な名著を残しました。その中でも特に評価が高く、今尚人気を集めているのが「豊饒の海」です。この記事では三島イズムを体現したその作品について徹底的に掘り下げていきます。

「豊饒の海」とは

「豊饒の海」について詳しく知っている方は、近代日本文学に造詣が深い人や、その時代の作家に興味がある方でしょう。次々と小説作品が生み出されていく中でも、その魅力、素晴らしさを評価する方は後を絶ちません。

三島由紀夫の特徴として、その「華麗で優美な文体」が挙げられることが多くあります。その中でも本作は、彼にしか描けない美しい日本語の姿を感じることができます。ここからは、そんな名著ひいては三島由紀夫について詳しく知らない方のために、「豊饒の海」の基本情報を紹介していきます。

三島由紀夫最後の長編小説

「豊饒の海」が執筆されたのは、1965年から三島由紀夫が活動家として壮絶な最後を遂げた1970年まで。執筆に実に5年間を費やした大作といわれています。三島由紀夫は、長い作家人生の中で数々の価値観を見出し、それを作品にも投影していました。

そして三島由紀夫が最後の長編小説として描いたのは「世界そのもの」であったと言われています。まさに自死へと向かうその日常の中で、生涯全ての思いを乗せた作品とも言えるでしょう。

題名の由来

「豊饒の海」という題名の由来は、月の東半球にある「豊かの海」と呼ばれるクレーターであると言われています。作中などに目立った月の描写はないことから、月自体が作品に重要な役割を果たすという訳ではありません。この作品名は、執筆当時にアポロ計画による月面着陸などからインスピレーションを受けたためとされています。

世界、そして人生そのものを解釈しようとする本作と、人智を超越したもののシンボルとしての「月」を掛けた、意味深いネーミングとも解釈できるかもしれません。

作品の概要

「仮面の告白」や「潮騒」、「金閣寺」など数多くの名著を執筆した三島由紀夫。その集大成とも呼ぶべき「豊饒の海」は、それまで執筆した作品の中で最も壮大なテーマと世界観を作り上げたものでした。

ここからはそんな「豊饒の海」の概要を解説していきます。

全4巻からなる壮大なシリーズ

豊饒の海は第1巻「春の雪」、第2巻「奔馬」、第3巻「暁の寺」、第4巻「天人五衰」の全4巻で構成されています。

その内容は、明治から戦後まで、ある人間の「転生譚」つまり生まれ変わりを基調としています。

移り変わる時代を「生まれ変わり」という形で巡っていく人、それを追う人、かつて恋人だった人など、転生譚でしか描けない独特の人間模様を描いています。同時に、様々なモチーフや暗喩が絡み合い、多様な解釈を生む謎多き作品ともいわれています。

一つの小説に描かれる、4人の主人公(転生しているので、1人といえるかもしれませんが)の人生を通じて、読者自身の人生の意味を探っていくような、集大成と呼ぶにふさわしい壮大な作品といえるでしょう。

作品の評価

現代でも高い評価を受けている「豊饒の海」ですが、発表された当時、世間はどのような反応を見せたのでしょうか?ここからは「豊饒の海」が発表された当初の評価を紹介していきます。

ノーベル賞作家・川端康成も絶賛

「豊饒の海」は、その複雑で謎の多い構成とストーリー、随所にちりばめられたメタファーやモチーフ、そして三島由紀夫という大作家最後の作品という位置づけも相まって、各方面から評価が入り乱れ、大反響を呼びました。

その中でも生前親交があった、日本人初のノーベル文学賞を受賞した作家・川端康成は、「源氏物語以来の名著」と評価するなど絶賛しました。また高い評価は文化人だけには止まらず、当時から現代にいたるまで、様々な角度から研究・評価が加えられています。

もっとも、最後の入稿を終えた日に壮絶な最後を遂げた三島由紀夫本人は、それらの評価を知ることはありません。彼自身の性格を象徴するような、潔い遺作といえるでしょう。

三島由紀夫が残した文学の海原は

「豊饒の海」の概要を少しだけ紹介してきました。その独特なテーマと謎多きストーリーは、いまだに研究が尽きず、この壮大な作品をひとえに語りつくすことは不可能といってもいいでしょう。昭和を代表する文豪・三島由紀夫が生涯最後に残した傑作を、ぜひあなた自身の目で確かめてみてください。

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