音楽療法とはどのようなものか。効果やプログラムについて知ろう

2018.09.26

音楽療法は、発達障害や精神の症状に悩む人が、障害の改善や生活の質の向上を目指して行われる治療法の1つです。音楽の持つリラックス作用や、コミュニケーションを引き出す力を利用して行います。効果やプログラムについて紹介します。

音楽療法の基礎知識

『音楽療法』と聞いても、知らない人も多いかもしれません。それはおそらく日本ではまだ認知度が低い治療法だからでしょう。

しかし、音楽療法による効果への注目は年々高まっており、医療や介護、教育などの幅広い分野で取り入れられています。

そんな音楽療法について、基礎から学んでいきましょう。

音楽療法とは

『音楽療法』は、音楽を意図的、計画的に使って行う治療法です。『日本音楽療法学会』によると、これは主に3つの働きがあると定義づけられています。

  • 生理的働き:リラックスあるいは興奮をもたらす
  • 社会的働き:コミュニケーション手段を引き出して人間関係づくりをサポート
  • 心理的働き:不安やストレスの軽減

音楽は、聴くだけでも人間の心身に影響を与えるものですが、『音楽療法士』が専門知識をもとに、定められたプログラムで音楽を使って行う治療法が『音楽療法』なのです。

音楽療法の対象は幅広い

音楽療法を受ける対象となる人は、なんらかの病気を抱えている人はもちろんのこと、さまざまなことが原因で精神的に疲れている人など、幅広い範囲の人が受けられるというのが特徴です。

音楽療法は、東日本大震災被災者などの『精神的ダメージ』をケアする方法としても使われ、災害や事故などによるストレスやショックから立ち直るために、とても役立つといわれています。

音楽は、言語に関係なく伝わりやすい表現方法です。特に、子どもは親しみを感じやすく、発達障害治療の『療育』の分野では、音楽療法を積極的に取り入れるところが増えています。

音楽療法の種類

音楽療法には大きく分けて4つの種類があります。

種類 特徴 期待できる効果
能動的音楽療法 歌・楽器演奏・ダンスや作詞・作曲を行う。 健康状態の回復・向上。
受動的音楽療法 音楽鑑賞などを行う。 感情の表出・緊張の緩和。
個人音楽療法 音楽療法士とマンツーマンで行う。 細かなケアができる。
集団音楽療法 5人以下の小集団から50人の大集団まで、複数人で行う。 協調性を引き出す。

どれかを選んで固定的に行うのではなく、活動内容や受ける人数によって種類分けされ、これらを組み合わせて行われることも多くあります。

音楽療法の場と取り組み

実際に、楽療法が行われている現場について紹介します。

  • 介護:老人介護施設、認知症治療のリハビリ
  • 医療:手術前後の不安や緊張の軽減、精神医療の診察と併用
  • 教育:児童施設、特別支援学校など(療育効果)

『老人介護施設』などでは、食事などの場面でリラックスできるよう音楽を取り入れ、落ち込みや興奮など感情のコントロールが難しい『認知症患者のケア』としても使われています。

音楽療法は保険対象になっていないため、『医療』の現場にはまだ、積極的には取り入れられていませんが、一部のメンタルクリニックなどでは、診察と併用しているところもあるほどです。

また、子どもの療育の場面では、その子の能力に合わせ、楽器や演奏内容が選ばれており、楽しく音楽に触れながら社会性や協調性を育むのに役立っています。

音楽療法士とは

日本では、まだ発展途上にある音楽療法ですが、音楽療法発祥の地であるアメリカでは、とても社会的地位のある仕事として定着しています。

音楽療法士が現場で行う音楽療法のことを『セッション』、音楽療法士は『セラピスト』と呼ばれています。

そんな音楽療法士になる方法や仕事の現状などについて紹介しましょう。

日本音楽療法学会などが認定

音楽療法士の国家資格はまだありません。目指すのであれば『日本音楽療法学会』などが認定する民間の資格が必要です。

資格取得するためには、まず日本音楽療法学会の認定校に入学して、認定カリキュラムを経て必要単位を取得し、音楽療法士試験に合格することです。

もしくは、学会が主催する資格取得のための制度に参加し(条件あり)音楽試験、必須講習(2年)ののち、音楽療法士試験の受験資格を得られます。このほかにも、以下の方法があります。

  • 全国音楽療法士協会
  • 日本インストラクター技術協会
  • 各認定機関主催の講習会に参加して認定を受ける
  • 大学・短大・専門学校などにある音楽療法カリキュラムを受講して認定を受ける

非常勤やアルバイトが多い現状

日本では『音楽療法士資格だけでの就職はとても難しい』という現状があります。

アメリカでは社会的地位のある仕事として認められていますが、日本では資格試験が民間のものしかなく、保険の適用や法整備がまだ整っていません。したがって、『非常勤やアルバイトのほうが常勤よりも多い』という現状にあります。

発達障害児などに接する保育士や教員、医療や治療の場で働く医師や看護師、介護職の人などが、音楽療法士の資格も併せて取得することで、活躍の場を拡大するというケースも多いようです。

音楽療法士養成講座と資格取得の流れ

ミュージックインストラクターズ学院が主催する『音楽療法士養成講座』は、自宅で学べる講座です。

講座カリキュラムと資格取得の流れを簡単に紹介します。

  • 基礎コース(前期1年):音楽療法原論、高齢者・障害児のための音楽療法
  • 基礎コース(後期1年):鬱や神経症、ストレスのための音楽療法から予防医学まで

2年間のカリキュラムですが、もっと早いペースで修了する人もいます。その後、スクールで実施されている『実技・実習プログラム』へ進みます。

そしてやっと『全国音楽療法士協会』が認定する音楽療法士の資格を取得へと繋がります。

ミュージックインストラクターズ養成学院 〜通信教育で学ぶ音楽療法士の資格〜

音楽療法の効果

音楽療法には、実に幅広い効果があるといわれています。音楽によって気分が明るくなったり、前向きで元気になったりした経験を持つ人は多いでしょう。

音楽療法はそんな音楽の持つ特性を最大限に活かしたプログラムで行われるため、年齢性別を問わず多くの人に効果が期待できるといわれています。

精神面や脳への影響

音楽療法で、まず影響を受けるのが『精神面や脳などの内面的な部分』です。主に、次のような効果につながるといわれています。

  • 不安や痛みの軽減
  • 精神的な安定
  • 脳の活性化
  • リラクゼーション効果

そして内面的に活性化されることにより、自分でやってみようという『自主性や活動性、運動性も向上』していくのです。

音楽とともに声を出したり、体を動かしたりすることによって、感情のある表情を出せるようになり、コミュニケーション力が発揮できるようになるなどの、よい影響がたくさんあります。

アウトプットへの期待が高い

音楽療法を行う最大の目的は、人が社会で生きていくうえで欠かせない技術である『ソーシャルスキル』をしっかりと身に着けることにあります。

ソーシャルスキルとは、

  • ルールを守る
  • 挨拶をする
  • 相手の気持ちを考えながら会話する

などで、発達障害や精神疾患がある人にとっては、これらができないことでつまずくことが多く、大人になっても誤解や中傷を受けるなど苦しい思いをする場面が多いようです。

セラピストとのやり取りや、一緒にセッションを行う仲間との関わりによって、自然と社会性が身に付き、自分を表現できる未来を目指します。

まだ論文は多くない

『日本音楽療法学会』は音楽療法士の資格を国家資格にするために、さまざまな活動を通して介護や教育などの現場で活躍の場を広めています。

しかし、まだはっきりとしたデータによる効果を根拠づける論文が少ないこと、治療効果への医学的な説得力が弱いことなどから、未だに国家資格とはなっていません。

それでも音楽療法は、世界を見れば十分に医療に取り入れられ、効果を発揮し、認められている国もあるのは事実です。

民間資格であることよりも、『より専門性を高めた、意識の高いセラピストが地道に活動や実績を積み上げていく』ことが、日本での音楽療法士の役割とも言えるでしょう。

音楽療法のやり方とは

音楽療法は『音楽を使った治療法』です。そのため、ただ音楽を楽しむだけではなく、受けた人がより生活しやすくなるように、問題や状態を改善するために行います。

療法を受ける人に抵抗感がある場合や、興味を持っていない状態で無理やり行われることはありません。

音楽療法士が提案する音楽活動は、一緒に寄り添うような形で展開されていきます。

現状や目標を把握し選曲などプログラム決定

音楽療法士の仕事は、与えられた現場で決まったセッションを行うことだけではありません。

選曲などのプログラムは、その時行う相手に合わせて考えられたものを選んで組みます。音楽療法を受ける人が、効果的に状態を改善させて目標を達成するために、音楽療法士には多くの準備が必要なのです。

音楽療法の実施

音楽療法の実施のためにはまず、保護者や家族から普段の様子、困っていることなどの内容をヒアリングすることから始まります。

そのうえで、幼稚園や保育園、学校の先生、主治医や医師などからも、現在どのような状態にあるのかの情報収集を行います。

『次に何を実現させたいのか』『どこを伸ばしたいのか』という目標を立て、そうなるにはどのような手段と手順で行えばよいのかを筋道立てていき、その後実際に現場で音楽療法を開始し、その様子もビデオなどに記録していきます。

小さな変化も見逃さずに、伸ばしていくために『できたことをほめる』などの工夫をしながら実施していきます。

評価表などをもとに評価や改善をしていく

音楽療法で行った記録は『評価表』と呼ばれる表に整理していきます。そのつど評価をつけたり、気になる改善点がどこなのかをチェックしたりします。

評価表の内容は次の通りです。

  • 診断名・現病歴
  • 生育歴
  • 心身状態のリスク
  • 音楽療法への参加の経緯
  • 音楽経験、興味・関心
  • お試し参加の回数

音楽療法士が記入し、実際に音楽療法を行った上で、以下をチェック・評価していきます。

  • 認知遂行、理解度
  • 感覚項目
  • 心理面
  • 社会技能

音楽療法を受けた人も『自己評価』をつけ、今後の目標設定も行います。

音楽療法プログラムの例

音楽療法はどのような流れでセッションが行われているのでしょうか?それぞれに共通して言えるのは『始めと終わりがはっきりとわかりやすい』ということです。

さまざまなプログラムがありますが、児童・成人・高齢者に分けて紹介します。

児童のプログラム

自閉症や発達障害を持つ子どもたちに、音楽療法はさまざまな可能性を引き出してくれます。

小道具やおもちゃを効果的に使い、動いて疲れたあとには落ち着かせる意味も込めて絵本が読まれるなど、子どもならではのプログラムになっています。

  1. 始まりの歌:挨拶を兼ねて打楽器を叩きながら歌う
  2. 歌唱:まずは発声でウォーミングアップ
  3. 楽器:順番を待つ訓練、楽器で自分を表現する
  4. 色輪・お手玉:みんなで活動する楽しさ
  5. 楽器:セラピストと一緒に太鼓などを叩く
  6. 動き:発散
  7. 絵本:クールダウン
  8. 終わりの歌:フィンガーシンバルを打ちながら歌い、終了

成人のプログラム

18~50歳くらいまでの成人向けの音楽療法の流れは次の通りです。

幅広い年齢層になるため、にぎやかに行われることが多いようですが、他の人が発言しているときなどは、静かに待てるようになるなど社会性の向上を期待します。

  1. 挨拶:始まりの意識を与えるとともに『今日は何日?』などの質問など
  2. 発声・歌唱:声を出させて緊張を解き、リラックスさせる
  3. リクエスト・歌唱:季節感のあるもの、小道具も使う
  4. 身体活動、眠気覚まし:音に合わせて足踏みするなど、体を活性化
  5. 歌唱・楽器:打楽器などを取り入れてストレスの発散をさせる
  6. 終曲:ツリーチャイムなどで終わりの確認をする

高齢者のプログラム

デイケアや介護施設で高齢者(65歳以上)向けに行われる音楽療法は、セラピストがユーモアも交えながら、きさくな雰囲気と場を和ませるトークからスタートさせていきます。

  1. 始まりの歌:これから始まるということを意識させる
  2. 挨拶:太鼓のバチなどを持たせてリズミカルに出欠確認を兼ねてご挨拶
  3. 見当識:「明日は何の日?」など、時事問題的な話題を振ります
  4. 身体活動:眠くなる午後になったら、体を動かして気分を活性化
  5. 今月の歌・楽器:季節感を大切にしたもの
  6. 来月の歌:「次回もどうぞ」という誘いかけ
  7. 歌唱・鑑賞・楽器:ハンドベルなどを使う
  8. 終曲:会が終わったことを認識させる

音楽療法の受け方

大人のストレス対策や子どもの発達、高齢者の認知症問題などに音楽療法を取り入れるには具体的にどのようにしたらよいのでしょうか。

病院や施設で受ける

病院の小児科や精神科、リハビリテーション科では音楽療法を受けることができる場合があります。

また、社会福祉法人や特定非営利活動組織(NPO)が運営している発達支援施設、障害児支援施設、デイサービスセンターなどでも実施しているところがあります。

音楽教室で受ける

通院している病院が音楽療法を行っていなかったり、病院ではちょっと抵抗感があったりするという人もいます。その場合、『音楽教室』でも音楽療法を受けることが可能です。

音楽療法士がピアノや歌、楽器の指導をしてくれるので、療育と併用したり習い事の感覚で楽しみながら通ったりする子どもたちがたくさんいます。

京都・大阪・滋賀・東京に『音楽療法のおきょうしつ』を展開するNPO法人音楽療法ゆる~りは、発達障害を抱える子どもたちの音楽療法教室です。いろいろな楽器を使い、1人1人に寄り添ったオリジナルプログラムを行っています。

音楽療法ゆる~り[教室のご案内]

訪問で音楽療法を受ける

音楽療法を受けたいけれど、デイサービスなどを利用しておらず、身体的にも自由に動けないという人の場合、『訪問で音楽療法』を受けることができます。

病院が、外来・訪問ともに音楽療法を行っているのは、京都市の『洛和会音羽リハビリテーション病院』があります。

音楽療法士を各施設や病院、自宅へ派遣する形を取っている施設なら、東京の『Leaf』が継続的に訪問してくれます。家族とのコミュニケーションが広がり、よりリラックスして音楽に触れることができるのは、往訪ならではです。

洛和会音羽リハビリテーション病院(京都市山科区)

音楽療法サービス、音楽療法士養成の株式会社Leaf音楽療法センター

音楽療法の費用は?

音楽療法は基本的に『保険適用外』であるため、はっきりとした費用が定められていません。音楽療法にはどれくらいかかるのでしょうか。

ケースによって異なる

音楽療法は、基本的には実費での支払いになります。しかし、子どもが『福祉施設などで音楽療法を受ける』場合、児童福祉法で定められた事業であれば、国や自治体からの費用負担を受けられます。

その場合、1回700~1300円程度の負担で済みますが、地域や世帯年収などによって異なります。

また、高齢者が音楽療法を受ける場合、介護施設などのレクリエーションの一環として行われる場合は無料でも受講可能です。

病院や派遣型の音楽療法士、音楽教室を利用する場合には3000~8000円程度かかります。

音楽療法の可能性が注目されている

音楽療法は多くの可能性に満ちており、ますます注目されていくことが予想される治療法です。

言葉を超えたコミュニケーションである音楽の効能は、さまざまな障害や病気、心のダメージに悩む人を今現在も救っています。

親の介護や子どもの療育を前向きに進めていく1つの方法として音楽療法を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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