推理小説とは?魅力や書き方、国内外のおすすめ作品を紹介

2019.07.02

数ある小説ジャンルの中で『推理小説』には独特の美学と、他では味わえない有意義な読書体験があります。推理小説の基本原則やトリックについての基礎知識と作法を学んだ上で、国内外の傑作に触れ、推理と謎解きの世界を楽しんでいきましょう。

推理小説の基礎知識

推理小説は小説の1ジャンルですが、他のジャンルでは見ない独特な用語が用いられることもあり、読書に慣れていない人には理解し難い雰囲気を感じることもあるでしょう。

知れば知るほど味わいを増す推理小説の世界に入っていくために、まずは基礎知識を解説していきます。

推理小説とは

『推理小説』とは、事件・犯罪の発生と、その合理的な解決に向けての過程を、刑事・探偵などを主人公として描く小説のジャンルです。

読者に『推理』を行わせることを大きな目的としていて、物語の始めに出された謎を作者との知恵比べのような形で解き明かしていきます。最後に種明かしがある、あるいは完全犯罪が成立する、といった展開を基本としているものです。

推理小説というジャンルの始まりは1841年にエドガー・アラン・ポーが発表した短編『モルグ街の殺人』であるという認識が一般的です。

1829年になると、急速に近代化を進めるイギリスで警察制度が整い、首都警察法が成立しますが、社会の闇を反映するようにさまざまな犯罪が横行していたことも、推理小説の誕生に多大な影響を与えたといわれています。

ミステリーやサスペンスとの違い

推理小説は小説のジャンルですが、『ミステリー』は同じく推理と謎解きを目的としながら、TVドラマ・映画・漫画・ゲームなどで表現されることもあります。

『サスペンス』は不安や緊張感を煽り、手に汗握る作品です。

例えば孤島で理由もわからず惨殺事件に巻き込まれたり、突如として重罪犯として扱われ真犯人を自力で発見しなければならなかったりする『危機的状況からの脱出劇』といった性格を持ちます。

サスペンスの要素を持ったミステリーもあれば、ミステリー要素のあるサスペンス作品もある、といった関係です。

推理小説の種類

主に、事件の解決を描く推理小説ですが、詳細を見ていくと分類があります。日本における推理小説の3分類を見ておきましょう。

トリックに重点を置く本格

『本格』とは、通信手段や犯行時刻が限定された状況で、工夫を凝らした『トリック』を暴いて真犯人を追及する、という古典的かつ正統派の推理小説を指します。

真犯人に辿り着くまでの解決不可能とも思える謎を、超人的な推理力や記憶力、あるいは閃きを持った探偵や刑事が解き明かし、すべての読者が納得できるような合理的な解決に導くというスタイルです。

ちなみに『本格』という呼び名は日本固有のもので、20世紀前半に推理小説家として活躍した甲賀三郎が名付けました。雑多になり過ぎた推理小説の中で、論理的な謎の解決を主とするものを呼び分けるために提唱したのです。

1980年代から90年代に生まれた新本格

『新本格』とは、文芸編集者であった宇山日出臣(うやまひでお)を仕掛け人として、1987〜90年代前半にかけて続々とデビューした新人推理小説作家たちの作品を指すジャンル、と考えられています。

新本格というのは元々、新しい本格推理小説作家を売り出すためのキャッチコピーでした。

ここで『新本格ムーブメント』が起こり、これに倣って他の出版社からデビューした作家や、それ以前にデビューしていた作家も含めて新本格と呼ぶなど諸説あります。

それ以外にあたる変格

『本格』というジャンルが生まれたとき、それ以外の推理小説を指す語として『変格』が用いられるようになりました。例えば怪奇小説、幻想小説、SF(空想科学小説)と呼ばれるものがそれに当たります。

『不健全派』という言葉を当てようとする人たちもいましたが、『本格』の提唱者である甲賀三郎は推理小説に優劣なしという立場でした。

大論争の末、単に本格派とそれ以外の呼び分けとしての『変格』が定着したという経緯があります。

推理小説の物語を構成する要素

無数にある推理小説は基本的にどういった体裁で書かれているのでしょうか。文章構造を構成する要素を分析してみましょう。

全体像を作るプロット

『プロット』とは、物語の中で重要な出来事を『原因と結果』という形で端的に記述したストーリーの要約です。

プロットは日本では小説体で書かれることが多く、それを読めば物語の大枠は一通り理解できるという体裁に仕上げられます。

プロットの要素間にトリックや場面ごとの詳細を挿入していくことで、ストーリーの全体が描かれるのです。そのため、作品の物語性を規定するプロットがつまらなければ、どんなに優れたトリックも輝きを失うでしょう。

発端となる導入

読者が推理小説の扉を開き、その物語に引き込まれるか否かは『導入』部分の役割が大きいといえます。

1文目でハッと驚くか、始めの1場面で作品世界に引きずり込まれるか、これは作品の魅力を大きく左右するでしょう。

どこかで見たことがある書き出しだと思われれば、読者はすぐさま消沈し、2度とページをめくらないかもしれません。

冒頭で殺人事件が起こったり、物語の結論になるはずのクライマックスから描かれたりする推理小説が多いのは、まずは『導入部』でインパクトを与え、期待感を持って読み進めてもらうためであるといえるでしょう。

解決のクライマックス

導入部を過ぎ、緊張感を持って読み進めていった先で、遂に探偵が犯人を追い詰めたという物語の『クライマックス』こそが作品の核心であり、作者が与える読者への解答になります。

綿密に練り込まれた謎と仕掛けを解き明かし、一つの偶然性の助けもない論理的な解答がどこまで正しかったか、それが判明する瞬間です。

推理小説が好きな人にとっては、謎は不可解であればあるほど良い、と口を揃えていうでしょう。

予想外な結末

クライマックスを過ぎたにもかかわらず、推理小説にはさらに仕掛けが残されていることがあります。

「ここまでは読めなかっただろう」といわんばかりの、それまでの展開を180度覆してしまうような最後のどんでん返しが、二転三転と続く場合もあるほどです。

作家の仕掛ける罠にハマってしまう場合や真実にたどり着く読者など、最後の最後まで見逃せない展開が続く面白さが、推理小説の魅力でしょう。

推理小説を楽しくするための要素

推理小説の味わいを深めるために作品に盛り込まれるさまざまな要素を見てみましょう。

醍醐味であるトリック

『トリック』とは、作中の犯人が探偵に仕掛ける企みや、作者が読者に仕掛けるはかりごとです。

トリックが作品に不可思議を生み、謎解きと挑戦における高揚感を煽ります。トリックなくして推理小説はあり得ないと思われるほどに重要な要素といえるでしょう。

主な例としては、凶器が氷であったり時限殺人装置であったりする『物理トリック』を用いて、犯行現場への犯人の出入りが不可能に見える『密室トリック』や、犯行時刻に犯人が現場にいられるはずがないという『アリバイトリック』が仕掛けられます。

現在では物理トリックはすでに出つくした感があり、作者が意図的に章ごとの時系列を操作する『叙述トリック』などの、読者の心理的な盲点を突く『心理トリック』が重視されているのです。

ハラハラさせるサスペンス

推理小説の読書体験をより充実させるために、不安や緊張感を煽る『サスペンス』の要素が取り入れられる場合があります。

いつ読書から離れて戻ってくるのも自由というスタンスの論理性を重視した作品もありますが、読者が小説の世界に入り込んだように物語を『体験』するには、サスペンスは重要な要素といえるでしょう。

例えば、吹雪・火災・疫病などにさらされ、探偵だけでなく犯人にまで死の危険が迫迫る場合があります。

事件を解決させなければ迷宮入りする、あるいは犯人を特定することだけがその状況を脱する唯一の方法であるのに、死へのカウントダウンは止まらない、といった具合です。

謎の方向性

推理小説には解き明かすべき『謎』があり、姿の見えない犯人とそれを追う警察(探偵)という図式が典型的です。

犯人は誰なのか、という謎だけでなく、犯行の背景には私怨の他にも政治があったり宗教があったりし、謎を深める要素として詩や暗号が用いられることもあります。

一口に謎といってもバラエティに富んでいますが、謎解きの方向性としては『誰が』『なぜ』『どうやって』犯行に至ったのか、という三つが代表的です。

この方向性で物語の描かれ方やジャンル分けが異なるので、推理小説独特の表現を覚えておきましょう。

  • 犯人を解明する『フーダニット』(Who done it?/Whodunit)
  • 犯行方法を解明する『ハウダニット』(How done it?/Howdunit)
  • 犯行に至った動機を解明する『ホワイダニット』(Why done it?/Whydunit)

合理性と必然性

物語の核心である謎を解明し、すべての読者が納得する『合理的な解決』に導くことが推理小説の基本です。

作中に散りばめられたヒントを回収し、パズルのピースを当てはめていく、あるいは点と点を結び付けていく、というのが推理の醍醐味で、「たまたま犯人の手掛かりを見つけた」といった偶然性に頼るストーリーはタブーといえます。

推理小説においては、作中の何気ない、いい間違いや日常感覚では普通と思われるような行動に、そうであることが必然であったという意外な手掛かりが隠されているのです。

推理小説の正しい書き方

推理小説は荒唐無稽な内容であっては成立し得ないため、執筆する上での基本方針が定められています。

基本となるノックスの十戒

『ノックスの十戒』とは、神学者で推理作家でもあったドナルド・ノックスが1928年に発表した、推理小説を書く際の10のルールです。

例えば「探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない」といった探偵の謎解きが公正であるべきとするものや、作者の都合で追加の種を登場させるトリックであってはならないことなどが定められています。

『フェアプレイ』のための原則といえそうですが、ノックス自身はユーモアと風刺が効いた作風で知られ、十戒についても「なぜこんなことを書いたかわからない」という旨を前置きしていました。

推理小説の基本方針となってはいますが、十戒をあえて破る作品もノックス自身をはじめ数多く発表されています。

さらに細かいヴァン・ダインの二十則

『ヴァン・ダインの二十則』は、アメリカの推理作家S・S・ヴァン・ダインが発表した、推理小説を書く際の20のルールです。ノックスの十戒とともに推理小説の基本方針として採用されています。

内容としてはノックスの十戒と類似する部分も多くありながら、不必要なラブロマンスを挟まないことや、探偵は一人、犯人は殺人のアマチュアで物語の重要人物として序盤に登場することなどを定め、十戒よりストイックな内容であることが特徴です。

また、物語の最後に探偵が犯人を指摘する、その前に物語の端々にあったヒントのおさらいを提示する、というミステリー全般で見られるスタイルもこの二十則に定められています。

より実践的なレナードの十原則

十戒や二十則の他にも、多くの推理作家がルールを設定する試みを行ってきました。その中でシンプルかつ有用な、アメリカの推理作家・脚本家『エルモア・レナード』が2001年ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した10の原則を紹介します。

推理小説の書き方の作法についての基礎であり、物語の本題に関わりのない話を避け、文章の一貫性を損なわずに必要十分な情報を伝えるためのメソッドです。

  • 作品の冒頭に天気の話は決して持ってこない
  • プロローグは避ける
  • 会話のつなぎには、「〜といった」以外の動詞を決して使わない
  • 「〜といった」という動詞を修飾する副詞は使わない
  • 感嘆符は控えめに
  • 「突然に」とか「大混乱に陥った」という言葉は使わない
  • 方言やなまりはほどほどに
  • 登場人物のこと細かな描写は避ける
  • 場所や事物のディティール描写には深入りしない
  • 読者が読み飛ばしそうな箇所は削る

国内で人気の推理小説

本格・新本格・変格を楽しむにあたって1冊目に相応しいと思われる作品を紹介します。

本格推理を楽しむ すべてがFになる

『すべてがFになる』は、1996年に出版された本格推理小説です。情報技術の発達した社会における孤島の研究所での密室トリック、という挑戦的でありながら物理トリックの裏付けも秀逸な良作といえるでしょう。

科学的な専門用語が多く登場しますが、今なお違和感なく読めると評判で、謎を解き明かせるか作者と知恵比べしてみてはいかがでしょうか。

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新本格の代表 十角館の殺人

1987年に刊行された『十角館の殺人』は、新本格ムーブメントの嚆矢となった綾辻 行人のデビュー作です。

孤島に立つ館を舞台にした古き良き密室殺人もので、作中の随所に散りばめられたヒントと伏線が鮮やかに結末に結び付く、技巧に優れた名作といえます。

今なお日本の本格推理小説を牽引し続ける『館シリーズ』の第1作目に挑戦してみてはいかがでしょうか。

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祟りと推理が絡み合う 八つ墓村

1971年に刊行された『八つ墓村』は、爆発的な人気を博した『横溝ブーム』を引き起こした横溝正史の代表作です。

400年に及ぶ怨念が息づく祟られた村を舞台に、名探偵『金田一耕助』が不可解な大量殺人事件を解決に導いていきます。

今なおファンを生み出し続ける、ホラーの要素を取り入れた変格推理小説の傑作を、金田一耕助とともに解き明かしてみてはいかがでしょうか。

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海外のおすすめ推理小説

続いて、推理小説の世界的傑作の中から、王道・名探偵・怪奇をキーワードに3冊を紹介します。

ミステリーの王道 そして誰もいなくなった 

『そして誰もいなくなった』は、ミステリーの女王と呼ばれる『アガサ・クリスティ』の傑作推理小説です。

ギネスブックはクリスティを「史上最高のベストセラー作家」と認定し、そのファンからなるアガサ・クリスティ協会によるとクリスティ作品は全世界で10億部以上出版されているといわれています。

1920年からファンを生み出し続け、今なお読み継がれる推理小説の王道作品に挑戦してみてはいかがでしょうか。

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世界的名探偵のデビュー作 緋色の研究

アーサー・コナン・ドイルが1887年に発表した『緋色の研究』は、名探偵『シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスン』の名コンビが誕生した記念碑的な推理小説です。

エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』で採用された『変人の探偵と常識人の助手』というスタイルを踏襲し、超人的な推理力を発揮するホームズの活躍をワトスンが記述する、という体裁で描かれます。

冒険小説の性格もあり、ジャンルでいえば変格にあたる推理小説といえるでしょう。本作を読み終えた頃にはシャーロック・ホームズシリーズを崇拝する『シャーロキアン』の一人になっているかもしれません。

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推理と怪奇 火刑法廷 

1937年に発表された『火刑法廷』は、『密室派の総帥』『密室の王者』の異名を持つ『ジョン・ディクスン・カー』の代表作であり、21世紀においても海外ミステリー人気投票で10位内に入る傑作怪奇・推理小説です。

ジョン・ディクスン・カーはアガサ・クリスティと同じく世界大戦の混乱期から活躍を続けた推理作家で、頭抜けた怪奇趣味や派手な展開と、それを本格推理として成立させる高い技巧を持ち合わせています。

推理と怪奇を共存させることで表現される、事件を解決させてなお不可思議な物語を体験してみてはいかがでしょうか。

  • 商品名 : 火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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基本を知って推理小説を楽しもう

推理小説は作者と読者の知的な勝負も特徴の一つとしているため、読者参加型ともいえ、独特なルールや設定を数多く備えています。

推理小説の作法を知った上で作品と向き合い、推理と謎解きを進める中で、他の文芸作品では味わえない有意義な読書体験を得られるでしょう。

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