弾き終えるのに18時間以上?クラシック界の異端児『サティ』の奇妙な作品群

2019.06.19

エリック・サティ(1866年~1925年)はフランスの作曲家です。クラシック音楽の世界にありながら、その奇妙で独創的な世界観から「音楽界の異端児」「奇人・変人」などと呼ばれることもあり、唯一無二の存在感を発揮しています。そんなサティの代表作や、変わり者エピソードについて解説します。

音楽界の異端児

調性音楽の在り方に疑問を持っていたサティは、和声進行の伝統や、従来からある対位法の規則を無視した音楽を創り始めたといわれています。こうした前例にとらわれない技法は、ドビュッシーやラヴェルなど印象主義の作曲家たちに大きな影響を与えたと見なされています。

サティの作曲技法は先鋭的ではあったものの、従来のやり方から大きく外れたスタイルは同時代の作曲家たちを困惑させ、やがてサティは『クラシック音楽界の異端児』といわれるようになりました。

世間から認められない

このような事情から、サティはなかなか世間から認められず、生活はかなり苦しいものだったようです。彼にとっての演奏場所は大きなコンサート会場ではなく、もっぱら酒場でした。

ドビュッシーと親交がありましたが、世間から認められるのはドビュッシーばかりでした。後にラヴェルが演奏会でサティの『ジムノペディ』を弾いたことをきっかけに次第に世間に知られるようになりましたが、当時のフランスの名作曲家と目された『フランスの六人組』と並んで世間から認められたといえるようになったのは、彼が55歳の時でした。

サティの変人エピソード!部屋から100本の傘?

サティの死後、部屋から100本以上のコウモリ傘が出てきました。そして、同じ黒いスーツが何着も出てきたといわれています。サティは雨傘が好きだったのは有名で「1905年 雨傘で決闘」という変わったタイトルの曲もあります。晴れの日でも雨傘を持ち歩き、フロックコートと髭、山高帽、眼鏡というのがサティのトレードマークでした。

独創的すぎるタイトルや指示

サティは自身の楽曲に奇妙なタイトルを付けることでもよく知られています。たとえば、『いつも片目を開けて眠るよく肥った猿の王様を目覚めさせるためのファンファーレ』などといったタイトルがあり、サティの独特の世界観をあらわしています。

また、楽譜に書き込まれる指示にも奇妙なものが多く、たとえば後述する『グノシエンヌ第3番』の演奏指示には、「注意深く 自分の心に相談して」「鋭く見る力を身につけて」「一瞬ひとりで」「凹みを手に入れるように」「何が何だか分からない」などと書かれています。もはや指示なのかもよくわかりませんが、ともかく前例にとらわれないサティらしい表現です。

サティの代表作

サティはCMなどでよく耳にする親しみのある美しい曲も書きました。音の少ない独特の世界観があります。

『ジムノペディ第1番』

『ジムノペディ』は古代ギリシャの神々をたたえる裸の踊りからとられたものです。かつて実際に行われていたジムノペディでは、熱狂して死人も出るほどだったといわれていますが、サティはゆったりと静かな曲を書きました。ユーモアとも皮肉とも感じられます。3番まであり、第1番がとても有名で親しまれています。

『グノシエンヌ第3番』

サティの死後に見つかり、『3つのグノシエンヌ』というタイトルで出版されました。『グノシエンヌ』というタイトルはサティの造語だと考えられています。なお、「3つの」というタイトルのせいかあまり知られていませんが、全部で6曲あります。

『ジムノペディ』よりも東洋的な雰囲気が漂い、拍子記号や小節線が書いてありません。先述の通り楽譜には指示とも単なるメモ書きともとれる奇妙な言葉が記載されており、サティらしい思考が書き込まれている不思議な曲です。

『ジュ・トゥ・ヴ(あなたが欲しい)』

当時、スローワルツの女王といわれたシャンソン歌手ポーレット・ダルティのために書かれた曲です。シャンソンとして作曲されているため、ほかの楽曲とは少し趣が異なり、優美で心地の良いワルツです。

サティ流のユーモアが満載の曲

他の作曲家の作品からサティの曲へのパロディは、時にはユーモアのためであり、時には皮肉るためのものでした。ここではサティらしいユーモア満載の代表作をご紹介していきます。

『官僚的なソナチネ』

ピアノ学習者がよく弾く題材である、クレメンティの『ソナチネ ハ長調 OP.36-1』のパロディが用いられて、ある官僚の一日が皮肉交じりに描かれています。サティ自身が「隣のピアノがクレメンティを演奏している」と詩に書いています。

『犬のためのぶよぶよとした前奏曲』

サティの数ある楽曲の中でも異彩を放つ作品名です。全体の構成は4曲から成るのですが、第1曲『内声の声』、第2曲『犬儒派的牧歌』、第3曲『犬の歌』、第4曲『友情を持って』というそれぞれのタイトルもなかなか独特です。

ただ、奇妙なタイトルからどんな曲かと思いますが、意外にも美しく聴きやすい印象すらある曲です。題材によって作品を判断する人々への皮肉として、このようなタイトルをつけたと言われています。

『干からびた胎児』

ショパンのピアノソナタ第2番の葬送行進曲のパロディなのに、「シューベルトの有名なマズルカの引用」と書き込みがあります。そもそもシューベルトにマズルカの作品など無いのですが、これもサティ流のユーモアなのでしょう。

『ヴェクサシオン』

『ヴェクサシオン』というタイトルの意味は「嫌がらせ」です。52拍から成る1分程度の曲をなんと840回も繰り返し演奏するため、「世界一長い曲」といわれています。2004年に、当時の人気テレビ番組『トリビアの泉』で紹介され3人のピアニストが交代で演奏したところ、全部弾き終えるのに18時間18分かかったそうです。

前衛的な作品

サティはパリ国立高等音楽院でピアノや作曲を学びましたが、西洋音楽の伝統やルールを嫌って、音の少ない独自の音楽を書き新しい文化を築きました。

『スポーツと気晴らし』

シャルル・マルタンの描いた風俗画集に添えるために書き下ろされた、21曲から成る短いピアノ曲集です。当初はストラヴィンスキーに依頼が行きましたが、断られ、その後釜という形でサティが引き受けました。

ちなみにその時提示された報酬は、ストラヴィンスキーに提示された額より値下げされていたにも関わらず、サティは「高額すぎる」といって逆に報酬額を値切ったといわれています。やはり変わっています。

『家具の音楽』

部屋の中に家具があるように、生活の中にとけこんだ自然の音楽を書いた作品です。生活の中で無意識に聴ける音楽、現代の環境音楽を目指していたようです。のちのイージーリスニングというジャンルが生まれたきっかけになったといわれています。

交響的ドラマ『ソクラテス 』

ピアノ伴奏付きの歌曲です。ジムノペディといい、サティは古代ギリシャの題材が好みなのですね。プラトンの著したソクラテスとの問答集『対話篇』から、三篇のテキストを選んで曲を付ける形で作曲されたこの曲は、静寂な音楽が続き、次第に音が弱くなり、最終的にソクラテスの心臓が止まって絶命するまでを描いているといわれます。

バレエ音楽『パラード』

サティが詩人のジャン・コクトーからバレエ音楽の創作を依頼される形で作られた曲です。ちなみに、バレエの美術と衣装を担当したのは20世紀を代表する画家のパブロ・ピカソでした。サティは15分ほどのバレエ音楽『パラード』を書きあげ、高い評価を受けました。

奇想天外な音楽家

サティは39歳の時にパリにある音楽学校に入り作曲法を学びなおしたという人でした。卒業したのは52歳の時だとわれています。芸術家には変わった人が多いものですが、サティはまさに奇想天外の音楽家だったといえるでしょう。

とはいえ、サティの残した音楽はその独特で奇妙なタイトルとは裏腹に、聞きやすく心地よいものも意外に多いのです。ぜひこの記事をきっかけに、クラシック界の異端児・サティの代表作を聴いてみてはいかがでしょうか?

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