今年は文楽『仮名手本忠臣蔵』が全編通しで上演!国立文楽劇場へ行こう

2019.07.25

人形浄瑠璃の三大傑作のひとつ『仮名手本忠臣蔵』は、全部で十一段ある長い長い演目です。通常は有名な段(場面)のみを演じることが多い演目ですが、今年35周年を迎える国立文楽劇場では、全段十一段を見ることができます。

文楽、歌舞伎とともに、時代物の金字塔

江戸時代に起こった赤穂浪士による敵討ちの物語を、南北朝時代に置き換えたものが仮名手本忠臣蔵。時代物と呼ばれる武士が主人公の演目の中でも、屈指の名作といわれています。その人気の秘密をさぐってみましょう。

あらすじ紹介~実在のスキャンダルをもとに~

1701年、江戸城松の廊下で吉良上野介に切りつけた赤穂藩・浅野内匠頭が切腹の沙汰となり、お家がとりつぶしになった事件がありました。吉良が浅野に無理難題をふっかけ、我慢しきれなくなった浅野が切りつけたのが真相です。

ところが一方的に浅野側に非があるとされたことに、赤穂藩の浪人たちが憤慨。主君の恥を雪(すす)ぐため、吉良に敵討ちをします。この事件には、武士だけでなく庶民まで赤穂浪士たちに喝采をおくり、当時の一大スキャンダルとなりました。

演目では南北朝時代の設定に

当時の人気のある話題を、素早く演目にするのが文楽や歌舞伎。ところが、幕府は、武家事件をそのまま取り上げることは、自分たちが下した沙汰に対する不満をあおるとみなし禁じました。

そのため、昔の南北朝時代の設定に変え、登場人物の名前も変更したのです。

物語のはじまり、「大序」を知る

文楽は段といわれる場面設定で構成されています。普通は五段物が多いですが、仮名手本忠臣蔵は十一段ある大作です。一段目にあたるものは「大序」といわれ、作品全体の雰囲気をつかめるものとされています。

登場人物の関係性がわかる

仮名手本忠臣蔵の場合は、鶴岡の饗応と呼ばれる足利幕府内の場面から始まります。

接待役の塩谷判官(えんやはんがん)に対し、年長者で執事の高師直(こうのもろのう)が難癖をつけ、挙句の果てには塩谷の奥方に言い寄る、という狼藉を働きます。我慢を重ねた塩谷でしたが、ついに師直に刀で切り付けてしまいます。

登場人物はすべて実在の人物

お判りになるかと思いますが、師直=吉良上野介、塩谷判官=浅野内匠頭。ほかにも、浅野の忠実な家臣:大石内蔵助が大星由良助(おおぼしゆらのすけ)という名前で登場し、見ている人間には誰が誰のモデルがすぐにわかる仕掛けとなっていました。こうして幕府の目をかすめながら、一大事件を庶民に見せる芝居を演じていたのです。

人気の高い場面とは?

世の中の不条理さ(この場合は、主君が無実の罪で切腹させられること)に対して、姿をやつしながら復讐の時期を図った大星由良助たちに、当時の庶民は快哉の声をあげました。中でも人気の場面を紹介します。

主君への敵討ちを誓う四段目

切腹を命じられた塩谷判官が、自分の気持ちを遺そうと、遠くにいる大星由良助の戻りを待っています。意地悪く切腹を迫る師直に対し、ついに腹に刀をつきたてたそのとき、大星がやっと到着します。腹に刀をつきたてまま無念を述べる塩谷の姿が、当時の武士の圧迫された姿をあぶりだすように描かれています。

一力茶屋で遊ぶ由良之助が登場する七段目

五段目以降は、復讐の機会を狙う浪人たちの群像劇が続きます。敵討ちのために恋をあきらめたもの、恋人が遊女に身を沈めたもの、家族のために敵討ちをあきらめるもの…。一概にはくくれない赤穂浪士たちの人間模様が描かれます。

また、登場人物たちの巧妙なかたき討ちの計画も面白いです。たとえばリーダーだった大星由良之助は、世間を欺くために毎晩茶屋で呑み遊び惚けています。さびついた刀を見せて、もう武士としては終わりだ、とアピールしたりするのです。

七段目は、赤穂浪士たちそれぞれを取り巻く人間関係が展開されるドラマチックな展開から特に人気が高いです。

今年は、全段を見ることができるチャンス!

2016年、東京の国立劇場50周年記念では、3か月にわたって歌舞伎の全段公演が行われましたが、今年は文楽の演目として通しで見るチャンスです。江戸時代の人間の気持ちでこの武士たちの群像劇を鑑賞し、その世界観を味わうチャンスといえるでしょう。

 

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