バイオリンの弓の修理は、長く愛用していくためにも大切なことです。各部位の名称と役割や、修理費の目安を知ればメンテナンスに役立つでしょう。折れてしまったときの対応についても触れているので、参考にしてみてください。
弓の名称や役割
まずは、弓の名称やそれぞれの役割をチェックしていきましょう。簡単に作られているようで、それぞれが重要な役割を果たして、バイオリンの美しい音色を奏でていることが分かります。
弓の馬毛について
弓に使われている馬毛は、通常唯一取り替えられる消耗品です。ただし、馬毛は弓の能力を左右する大切な部分のため、毛替えのときには細心の注意が必要です。
量が多いほうがよいという意見もありますが、馬毛が多すぎてしまうと弓のよさを引き立てられずに反応が悪くなる原因となります。
逆に、馬毛が少ないと音が痩せてしまうケースもあるため、毛が一列並びになるより1〜2割増くらいまでにしておきましょう。
ちなみに、馬毛の質は餌によって決まります。食肉用に飼育される馬は弓用としても高品質と言われ、それだけ高価です。良質の馬毛は弓の性能を上げるとも言われるので、意識してみるのもいいかもしれません。
ラッピングの役割
『ラッピング』は、弓の手元に当たる部分に巻かれるものです。奏者の手と弓のスティックが実際に接触する部分で、手触りを左右する場所とも言えます。弓の重量やバランスをラッピングによって調整できるのも利点です。
巻きには種類があり、銀糸、銀線、鯨ひげ(イミテーションクジラ)、シルクカラー巻などがあります。
ラッピングのさらに手元側に巻かれる『サム・グリップ』にも種類があり、トカゲ皮やその模造品、牛皮、山羊皮などが用いられます。
さまざまな色やデザインがあるので、好みのものを最適な重量とバランス、手触りで選びましょう。
フロッグとは
『フロッグ』とは、毛箱やnut、あるいは枠とも呼ばれる、スティックの手元部分に取り付けられた、スティックの張力を制御する役割を持っている部分です。中に馬毛がとめられており、ねじを回すことでその張り具合を調節します。
かえるのような形をしていることからフロッグと呼ばれ、汗などにも強い黒檀などの素材で作られるのが一般的です。
弓の修理について
長く使っていると弓もくたびれてくるため、修理を経験することもあるでしょう。修理や毛替えの目安、修理できないときの対処について紹介します。
毛替えの時期はいつ頃?
実際のところ、丁寧に扱っていても、1年に1回は毛替えが必要です。馬毛には松脂を塗って使い込むため、長時間置いておくとカビが発生し、弓の毛やケースにもカビの胞子が蔓延してしまいよくありません。
その他にも、以下のような状態がみられたときには毛替えのタイミングと言えるでしょう。
- 毛が伸びきっている
- 毛の根元が黒ずんでいる
- 毛の色が全体的に黄色っぽい
- 毛が少なくなってきた
多湿期に入る前や乾燥期に入る前も交換時期としてはおすすめです。演奏の日程に合わせて1週間前に交換しておけば、馴染む時間も取れてよいでしょう。
松脂を交換するのに合わせて毛替えするという考え方もあります。これは、今までの松脂と新しいものが混ざってしまうと、違いが分からなくなるためです。
修理ができない場合とは
弓はとてもシンプルな構造で作られていますが、小さな損傷でも大きな影響を与えてしまいます。
多少の削れやヒビ程度なら修復できるケースもありますが、完全に折れてしまったときには基本的に修理できないため、買い替えが必要でしょう。
ただし、弓の先端部分が折れたときには対応してくれるお店もあります。とはいえ、性能を保つのであれば、修理ではなく買い替えておくのが得策でしょう。
弓の修理費の目安
最後に、経験することの多い三つのケースについて、弓の修理費の目安を紹介します。いざという時のために、覚えておくといいかもしれません。
毛替えの修理費
毛替えの修理費は使う馬毛の種類によって異なります。また、分数バイオリン弓と4/4バイオリン弓では、若干の差ではありますが4/4バイオリンのほうが多めに修理費が必要です。
スタンダードと呼ばれる一般的なタイプで約5000円、最高級のタイプで約1万3000円程度は用意しておくといいでしょう。
毛替えについては当日に交換してもらえるケースが多く、急ぎにも対応できるときもあるので、お店の人に相談してみてください。
ラッピングやフロッグの修理費
ラッピングの修理費は5000円程度です。銀線、銀糸のどちらでも同じような価格で修理できます。
ただし、ラッピングの種類やデザインによっては目安よりも多めにかかることもあるため、自分が行っているラッピングに合わせた費用が必要です。
フロッグの修理費の目安は、スライド製作と交換も含めると約1万円程度です。細かい部品などの交換は2000〜5000円前後で対応してもらえるでしょう。
スティックが折れた場合の修理費
スティックが折れてしまっても、修理が可能なケースであれば約5万円での修理が一般的です。ヘッドと呼ばれる部分の作成や交換は8〜15万円程度と高額になるため、損傷がひどいようであれば買い替えをするほうがよいでしょう。
紹介した修理費はあくまで目安です。お店によっても違いがある上、折れた場合の修理については対応していない可能性もあるため、行こうと思ったお店にあらかじめ確認してから足を運ぶのがおすすめです。
バイオリンの弓をチェックしよう
バイオリンの音色に大きく関わる弓の状態は、丁寧にチェックしておくことが大切です。メンテナンスを怠れば、手に馴染んだ弓の耐久性が損なわれてしまうため長く使い続けられません。
どれだけ丁寧に扱っていても、湿度や環境によって徐々に劣化は進みます。こまめなチェックとメンテナンスをおすすめします。