由来は「卵の固ゆで」?ハードボイルド作品の魅力とおすすめ小説や映画

2019.06.17

『ハードボイルド』というジャンルは、よく耳にするけれど具体的にどんな作品なのか詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。ハードボイルドの定義や代表的なハードボイルド作品から、このジャンルについて詳しく知りましょう。

ハードボイルドの意味

ハードボイルドとはどのような意味を持つのか、まずはジャンルの内容と語源を見ていきましょう。

文学の手法や探偵小説のジャンル

ハードボイルドとは、第一次世界大戦後の1920年代にアメリカにおいて登場した『文学の手法』です。現実を客観的かつ簡潔に描写するのが特徴の写実主義的な手法です。

また、ハードボイルドは推理小説のジャンルの一つとしての意味も持ちます。一般的な推理小説は、ある事件が発生し、解決へ至るまでの過程やトリックの謎解きなどが登場します。

これに対し、一ジャンルとしてのハードボイルドは、行動的な私立探偵などが主人公として登場します。一人の人間の感情表現が抑えられていますが、無感情の人間が主人公というわけではなく、主人公の姿や行動を客観的に、淡々と描くのが特徴です。

元々の意味と転じて生まれた意味

ハードボイルドという単語は、元々『卵の固ゆで』という意味を持ちます。

固くゆでられた卵は黄身や白身が固まるので、生卵のように流れることがありません。この様子が転じて、感情や人情に流されない冷酷非情さや強靭な肉体などを表すようになったのが、小説や映画などにおけるハードボイルドという単語の由来です。

海外のハードボイルド小説

アメリカで生まれたジャンルであるハードボイルドは、小説の一ジャンルとしても人気です。何十年と語り継がれるハードボイルド小説の名作は、発祥の地であるアメリカの作家によるものが多く知られています。

聖なる酒場の挽歌 ローレンス・ブロック

ローレンス・ブロックは、ニューヨークを舞台としたハードボイルド小説を多く発表しているアメリカ出身の作家です。『聖なる酒場の挽歌』は1986年に発表された、元NY市警の警察官である私立探偵『マット・スカダー』がニューヨークを舞台に活躍するシリーズの第6作目です。

マット・スカダーシリーズ第1作目『過去からの弔鐘』よりさらに1年前の事件から、物語が始まります。彼の行きつけのバーで起こった殺人事件の調査を始めたスカダーは、複雑に入り組んだ事件の真相に直面します。

市警時代に起こした過ちによる後悔の念を背負いながら孤独に暮らし、無免許で私立探偵として依頼を請け負うスカダーが一人で悪へ立ち向かい、正義を貫く姿は哀愁を感じずにいられません。

マルタの鷹 ダシール・ハメット

ハードボイルド小説の書き手として絶対に外せないのが、ダシール・ハメットです。無駄のない簡潔でスピーディーな展開な文体で現在のハードボイルド小説を確立させたと言われる人物で、数々の名作ハードボイルド小説を残しています。

そんなハメットがハードボイルドというジャンルの確立を決定付けた作品とされているのが、『マルタの鷹』です。過去に3度も映画化されており、中でも1941年のハンフリー・ボガート主演の作品は原作に忠実に映像化された、映画史上に残る名作として知られています。

マルタの鷹は、ハメットの複数の小説に登場するサンフランシスコの私立探偵『サム・スペード』が初登場した作品で、かつ唯一の長編小説です。

ある女性からの家出した妹を連れ戻す依頼を受けるところから、物語が始まります。サム・スペードが捜査を開始しますが、その過程である人物を尾行させた相棒が、ターゲットと共に遺体で発見されます。尾行のターゲットの妻と関係を持っていたため、スペードが殺人の嫌疑をかけられてしまいます。

その後、依頼元の女性の素性、そしてその女性と関係する男性が『黒い鳥の彫像』を探していることを知ります。この彫像を巡り、物語は新たな展開となっていきます。

ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー

ダシール・ハメットと並ぶハードボイルド小説の書き手であるレイモンド・チャンドラーも、ハードボイルド小説を語る上で絶対にはずせない人物です。淡々とたクールで無駄のない文体は、アメリカ文学へ大きな影響を及ぼしたと言われるほどです。

『ロング・グッドバイ』は、私立探偵フィリップ・マーロウが登場するシリーズの第6作です。ある日、右頬に傷を持つテリー・レノックスという男と知り合ったマーロウは、その後何度かバーで酒を酌み交わすようになりますが、マーロウはその後、レノックスは妻殺しの容疑をかけられた末、自分が殺人を犯した内容の遺書を残して自殺したことを知ります。

しばらくして、失踪した人気作家ロジャー・ウェイドの捜索を依頼されたマーロウは、レノックスの妻殺人と彼の自殺の件を並行して捜査していくうち、この2件が裏で関わっていることと、驚くべき事実に行き着きます。

国内のハードボイルド小説

日本国内にも、ハードボイルド小説が多数あります。翻訳された物語ではなく、著者の書いた言葉をそのまま読めるのが、日本のハードボイルド小説を読むメリットといえるでしょう。

数ある国内のハードボイルド小説の中から、名作ともいえる3作をピックアップしました。

疫病神 黒川博行

『疫病神』は、黒川博行の人気ハードボイルド小説シリーズで、現在7作が刊行されています。うち、2014年の直木賞を受賞した5作目の『破門』を含む2シリーズが映像化されています。

疫病神シリーズは、2人の主人公が互いを疫病神と呼びながら裏社会で奔走するストーリーです。関西地方を舞台にしており、関西弁の小気味良いやり取りを楽しめるのは、日本語で読めるハードボイルド小説の魅力といえるでしょう。

テロリストのパラソル 藤原伊織

藤原伊織の『テロリストのパラソル』は、史上初の江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞するという快挙を成し遂げたことで知られています。

主人公のバーテンダー・島村が、新宿中央公園で発生した爆発事件に巻き込まれ、その被害者に学生時代に共に学生運動で戦った仲間や元同棲相手の女性が含まれていたことを知ります。

現場に指紋が付いたウイスキーの瓶を置いてしまったことから、島村へ爆発事件への関与の疑いがかけられる中、島村も事件解決へ動き出し、次第に物語は海を超えた海外へ広がる、壮大なストーリーです。

野獣死すべし 大藪春彦

松田優作主演の映画として広く知られる『野獣死すべし』は、大藪春彦の代表作の一つである傑作ハードボイルド小説です。

戦地から引き上げた経験を持つ伊達邦彦は、大学院で学ぶ秀才という顔の裏で、自身の信念を貫くために射撃や特殊技術の研鑽を重ね、完全犯罪を成し遂げます。

伊達はローンウルフとして立ち回り、本作では個人の目的達成のための犯罪を描いています。伊達邦彦が主人公のシリーズはその後も続き、CIAやKGBなど、海外の組織との対決を含む、壮大なスケールの物語となっています。

ハードボイルドな洋画

上記のハードボイルド小説は、映画やドラマなど映像化されている作品も少なくありませんが、映画のシリーズとして確立されたハードボイルド映画で根強い人気を獲得している作品として、以下の作品があります。

有名シリーズ007 カジノ・ロワイヤル

イギリスの秘密情報部である『MI6』の工作員ジェームス・ボンドを主役にしたスパイ映画を代表するシリーズである『007』は、元はイギリスの作家であるイアン・フレミングのスパイ小説が原作です。

『007 カジノ・ロワイヤル』も、フレミングの小説が原作となった映画007シリーズの21作目に数えられる作品です。原作においては1作目にあたる作品なので、007シリーズでよく見られるアクションシーンよりも、ボンド本人の姿をより詳細に描いているのが特徴です。

マフィア映画の定番 ゴッドファーザー

フランシス・フォード・コッポラ監督の代表作『ゴッドファーザー』も、マリオ・プーゾの原作を元に映画化された、マフィア映画の金字塔とも称される作品です。

ニューヨークを舞台に、マフィアのコルリオーネ家を描くこの作品は、マフィアを嫌うコルリオーネ家に生まれた三男のマイケルが家族と敵対するファミリーに立ち向かうため、マフィアの世界での抗争に足を踏み入れていきます。

殺し屋を描いた 殺しのテクニック

1966年製作の『殺しのテクニック』は、イタリアで製作された犯罪映画『マカロニ・ノワール』を代表する作品に数えられています。

ニューヨークとパリを舞台に、類まれな狙撃の技術を持つ殺し屋のクリントを主人公に、物語は展開されます。引退を決意したクリントは最後の仕事を終えたものの、実兄が殺されたことをきっかけに犯罪組織からの依頼を受け、組織の裏切り者であり兄を殺した犯人を追いパリへ向かいます。

ターゲットを狙撃するシーンは、多くの人が持つ殺し屋のイメージを体現するもので、ハードボイルド作品における殺し屋像を定着させた作品といえるでしょう。

ハードボイルドな邦画

邦画にもハードボイルド作品が数多くあり、舞台は現代から時代劇まで幅広いのが特徴です。

黒澤明監督の代表作 用心棒

日本映画界を代表する監督である黒澤明の代表作の一つである『用心棒』は、江戸時代後期を舞台とした名優・三船敏郎主演のアクション時代劇です。ハードボイルド小説の影響を大きく受けた作品で、黒澤明本人も、先述のダシール・ハメットの作品のアイディアを使っていることを認めているほどです。

浪人・桑畑三十郎が立ち寄ったとある宿場町は、ならず者たちの抗争で荒れた町でした。三十郎は食事の代金の代わりに町の用心棒を買って出ますが、やがて町での対立が激化していく、という内容です。

松田優作主演 蘇える金狼

先述の『野獣死すべし』の著者である大藪春彦の小説が原作の、松田優作主演作です。

主人公の朝倉哲也は昼間はサラリーマンとして資本金15億円の東和油脂で働いていますが、裏ではボクシングで鍛錬を積み、東和油脂の乗っ取りという野望を抱えた人物です。その野望を叶えるため、現金輸送車の襲撃や東和油脂の内部に精通する者への接触などを経て、会社乗っ取りを着々と進めていきます。

もう一つの顔を持つ人物が上り詰める様子が痛快に描かれた、松田優作の代表作の一つです。

人気シリーズ 探偵はBARにいる

最後に紹介するのは、大泉洋と『蘇る金狼』主演の松田優作の息子である松田龍平主演の人気探偵シリーズ『探偵はBARにいる』です。

札幌を舞台に、私立探偵の『俺』と助手の高田が、行きつけのバーにかかってきた電話の依頼を受けて捜査を開始するものの、事件に関わることで自らの身に危険が及び、捜査を進めていくうちに奇妙な事実に行き着きます。

他のハードボイルド映画とは一線を画す主演コンビ2人のやり取りが、この映画の見どころとなっています。

ハードボイルドな漫画

老若男女に愛される漫画の一ジャンルとしても、ハードボイルドな人気作品があります。アニメ化するなど知名度が高い作品が、以下の3本です。

スペースバトル漫画COBRA

未来の宇宙を舞台に、SFとアクション、そしてハードボイルドが融合した独自の世界観が魅力の『COBRA』は、アニメ化もされ海外でも人気の高い作品です。

タイトルにもなっている主役のコブラは宇宙海賊で、左腕に『サイコガン』と呼ばれる銃を仕込んでいるのが特徴です。彼は犯罪組織『ギルド』との闘争に疲れ、自分の死を偽装した上で記憶を書き換え整形を施し、アウトローの世界から姿を消していました。

しかし、その偽装がギルドに割れてしまい、自分自身の記憶を取り戻したことから、再び海賊として活躍する姿が描かれています。

ロングセラー漫画 ゴルゴ13

超一流スナイパーであるデューク東郷を主人公とした『ゴルゴ13』は、1968年に連載を開始し、現在も連載中の超ロングセラー作品です。作品の内容を知らなくても、タイトルやキャラクターがメディアで起用されることも多く、非常に知名度が高い作品といえます。

国籍や生年月日など、いずれも不明とされているデューク東郷は、冷静沈着で無口、しかし手段を選ばないやり口で依頼を実行していくという、日本のハードボイルド漫画の代表するといっても過言ではないキャラクターです。

少年漫画の名作 シティーハンター

『シティーハンター』は、1985年から連載が開始され、数回アニメ化・実写映画された作品です。作者自身がセルフリメイクで別作品を執筆したり、近年もアニメ映画や海外での実写映画公開が行われたりするなど、根強い人気を誇っています。

物語はスイーパーと呼ばれる始末屋を行う主人公の冴羽獠が、東京・新宿を中心に活躍する物語が軸となっており、暗殺だけではなくときにはボディーガードや探偵稼業などを請け負います。

単なるハードボイルドではなく、ギャグもふんだんに盛り込まれている『ハードボイルドコメディ』という点が、他の作品と大きく異なり、幅広い年齢層に受け入れられています。

ハードボイルドなアニメ

最後に、アニメのハードボイルド作品を3作紹介します。

宇宙の賞金稼ぎ カウボーイビバップ

ハードボイルド漫画で紹介した『COBRA』同様、こちらも宇宙を舞台にしたハードボイルド映画の影響を受けている作品です。

2071年、『カウボーイ』と呼ばれる賞金稼ぎのスパイク・スピーゲルが、宇宙船『ビバップ号』に乗り、同乗する4人の仲間とともに火星を中心とした太陽系を飛び回り犯罪者を捕らえて賞金稼ぎをする、というストーリーです。ハードボイルドを軸とした内容ですが、話によってはコメディやサスペンスなど、作風が変化するのも特徴の一つです。

宮崎駿監督の名作 紅の豚

日本を代表するアニメ監督の一人である宮崎駿監督による、第一次世界大戦中のイタリア・アドリア海を舞台に、とある理由で豚となった元空軍パイロットのポルコ・ロッソを主人公とした長編アニメ作品です。

ポルコ・ロッソは飛行艇を乗り回す空中海賊から市民を守る賞金稼ぎですが、ファシスト政権下のイタリアでは秘密警察に追われる身で、さらに空中海賊からも追われ彼らとの空中戦を繰り広げます。

子ども向けの作品が多い宮崎駿作品の中でもハードボイルド色が強く、大人が見ても楽しめる人気作です。

海外でも人気な近未来SF 攻殻機動隊

人間のサイボーグ化や電脳化が普及するなど、人間やサイボーグ、アンドロイドが混在する科学技術が発達した近未来で、内務省直属の公安警察『公安9課』が活躍する物語です。

インターネットを使った高度な情報戦やサイボーグ、アンドロイドの戦闘などが行われる中、人間と機械の境界や人間が人間たる理由は何なのかを問う点は、近年の情報技術社会を取り込んだハードボイルド作品の新しい方向性といえるのではないでしょうか。

男らしいハードボイルド作品を見よう

感情をあまり表に出さず、淡々と行動する主人公が活躍するハードボイルド作品は、男らしさが強くあこがれを感じる人も多いジャンルです。

特にアニメや漫画には、バラエティ豊かなハードボイルド作品が多いので、さまざまな作品を楽しんでみましょう。

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