太宰治の遺書?最後の作品となった名作『人間失格』を読み解く。

2019.08.16

一度は耳にしたことがあるかもしれない有名な文学作品「人間失格」。太宰治が書いた中編小説です。人とは何か、生きることとは何かといったことを考えさせられる作品。この記事では、太宰治の「人間失格」についてあらすじと名言をご紹介します。

太宰治「人間失格」のあらすじを紹介

太宰治の作品「人間失格」にはありとあらゆる哲学的な投げかけや、自己解釈できる余白が入れられています。まずはあらすじを見ていきましょう。

第1の手記は幼少期の主人公

人間失格の主人公は「大庭葉蔵」という男性です。第1の手記ではまず子供のころの葉蔵の生活から始まります。

葉蔵は比較的裕福な家庭に生まれ育っていくのですが、あるとき自分自身の異常さに気づきます。それは「人が何を考え何故生きているのかが全く理解できないこと」でした。

相手の気持ちを理解できない葉蔵は、常に周りの空気を読んで、わざと子供らしく素直にふるまおうと努力します。その様子はまるでピエロ。しかし、幼い葉蔵はそれが重要で絶対に必要な処世術のように感じていたのです。

第2の手記で変わりゆく主人公

ピエロのように生きてきた葉蔵でしたが、中学に上がると同級生の竹一という少年に心のうちを透かして見られてしまいます。

ピエロになり切れなかった葉蔵は落胆しますが、竹一の予言じみた言葉を信じ進路を決めていきます。ところが人生はそれほど順調に進むものではありません。

学校へも通わずに堀木という年上の悪友とつるみ、酒におぼれる日々。そんな中で葉蔵は愛する人と出会い、ともに抱えた苦労を胸に入水自殺を図ります。結果的に愛した女性は死に、そして葉蔵だけが孤独と虚しさの渦中に取り残されてしまったのです。

第3の手記で無垢を知りそして終局へ

入水自殺から立ち直ったあとも、葉蔵は女性に困ることはありませんでした。常に葉蔵の周りには女性がいる状態だったのです。

そんな荒れた虚しい生活の中で、ヨシ子という女性と結婚をすることになった葉蔵。はじめは順風満帆に見えた結婚生活も終わりを迎えます。

人を疑うことを知らない純真無垢なヨシ子は男性に凌辱されてしまうのです。それを見てしまった葉蔵はショックを受けましたが、それはヨシ子も同じ。つらさを共有してしまった2人の歯車はかみ合わなくなりました。

ヨシ子が隠していた睡眠薬を大量に飲んで自殺を図った葉蔵でしたが、今回も死にきれません。葉蔵の心の中の闇は膨れ上がり、薬に溺れて療養所へと送られていきます。しかし、その療養所が異常者の隔離病棟であるということを知ったとき、葉蔵は自らが人間失格であると自覚したのです。

「人間失格」に出てくる名言と解釈

「人間失格」の中には、単純にストーリーを進めるだけではなく、哲学的思考を混ぜ込んだ言葉や展開があります。

幸福を恐れる心の深い闇

葉蔵が恐れているもの、それは善意や一般的な意見、幸福などです。

「自分の幸福の観念と、世のすべての人たちの幸福の観念とが、まるで食いちがっているような不安、自分はその不安のために夜々、転輾(てんてん)し、呻吟(しんぎん)し、発狂しかけた事さえあります。」

(出典:青空文庫『人間失格』)

これはの言葉の中には、葉蔵の苦しみが凝縮されています。何が一体幸せなのか、自分自身がわからなくなってしまってはいけません。自分の幸せは、誰かと比べる相対的なものであってはいけないのです。

「世間」という枠組みへの疑問

葉蔵はバーのママのところへ居候をしていたときに、他社との会話の中で「世間」という単語に心がひっかかりました。

「世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。」

(出典:青空文庫『人間失格』)

頭の中で自問自答のように発したこの言葉の中には、世間という理解しがたい漠然としたものに縛られて生きることのつらさが隠れています。自分は一般的な人間ではないのではないか、と不安になることは少なからずあるでしょう。

葉蔵は子供のころから今に至るまで、結局のところ世間や話し相手の気持ち、加えて自分の気持ちまでもがわからなかったのです。

自分自身を人間として見れるかどうか

物語の終盤、薬に溺れた葉蔵は療養所(サナトリウムとも言います)へ送られます。しかしいざ入ってみると、そこは葉蔵のように薬物で苦しむものや異常な行動を取る者たちが集まる隔離病棟だったのです。

まるで囚人のように囲いの中で暮らす生活の中、とうとう葉蔵は自分自身を見失います。

「人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。」

(出典:青空文庫『人間失格』)

この言葉の中には、いままであがいて努力してきたこと、ピエロのように生きてきた自分自身のすべてを否定する意味が込められています。虚しさと諦めが葉蔵の心を蝕み続け、人間であることを放棄してしまったのです。

「人間失格」は原作のほか漫画もおすすめ

太宰治の「人間失格」は長編の作品ではないので、文学に慣れ親しんでいない方でも比較的読みやすく仕上がっています。漫画版も発売されるほど人気のある「人間失格」は、読むたびにさまざまな解釈が生まれる素晴らしい作品です。

原作の「人間失格」

原作のこまかいところまでしっかりと読み解きたいというのであれば、原作の小説版を買うことをおすすめします。頭の中で葉蔵の心の内を想像しながら読む小説は、共感できる方にとってはより狂気な魅力に満ちているように感じることでしょう。

こちらの作品は、作者である太宰治が50年以上前に亡くなっていることから、著作権フリーで読むことができます。AmazonのKindle版であれば、無料で楽しめるためぜひチェックしてみてください。

  • 商品名:人間失格 Kindle版
  • 参考価格:0円(Kindleの場合)
  • Amazon商品ページはこちら

漫画版の「人間失格」

文庫を読み進めるのが苦手だという方には、漫画として描かれた「人間失格」を読んでみることをおすすめします。

原作に忠実な漫画もおすすめ

こちらは原作にかなり忠実に作られた、言うなれば「小説版の翻訳漫画」。小説ではなかなか浮かび上がってこなかった風景も、漫画で読めばすぐに頭の中にシチュエーションが入り込んできます。

  • 商品名:まんがで読破 人間失格
  • 参考価格:569円(税込)
  • Amazon商品ページはこちら

古屋兎丸版は近代と過去がリンクしている

「自殺サークル」や「ライチ光クラブ」で知られる鬼才の漫画家・古屋兎丸が描いた人間失格は、設定に手が加えられています。

葉蔵の人生を描く内容はそのままなのですが、始まりは古屋が葉蔵の手記と写真をネットで発見するところから始まります。現代で葉蔵の影を追い続ける古屋は、最後に何を知ることができるのでしょうか。

  • 商品名:人間失格(全3巻)
  • 参考価格:555円(税込)
  • Amazon商品ページはこちら

伊藤潤二版はより人間が恐ろしい

「富江」をはじめとするホラー漫画の巨匠・伊藤潤二。彼が織りなす人間失格は、人間の心の汚さがそのまま人の姿として具現化されたような不安感と恐ろしさを感じます。

基本的には原作に忠実ですが、ところどころに伊藤潤二なりの人間失格についての解釈が盛り込まれており、読み応えのある作品に仕上がっています。

  • 商品名:人間失格(全3巻)
  • 参考価格:595円(税込)
  • Amazon商品ページはこちら

遺作とされる「人間失格」は悲しい男の生涯

太宰治は「人間失格」を書き終えて間もなく入水自殺をしてしまいました。

「人間失格」で語られる主人公の人生(精神病に入れられた過去、入水自殺など)は、太宰治自身の人生と重なる部分が多く、太宰治の自白的小説とされ、遺書のような作品であるという説もあります。彼自身、もしかしたら葉蔵と同じ苦しみを背負い続けていたのかもしれません。

繊細で危うく、誰よりも人間の弱き機微をわかっていた文豪・太宰治。彼が人生最後に残した傑作を、ぜひ一度読んでみてください。

「小説」のその他の記事
その他のテーマ

ART

CULTURE

CRAFT

FOOD

TIME