歌舞伎の隈取について詳しく解説。その起源や隠された意味を知る

2018.10.17

歌舞伎といえば、白塗りにインパクトのあるラインを施した化粧『隈取』(くまどり)が印象的です。隈取の種類は約50以上といわれ、デザインや色によって意味が異なります。そんな歌舞伎の隈取についてひも解いていきましょう。

歌舞伎の隈取りとは

白い顔に赤い筋が代表的な隈取りは、歌舞伎に欠かせない化粧法です。

怒って顔に力が入るとカァ~っと頭に血が上り顔の血管が浮き上がる様子などをイメージしており、登場人物の感情だけでなく『役割』も表現されています。

『化粧も芸のうち』という言葉があるように、役者が自分で隈取化粧を施し、子役などは先輩の役者に描いてもらうのです。

隈取の起源と意味

現代のように満足な照明のない時代から、歌舞伎は演じられてきました。しかし薄暗い芝居小屋では、遠くにいる観客に役者の顔がよく見えません。

そのため、紅や墨を使って、『顔立ちがよくわかるように表情を誇張して描いた』ものが隈取です。元禄時代からさまざまな俳優が隈取を行ってきました。

隈取りの種類と特徴

隈取の代表的な8種類とその特徴を紹介します。

  • むきみの隈
  • 筋隈
  • 一本隈
  • 二本隈
  • 火炎隈
  • 弁慶の隈
  • 景清の隈
  • 般若隈

『むきみの隈』は、目じりと目頭から眉毛に向かい紅を縦に入れる、若い正義感あるキャラクターを表現しています。『筋隈』(すじくま)はむきみの隈より線が多く、力強さや血気盛んな様子を表しています。

『一本隈』は額の両脇から目じりの横、頬にかけて半円を描く一本の筋がある隈取で、やんちゃなキャラクターを表現。『二本隈』は一本隈と同位置に二本線を入れます。

『火炎隈』は頬からこめかみにかけて立ち上る炎のような曲線を描く隈取です。『弁慶の隈』は勧進帳の主人公である弁慶の隈取で、役者による違いを楽しめます。

『景清の隈取』は景清の主人公である平清盛の隈取で、鍵のような眉が特徴です。『般若隈』は、顔全体に黒と青の曲線、赤く塗った目元で、亡霊、恨みや怨念、嫉妬を表しています。

隈取は主に時代物で使われる化粧法

隈取は歌舞伎ならどの作品にでも登場するわけではなく、主に『時代物』(じだいもの)と呼ばれる演目で使われる化粧法です。

時代物というのは、江戸時代よりも古い時代(室町・鎌倉・平安時代など)を設定し、公家や武家社会が描かれた作品です。歴史上の事件や人物の名前などもそのまま使われています。

時代物の主な作品には『仮名手本忠臣蔵』や『義経千本桜』などがあります。

隈取りの色による役柄の違い

隈取はそのデザインだけでなく、使われる色も1種類ではありません。主に赤・青・茶の3色に分けられ、それぞれ異なる役柄を表しています。

正義を象徴する赤色

赤の隈取は『正義』の象徴です。勇気や強さも表していて、性格としては『善人』に使われる色です。江戸歌舞伎を代表する力強い演出『荒事』の基本になる役柄の色です。

戦隊ものなどのリーダー役のテーマカラーが赤であることが多いように、歌舞伎での赤い隈取の役柄も、若くて強くて正義感に満ち満ちています。

赤の隈取のデザインバリエーションはとても多く、筋が多いほど、より熱い感情があふれ出している様子を表現しています。

悪を表す青色

青の隈取は『悪』の象徴です。悪役や敵役に使われます。

とんでもない悪人のことを表現する『血も涙もない人』という言葉があります。「人間らしい赤い血が流れておらず、青い血が流れているのではないか?」というイメージから青が使われるようです。

そして歌舞伎の上での悪人は、ちょっとやそっとの悪い人ではなく残酷で残忍な『極悪人』レベルを指しています。

赤の対局にある青色で、冷酷さや失望感を表現しているのです。顔の血管をあえて青色で表すことによって同時に不気味さも醸し出しています。

茶色は妖怪など人間以外のものを表現

歌舞伎には、人間以外の不可思議で不気味な存在も登場します。つまり、歌舞伎の芝居のわき役である『妖怪や鬼』などには、茶色の隈取が使われるのです。

この世のものではない、怪しげな雰囲気やおどろおどろしさが、茶色をベースにしてさまざまなデザインで表現されます。

善人の赤、極悪人の青、謎の生命体の茶という隈取の色による役柄の違いを知っていれば、歌舞伎のストーリー展開もとてもわかりやすく感じられるのではないでしょうか。

それぞれに色やデザインについては、こちらの記事で図解入りでより詳しく解説されています。

歌舞伎メイクの隈取の種類は?それぞれ解説付きで紹介します

隈取を取っていく方法

『隈取を取る』というのは、隈取を消してしまうという意味ではなく、隈取の線を描いていくことです。

隈取を取るための道具や手順、落とし方までを見ていきましょう。

化粧に必要な道具

隈取をするために必要な道具は実にシンプルで、以下のとおりです。

  • 白塗りをするための刷毛
  • なじませるためのスポンジ
  • 鬢付け油(びんつけあぶら)

中でも一番のメインになる道具は『指』です。指で直接白塗りの上に描いてこそ、隈取が成り立つといえます。

化粧の基本

ベースや白塗りの部分以外は、遠くからもしっかりと目立つように太く、力強い線を描きます。そのため筆を使わずに大胆に指を使って描いていくのが『隈取』です。次の手順が基本になります。

  1. 顔全体に鬢付け油を薄く塗る
  2. 顔、首、襟足、背中を白く塗る
  3. 顔全体に水白粉を塗る
  4. スポンジで顔の余分な水分を取る
  5. ドーランで隈取する
  6. 全体を整える(指でぼかして仕上げ)

鬢付け油は本来は髪の毛に使うものですが、これを薄く塗ることで肌に薄い膜を作って化粧のノリをよくし、汗が噴き出るのを防ぎます。

化粧の落とし方

厚い白塗りに艶やかな色を塗る隈取は、一見落とすのが大変そうに思えます。「皮膚の上に残って顔が荒れてしまうのでは?」と思う人も多いようですが、意外にそうでもありません。

ベースとして塗られた『鬢付け油』は、肌と水白粉の間でクッションのような役割をするため、直接肌に化粧の負担がかかりにくいのです。つまり肌を優しく保護しながら化粧することになります。

そんな歌舞伎化粧を落とすときは、コールドクリームなどのクレンジングクリームをたっぷりと塗ってダイナミックに落とします。そのあと石けんなどを泡立てて、洗顔をして終了です。

舞台の時は1日に何度もメイク落としをしますが、歌舞伎役者の肌はとても美しいことでも知られています。

話のネタになるかも?隈取の豆知識

隈取についての基本知識だけでなく、さらに詳しい情報も知っておくとさらに話が盛り上がるかもしれません。隈取の豆知識をチェックしておきましょう。

隈取の写しは自由に使用できる?

隈取は江戸時代の歌舞伎役者が考え出したといわれているので、厳密にはその当時の役者に著作権があるのではないかと推測できます。

しかし江戸時代といえばすでに150年以上も前のことです。日本での著作権の保護期間は著作の発表後50年、著作者の没後50年までと決められています。すでにその時期は過ぎているため、自由に使用できるといえるでしょう。

つまり江戸時代の隈取をコピーして使っても、一般的には罰せられるということはないのです。しかし著作権の状況は隈取によって異なる可能性があるため、商用などで利用する際は特に専門家に相談することをおすすめします。

隈取の化粧法は現代のメイクにも活かせる

隈取で使われている『紅』は、日本の昔ながらの紅色です。日本人の肌色にしっくりとなじんで似合う色なので、頬紅や口紅としてポイント的に取り入れることができるほか、ライン使いなども現代のメイクにもしっかり生かせます。

実際に歌舞伎役者の染五郎さんが使用している『擽紅』(らくべに)はネットショップなどで入手可能で、プレゼントにもおすすめです。

  • 商品名:擽紅
  • 価格:3,780円(税込)
  • 楽天:商品ページ

人の顔を歌舞伎役者に変身させるアプリ

2020年のオリンピックに向けて、世界中の人に日本の文化を知ってもらおうと開発された『歌舞伎カメラ』という楽しいアプリがあります。

このアプリを開いてカメラを人の顔に向けると、自動顔認証で撮った写真の顔に隈取がぴったりと貼り付きます。もともと入っていた画像の上にも隈取をすることができます。

18種類の隈取の中から好きなデザインのものを選ぶことができ、色も赤・青・茶のパターンがそろっています。『ちょっと怖いけど楽しい』今までになかったアプリで盛り上がってみましょう。

歌舞伎の隈取メイクを実際に体験する

観客側として隈取を見るのも良いですが、実際に自分の肌で隈取メイクをしてみるのも楽しいものです。隈取メイク体験ができる講座『歌舞伎太郎』を紹介します。

隈取メイクを間近で見学、実体験もできる

『歌舞伎太郎』は日本の伝統芸能歌舞伎について広め、歌舞伎とは何なのかを伝えるために作られた歌舞伎講座です。

『歌舞伎講座入門講座』『一回完結型テーマ別講座』『歌舞伎のお稽古』など、様々な講座が用意されています。

歌舞伎への興味が高まったら、観るだけではなく実体験してみることでさらにその楽しさが広がるでしょう。

歌舞伎の隈取と所作を体験できるプラン

『歌舞伎太郎』では、歌舞伎の所作も体験できます。女形のしぐさや、見得のポーズ、立ち回りなどが学べるワークショップや、隈取を間近で見学できる『くまどり見学会』があります。

見学会参加者の中から限定1名だけ、隈取の体験ができるそうです。隈取した自分の顔に驚いた後は、紙や絹布にあてて写し取った『押し隈』も楽しめます。

  • 施設名:歌舞伎太郎
  • 住所:東京都中央区日本橋本町4-1-13スリーピー日本橋ビル7階
  • 営業時間:各講座による
  • TEL:03-6262-5151
  • 公式HP

隈取りの意味を知り歌舞伎鑑賞をより楽しく

日本の伝統芸能である歌舞伎の中でも印象的な化粧法『隈取』の意味について知っておくことで、それまで敷居が高いと感じていた歌舞伎のストーリーがわかりやすくなります。

映画鑑賞やテーマパークも良いですが、今度のお休みはちょっと大人な時間を過ごせる歌舞伎鑑賞を楽しんでみませんか?

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