近代言語学の父・ソシュールを5分で解説。現代に与えた多大なる影響を紐解く

2019.08.16

ソシュールは近代を代表する言語学者のひとりであり、同時に構造主義の父でもあります。この記事では、やがて構造主義へとつながるソシュールの思想がどんなものだったのか、専門用語を使わずにわかりやすく解説していきます。

ソシュールの一般言語学講義

まずはソシュールの生涯と、なぜ彼が思想史上に名を残すのか、その理由から見ていきましょう。

ソシュールってどんな人?

フェルディナン・ド・ソシュール(1857-1913)はスイスの言語学者です。幼いころから数カ国語を習得し、言語学の論文で博士号を取るとそのまま講師となり、33歳からはジュネーブ大学で比較言語学の教授として教育・研究に当たりました。

55歳で亡くなるまで、ソシュールが書いたものは言語学についての専門的な論文だけです。ただ1907年から1911年にかけて、ソシュールは「一般言語学講義」と題した講義を10人前後の学生にむけて行いました。この講義の内容が彼の死後に再構成されて出版されます。

20世紀の思想を方向づける

『一般言語学講義』のなかでソシュールは、いま使われている世界各地の言語をひとくくりに扱う、その方法を提示しました。それは、各言語に共通する構造に着目することです。たとえばどんな言語であっても「ことばそのもの(シニフィアン)」と「ことばが指す内容(シニフィエ)」という2つの構造に分けることができます。

この、ソシュールの提示した「構造に注目して対象をひとくくりに扱う」という方法がやがて、1960年代のフランスで言語学以外にも適用されはじめます。これが構造主義として現代思想の一大潮流となったために、ソシュールは思想史上にも名を残すのです。

ソシュールの言語理論とは

構造主義という思想は、いろんな分野でいかにわたしたちが偏見に縛られているかを暴きました。では、ソシュールの言語理論はどんな偏見を暴き出したのでしょうか。

まず「モノや概念がある」…わけじゃない

わたしたちはふつう、モノの名前とは、まずモノがあってそれを適当に名付けたものだと思っています。たとえば白い毛のもこもこした生き物がいたので、それに「ヒツジ」と名付けたのだと。

しかしこれにソシュールは異を唱えます。彼はこのように言います。フランス語の「ヒツジ(mouton)」と英語の「ヒツジ(sheep)」とでは意味の幅がちがう。なぜなら、フランス語では羊のことも羊肉のことも「mouton」という言葉で表すことができるが、英語では羊肉のことを「mutton」と呼び、「sheep」では表すことができないからだ。もし、ことばがすでにあるモノを表すだけなら、外国語を訳すときには完全な同義語ばかりがあるはずだ、でも現実はそうなっていない、と。

ことばが世界を切り分ける

よって、モノや概念が先にあるのではなく、ことばによって初めてモノも概念も生まれるのだとソシュールは考えました。つまり「ヒツジ」と名付けることで初めて、わたしたちはヒツジというひとまとまりのイメージを心の中に持つことができるのです。

これは言い換えれば、無分化のなんだかよくわからない塊である現実世界を、ことばによって恣意的に切り分けるということです。それはちょうど、てんでばらばらの夜空の星々に「てんびん座」や「さそり座」と名前をつけることで、初めてそこに明確な形を見出すのと似ています。

構造主義につながるソシュールの思想

以上の考え方に立てば、各言語でことばの意味の幅がちがうということは、各言語にはそれぞれ固有のちがった価値観があるともいえます。最後に、ソシュールの言語理論から導かれるもうひとつの知見を見てみましょう。

言語によって見る世界もちがう

たとえば「虹は何色あるか」という質問に、日本人は7色、アメリカ人は6色、ドイツ人は5色と答えます。これは「赤」と「red」と「rot」の意味の幅がちがうことによって、見る世界もちがってくることの一例です。

日本語話者たる我々は、「虹」という現象を、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫というそれぞれの「言葉」があるから、7色に見えるのです。一方、同じ虹を見ても、英語やドイツ語では「言葉」がないため認識できない色がある、ということになります。

こうした意味の幅だけでなく、文法や、使い方など、各言語にはそれぞれに固有の価値観が伴っています。そしてわたしたちがひとつの言語を使いつづけるかぎり、わたしたちはそのつど言語の価値観を受け入れ、かつ強化しているのです。

わたしたちは自由に思考できない

とすると、人がことばを使って考えるとき、そのことばのもつ価値観からは逃れられないことになります(この記事も日本語で書いてあるので日本語特有の価値観に縛られています)。この制約からは誰も自由にはなれません。

わたしたちは自分が思うほど自由に考えているわけじゃない、わたしが何かを考えるというその行為にさえ、言語の構造が知らないうちに影響しているんだ。ソシュールの思想はこうしたことも教えてくれるのです。

ソシュールが用意した構造主義の時代

「時代や場所によって人の考え方はちがう」「わたしたちのモノの見方・感じ方には、なんらかの社会的構造が影響を与えているはずだ」。

21世紀の現代、こうした構造主義の立場は日本でもひろく受け入れられるようになりました。「多様性の尊重」や「文化相対主義」といった価値観は、まさしくその表れです。いわば構造主義が常識となった時代に、わたしたちは生きているといってもいいでしょう。

これは1960年代以降の、レヴィ・ストロースやジャック・ラカンなどの「構造主義者」たちの活躍による結果です。そしてストロースやラカンたちの活躍をもたらした思想的出発点は、ソシュールの『一般言語学講義』によって用意されたものだったのです。

【関連記事】レヴィ=ストロースの構造主義を5分で解説。彼が明らかにした近代人類学の偏見とは?

この意味で、ソシュールの思想の延長線上に現代があるといっても過言ではないように思います。

ソシュール自身の著作は、言語学に関する専門用語が頻繁に登場する論文が多いため、とっつきにくいと感じてしまうかもしれません。もしこの記事をきっかけにソシュールに興味がわいたら、まずは『一般言語学講義』から読み始めてみて下さい。

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