哲学者『ニーチェ』の思想を5分で解説。名言とともにわかりやすく

2019.08.14

「超人」「ルサンチマン」「神は死んだ」……。数々の名言や概念で知られるニーチェの思想は難解だと言われます。この記事ではニーチェの代表作『ツァラトゥストラ』を中心に、彼の思想を名言とともに、できるかぎりわかりやすく解説していきます。

多くの名言を残した哲学者ニーチェ

まずニーチェの生涯と、彼の生きた時代から振り返りましょう。

ニーチェの生涯

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(1844-1900)はドイツの哲学者です。牧師の家に生まれ、大学では神学と哲学を専攻しますがすぐに信仰を放棄、24歳でバーゼル大学の古典文献学の教授となります。34歳まで勤務ののち体調不良で辞職すると、在野の哲学者として活躍します。

ニーチェの著作の多くは、この在野時代の10年間に書かれたものです。その後44歳で精神に異常をきたし、20世紀を目前とした1900年に55歳で亡くなりました。

ニーチェの生きた時代

ニーチェの生きた時代のドイツはちょうど3つの事柄が同時進行した時期です。それは自然科学の発展と、資本主義の発達と、国民国家の成立でした。

ダーウィンの進化論が論争をまきおこし、都市に貨幣があふれるようになると、人々はキリスト教の世界観に満足できなくなりました。また経済格差が顕著になり、国家が市民に重くのしかかるようになると、平等や自由といった近代的価値観にも疑問をもつ人が出てきました。

こうした近代後期の時代の空気に、ニーチェは『ツァラトゥストラ』などの著作で、一石を投じるのです。

国家が終わるところで、はじめて、余計な人間ではない人間がはじまる。ー『ツァラトゥストラ』新しい偶像について

ニーチェの「超人」とはまだ見ぬ強者のこと

では、ニーチェの思想とはどんなものだったのか。『ツァラトゥストラ』のなかで描かれる彼の超人思想を見てみましょう。

『ツァラトゥストラ』ってどんな本?

『ツァラトゥストラ』という本は一種の格言集(アフォリズム)です。章ごとにツァラトゥストラの警抜な一人語りがあって、最後に「ツァラトゥストラはこう言った」で締められます。ちょうど「如是我聞(にょぜがもん)」という言葉が仏教のお経の冒頭に決まり文句のようにくっついているような形式です。

ちなみにツァラトゥストラとは「ゾロアスター」のドイツ語読み。ゾロアスター教とは「拝火教」とも呼ばれる古い宗教であり、ここからも、ニーチェがキリスト教とは一線を画した世界観を有しており、仏教やゾロアスター教といった東洋思想をよく知っていたことがわかります。

超人というものを教えてあげよう。人間は、克服されるべき存在なのだ。ー『ツァラトゥストラ』ツァラトゥストラの前口上

「超人」とは何か?

『ツァラトゥストラ』のなかでニーチェが描いたのは、「強く生きろ」というメッセージです。彼の言う強く生きるとは、何物にも縛られず、子どものように軽やかに歌い踊り、この地上での生の喜びを日々感じながら、自分の意志をなにより大事にする生き方でした。

しかし、何物にも縛られず生きるというのは人間にできることではありません。みな世間の常識や価値観などに支配されているからです。だからニーチェは、そこから解放された新たな人物像を「超人」と名付けたのでした。

人間は、1本の綱だ。動物と超人のあいだに結ばれた綱だ。ー『ツァラトゥストラ』ツァラトゥストラの前口上

ニーチェのキリスト教批判

人間が超人へと向かう上で一番の壁が、ニーチェにとっては、キリスト教でした。そこでニーチェはキリスト教を激しく攻撃します。

ルサンチマンと「神は死んだ」

何物にも縛られず、軽やかに歌い踊り、この地上での生の喜びを感じながら、自分の意志を大事にする。こういう生き方と対極にあるのがキリスト教の教えです。なぜならキリスト教では隣人愛を、神のしもべとなることを、地上よりも天国を、自分の意志よりも神の意志を説くからからです。

ニーチェはこういう教えを、「弱者の怨恨(ルサンチマン)」だと批判しました。一人では生きていけない弱者が、一人でも生きていける強者に嫉妬して、「他人を愛せ」と押し付けただけだというのです。だからニーチェは「神は死んだ」と声高に主張したのです。

神というのは、憶測の産物なのさ。俺が望みたいのは、思考可能な範囲に憶測をとどめておくことだ。ー『ツァラトゥストラ』至福の島で

実存主義の先駆者

同時にニーチェは、身体と心をわけて考える心身二元論も批判しました。これはキリスト教のみならず、プラトンやデカルトなどの伝統的なヨーロッパ価値観への批判でもあります。

魂や精神といった存在を本質とみなして論じるのではなく、現実に存在している自分自身のからだをもとにして、このからだで世界を見、聞き、感じ、考えることこそが重要であるとする彼の思想的態度は、のちにサルトルによって「実存主義」と名付けられました。キェルケゴールとともに、ニーチェが実存主義の先駆者と呼ばれるゆえんです。

魂なんて、からだの付属物の代名詞にすぎません。ー『ツァラトゥストラ』からだを軽蔑する人について

ニーチェの本はいま読んでも面白い

ニーチェの本は発表当時、難解でよくわからない奇妙な書だと批判されました。これは現代の読者にとっても同じでしょう。

しかしそれでもニーチェの本に、ふと開いたページの言葉に、何か胸打たれるものがあるのは、わたしたちが当たり前と思っている近現代の価値観をふかく洞察したうえで、既存の価値観を激しく批判し、新たな価値観を提示しているからです。

ちなみに、ニーチェはみずからを「哲学者」や「思想家」と呼ぶことはなく、「心理学者」と自認していました。それは、人間の厳然たる現実を正面から見据え、精神の世界ではなく現実の世界において新しい価値観を生み出そうとする態度の表れだったのかもしれません。

よくわからないけど、揺さぶられるものがある。だからこそニーチェはその死から100年以上たった現代においても読まれているのでしょう。ぜひこの記事をきっかけに、あなたもニーチェの著作に触れてみてはいかがでしょうか?

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