鉄道ファンは今や老若男女に拡がり、その人口は数万人とも言われています。一口に鉄道ファンと言っても、『乗り鉄』『撮り鉄』などその幅は広く、それぞれにマニアがいるほどです。六つの切り口から趣味としての鉄道の魅力を紹介します。
大人の鉄道ファン入門
子どもの頃、どこまでも続くレールを見て、遠い地に人々を乗せて運ぶ鉄道に憧れたことはありませんか?
その思いを大人になってからも持ち続ける人は多くいます。大人も魅了する鉄道の魅力、まずはその原点を探ってみましょう。
そもそも鉄道とは何か
一般社団法人日本民営鉄道協会によると、鉄道の定義は『レールを敷いた専用通路上を人と物を迅速かつ大量に運送する一切の設備と、人を含む事業』となっています。
最古の鉄道は16世紀半ば、鉱山内で馬が引いていた輸送車両だったといわれています。
1825年イギリスで産業革命の頃、蒸気機関車が登場し、当時の物資や人々の移動手段にまさに革命を起こしました。
その後、日本に鉄道が初めて走ったのは1853年の長崎でしたが、このときはまだ模型による走行でした。何度か模型鉄道で実験走行をした後、1865年にグラバー氏が長崎にレールを敷いて人を乗せ、約600mを走りました。
そして日本初の鉄道は、1872年に新橋〜横浜間を結ぶ路線で運行を開始し、徐々にその距離を伸ばしていきました。
今や日本の鉄道技術は世界中から注目され、各地を結ぶ鉄道は多くの人々を魅了し、愛され続けています。
奥深い鉄道の世界を知ろう
『乗り鉄』『撮り鉄』『葬式鉄』『鉄子』『ママ鉄』『子鉄』…と鉄道ファンの呼び方も多様化しました。
ほかにも、鉄道模型・切符集め・駅弁・撮影・時刻表・駅舎といった鉄道関係の趣味の対象はたくさんあります。
それだけ鉄道の世界は奥が深く、極めていくと鉄道の中でもその分野に特化してますますマニアックになっていくのです。
まずは鉄道ファンに入門して、自分は何にハマりそうなのか鉄道の世界を覗いてみましょう。
大和西大寺駅の線路に注目
奈良県にある近畿日本鉄道の駅『大和西大寺駅』には、特徴ある『平面交差』があり、鉄道ファンを魅了しています。
平面交差とは、複数の路線が同じ平面上で交差することを指しており、当然ですが運行に支障がないよう、細心の注意を払って運行管理がされています。
大和西大寺駅の平面交差がただモノでない理由は、その電車の本数の多さにあります。数分ごとに行き交う電車を、できる限りスムーズに平面交差させるために、ジグソーパズルのような列車さばきが行われています。
ひしめくレールの上を、列車が交差していく様子は、一日見ていても飽きることはありません。駅には展望デッキもあるので、一度その全貌を眺めてみるのはいかがでしょうか。
緻密に考えられた新幹線のデザイン
レールの上を時速300km近いスピードで駆け抜ける新幹線は、空気の抵抗をやわらげるため、先端部や車体全体が流線型です。普通の電車が四角形をしているのに比べると、その違いは一目瞭然です。
また車内は、天井の丸みや床と壁の交わる角度などに工夫がされており、色や質感までこだわることで乗客がくつろぎ、時には仕事などに集中できるような空間になっています。
中でも、グリーン車は座席で照明や空調を調節できるため、より快適に移動時間を過ごすことができます。
高速で動く非日常の空間は、世界に誇れる日本の鉄道技術の結晶です。
乗車して鉄道の魅力を体感する
鉄道と言えばやはり乗ってこそ、その魅力が堪能できるのではないでしょうか。ときにはたっぷりと時間をかけて、乗る鉄道の魅力を味わってみましょう。
駅弁を味わう
鉄道ファンなら、ご当地でこそ味わいたいのが『駅弁』です。特に、『乗り鉄』にとっては『食事=駅弁』といっても過言ではないでしょう。
書店で手に入る『時刻表』には、駅弁が買える駅が記載されています。駅名に『弁』とマークされていれば、駅弁が買えるという意味なので、鉄道旅の計画に上手に利用してみてはいかがでしょうか。
絶景を観に行く
鉄道に乗る魅力の一つは、車窓からの景色です。特におすすめの絶景が観られる沿線を二つ紹介します。
羽越本線 特急いなほ
海岸線沿いに走る鉄道は数あれど、羽越本線ほど日本海を愛でられる車窓もそうはありません。
新潟市の新津駅から秋田市の秋田駅までを結ぶ日本海縦貫ルートとして人々の大切な生活を支えるこの路線では、延々と続く日本海の絶景を観ることができます。
特筆すべきは『笹川流れ』と呼ばれる名勝です。『特急いなほ』には、グリーン車の一部に展望スペースもあり、思う存分車窓からの絶景を楽しむことができます。
天気や季節によっても違う日本海の表情を満喫できるでしょう。
JR九州 特急いさぶろう・しんぺい
鹿児島県吉松と熊本を結ぶ『特急いさぶろう・しんぺい』は、『日本三大車窓』にも選ばれた大パノラマと、日本唯一のループスイッチバックを体験できます。
車窓からは霧島連山や桜島が望め、四季折々の表情を見せてくれます。
『大畑駅』はスイッチバックとループ線が併用された鉄道ファン必見の駅です。日本で体験できるのはここだけなので、ぜひ乗車してみましょう。
客室のインテリアは木製で統一され、ノスタルジックな空間がなんとも魅力です。展望スペースもあるので、山間を走る臨場感をパノラマの大迫力で感じることができます。
音も鉄道の楽しみの一つ
鉄道の楽しみ方に『音』があります。列車のゴトンゴトンという音に、つい心地よくなった経験はありませんか?
車両や路線によって、列車が走る音にもさまざまな特徴があり、それを愛でるファンがいます。
『音鉄』によると、やはり主流は録音です。列車に乗って録ったり、駅で発着時の音を録ったりと、方法はさまざまありますが、音によって新しい発見があると言います。
鉄道を耳で楽しんだ後は、録音した音を自分で編集する楽しみも加えた新しいスタイルが生まれています。
鉄道知識を極める
鉄道ファンには、知識系の愛好家も多くいます。ほとんど研究家と言ってもいいほどの鉄道知識とはどのようなものでしょうか?
時刻表・ダイヤ図を分析
『時刻表鉄』『スジ鉄』と呼ばれる鉄道ファンは、時刻表やダイヤグラムを分析、研究する人たちのことです。
知識を深めるために時刻表を熟読したり、資料を収集して楽しんだりするのですが、そのバリエーションはとても豊富です。
現在では運行されていない過去の時刻表で当時の様子を空想したり、特急なのに途中で快速に抜かれるといった残念な特急をみつけたり、停車時間が長い列車をみつけるなど、まさに自分だけの楽しみがあるのです。
また、ダイヤ図の運行予定表示は知識がなければ読めないため、より高い知識が必要となります。
車両記号の意味を知ろう
JRに乗る時、車両に『クハ000-0000』や『モハ000-000』などと書かれた記号らしきものを見たことがありませんか?
実はこれは、国鉄時代に制定された電車の記号なのです。たとえば、『クモハ』と書かれている場合は以下のような意味になります。
- ク:運転台(制御車)がある車両
- モ:モーターが付いている電動車
- ハ:普通の車両
そのため、『クハ』なら制御車+普通車という意味になるのです。
そして、その後に続く番号は電車のシリーズと種類、編成を表しています。たとえば『313-1204』とあれば、313系の電車で、1200番台の種類の車両で、第4編成ということになります。
実際の車両を見た時に、意味がわかるとますます楽しくなるに違いありません。
鉄道写真を撮る
「鉄道はやはり車両の姿がカッコイイ!だから写真に収めたい」というのが『撮り鉄』です。カメラの腕もさることながら、対象が鉄道ならではのマナーや技があります。
鉄道を撮影するときの注意点
まずは鉄道撮影のマナーについて知り、しっかり守ることが大前提です。駅のホームや線路など、撮影に夢中になっていては、ときには重大な事故に繋がったり、罪に問われたりすることもあります。
鉄道撮影の注意点には以下のようなものがあります。
- 走行中の列車にフラッシュはたかない
- 線路内、他人の敷地に無断で入らない
- ホームでは利用客の邪魔にならないようにする
鉄道員にも配慮を
制服を着てキビキビと働く鉄道員と記念撮影したいという気持ちはわかります。しかしながら、彼らが仕事中であることを忘れてはいけません。
電車が安全に滞りなく運行するため、列車や乗客の誘導といった仕事をしているので、写真撮影に応じている時間はないのです。
また、鉄道員が応じてくれないからといって勝手に撮影してSNSに投稿といった非常識なことはやめましょう。特に、フラッシュ撮影をされると一瞬目が見えなくなり、安全確認が十分に行えません。
鉄道ファンであるからには、きちんとマナーを守って撮影をしたいものです。
さまざまなアングルから撮影
同じ列車の写真を撮るにも、以下のようなジャンルがあります。
- 構成写真…走っている列車全体を収める
- 形式写真…停車している列車の編成全体または1両だけを撮影
- 風景写真…風景の中に鉄道を取り入れたもの
- イメージ写真…カメラのテクニックを駆使して列車をイメージで撮る
このように、自分がどんな写真を撮りたいかをまず定めて、さまざまな角度やポイントから列車を撮影してみましょう。
アングルによって列車の表情が変わるので、奥の深い研究ができます。特に、走行中の列車を撮るには、ポイントを決めることが大切です。
動きの速い列車はカメラモードを調整
スピードの速い列車をブレずにきれいに撮るには、三脚が必須です。そして、カメラのシャッター速度とピントが重要なポイントになります。
Sモードで十分なシャッター速度を確保したら、後は光量や天気、距離などで調整します。
連続撮影をしたいなら、ドライブモードの連続撮影に設定しましょう。走る列車の撮影チャンスは少ないので、連写はおすすめです。
鉄道博物館に行く
一堂に会する鉄道を見たいなら、鉄道博物館へ足を運ぶことをおすすめします。そこには鉄道に関する知識とロマンがいっぱいに詰まっています。
鉄道音に耳をすまして 原鉄道博物館
2012年横浜にオープンしたのが『原鉄道模型博物館』です。
原信太郎氏が製作・所蔵した鉄道模型と関連コレクションは、蒸気機関車から電気機関車へと移り変わる日本や欧米の鉄道車両を再現したもので、世界一とも言われています。
模型とは言え、忠実に再現された鉄道車両は実際に走行します。そのゴトンゴトンという音は、本物の音と聞き間違えてしまうほどです。
その緻密なこだわりから、信太郎氏の鉄道愛を存分に感じられる博物館です。
- 施設名:原鉄道模型博物館
- 電話番号:045-640-6699
- 住所:神奈川県横浜市西区高島1-1-2 横浜三井ビルディング2階
- 営業時間:10:00〜17:00
- 休館日:毎週火曜(祝日の場合は翌営業日)
- 公式HP
53両もの展示車両 京都鉄道博物館
2016年4月にオープンしたばかりの『京都鉄道博物館』は、JR西日本を中心とした53もの車両の展示や本物の蒸気機関車に乗車できる体験型の博物館です。
京都という伝統の地だからこそ、鉄道の伝統や歴史を今に受け継ぐ最新の設備が整っています。
バリアフリーで授乳室やレストラン、休憩所まで館内にあるため、高齢者から子ども連れまで、一日中鉄道に触れながら楽しむことができます。
- 施設名:京都鉄道博物館
- 電話番号:0570-080-462
- 住所:京都府京都市下京区歓喜寺町
- 営業時間:10:00〜17:30
- 休館日:毎週水曜(祝日は開館)・年末年始
- 公式HP
家でも鉄道の世界に浸る
鉄道ファンは家にいても鉄道の楽しさに浸ります。本物を知っているからこそ、鉄道模型やゲームでその魅力を片時も忘れることなく再現したくなるのです。
男のロマン 鉄道模型
鉄道ファンには小さい頃から電車が好きだった人も多いでしょう。「気が付いたら鉄道が大好きになっていた」という明確な理由などなくとも惹きつけるものが鉄道にはあります。
大人になった鉄道ファンは自然な流れで、大好きな電車をコレクションしたい、部屋に飾りたいと思うようになります。それを実現できるのが鉄道模型です。
自宅で電車を走らせる楽しみ、好きな路線を自分好みに作るジオラマは、まさに鉄道ファンのロマンと言えるでしょう。子どもの頃に実現できなかったことを、大人になって趣味として叶えるのも素敵なことです。
本格鉄道ゲーム 電車でGO!
昭和の時代、将来のなりたい職業の上位だったのが『電車の運転手』でした。それをゲームで体験できるのが『電車でGO!』です。
家庭用ゲーム機・パソコン・スマホでもプレイができ、ダイヤや速度、信号などルールを守りながら駅まで走行し、停止位置にピッタリ停められるかを採点します。
ペナルティやボーナスになるポイントがいくつもあり、専門用語が飛び交うため、突き詰めれば運転士さながらの知識も身に付くこと間違いなしの本格派ゲームです。
収録路線も多様化しており、アーケード版では本物さながらの運転席に座ってプレイできます。
家にいながら、電車の運転シミュレーションができれば、出かけられない日でも鉄道ファンの心を満たしてくれそうです。
鉄道情報のアンテナを張る
鉄道ファンにもさまざまなジャンルがありますが、どのジャンルでも情報はとても重要です。鉄道ファンとしてチェックしておきたい情報を紹介します。
毎月の楽しみになる 鉄道ファン
1961年に創刊された『鉄道ファン』は、毎月21日に発行される月刊誌です。58年の歴史を持つこの鉄道雑誌は、鉄道写真に特に力を入れており、視覚を満たしてくれる国内外の鉄道情報が満載です。
毎号の巻頭特集も楽しみの一つですが、あらゆる角度から捉えた鉄道の情報が掲載されており、連載やテーマ記事も読み応えが十分にあります。
古くからの鉄道ファンはさることながら、鉄道ファン入門編としても、ぜひ購読したい雑誌です。
鉄道ニュースが満載 鉄道コム
『鉄道コム』は、朝日インタラクティブが運営しているインターネットサイトです。鉄道の情報では日本最大級で、鉄道ニュースからイベント情報、未来情報、といった鉄道関連の情報を毎日発信しています。
『駅つなゲー』という、全国9000以上の駅名をつなぐユーザー参加型ゲームもあり、毎日見ても飽きない工夫がされています。
また、自分の鉄道ブログを登録すると、アクセス数の順位が出るコンテンツもあり、鉄道ブログを書くのも楽しくなりそうです。
鉄道の知識から最新の情報まで、鉄道ファンが求める「知りたい」「発信したい」を満たしてくれるサイトです。
鉄道を趣味にして生活にワクワクを
身近にあって毎日利用する鉄道も、人間の知識や技術の粋を集めた集大成であることがわかります。
鉄道はどの分野に興味を惹かれても、限りなく幅が広いことで知られています。
大人の趣味として鉄道ファンを極めてみたいと思ったら、とことん突き詰められる趣味であるとも言えるでしょう。知れば知るほど面白くなっていくのが鉄道の魅力です。
鉄道を大人の趣味として楽しむことは、休日の過ごし方やリタイヤ後の夢も膨らませてくれます。生活にワクワクがあふれる鉄道ファンに入門してみませんか?