功利主義で有名な『ベンサム』を5分で解説。彼が提示した新たな価値観とは

2019.08.15

「最大多数の最大幸福」という言葉で表される功利主義。どんな考え方で、何が革新的だったのでしょうか。この記事では、18-19世紀の学者ベンサムを追いながら、功利主義という考え方の特徴と、その歴史的意義に迫ります。

哲学者ベンサムってどんな人?

まずは功利主義の創始者であるベンサムの人物像と、彼の生きた時代をかんたんに振り返ります。

イギリスのアマチュア学者、ベンサム

ジェレミ・ベンサム(1748-1832)はイギリスの哲学者・法学者です。裕福な弁護士の家に生まれ、父の跡を継ぐべく法学を専攻しましたが、大学の講義に幻滅して以降は、法や社会の改良を提言するアマチュアの学者として活躍しました。

ベンサムは父の遺産で豊かな生活を送りながら、『道徳および立法の諸原理序説』など多くの著作を発表しました。

また死後には彼の遺言書どおり、自己標本(ミイラ)が作られたことでも有名です。少し変わり者だった彼は、「自分が死んだらミイラにして保存してくれ」という遺言を残していました。ミイラになったベンサムの姿は、いまもロンドン大学で見ることができます。

ちなみに、展示されているミイラのうち頭部だけは損傷が激しくなってしまったため、ロウで作った偽物とすげ替えられていますが、それ以外は正真正銘のベンサムだそうです。

二重革命の時代

ベンサムの生きた時代はちょうど、欧米で2つの革命が進行した時期でした。ひとつは産業革命、もうひとつは市民革命(アメリカ独立革命とフランス革命)です。

この二重革命によって、史上初めて近代市民社会が誕生します。それは能動的な個人主義の社会でした。つまり天候や税のとりたてに左右される農村の家族社会ではなく、自由に商品が買えて政治にも主体的な都市の市民たちの社会でした。

こうして社会が一変したのに、法律や制度はあいかわらず旧態依然のまま。ベンサムの提言はまさに、この旧態依然としたシステムを改革しようというものだったのです。

ベンサムの功利主義論とは?

ところで法制度を一から変革するには、人間という生き物をどう捉えるか根本から考え直して、新たな原理をつくることが必要です。ベンサムにとって、その原理こそが「功利主義」でした。

善悪の基準は「幸福をもたらすかどうか」

たとえば「人間は神の被造物だ」と捉えた場合、善悪の基準は神の御心です。また「人間は理性的な生き物だ」と捉えた場合、善い行いとは理性にもとづいた行動、つまり契約を守ることなどです。前者はキリスト教的な価値観、後者は啓蒙主義や社会契約論などの価値観といえます。

こうした時代にあってベンサムは、「人間は幸福を求める存在だ」と主張しました。だから善悪の基準とは、その行いが幸福をもたらすかどうか、より具体的に言えば、苦痛を少なくして快楽を多くするかどうかにあると唱えたのです。

つまり行いの効用(utility)によって善悪を判断しよう、これがベンサムの功利主義(utilitarianism)でした。

最大多数の最大幸福

功利主義にもとづけば、最も善いものとは、できるだけ多くの人に多くの幸福をもたらす行いです。ベンサムはこれを「最大多数の最大幸福」と呼びました。この原則に沿って、法律や制度を改革していこうと彼は提言しました。

だから功利主義とは、個人の幸福を増大させると同時に、みんなが幸福になることをも追求する道徳原理・政治原理です。決して自己中心的であることを勧める思想ではありません。

パノプティコンって何?ベンサムの功績

功利主義にもとづくベンサムの提言はとても現実的で、19世紀以降のイギリス社会、ひいては世界全体に多大な影響を与えました。最後に、ベンサムの功績を見てみましょう。

イギリスの選挙法改正につながる

最大多数の最大幸福をめざすには、一部の特権階級だけでなく、多数の人々が政治に関わるべきだとベンサムは唱えました。つまり民主主義です。

労働者階級にも女性にも選挙権を、というベンサムの主張は、彼の死の年1832年を皮切りに、すこしずつ実現されていきました。また他の国々でもやがて、多数の市民が政治に関わるようになっていきました。

ちなみに教育においてもベンサムは民主主義的で、学費の安い大学の創設を求めてもいます。母校オクスフォードではなく、ロンドン大学に彼のミイラがあるのはこのためです。

パノプティコンなどを考案

ベンサムはまた、社会全体の幸福を増やすには、貧困者や犯罪者の幸福を底上げするべきだとも唱えました。たとえば飲酒を禁じるよりレジャーを奨励すること、失業者への罰則より公共事業をおこすことなどです。

パノプティコンという刑務所システムを考案したのも同じ考え方からきています。囚人を奴隷のような非衛生的な環境に置くよりも、個室収容所を与えて円形に常時監視したほうが、囚人は生産的になって、社会復帰もしやすくなるからです。

パノプティコンは実現されませんでしたが、他多くの提案はやがて近現代社会に引き継がれていきました。

現代社会につながる価値観を先取った

ベンサムに端を発する功利主義に対しては、批判もあります。それは、功利主義は解釈によっては「『最大多数の最大幸福』つまり社会全体の幸福は個人の幸福に優先するものであり、全体の利益のためなら個人の自由や権利を阻害してもかまわない」とする危険な考え方にもつながりかねないからです。

ベンサムの功利主義が革新的だったのは、善悪の基準を「幸福をもたらすかどうか」という結果に置いた点にあります。なぜなら、この基準にしたがえば、だれにも迷惑をかけない犯罪は犯罪でなくなるからです。

たとえば18-19世紀当時のイギリスで、同性愛は犯罪でした。これが21世紀の現代、犯罪ではなく、むしろ個人の自由として認められるまでになったこと。ここにも近現代の新しい価値観をいちはやく先取ったベンサムの功績があるといえるでしょう。

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