日本文学界の奇才『坂口安吾』の魅力。代表作や破天荒なエピソードを紹介

2019.06.13

日本文学を愛好する方のなかでも、坂口安吾を支持する方は多いと思います。独特な語り口で進行される作品や意表をついた推理小説など、哲学とバラエティが融合したかのような作品群は、1度読み出すと止まらない不思議な魅力があります。この記事ではそんな坂口安吾の代表作を、前期後期に分けて紹介していきます。

坂口安吾の素顔

戦後の文学界隈の中で、同期たちとともに『無頼派』と呼ばれる新ジャンルを確立させたことでも知られる坂口安吾。世に出回っている執筆中と思われる写真の様子からも、いかにも文化人らしい印象を感じ取ることができます。

しかし実際の彼の素顔はどのようなものだったのでしょうか?作品を知る前に、作者のことについて学んでいきましょう。

気まぐれな奇才

坂口安吾は風変わりな人が多い作家の中でも、その個性が飛び抜けていたことで知られています。

幼少の頃から破天荒な性格で、学校の授業にはほとんど顔を出さず、中学校のときすでに留年・退学を経験するなど、およそ文化人らしからぬ少年期を過ごしました。

その後大学に入学し、インド哲学を学びます。しかしサンスクリット語・ラテン語・フランス語などを次々と学び哲学の思想書を読みふけるかたわらで、飲んだくれの日々を送ったり、各地を放浪する生活をしていました。その後の人生でも破天荒で荒廃した生活を送る時期が長く、この経験が、彼の作風に大きな影響を与えたといわれています。

当時の著名な作家たちは、東京帝国大学(現在の東京大学)文学部出身のいわゆる「エリート」が多く、その意味で坂口安吾は日本文学界における特異な存在といえるでしょう。

小説家としての成功と挫折

彼の出世作となったのは、1931年に発表した『風博士』という作品です。これ以降、彼は本格的に小説家としてのキャリアを歩み始めるのですが、後発の作品には恵まれずスランプに陥り、そのまま日本は大戦の時代へと突入します。

戦時中には数多くの親族や友人を失うなど不幸が続きますが、終戦の翌年に戦後の日本を見据えて発表した作品などが反響を呼び、再度人気作家の仲間入りを果たします。

再起を果たした「偉大なる落伍者」

その後は現在でも知られるような数多くの名著を執筆し、日本の文学界の発展に大いに貢献しました。こうした幾度もの挫折の経験と、その後の文学者としての成功の経歴から、坂口安吾の人物を評して「偉大なる落伍者」などと言われることもあります。

ちなみにこの「偉大なる落伍者」というフレーズは、留年・退学を経験した中学校時代に、坂口安吾自身が机の天板に彫り付けた「余は偉大なる落伍者となつていつの日か歴史の中によみがへるであらう」という言葉に由来しています。

坂口安吾の魅力はまさにここにあるといってもいい、反骨と無頼を感じさせる象徴的な言葉ですね。

戦前初期の代表作

坂口安吾の作風は戦前の初期と戦後の後期で大きく異なっているといわれます。前期に関しては、「人と違うことをして大成する」というような野望が感じられ、当時邪道とされたジャンルにもあえて手を伸ばし、自らのものとして積極的に作品に取り入れていました。

ここからはそんな坂口安吾の初期作品の中で、最も知名度の高い作品を紹介します。

風博士

『風博士』は前述にもある通り、坂口安吾が世間に広く認知されるきっかけとなった初期の出世作品です。当時無名であった坂口のほか2人の作家仲間と刊行した雑誌『青い馬』に掲載されました。

内容は30分ほどで読み終わってしまう喜劇的作品で、主な登場人物は「僕」「風博士」「蛸博士」の3人だけとなっています。巧みな言葉遣いで読者を翻弄しながら笑いを取るというスタイルは、戦後の作風とはだいぶ異なっていますが、坂口安吾らしい洒脱な語り口がすでに表れており、まさに出世作と呼ぶにふさわしい作品となっています。

戦後後期の代表作

挫折を味わいながらも大成を果たした坂口安吾の後期作品は、前期とは打って変わって哲学的な要素を多分に含む、非常に知的なものが多くなっています。戦後の低迷期真っ只中で執筆された作品を、当時の読者たちは喝采を持って迎え入れたのです。

ここからはそんな坂口安吾の後期作品を、ピックアップして紹介していきます。

堕落論

『堕落論』は坂口安吾が戦後に低迷する日本に関して自分の意見を執筆した、いわば随筆作品です。その内容は戦後に路頭に迷っている人々を、風刺しながら励ますというものであり、戦後1年という時期に出版されたこともあって、文化人・一般人問わず大きな反響を呼びました。

彼の哲学がふんだんに詰め込まれ、知的でありながらも軽妙な語り口には、思わずのめりこんでしまいます。坂口安吾を読もうと思ったら、まず最初に読んでほしい作品です。

白痴

『白痴』は前述した『堕落論』に続いて同年に出版された坂口安吾の作品です。『堕落論』は随筆的な作品でしたが、『白痴』については通常の小説となっています。戦後の貧しく疲弊した環境で生きている演出家の主人公が、隣の家に住んでいる男の妻と生々しく奇妙な関係を築いていく様を描いています。

無頼派らしい彼の、荒廃していながらもどこかリアルな世界観が随所に見て取れ、坂口安吾の真髄ともいえる小説です。

不連続殺人事件

『不連続殺人事件』は、『堕落論』『白痴』に続いて翌1947年に雑誌連載が始まった坂口安吾の推理小説です。内容は一見通常の推理小説となっていますが、題名の通りある意味「不連続」でおこる殺人事件を探偵が追う、独自のストーリー形式をとっています。なお連載当時は坂口本人から犯人に懸賞金がかけられ、読者に推理させる企画が行われ話題となりました。

奇才の奇妙な魅力に浸ろう

坂口安吾の作品には、他の作品にはない奇妙な魅力がふんだんに盛り込まれています。気軽に手にとってしまったが最後、やみつきになってしまうことでしょう。この記事の内容を参考に、そんな奇才の魅力にどっぷりハマってみてはいかがでしょうか?

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