彫刻を始めてみよう。初心者におすすめの『木彫刻』の始め方

2019.07.24

日本家屋の装飾や仏像彫刻などで有名な、日本の伝統的な『木彫刻』という表現方法を紹介します。木目の美しさや木の優しい風合いを生かした作品を作る基礎知識として、彫刻刀や砥石といった道具の使い方や、製作工程の流れを学んでみましょう。

彫刻の基礎知識

『木彫刻』は彫刻の1種で、木を材料にした彫刻を指します。

木彫刻の道具や製作工程についての理解を深めるために、まずは彫刻と木彫刻の概要を見てみましょう。

彫刻とは

『彫刻』とは、木・石・蝋・金属などを彫り刻んで物の像を立体的に表すことや、それら材料の表面に書画や図版などを彫り込むことを指します。

広義には、粘土や石膏を用いて次第に肉づけするような、彫刻と塑像を行う彫塑(ちょうそ)も含めた概念です。

彫刻の主題(モチーフ)は古来より、神・人間・動物など具体物でしたが、20世紀になると、非形象・幾何学的・抽象的な心象(イメージ)を表したものも多く制作されるようになりました。

現在では表現が多様化し、例えば既成の物体と彫刻を融合させるような、従来の彫刻の概念では収まらないケースも増えてきています。

そういった造形作品は立体・立体アートと呼ばれ、表現が設置空間全体へ拡散したものは、空間表現やインスタレーションと呼び分けられます。

木彫刻の特徴

彫刻刀などで木を彫り刻む『木彫刻』は木彫(もくちょう)ともいい、木彫を行う人は木彫家と呼ばれることもあります。

代表的な製作手法は、角材などの一つの材料から像の全体を彫り出す『丸彫(まるぼり)』と、描き出そうとする形象を背景素地から浮き上がらせる『浮彫(うきぼり)』の2種類です。

日本における木彫刻は仏教とともに発展してきた長い歴史があり、仏像はもちろんのこと、木彫りの熊や日本家屋の欄間(らんま)など、少し目を凝らせば至る所に発見することができるでしょう。

木材は加工のしやすさが利点ですが、製作中では日光の影響や力加減などによって反りや割れが発生しやすく、十分に乾燥していない天然木を使うと完成後に湿気による歪みや腐食が起こりやすい、という扱いの難しさもあります。

木彫刻を始めるための道具

木彫刻を行う際に用いられる道具にはさまざまなものがありますが、基本的なものとして彫刻刀・ノミとカナヅチ・砥石があります。

木彫刻を始める際に揃えておきたいこれらの道具の概要を見てみましょう。

必ず必要になる彫刻刀

絵画においてイメージを描き出す絵筆が必要であるように、木彫刻においては木材を彫り刻む『彫刻刀』が必要になります。

製作にあたっては、例えば動物の毛並みを表現する細い刻みを入れる場面もあれば、人肌など滑らかで丸みを帯びた表面に仕上げるときもあり、それぞれの用途に合ったさまざまな彫刻刀が存在するのです。

仏像彫刻に向いたものや、文字を刻み付ける刻字に向くものとして特別な彫刻刀も販売されています。他にも、槍カンナと呼ばれる深く彫り出す特殊彫刻刀など、道具はさまざまですが、まずは安価な『彫刻刀セット』があれば十分です。

創作活動の基本として、一般的・基礎的な道具を使って製作の練習をして、道具に慣れ、目指すスタイルと合致する道具のイメージが見えてきたら買い足す、という流れを考えておくと良いでしょう。

大きな材料を彫るためのノミとカナヅチ

彫刻刀は細工を行う際に必要な道具ですが、角材など定型の材料から目的の立体物を描き出す際には、まずは大きく削り取って大まかな形を彫り出していくプロセスが必要になります。

例えば、木彫りの熊を作るには、まず角材から『熊らしい形』までを彫り出すことになりますが、この作業を彫刻刀で行うのはかなり非効率でしょう。

ここで必要なのが『鑿(ノミ)』と『玄翁(ゲンノウ)』です。玄翁は『玄能』という当て字で書かれることもあり、一般的には『金槌(カナヅチ)』と呼ばれます。

削りたい部分にノミの刃を当て、ノミを握ってカナヅチで柄を叩き、大きな力を加えて深く削り取る、ということができる道具です。

さらに大きく削るには『鋸(ノコギリ)』を使うことも考えられますが、いずれにせよ刃物のため、自分が取り扱いやすいものを選んで購入することが大切となります。

定期的なメンテナンスのための砥石

彫刻刀やノミなどの刃物は、使うほどに刃先が丸くなったり微細な欠けが生じたりして、切れ味が衰えていきます。ここで刃の切れ味を回復させ、ストレスなく思い通りに製作を進めるための『砥石(といし)』が必要です。

砥石は直方体の平たい石で、刃こぼれを直すための荒砥(あらと)、荒とぎを終えた刃面を滑らかにする中砥(なかと・なかど)、中とぎをした刃先を鋭利にするための仕上げ砥(しあげと・しあげど)の3種に大別されます。

日本の一般的な砥石は、砥石に水を敷いて刃を研磨する『水砥石(みずといし)』です。

砥石は粒子の荒さで荒砥や中砥の違いがありますが、入門用として中砥・仕上げ砥兼用の砥石というのも販売されています。

切れ味の悪い彫刻刀やノミを使っていると、不要な力が入って怪我の元になる場合や、使いづらい道具でおかしな癖がついてしまう場合もあるので、切れ味を保つためにも荒砥か兼用砥石は準備しておきましょう。

彫刻刀の種類と使い方

彫刻刀にはさまざまな種類がありますが、スターターキットとして販売される彫刻刀セットに必ず含まれているような、丸刀・平刀・印刀・三角刀という基本的な4種を紹介します。

最も使いやすい丸刀

『丸刀(がんとう・まるとう)』は、断面がU字型をしていて、凹面を削るために使用される、基本的で種類も豊富な彫刻刀です。

幅広で丸みのある彫り味が特徴で、極浅丸・中浅丸・並丸・深丸などの種類があり、滑らかな平面を削り出せる『外丸』もあります。

また、彫刻セットでは刃の大きさの違いで『中丸刀』『小丸刀』という2種類の丸刀が入っていることも多く、彫る面の広さによって使い分けることができます。版面に張り付きやすい木屑を削ぎ落とすときにも使えて便利です。

丸刀の跡を削る平刀

『平刀(ひらとう)』は、合透(あいすき)とも呼ばれる刃先の平たい彫刻刀です。広い面を薄く削り出したり、丸刀で彫り出した後の凹凸を整えたりする際に用います。

他にも、立体物の角に緩やかな傾斜を持たせる場合にも便利で、刃を裏返して使うと彫り味が変わる、というところも特徴の一つです。

また、平刀のバリエーションとして『スクイ』と呼ばれる、刃が反り返っているものもあります。斜面の奥だけ凹凸を整えたい、というときなどに便利な彫刻刀です。

線や輪郭を彫る切り出し刀

『切り出し刀』は、印刀(いんとう)・小刀(こがたな)とも呼ばれ、斜めになった刃が付いている彫刻刀です。切り込みを入れるだけでなく、平刀のように広い面を薄く削ることにも使えます。

また、印刀で輪郭を少し深めに描いておくと、他の彫刻刀で彫り進めるときに『歯止め』の効果が生まれるのです。

木屑で刃先が見え辛いときなどに誤って彫り過ぎることを防ぐことができるので、「まずは印刀」といえるほど使用頻度の高い彫刻刀となるでしょう。

また、二つ以上の角度から印刀を入れて材料を切り取る場合にも使えるので、表現の幅を広げるためにも使い慣れておきたい彫刻刀です。

はっきりとした線を彫る三角刀

『三角刀』は、断面がV字になっている彫刻刀です。通常はV字の角度は60度ですが、30・45・90度などのものもあります。

素材に溝を彫るために使われ、輪郭を描く際にも便利です。はっきりとした輪郭を描けるだけでなく、力の入れ加減で溝の深さの調子を変えながら描くこともでき、片刃の印刀では描きにくい『曲線を描く』こともできます。

また、均質な『点』を打つような表現に使うこともでき、印刀と組み合わせるなどして独特な風合いを出すことも考えられるでしょう。

道具の手入れ方法

彫刻刀やノミは金属製の刃物ですので、使い続けていると摩耗したり錆び付いてきたりします。

切れ味の良い道具で木彫刻をしていくために、サビの防止と切れ味を回復させる方法について見てみましょう。

サビ防止のために使用後は拭き取る

彫刻刀は購入時には錆止めの油を添付されていることが多く、未使用の状態ではサビの心配はないでしょう。しかし実際に使い始めると、刃には木屑やほこり、手の皮脂がついて腐食しやすい状態になってしまいます。

また砥石を使う際などに水分が付着することもあるので、使用後には乾いた布などでサビの原因になる汚れを拭き取ることが重要です。

砥石で切れ味を戻す

彫刻刀の切れ味を回復させるためには『砥石』で刃先を磨く必要があります。砥ぎには独特な技術が必要なため、使用する彫刻刀の刃先を購入時に写真で撮っておき、『購入時の状態に戻す』ことを意識すると良いでしょう。

砥ぐ際にはまず、滑り止めや摩擦力の強い台の上に砥石を置き、砥いでいる最中は常に刃が水で濡れている状態を保ちます。刃先を全体的・均一に砥石に当てることを意識して、同じ方向に繰り返し動かし砥いでいきましょう。

このとき、製作時のように刃を当てることを『縦砥ぎ』といい、横向きにして刃を当てることを『横砥ぎ』といいます。縦砥ぎの場合は刃の形状に砥石が削れていきますので、小さな砥石を使う際は横砥ぎがおすすめです。

木彫刻の始め方

木彫刻を始めるにあたり、彫刻刀など道具の他に、材料となる木材についての理解を深めておきましょう。木材の特性と選び方の基礎を紹介します。

木材を選ぶ

木材であれば何でも木彫刻を行うことができますが、おすすめしたいのは刃を通しやすい柔らかい木材です。

流木などでは水分を含み過ぎており、加工しにくいだけでなく腐食や歪みを起こしやすいので、木材はホームセンターなどで手に入る乾燥処理されたものを選ぶのが良いでしょう。

木材の種類でいえば、木目の美しさからいってもクスノキやホオノキが理想的です。ただこれらは入手しにくいため、カツラ・ベニ松・ヒノキ・バルサなどを選ぶと良いでしょう。

立体物を作る丸彫の場合は直方体の角材を選び、目的の形象を削り出していくことが基本になります。

浮彫で平面作品(レリーフ)を作る場合も、あまりに厚みが薄い素材だと彫れる深さの制約が大きくなるので、少なくとも5cmほどの厚みがあるものを選びましょう。

木の彫り方

木の種類や購入した木材の個体差によって、彫りやすさや割れやすさなどのクセが異なります。一概にはいえないため、木の彫り方を理解するには、実際に購入した木材を彫り、感触を確かめてみるのが1番です。

木には繊維があり、印刀を入れたときにベリッと大きく剥がれやすい素材もあれば、力加減を考えなければ彫り過ぎてしまう素材もあります。

製作しようとする作品の習作も兼ねて、作品製作に使用する木材と同じ種類のものを使って、丸刀・平刀・印刀・三角刀と、彫り味の違いやそれぞれの彫刻刀の特性を確かめてみましょう。

順目と逆目に注意しよう

どの木にも繊維の方向があり、削りやすく面がきれいに仕上がる向きである『順目(ならいめ)』と、削りにくく面が荒くなる向きである『逆目(さかめ)』があります。

木彫刻を行う際には、順目に沿って刃を通していくのが基本です。

木材をパッと見てどちらが順目なのかを見極めるのは熟練の技を要するので、実際に刃を通して確かめてみましょう。削りやすく木屑がくるっと丸くなる方向が順目で、その逆が逆目です。

逆目で彫り進めようとすると非常に削りにくく、無理な力を込めて怪我をしやすくなるだけでなく、想定外の割れが至る所に発生し、彫刻刀を痛めやすくもなります。

片刃の彫刻刀に右利き用・左利き用があるのは、逆目に逆らわずに作業をするという目的もあるのです。

木彫刻の制作工程

では実際に木彫刻を行う際の製作工程を見てみましょう。

木は1度削ってしまうと元には戻せないので、きっちりと構想と下書きをして、誤って彫り過ぎないように準備して取り掛かることが重要です。

大まかな制作工程

木彫刻の製作工程は、まず製作しようとするもののイメージを考える構想と素材の調達から始まります。

次に全体像と部分のスケッチを行い、レリーフなら1面、丸彫なら前後左右4面の実物大の下絵を描き、これを素材の各面に写す(トレースする)のです。

ここで素材に刃を入れるのですが、いきなり詳細に彫ろうとするのではなく、まずは大まかな形を削り出す荒削りを行いましょう。

全体像が見えてきたら、スケッチや下絵を確認しながら部分を詳細に彫り刻んでいき、表面の仕上げとニス塗りなどの塗装を行い完成となります。

構想から下絵まで

構想の段階で「こういうものが作りたい」と考えても、それが実現不可能なものであっては作品は完成しません。下絵を描くという作業は、実際に製作される完成品の設計図を描くという意識で行いましょう。

丸彫の場合は4面の下絵を描きます。イメージを立体的に捉えて、それぞれの面からの視点で描くには、かなりの想像力と空間認識能力が必要になるでしょう。

そこで、粘土などで実物の模型(エスキース)を作って、それを4方向から写真を撮るなどして下絵を描く、という方法がおすすめです。

エスキースで作れる形なら木彫刻でも作ることができると事前に確かめることができ、自立できない立体物だと発覚すれば、材料の下部5cm程度を台座として残しておく、ということなどを踏まえて、制作に取り掛かることができます。

実際に彫っていく

材料との間にカーボン紙を挟んで下絵の線をなぞることで、材料に下絵をトレースすることができます。

トレースできたらノコギリやノミ・カナヅチで荒削りをしていくことになりますが、ここでトレースした線を印刀で深く削り込んでおきましょう。

こうすることで、実物の範囲内の外だけを削ることができるので、下絵の参照をしながらの4面の荒削りを進めやすくなります。

木彫刻は1度削ると後戻りができないという難しさもあり、荒削りが終わってからも下絵やエスキースを見合わせながら、削り過ぎてしまうことがないよう慎重に彫り進めていきましょう。

初心者におすすめの彫刻刀

木彫刻を行う際に必須の彫刻刀ですが、使い慣れていない道具を選ぶのは難しいものです。これから木彫刻を始める人におすすめの彫刻刀セットを紹介します。

マルイチ ラバーグリップ 彫刻刀セット

『マルイチ ラバーグリップ 彫刻刀セット』は、一般的な木製の柄の彫刻刀とは異なり、ラバー製のグリップを採用していることが特徴です。

彫刻刀の使い始めは力加減が掴みにくく、勢い余って怪我をしてしまうことも少なくありません。その点、ラバーグリップは滑りにくく力も込めやすいので、手にフィットする安心感を持って彫り進めていくことができるでしょう。

切れ味のシャープな平刀・印刀・三角刀・中丸刀・小丸刀に加え、簡易的な砥石も付属していますので、これから木彫刻を始めようとする人にうってつけの必要十分なセットではないでしょうか。

  • 商品名 : マルイチ ラバーグリップ 彫刻刀セット 平刃・切出刃・三角刃・中丸刃・小丸刃 5本組 MRG-5
  • 価格 : 1483円(税込)
  • Amazon : 商品ページ

精密 彫刻刀 4本 セット 極細

基本的な彫刻刀セットがあれば木彫刻をすることはできますが、さらに詳細な細工がしたいというときに極細の彫刻刀もあると便利です。

本商品はペンのような感覚で握ることができる独特な形状の木製グリップを採用していて、精密な作業がしやすくなっています。

1.5mm幅の平刀・丸刀・三角刀・印刀の4本セットで、基本の彫刻刀セットでは表現し切れない細部を彫り込みたい人におすすめです。

  • 商品名 : 極細 1.5mm 精密 彫刻刀 4本セット 木彫り 彫刻 版画 篆刻 伝統工芸 オリーブ種細工 4P
  • 価格 : 1580円(税込)
  • Amazon : 商品ページ

髙儀 儀助 彫刻刀 バレン・砥石付 5本組

『髙儀 儀助 彫刻刀 バレン・砥石付 5本組』は、伝統的なホオノキ製の柄で、切れ味も良い彫刻刀セットです。

平刀・印刀・三角刀・中丸刀・小丸刀と小型の砥石に加え、馬楝(バレン)も付属しているので、木版画を製作したいときにも最適な基本セットといえます。

  • 商品名 : 高儀 儀助 彫刻刀 バレン・砥石付 5本組
  • 価格 : 808円(税込)
  • Amazon : 商品ページ

木彫刻を始めてみよう

木はもともと生命体で、繊維の流れには順目・逆目があり、どんな木材料にも個性があります。それだけに木彫刻には一筋縄ではいかない難しさもありますが、他の材料にはない奥深い味わいを感じることもできるでしょう。

日本建築や仏像彫刻など、木彫刻は日本の伝統文化に深く根差した表現方法です。

木とともに生きてきた日本の原風景に想いを馳せながら、木彫刻の世界に入ってみてはいかがでしょうか。

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