人民主義を提唱した「ルソー」。彼の思想と破天荒な生涯を解説

2019.08.21

スイス出身の哲学者ジャン=ジャック・ルソーは、フランスを革命に導いた英雄と見なされる一方で、破天荒な人生によっても知られます。この記事では、ルソーの人生と重要な政治思想、そしてそのほかの代表的な著作についてご紹介します。

ルソーの生涯と人物

1712年に生まれたジャン=ジャック・ルソーは幼い頃に母を無くし、父がジュネーブ追放の憂き目にあったのちは孤児同然となるなど、恵まれない家庭環境のもと波乱万丈の人生を過ごしました。

教会に預けられたり、粗暴な職人のもとに奉公に出されたりしましたが、奉公先では虐待を受けていました。そんな荒廃した生活から、ルソーは次第に非行へと走り、仕事を放棄して悪事を働くようになります。

15歳のころ、ついに劣悪な環境に耐え兼ね、奉公先からの出奔を決意します。

その後、放浪の果てに知り合った年上のヴァランス夫人(既婚者)と愛人関係になったり、パリに出たのちに滞在先のホテルの女中であったテレーズとのあいだに5人の子どもをもうけ、挙句、全員を孤児院に送り込んだりと、彼の私生活は少なくとも現代の価値観からみるととても褒められるものではなかったといえるでしょう。

その後文筆活動に目覚めた彼は、現代にも知られるような数々の著作をあらわし、晴れてフランスの学界にその名を馳せていきます。

しかし、彼の当時としては過激な思想は様々な方面に敵を作り、行く先々での迫害や誹謗中傷に遭うことになります。そんな状態からか精神状態を悪化させながらも、市民たちからの支持を集め、死後はフランス革命の功労者として讃えられるようになりました。

ルソーの主著『社会契約論』とは

流浪の人生を送ったルソーが、1762年、50歳にして発表した哲学的主著『社会契約論』には何が書かれているのでしょうか。「社会契約」と「一般意志」という二つの柱となる概念から説明します。

「社会契約」とは何か

ルソーは、国家に対する人々の義務の根拠には「社会契約」があると考えました。

人々は、公共の幸福のために結束し、社会と契約を結ぶことで、社会によって自らの生命と財産を保護してもらうことを期待します。その見返りとして、人間は個人の自由を譲り渡し、国家に忠誠を誓う。このような交換関係こそが、国家が権力を持つ唯一の根拠であると考えたのです。

しかし、それぞれの人々が考えていることはてんでばらばらですし、そもそも私たちはいまだかつて国家と「社会契約」なんて結んだ覚えがありません。なのになぜ私たちは「国家と社会契約を結んでいる」といえるのでしょうか?この矛盾を説明するために、ルソーは「一般意志」という概念を用います。

「一般意志」と自由

「一般意志」とは、公共の幸福を求める意志のことで、構成員それぞれの願望である「特殊意志」や、それらの総和である「全体意志」とは区別されます。

例えば、「税金を減らしたい」ということが社会の構成員全体の願望、すなわち全体意志であったとしても、「税金を高く維持する」ということが公共の幸福にとってより重要ならば、税金を高く維持することの方が一般意志となります。

ルソーは、人間は一般意志に絶対的に服従しなければならないのであり、一般意志したがった行動をとることこそが自由の最も重要な形態であると説きました。

この理論に従うと、公共の幸福の実現が図られていない国家は「一般意志に背いた契約違反」となり、その権力をもつ根拠を失うはずです。こうした発想が、のちに絶対王政を打倒するフランス革命の思想的根拠となったため、ルソーはフランス革命の英雄と言われるようになったのです。

ベスト・セラー小説と衝撃の自伝

ルソーは、哲学的・社会学的な著作にとどまらず、興味深い著作の数々を残しています。そのなかから、ベスト・セラーになった恋愛小説、日本の教育にも影響を与えた教育小説、そして衝撃的な内容盛りだくさんの自伝をご紹介します。

『新エロイーズ』

貧乏な青年教師と貴族の娘の恋を当時流行の書簡形式で語った、恋愛小説です。道徳の教えという体裁でありながら、奔放な性も描写しており、センセーショナルな反響を巻き起こしました。登場人物の感情を表現し、周囲の自然を輝かせる新しい叙情的な文体も魅力であり、当時から多くの読者を集めました。

『エミール』

『エミール』は、教育論として構想された文章を、架空の少年・エミールの成長の過程を綴る小説として書き直したものです。

「人間はもともと善人として生まれるのに、親や学校によって悪へと変質してしまう」という考えにもとづき、エミールは自分流に物を見て自然に成長できるよう、世間から隔絶されて教育を受けます。ルソーの提唱した、子どもの自発的な好奇心を尊重するという考えは、日本の教育にも大きな影響を与えました。

『告白』

誹謗中傷が絶えなかったルソーは、将来の自分の名誉のために、人生の真実を伝えるための自伝を残しました。それがこの『告白』です。

とはいえ、その内容は自己弁護にならないのではと訝しんでしまうほど赤裸々で、性的感情や色恋について、そしてルソー自身の露出癖やマゾヒズム、性的な罪についての告白をも含んでいました。五人の子どもを棄てたことにも言及しており、彼はそのことを後年まで非常に気に病んでいたといいます。

ルソーの思想は危険?

フランス革命の理論的支柱となり、その進歩的教育論が広く受け入れられてきたルソー。一方では、「いったん人民によって決定された一般意志は必ず正しく、一般意志には絶対服従せよ」とするルソーの思想は、ナチズムなどの全体主義にも結びつく危険性を帯びているとの指摘もなされています。

また、そもそも(上記で解説しておいてなんですが)彼の提示した一般意志とはいったい何なのか、どのように定義ができるのかといった議論もいまだ尽きません。

そんな評価の定まらないルソーという人物は、これからも興味の尽きない哲学者であり続けるでしょう。

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