名画『ヴィーナスの誕生』を解説。実は「誕生」の瞬間じゃなかった!?

2019.08.03

ルネサンス期のフィレンチェで活躍した画家サンドロ・ボッティチェリの名作「ヴィーナスの誕生」。誰もが知るこの名画、実は「誕生」を描いていないって知っていましたか?この記事では、「ヴィーナスの誕生」の鑑賞のポイントや描かれた意味について解説します。

ウフィツィ美術館ウェブサイト:The Birth of Venus

「春」にならぶボッティチェリの代表作

「ヴィーナスの誕生」は「春(プリマヴェーラ)」とならんでウフィツィ美術館が誇るボッティチェリの代表作。英語では「The Birth of Venus」と呼ばれます。

愛の女神ヴィーナスは、時の神クロノスによって切り取られた天空の神ウラノスの男根が海に落ちたときにできた泡から生まれたとされています。ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」では、厳密には「誕生」ではなく、ギリシャのキュピロス島に流れ着いたシーンが描かれています。

「ヴィーナスの誕生」鑑賞のポイントを紹介

「ヴィーナスの誕生」には、主役のヴィーナス以外にも3人の登場人物が描かれています。また、ボッティチェリはヴィーナスやその他のモチーフを独特の方法で描きました。それらを解説しながら、「ヴィーナスの誕生」の鑑賞のポイントを見ていきましょう。

何が描かれているのか

中央に描かれているのは、ホタテ貝にのって島へ流れ着いた愛の女神ヴィーナス。生まれたばかりなのに成熟した女性の姿をしています。

画面の右側で、ヴィーナスを陸地へと吹き寄せているのは西風の神ゼピュロスとその妻クロリスです。そして、画面の右側で女神を迎え入れようとしているのは季節の女神ホーラーだと言われています。

どのように描かれているのか

主役のヴィーナスをよく見てみると、首や胴体が異常に長く、まるで宙に浮かんでいるかのようです。また、人物たちの影は描かれておらず、陸地の木々はあまりに細く、海上の波はパターン化され、薔薇やホタテ貝など随所には金色が用いられています。

ボッティチェリは、女神の誕生を写実的に描くのではなく、装飾的に描くことで神々の国の神秘性を強調しています。

「ヴィーナスの誕生」はなぜ描かれたのか

「ヴィーナスの誕生」は、ボッティチェリのもう一点の代表作「春」同様に、様々な解釈がなされてきました。「ヴィーナスの誕生」にはどのような意味が込められているのでしょうか。その解釈の一部をご紹介します。

結婚あるいは誕生のお祝いのため

「ヴィーナスの誕生」がメディチ家のメンバーのいずれかによって注文されたことはほぼ確実といわれています。

ヴィーナスが司る「愛」やホタテ貝や描かれた植物が象徴する「豊穣」「多産」のイメージから、結婚、あるいは子の誕生を祝うために描かれたと推定され、誰のための注文かということで議論が分かれています。そのため制作年代も1477年頃、あるいは14821484年頃のいずれか定まっていません。

メディチ家の統治を賛美するため

画面右側の背景に着目するとオレンジの木が豊かな果実を実らせています。オレンジは、14世紀以来、メディチ家の象徴となってきました。

また、花の神フローラは華の都フィレンツェを、背景に描かれた月桂樹は、当時のフィレンチェの事実上の統治者ロレンツォ・イル・マニフィコを象徴するとも言われ、メディチ家統治の下で栄えるフィレンツェへの賛辞とも読み取れるのです。

古代の美術と競うため

ボッティチェリらルネサンスの芸術家たちは、みな古代の美術を規範とし、またそれに勝ろうと研鑽を積みました。

『ヴィーナスの誕生』も、古代ギリシアの有名な画家アペレスが描いたという同主題の絵画をボッティチェリ流に描いたものと言われています。なお、ヴィーナスのポーズは古代の彫刻「恥じらいのヴィーナス」から借用されています。

カバネルが描いたバージョンも人気

「ヴィーナスの誕生」は、ボッティチェリのものが最も有名ですが、ティツィアーノほか多くの画家たちによって描かれたモチーフでもあります。

なかでも、19世紀フランスで活躍したアレクサンドル・カバネルは、まさに泡から生まれ出たヴィーナスを海面に横たわる妖艶な姿で描き人気を集めました。ボッティチェリによる高貴なヴィーナスとカバネルの扇情的なヴィーナス、どちらがお好みでしょうか。色々な「ヴィーナスの誕生」を見比べてみるのも面白いかもしれませんね。

オルセー美術館ウェブサイト:The Birth of Venus

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