多くの画家が描いたモチーフ『受胎告知』。鑑賞のポイントを解説

2019.08.04

「受胎告知」は、イエス・キリストの神性を象徴する出来事として、また、聖母マリアへの篤い信仰を背景に、初期キリスト教の時代から数多くの絵画作品に描かれてきました。この記事では、西洋美術史を華麗に彩る「受胎告知」の主題について、鑑賞のポイントも踏まえて解説します。

新約聖書のエピソード「受胎告知」とは

「受胎告知」とは、英語では「Annunciation(アノンシエーション)」と呼ばれ、キリスト教の聖典である「新約聖書」の四つの福音書のうち、「ルカ福音書」に記された重要なエピソードです。

処女であるマリアが神の子どもイエス・キリストを身ごもることを大天使ガブリエルから告げられる場面が記されています。

「受胎告知」を読み解く鑑賞のポイント

 

西洋美術の主題においてもきわめて重要なこのエピソードは、歴史的にどのように描かれてきたのでしょうか。ここでは、マリアや天使を表現するためのシンボルや、伝統的に描かれてきたマリアの身振りに注目して「受胎告知」の絵画を読み解いてみましょう。

マリアや天使のアトリビュートに注目

西洋絵画では、「アトリビュート」と呼ばれるモチーフによって登場人物を描き分けています。

聖母マリアは、神の慈愛を象徴する赤色の衣服に、天の真実を意味する青色のマントを身につけ、旧約聖書を読んでいたり、糸紡ぎをしたりといった姿で描かれます。

大天使ガブリエルは、羽根を生やし、錫杖やマリアの純潔を象徴するユリの花を手にして描かれることが多いでしょう。

聖母マリアの身振りに注目

聖母マリアは「ルカ福音書」の記述にしたがって、異なる段階に描き分けられ、その段階それぞれがマリアの美徳を表すとされてきました。

お告げを受けた時の「戸惑い」は「慎ましさ」を、天使の言葉に「思慮」する様子は「賢明さ」を、なぜそのようなことが、と言う「問い」が「知性」を、お告げを受け入れることで「謙譲」を示しています。

マリアの描かれ方によって、どの段階が描かれているのか考えながら鑑賞してみると良いでしょう。

「受胎告知」を描いた代表的な作品

それでは「受胎告知」が実際にどのように描かれたのか、代表的な作品を例に見ていきましょう。

清純なる乙女 フラアンジェリコの「受胎告知」(14401450年頃)

フィレンチェのサン・マルコ修道院の独房壁面という静謐な空間に描かれ、とりわけ神聖な雰囲気が魅力的な一点。マリアは、胸の前で両手を重ね、神のしもべとしてお告げを受け入れる「謙譲」の様子で描かれています。虹色に描かれた天使の羽が美しく、この頃は天使の羽が必ずしも純白ではなかったことが分かります。

サン・マルコ美術館ウェブサイト(左下に画像あり)

堂々たるマリア レオナルド・ダヴィンチの「受胎告知」(14721475年頃)

若きダヴィンチが師ヴェロッキオとともに描いた作品で、フィレンツェのウフィツィ美術館が所蔵しています。

聖母マリアは、右手で読みかけの聖書を開き、左手を上げて驚くような仕草です。天使は左手に百合を持ち、右手でマリアを祝福するポーズをしています。横長の画面や、マリアの身体のバランスが崩れていることなどから、右下から眺めることを意図して描かれたという説があります。

ウフィツィ美術館ウェブサイト:Annunciation

日本で見られる傑作 エル・グレコの「受胎告知」(15901603年頃)

スペインのトレドで活躍したバロック美術を代表する画家エル・グレコの「受胎告知」を、倉敷の大原美術館で見ることができます。

通常、画面の右側に描かれ、正面から天使を迎えることが多いマリアが、画面の左で振り返るようにして天使と対峙しています。鳩の姿をした聖霊の降誕が、まるで稲光のように描かれ、この場面の神秘性を劇的に表現しています。

大原美術館ウェブサイト:「受胎告知」

まだまだある美しい「受胎告知」の絵画

古代ローマ末期の壮麗なモザイク画から、イギリス・ラファエル前派の儚げなマリア像まで、「受胎告知」は長きにわたって描かれてきました。西欧の美術館ではよくお目にかかる主題ですので、アトリビュートやしぐさなど、鑑賞のポイントをおさえてその美しさを楽しんでみてください。

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