哲学者ハイデガーの「存在と時間」ってどんな本?2000字で解説

2019.08.17

20世紀に活躍したドイツの哲学者ハイデガーの主著『存在と時間』は難解な本だと言われています。この記事ではハイデガー独自の用語である「現存在」「気づかい」「本来性」などについて解説するとともに、ハイデガーが著書を通じて伝えたかった事について、哲学にあまり馴染みの無い方にも分かりやすくご紹介します。

『存在と時間』の著者ハイデガーとは

まずハイデガーとはどんな哲学者なのか、『存在と時間』はどんな時代背景から生まれた本なのか、このあたりを振り返りましょう。

日本でも人気、ハイデガーってどんな人?

マルティン・ハイデガー(1889-1976)は20世紀に活躍したドイツの哲学者です。フライブルク大学などで教鞭をとるかたわら、『存在と時間』をはじめ多くの論文・著作を残しました。

日本では田辺元や三木清といった京都学派の哲学者が1920年代にハイデガーの授業を受けたことで、いち早くハイデガーの哲学が紹介され、その名が知られるようになりました。現代でも日本でハイデガー人気が高いのは、こういう経緯があります。

ハイデガーが登場した不安の時代

ハイデガーが学問の世界に登場したのはちょうど大戦間期にあたります。第一次大戦でヨーロッパは初めて近代科学文明の惨禍を目の当たりにし、またドイツは敗戦によって国家が崩壊して多額の賠償金も背負いました。

科学の進歩、近代的な価値観、国家、経済、人の命……。人々が信じ続けてきたものが突然無くなり、不安に襲われたのがこの時代です。こんな空気のなか、「人の存在する意味とは何か」と問いかけたのが、ハイデガーの『存在と時間』だったのです。

「現存在」「気づかい」ってどんな意味?

ハイデガーの問題意識は、この世界が存在する原因ではなく、人間の存在の意味、つまり「人が生きる意味はあるのか」というところにありました。ハイデガーは独特の用語で、この問いに慎重に答えていきます。

なぜ「人間」でなく「現存在」と呼ぶのか

まずハイデガーは人間のことを「現存在」、現にここにあるもの、と呼びました。なぜこんな言い回しをするのか、2つ理由があります。

ひとつは、人間の存在自体を問題にしているのに、「人間」と呼んだらあたかもそれが確定した前提のように思えてしまうから。人間という確定した存在があるかどうかはとりあえず保留にして、現にわれわれはここにある、このことから議論をはじめようとハイデガーは言ったのです。

もうひとつの理由は、人間はそれぞれ、現にここにある私という視点でしか他人を・世界を見ることはできないからです。ハイデガーの関心は客観的な人間一般ではなく、「自分と現実」という人間それぞれの固有性にありました。

現存在の特徴は「気づかい」だ

ひとりひとり固有の状況に置かれている現存在は、他人に、世界に、関心を向けて関わります。こうした関心・志向性のことをハイデガーは「気づかい」と呼びました。

自分以外の存在はこの気づかいによって初めて立ち現れる、とハイデガーは言います。たとえばハンマーはそれで釘を打ったりすることで初めて、ハンマーという存在としてわたしの前に立ち現れます。つまりものの存在は独立してあるのではなく、わたしとの関係によって初めて成立するのです。

であるなら、わたしの現実がどういうふうに存在しているかは、わたしの気づかいの仕方によって違ってきます。つまり現存在がこの世界でどのように存在しているか、それを特徴づけるのが気づかいということです。

死を見据えて「よい生き方」をしよう

こうした「気づかい」には「本来性」と「非本来性」の2つがあるとハイデガーは主張しました。そして自分自身に本来的な気づかいをすることこそ、よい生き方だと彼は説くのです。

本来性とはそれをそれたらしめること

先ほどの例で言うと、ハンマーで釘を打つという行為はハンマーをハンマーたらしめています。しかしハンマーで人を殴ったらそれはハンマーではなく凶器になります。このように、「そのものを、そのものたらしめること」これをハイデガーは本来性と呼びました。

本来的な気づかいを自分自身に向けるとどうなるでしょうか。現存在とは、自分だけの現実を生きる固有な存在です。そのため、他人に判断を委ねないこと、孤独を受け入れること、この自分だけの現実を背負って覚悟をもって生きること、これがハイデガーの示す「よい生き方」なのでした。

「死への先駆」が有限を自覚させる

また現存在にひとつだけ共通するのは、みんな必ず死ぬということです。であるなら、わたしたちにひとつだけ共通するよい生き方、それは死を自覚するというものだとハイデガーは言います。

実際に死ぬ前に、死を先駆けて自覚する、するとわたしたちはこの存在が時間的に有限であることを痛切に知る。そして今すべきことをしなかったら、明日はこの存在がないかもしれない。こういう想いが自分に責任をもった決意ある生を送らせるのだ……。ハイデガーは『存在と時間』の後半で、このような道徳を投げかけたのでした。

神不在の時代に生きる意味を問うた人

このように読むと、ハイデガーの『存在と時間』という本は、新たな時代における人の生き方を提示しようとしたものといえます。既存の概念や価値観が揺らぎ、不確実性が増す世の中で、人が生きる意味とは何なのか?こうした切実な問いかけがあるからこそ、『存在と時間』は今も読まれつづけるのかもしれません。

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