フランス文学を楽しもう。入門から上級者向けまでおすすめ11選

2019.06.19

フランス文学は難しそう、読みにくそうというイメージがありませんか?実際にはすべての作品が難解ではなく、中には読みやすい作品もたくさんあります。初めてフランス文学を読む人から大長編を読みたい人まで、広くおすすめできる11本を選びました。

フランス文学の特徴

フランス文学とは『フランス語で書かれた文学のこと』を指しますが、書かれた言語以外に、以下の特徴があります。

形式の調和と内面的な人間研究

文学は、その国の文化や歴史などの背景に影響され、独自の特徴を持つことが多いものです。フランス文学にもそれが当てはまり、フランス人の持つ合理的で現実的な面が反映されているといえます。

文章も、自由に感情が赴くままに表現するよりも、『形式の調和を重んじる』特徴があります。フランス人は情熱的に感情表現をするイメージを持つ人が多いものですが、フランス文学は意外にも理知的であるといわれています。

そしてもう一つの特徴は、『人間的な面を持つ』ことです。他国の文学よりも人の内面を追求する人間研究を重視する内容であることが多いのが、フランス文学です。

ノーベル文学賞の受賞人数が世界一

『ノーベル文学賞』は、世界中の優れた研究者などに送られる『ノーベル賞』の一つです。

フランスでは過去に11人がノーベル文学賞を受賞しており、歴代のノーベル文学賞の受賞人数が最も多い国となっているのです。この中には、ノーベル文学賞を唯一辞退したジャン=ポール・サルトルも含まれています。

フランス文学と日本文学の関係

フランスの文学は、日本文学にも大きな影響を与えています。明治時代からフランスの文学作品が日本に広まり、フランス文学に影響を受けた作品を発表している作家も少なくありません。

明治時代にルソーが影響を与える

フランス文学が日本文学に大きな影響を与えたのは、明治時代に中江兆民らによって翻訳されたジャン=ジャック・ルソーといわれています。明治から昭和にかけて活躍した作家の島崎藤村は、ルソーの『懺悔録』に影響を受けたことを著書に記し、ルソーの名を最初に広めたことで知られています。

作家の永井荷風も、フランスでの長期滞在を含む外遊から帰国した後にボードレールやヴェルレーヌなどのフランス詩を日本に紹介し、日本の詩人に大きな影響を与えました。

大正・昭和以降も多くの作家に影響する

大正・昭和時代も、多くの有名作家がフランス文学を愛読し、翻訳しています。有名作家では、森鴎外や谷崎潤一郎がフランス文学の翻訳を手がけました。

大正時代に入るとフランス文学研究が盛んになり、特定の作家を原書で読む研究家も登場します。昭和にかけて多くの作家がフランス文学に影響を受け、作家としての自己形成を行う者もいました。その中には、ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎の名もあります。

1980年以降になると、一時フランス文学への熱は冷めてしまいます。しかし、澁澤龍彦や蓮實重彦などのフランス文学に精通する作家のほか、フランス文学研究から転じた作家の活躍も見られました。

近現代においても、後の項目で説明するフランスの幻想文学が日本の小説やアニメなどに引用されており、明治・大正時代同様にフランス文学は日本文学へ大きな影響を与え続けています。

フランス文学のジャンル

日本を含む他国の文学同様に、フランス文学にもさまざまなジャンルがあります。代表的な3種類のジャンルを、それぞれ代表的な作品とともに紹介します。

人間の心理を描く恋愛小説

恋愛主義の国としても知られるフランスでは、古くから多くの恋愛小説がありました。しかし、フランス文学における恋愛小説は単なるロマンスにはとどまりません。

登場する人物の心理描写がとても緻密で、恋愛を描くのはもちろん、一人の人間の心理を描くことに重きを置いています。

人間の内面を追求するフランス文学ならではの、人間性を深く追求した恋愛小説が楽しめるでしょう。

合理主義に対抗した幻想文学

合理的な面が強いフランス文学ですが、これに対抗する存在の文学として、幻想文学も多いのも特徴です。幻想文学とは、現実には存在しない出来事をテーマにした、幽霊や悪魔が登場するなどの怪奇的な内容のジャンルです。

フランスの幻想文学の代表的な作品の中には、人造人間として『アンドロイド』という単語を世界で初めて用いた小説として知られる、ヴィリエ・ド・リラダン著の『未来のイヴ』などがあります。

エンタメ性の強い大衆小説

人間の心理を追求するなど、難解な表現も多いフランス文学はとっつきにくく読みにくい印象を与えることもありますが、フランス文学は難解な物語ばかりではありません。多くの人が読んで楽しめる、エンターテインメント性の高い大衆小説にも名作が揃っています。

大衆小説の中でも、ミステリーや冒険もの、SFなど多数のジャンルが取り扱われており、大衆小説の書き手として世界中にファンを獲得しているフランス人作家もいます。

代表的な大衆小説としては、アニメや映画など映像化され幅広い世代に知名度があるアレクサンドル・デュマ・ペールの『三銃士』やヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』などが挙げられます。

小説の形式による特徴

小説は、細かく分けると形式によっていくつかの種類に分類できます。フランス文学においても、形式によって作品選びをすると読みやすいものや読み応えたっぷりのものなどを選びやすくなります。

読み応えのある長編小説

じっくりと壮大なストーリーを読みたいなら、長編小説がおすすめです。いくつもの時代をまたいで多数の登場人物が複雑に絡み合うような物語は長編小説に多く、読み応えもあります。

フランス文学の長編小説としては、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』が有名です。その他にも、大衆小説としてすでに紹介した『レ・ミゼラブル』なども、フランスを代表する傑作小説です。

入口として読みやすい短編小説

長編小説はページ数が多いだけではなく、ストーリーも複雑であるため、いきなり読み始めるには読みづらかったり初心者には敷居が高いと思われるかもしれません。

気軽に読める小説を選ぶなら、短編小説が最適です。長編小説よりも短時間で読めますが内容が濃い作品もあるので、ページ数の割に強い印象を与えるインパクトのある作品も見つかるのが魅力です。

フランスの短編小説の書き手としてよく名前が挙がるのは、『女の一生』や『脂肪の塊』などの短編小説を多数残したギ・ド・モーパッサンです。

台本形式の戯曲

戯曲とは演劇の台本、または台本の形式で書かれた作品です。基本的に舞台で上演されることを見越して書かれたものですが、戯曲は単独でも文学作品として成り立っています。もちろん、演劇好きの人にもおすすめの形式です。

舞台でのセリフで構成された物語なので、小説よりも登場人物のキャラクターの言動が活力に満ちており、より魅力的に映し出されるのが特徴です。

フランス文学の戯曲を代表する作品では、モリエールの『ドン・ジュアン』やエドモン・ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』などが有名です。

おすすめのフランス文学 入門編

数えきれないほどの名作があるフランス文学ですが、小説の長さに応じておすすめ作品を紹介していきましょう。入門編は、比較的読みやすい短めの作品です。

『星の王子様』サン・テグジュペリ

サン・テグジュペリ著『星の王子さま』は、児童文学として世界200カ国以上の国で翻訳された、ロングセラーの名作小説です。主要登場人物である『王子』は本作を読んだことがない人にも知名度が高いキャラクターで、かつてユーロ導入前のフランスフラン紙幣にサン・テグジュペリと共に描かれていたほどです。

ストーリーは、主人公の飛行士である『僕』がサハラ砂漠に不時着するところから始まります。これは、飛行士であったサン・テグジュペリが実際に不時着した経験が元になっているといわれています。そこで『僕』は『王子』と名乗る少年に出会います。

『僕』は飛行機を修理しながら王子が地球に来た理由や故郷の星や過去に訪れた星の話など王子の話を聞いていくうち、友情や大切なものが何なのかを知っていきます。児童文学ではありますが、大人が読むとまた違う印象を与える、深い物語です。

『異邦人』アルベール・カミュ

『異邦人』は、43歳という若さでノーベル文学賞を受賞した、アルベール・カミュの代表作で、冒頭の『きょう、ママンが死んだ』という一節が非常に有名です。

物語は、この冒頭の一文の通り、主人公であるムルソーの母の死の知らせる受けるところから始まります。しかし彼は、母の死に直面しても泣くどころか、感情をまったく表しません。

その後も淡々と日々を過ごすムルソーですが、ある日友人のトラブルに巻き込まれて衝動的に殺人を犯してしまいます。自分と周囲への無関心、無感情という態度から冷酷な人間と糾弾され、ムルソーに死刑判決が下ります。

無感情のムルソーの姿を浮き立たせる、淡々と進む無機質な印象の文章も特徴的です。

『肉体の悪魔』レイモン・ラディゲ

『肉体の悪魔』は、20歳で早逝したレイモン・ラディゲが亡くなる前年に発表された作品で、ラディゲが15~6歳の頃に執筆されたといわれています。過去に複数回映画化されており、知名度も高い作品です。

第一次世界大戦下の1917年のフランスを舞台に、15歳の主人公『僕』が、出征中の婚約者を持つ年上の女性と出会うところからストーリーが始まります。

大人でも子どもでもない微妙な年齢の少年と、女性の間の関係を描いている恋愛小説ですが、10代で書いたとは思えないほどの完成度の高さです。

『悲しみよこんにちは』フランソワーズ・サガン

フランソワーズ・サガンは、18歳でこちらの作品を発表し、衝撃的なデビューを飾りました。世界中でベストセラーとなり、この作品も映画化されています。

『悲しみよこんにちは』は、サガンがこちらの作品を執筆したときとほぼ同じ、もうすぐ18歳を迎えるセシルが主人公です。

セシルと父、そして父の愛人と亡き母の友人が、コート・ダジュールで過ごす夏の日々が舞台です。主人公セシルの繊細な心が揺れ動く様子が美しい言葉でえがかれ、読む人を物語に引き込みます。

おすすめのフランス文学 中級編

比較的ボリュームが少なめな入門編からステップアップして、もう少し長く読み応えのある中級編の作品としておすすめするのは、以下の4作品です。

『赤と黒』スタンダール

最初に紹介するのは、スタンダールの代表作の一つ『赤と黒』です。こちらは、フランスで実際に起きた事件を元に書かれた物語とされています。

主人公のジュリアン・ソレルはナポレオンを崇拝し、立身出世をするために野心を抱く貧しい青年です。軍人を目指すものの、王政復古の流れから聖職者として出世を目論見ますが、2人の女性との出会いにより彼の人生は大きく流れが変わっていきます。

『ボヴァリー夫人』ギュスターヴ・フロベール

『ボヴァリー夫人』は、19世紀のフランス文学を代表する作品に挙げられることも多い、エマという田舎育ちの一人の女性を主人公とした作品です。

恋愛に憧れを持つエマは金持ちの医者シャルル・ボヴァリーと結婚しますが、夢見ていた生活とかけ離れた田舎暮らしと夫との平凡な生活に嫌気がさし、上流階級での華やかな生活や不倫に走ってしまいます。

青春時代に抱いた理想を追い求める中で現実を知り、そのギャップに戸惑ったり幻滅するという、誰もが経験するテーマは共感しやすいのではないでしょうか。

『ゴリオ爺さん』オノレ・ド・バルザック

文豪オノレ・ド・バルザックの代表作である『ゴリオ爺さん』は、パリの下宿屋を舞台にした長編小説です。

南フランスの田舎からパリに出てきた主人公の青年ウージェーヌ・ド・ラスティニャックは、ゴリオ爺さんやヴォートランという謎めいた人物と共に下宿屋で暮らしながら、社交界で成功しようという野心を持ち処世術を学びます。

物語が進むにつれ、ゴリオ爺さんの素性やヴォートランの正体が明かされます。ゴリオ爺さんの過去と秘密、ラスティニャックの成功など、伏線が絡み合って後半にすべてがつながっていく、最後まで面白さが尽きない小説です。

『狭き門』アンドレ・ジッド

アンドレ・ジッドも、ノーベル文学賞を受賞した作家の一人です。ジッド本人は厳格なプロテスタントで、『狭き門』というタイトルも新約聖書の言葉に由来があります。

この小説の主人公は、厳格なプロテスタントの家庭に育った少年ジェロームとその従姉アリサです。ジェロームとアリサはお互いに好意を持っており、周囲の人々も2人の恋を応援していました。しかし、現世での幸福と神への信仰との間で思い悩む両者の信仰の深さが、2人の関係を変えてしまいます。

プロテスタントの厚い信仰を取り扱っている恋愛小説ですが、幸福や信仰とは何かを問いかけ、読み手によって解釈が大きく異なることも多い作品です。

おすすめのフランス文学 上級編

最後に、上級編として読み応え満点の名作長編小説を3作ご紹介します。

『レ・ミゼラブル』ヴィクトル・ユゴー

ミュージカル作品として広く知られ、映画やアニメ化された作品もそれぞれ知名度が高い『レ・ミゼラブル』は、ヴィクトル・ユーゴーの長編小説が原作となっています。『あゝ無情』という邦題も、比較的知られています。

パン1個盗んだ罪で19年もの間投獄され出所した男ジャン・バルジャンは、行くあてがない中ミリエル司教に迎えられます。司教によって正しい生き方をしようと心を入れ替えたバルジャンは数年後実業家に成長し、市長を務めるまでにのし上がります。

フランスの王政復古と7月革命、フランス革命やナポレオンの帝政時代など、フランスの歴史とともに一人の男の生涯を描く大河ロマンです。

『失われた時を求めて』マルセル・プルースト

『失われた時を求めて』は、フランス語の原書で約3000ページに及ぶマルセル・プルーストによる大作で、世界の文学に大きな影響を与えた20世紀を代表する傑作とされる作品です。

本作の『紅茶に浸したマドレーヌの香り』の挿話は、香りで過去の記憶を呼び起こす『プルースト現象』としても知られています。

裕福な青年が、芸術家や貴族などが集まるサロンに出入りし、貴族に近づき社交界に入り、作家としてこれまでの自分自身の記憶を巡る物語を書く決意をするという、プルーストの自伝的要素を含む大長編です。

非常に長い物語で、しかも一文が長く難解な小説ですが、読み応えという点ではこれ以上のものはなかなか見つからないのではないでしょうか。

『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ・ペール

最近、日本でリメイク版のドラマが放送されたことも記憶に新しい『モンテ・クリスト伯』は、『巌窟王』というタイトルでも知られる、『三銃士』の作者でもあるアレクサンドル・デュマ・ペールによる作品です。

無実の罪で監獄に送られた主人公のエドモン・ダンテスが、命がけで脱獄をしてモンテ・クリスト伯を名乗り、自らを陥れた人物へ復讐をするというストーリーです。

フランス革命などのフランスの歴史を背景にしながら壮絶な復讐劇が繰り広げられ、復讐相手を一人ひとり破滅させる様子は読んでいてスカッとするでしょう。

長編ですが、どんどん読み進められる面白さです。

フランス文学を楽しもう

どこか敷居が高そうと感じられることも多いフランス文学ですが、映像化された作品も多いので、知っている作品からまず読んでみるのもおすすめです。

短めの入門編から読んでみると、フランス文学の面白さに夢中になるかもしれません。

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