日常の言葉を解明する言語学の基本。その特徴や学び方は?

2019.07.15

言葉は日常的に使う必要不可欠なものです。何も考えずに自然に使っている言葉を言語学として深く学ぶと、身近なところにある言語が奥深いものであることを気づかせてくれます。そこで、言葉を多方向から解明する言語学の基本と特徴、学び方をまとめました。

言語学の基本を知っておこう

普段、日常的にコミュニケーションとして使用する言語ですが、その言語についての学問が『言語学』です。では、言語学とはどのようなものなのか、基本的な知識から紹介していきましょう。

言語学とはどんなもの?

言語学というと、世界各国で話されている言語についての学問、と連想する人も多いでしょう。しかし実際には、各国言語を学ぶだけではなく、世界中にある言語を対象にして、科学的な研究を行う学問です。それぞれの言語の成り立ちを始めとして、言語の特徴や特質、構造、変遷など多方面から研究しています。

言語学では、さまざまな角度から複雑な言葉の仕組みを捉えることで、言語現象の解明を目的としています。言語学には『意味論』『文法論』『語彙論』などがあり、それぞれを追求することで言語の本質を探っているのです。

他の言語や学問と比較して言語の研究を行う言語学として、『比較言語学』や『社会言語学』などもあります。

言語学は大きく分けて二つの側面がある

言語学の研究においては、話したり耳で聞いたりする『音声言語』、書き言葉のように文字を媒介とした『文字言語』の二つがあります。

言語学は、時間ある一時期の言語について研究する『共時言語学』、歴史や時間の流れによる言語の変遷を研究する『通時言語学』にも分けられます。この2種類の考え方は、近代言語学の父と言われるスイスの言語学者であるソシュールの言語理論からきています。

言語学を英語で書くと?

言語学は、英語で『linguistics』と言います。この単語は、『舌』という意味を持つ単語『lingua』が語源となっており、言語を意味する『language』や2カ国語を話す人を指す『bilingual』という単語も、同様の語源を持っています。

共時言語学を『synchronic linguistics』、比較言語学は『comparative linguistics』というように、言語学という意味が含まれる多くの学問にはこのlinguisticsという単語が共通して見られます。

日常で無意識に使っている言語学

生活をする上では、言語は欠かせないものです。誰しも、何かを伝えるときや情報を入手するためには何かしらの言語を無意識に使っているはずですが、その言語には以下のような法則や定義なども存在しています。

ライマンの法則

『ライマンの法則』とは、明治時代の日本に『お雇い外国人』として招かれたアメリカ人のベンジャミン・スミス・ライマンによって発見された日本語における法則です。ライマンは当初鉱山学者として来日しましたが、日本語を習得し言語学の研究も行う中でこの法則を発見しました。

日本語には、二つの言葉が結びついた言葉において、2番目の言葉の1文字目がか行、さ行、た行、は行の場合、濁音になる『連濁(れんだく)』という現象があります。

例えば、『歌声(うた・ごえ)』『草花(くさ・ばな)』のように、1文字ずつバラバラの状態では濁らない言葉でも、一つに連結することにより、上記の条件に当てはまる文字が濁るのが連濁です。

ライマンの法則とは、2番目の言葉にすでに濁音が含まれている場合は連濁が起こらない、というものです。この法則に当てはまる例としては、『春風(はる・かぜ)』のような言葉が挙げられます。この場合、『風』にすでに濁音が含まれているため、『はるがぜ』とは読みません。

これは、日本語を話す上でごく自然に、無意識に行っているものではないでしょうか。

シニフィエとシニフィアン

『シニフィエ』『シニフィアン』は、先述のソシュールが定義した言語学用語です。

シニフィエとは『意味されているもの』または『表されているもの』という意味のフランス語から来ている言葉で、何かについてのイメージや概念、意味などを指します。例えば、犬を見たとき、犬の見た目や鳴き声などが連想されます。これが、シニフィエです。

これに対して、シニフィアンは『意味しているもの』または『表しているもの』という意味があり、何かについて文字や音声で表す表現です。先ほどの犬を例にすると、『犬』という文字や『いぬ』という音声が、シニフィアンに当たります。

そして、全ての言葉はこのシニフィエ・シニフィアンの構造を持っていると言えます。

言語学には欠かせない有名な言語学者

言語学とはコミュニケーションを取るときなどに無意識で使っている言語を研究するものですが、言語学を学ぶ上で欠かせない、重要な言語学者が、以下で紹介する3人です。

生成文法理論 チョムスキー

チョムスキーは『現代言語学の父』と称されるアメリカの言語学者です。彼が20代の若さで唱えた『生成文法理論』は、現代の言語学の一大潮流とされており、言語学に革命をもたらしたと評価されています。

生成文法理論では、言語に何かしらの障害を持たない人は全て、『普遍文法』という言語能力を生まれつき持っているという考え方です。普遍文法では、あらゆる言語には共通ルールがあり、そのルールが脳に由来していると考えます。

つまり、言語能力とは母国語に関わらず人が生まれながらに備えている能力で、周囲の人などの会話で発達するというわけです。

この理論は、小さい子どもが特別な訓練を行わなくても、特定の言語がある環境にいることで一定レベルまで言語を習得できることを証明していると言われています。

チョムスキーの生成文法理論はその内容から言語学のみならず、心理学や認知科学、脳神経科学にも影響を与えるなど、他の分野との結びつきによってそれぞれの分野での研究が進んでいるのです。

近代言語学の父 ソシュール

ソシュールは前の項目でも紹介している通り、近代言語学の父と言われているスイスの言語学者です。

言語の本質を掴み、人間はどのようにして言語を使ったコミュニケーションを行っているのかを解明するために、ソシュールは既に紹介したシニフィエとシニフィアンの他、言語を2種類に分けて考えました。その2種類が『ラング』と『パロール』です。

ラングは英語の『language』に相当する文法などの約束事を含む言語の体系で、パロールは言語を実際に話すこと、英語で『speech』に当たるものです。

パロールは、文法的な規則を無視しても成り立つこともあるため、ソシュールはラングのみを言語学の対象と考え、その研究方法として、先述の共時言語学と通時言語学を区別することを説いています。

日本の有名言語学者 金田一秀穂

日本の言語学を代表する研究者である金田一京助を祖父に、日本の方言研究の権威として知られる金田一春彦を父に持つ金田一秀穂は、現在の日本を代表する言語学者の一人です。

いわゆる『若者言葉』は、時代の流れと共に、ある一部の世代のみで使われることが多いのではないでしょうか。さらに、乱れた言葉としてあまり良い印象がないものもあるでしょう。

実際、若者言葉を使わない世代には、若者言葉に違和感や不快感を示す人が多いのではないでしょうか。

しかし、金田一秀穂は『言葉は常に変化するもの』として、その言葉で自分を表現でき、コミュニケーションが取れていれば若者言葉に特段の問題はないと考えています。

逆に、ビジネスの場において過剰な敬語が多いなどの問題を提起しており、普段日本語を日常的に使う日本人にとって、メディアを通して分かりやすく日本語を解説している人物です。

言語学の学会、日本言語学会

日本には、『日本言語学会』という言語の研究に関わる学術団体があります。この日本言語学会がどのような団体なのかを解説します。

日本言語学会とは?

会員の研究結果を世界に広く公開し、言語の科学的研究の進歩と発展に寄与することを目的に、1938年に設立された学術団体です。日本にある言語系の学会の中で最も長い歴史と会員数を誇り、約2000名もの会員がいます。

歴代会長の専門分野は一般言語学を始めとして方言学や生成文法など幅広く、得意とする言語も英語やフランス語のほか、アイヌ語やチベット語など多彩です。

日本言語学会が年2回発行する機関紙『言語研究』においても、対象言語や理論などにかかわらず、優れた研究を掲載しています。日本語だけに限らず、さまざまな言語をあらゆる角度から研究した結果を広く紹介しているのです。

言語学会の主な取り組み

日本言語学会ではさまざまな取り組みを行っています。若手の会員に注目し、優れた研究を顕彰する『日本言語学会学会賞』を設け、それぞれ論文賞、退会発表賞を創設して毎年優れた研究発表や研究結果を顕彰しています。

その他にも、言語に関する教育プロジェクトや2年に一度の夏期講座を開講しています。夏期講座は会員以外でも参加可能なので、言語に関する知識を深めたい人は参加してみてはいかがでしょうか。

日本言語学会大会もある

日本言語学会では、研究大会として『日本言語学会大会』を年2回開催しています。

毎回2日間に渡って開催される日本言語学会大会では、口頭発表やワークショップ、公開シンポジウムのほか、懇親会なども行われます。

言語学の祭典 言語学オリンピック

オリンピックというと、国際的にスポーツ競技を競うものが主流となっています。学問の各分野においても、スポーツ同様に国際的に言語学を競える場があります。

国際科学オリンピックの一つ

国際的に言語学を競う場は、『国際言語学オリンピック』と呼ばれています。これは、世界中の中高校生を対象として科学技術のコンテスト『国際科学オリンピック』の一つに数えられます。

なお、国際科学オリンピックは数学や物理、科学などの理系科目で優秀な成績を修めていることが知られていますが、その他にも哲学や地理、天文学などのジャンルもあります。

日本の活動内容

日本国際言語学オリンピック委員会では、毎年12月に代表選考のための募集を行っています。2月中旬の説明会を経て、3月下旬に選抜試験で代表を選考します。

そして合同練習会を開催し、日本代表に選ばれた学生を対象に大会経験者と共に言語の問題の実施をしたり、言語研究者の講義を開催したりしています。

大会の問題はまさにパズル

言語学オリンピックで出題される問題は、実は言語をどれだけ話せるかのような実用的な能力や知識が求められるものではなく、『言語解読』というパズルのような問題が出題されます。中には、全く触れたことがないマイナー言語からの出題もあるようです。

そのため、特定の言語能力だけが優れているよりも、論理力や考える力、地道な作業を根気よく行うことが求められるでしょう。

言語学を学ぶためには?

言語学を学ぶためには、やはり大学で専門分野を学ぶのがポピュラーな方法です。言語学を学ぶための大学選びや就職事情、言語を学習するときのポイントをまとめました。

言語学を学べる大学に行く

言語学を学ぶためには、文系学科のある大学を選ぶのがいいのではないでしょうか。しかし、大学では『言語学部』という学部はないため、文学部や国際文化学部などの言語文化学科や言語コミュニケーション学科などを選ぶと、コースや専攻分野として言語学を選べる場合があります。

大学選びのポイント

上記のように、言語学は独立した学部となっていません。コースや学科として言語学を学べるところが多いので、学部だけでは言語学を学べるか否かが判別できないこともあるでしょう。大学を選ぶときは、各大学の学科内容までチェックしておきましょう。

もし、特定の言語を学びたいときは、その言語を専門とする教授や教員がいるところがおすすめです。こちらも、大学のホームページやパンフレットなどで確認可能なので、大学選びのときには専門分野と教員の有無のチェックをしておくのも良いのではないでしょうか。

言語学は就職にどう生きるか

言語学を学んだ後の就職先として一般的な業種は、通信や運輸、保険の他、ホテルなどの観光業です。語学を活かして外資系企業で働く人も少なくないでしょう。

大学卒業後にすぐ就職という道だけではなく、さらに専門性を高めるために大学院や海外の大学への進学という選択をする人もあります。

英語などの言語学習はポジティブさが必要?

英語を始めとする言語を習得することは、ハードルが高いと考えている人は多いのではないでしょうか。そんな言語学習のポイントは、学習に対する『ポジティブさ』と言われています。

ネガティブな人の場合、困難な学習に後ろ向きになって止めてしまいますが、ポジティブな人は難しい状況でも前向きになれるため、モチベーションも上げやすくなります。このことからも、ポジティブさは言語学習において必要な要素とも言えるでしょう。

言語学に関するおすすめ本

難しそう、とっつきにくいと思われるかもしれない言語学ですが、一度興味を持つと奥深く、長く興味関心を持ち学べる学問です。そんな言語学を一通り学んでみたい、これから学ぶという人のためのおすすめ本を3冊紹介します。

言語学入門 これから始める人のための入門書

これから言語学を学ぶ初心者の人に最適な本としておすすめが、大学で言語学のテキストとしても使用されているこちらです。

言語学に関する分野を一通り解説しており、各章には問題を掲載して実践性も兼ねた内容となっています。言語学に含まれる幅広い分野を網羅し、それぞれについて詳しく知ることができる、言語学の入門書です。

  • 商品名:言語学入門 これから始める人のための入門書
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言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学

2種類の同じ意味を持つ言い回しの印象はそれぞれ異なる、という違和感を追求する認知言語学に関する本です。哲学者が言語で感じる違和感などを豊富な例文とともに言語学者へ難問を出しながら、認知言語学の基本を学べます。

認知言語学を通して、無意識に使っている日本語の奥深さや疑問などが明らかになる、知的探検ができる1冊です。

  • 商品名:言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学
  • 価格:907円(税込)
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チョムスキーと言語脳科学

最後に紹介するこちらの本は、現代言語学の父であるチョムスキーの言語理論である生成文法理論を取り上げています。生まれながらにして人は言語能力を持っている、という脳神経科学にも影響を与えているこの理論を、言語脳科学者が明らかにしていくという内容です。

どうして子どもは言語を習得しやすいのか、第二外国語の習得がなぜ難しいのかなど、チョムスキーの生成文法理論を言語脳科学で実証していきます。チョムスキーの理論と同時に、言語脳科学への理解も深められる興味深い本です。

  • 商品名:チョムスキーと言語脳科学
  • 価格:929円(税込)
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言語学を学んで日常の言葉を深く知ろう

毎日使う言語は、意識せずに使っていることがほとんどですが、言語は知れば知るほど驚くような事実を発見できる、奥深い学問です。

いつも話している日本語そのものに関心を持ち、言語について学んでみると、思いのほか知的好奇心を満たせる知識が得られるのではないでしょうか。

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