歌舞伎のにらみを知る。歌舞伎の世界で贅沢な時間を堪能しよう

2018.07.31

歌舞伎といえば、独特の『にらみ』が印象的ですが、どのような意味があるのかを知っていますか?『見得』・『隈取』など歌舞伎の見どころは1つではありません。事前に知っておくと、鑑賞が何倍も楽しくなる歌舞伎の基本を解説します。

歌舞伎とは

日本の伝統芸能を代表する『歌舞伎』は、ユネスコの無形文化遺産に登録されて以来、世界的にも高く評価されています。

歌舞伎はどのような歴史をたどってきたのでしょうか。歌舞伎の始まりから、全盛期にかけての流れを見てみましょう。

歌舞伎の始まり

歌舞伎は、1600年頃、出雲大社勧進のため諸国を巡回していた巫女のクニ(出雲の阿国)が京を訪れた際、男の扮装をして踊った『かぶき踊り』がはじまりだといわれています。

『かぶき者』とは、常識を逸脱した風変わりな者のことで、当時は『かぶき踊り』というと、主に女性が躍るものを指していました。

遊女と遊ぶ茶屋通いの男性を模した踊りは、『遊女歌舞伎』と称され、江戸時代に大流行しましたが、風紀を乱すという理由で一時は禁じられてしまいます。その後から、少年らが躍る『若衆歌舞伎』に変化していきます。

しかし、のちに『若衆歌舞伎』も禁じられ、最終的には成人した男性による『野郎歌舞伎』という形が定着しました。これが現代に通じる歌舞伎の姿です。

歌舞伎ブーム 西の藤十郎、東の團十郎

元禄年間(1688年~1704年)になると、これまでの野郎歌舞伎は終わりを告げ、今度は、江戸と上方(大阪・京都)で独自に発展を遂げていきます。

武士中心の町・江戸では、『荒事(あらごと)』とよばれる勇猛で力強い芸が好まれ始めます。

その中心となった江戸役者が初代・市川團十郎です。『立ち役(成年男子の役)』を得意とし、歌舞伎における荒事芸を完成させていきます。

一方、町人が集まる上方(大阪・京都)では、『和事(わごと)』とよばれる優美で細やかな芸が好まれました。

初代・坂田藤十郎はその中心的な役者で、やつし事(身分が高いのにみすぼらしい様にする)や、濡れ事、口説事といった役柄で地位を確立していきます。

2人の活躍とともに、歌舞伎の2大勢力が、歌舞伎界をどんどん盛り上げていきました。

團十郎が江戸歌舞伎の創始者

初代・市川團十郎は、貞享2年(1685年)のときに、『金平六条通(きんぴらろくじょうがよい)』で、勇敢で超人的な怪力を持つ坂田金平役を演じました。

これが荒事の始まりといわれ、現在まで受け継がれている歌舞伎は、團十郎が荒事を導入して完成させた『江戸歌舞伎』です。

團十郎は、江戸歌舞伎の創始者とされ、市川團十郎家の屋号である『成田屋』は、歌舞伎界の中でも別格とされています。

歌舞伎の醍醐味、見得

歌舞伎の醍醐味といわれる『見得(みえ)』について紹介します。歌舞伎の要所に出てくる見得の種類が分かると、歌舞伎がより楽しくなるでしょう。

見得といわれる決めポーズ

歌舞伎の『見得』とは、役者が動きを一瞬停止させてポーズをとることです。

感情の高まりなどを表現しており、首をぐるっと回すようにしてから、動きを止め、最後に睨む表情をします。こうすることで、役者の演技が一瞬クローズアップされるのです。まさに現代における、ストップモーション手法といえるでしょう。

この動作を『見得を切る』または『見得をする』といいます。見得と同時に、『附け打ち(つけうち)』という裏方の人々が、附けという木の板を「バタバタバタ」と鳴らし、場を盛り上げます。

歌舞伎の見得と附けの効果音は、切っても切れない関係です。この見得は、芝居において、最も重要な場面であることを教えてくれます。

見得の起源

見得は、照明などの舞台技術が発達していない時代において、観客を役者に注目させる工夫の1つとして生まれたといわれています。

昔の歌舞伎は、寺子屋や屋根のない場所で行っていたため、人々のガヤガヤとした声や歓声が大きかったのでしょう。附けの音が鳴り響き、役者が見得を切ることで、観客の目線が一点に集まるのです。

舞台技術や発達した現代においても、見得は同じような役割を果たし、歌舞伎の1つの醍醐味となっています。

こんなにあった!歌舞伎の見得の種類

見得は、ワンパターンではなく、芝居の場面や役者によって様々なものがあります。また1人で行う見得の他、複数の見得もあるのです。代表的な見得には以下のようなものがあります。

  • 元禄見得
  • 石投げの見得
  • 不動見得
  • 柱巻きの見得
  • 天地の見得

『元禄見得』は、初代・市川團十郎が生み出した荒事の典型的な見得で、左足を力強く踏み出し、左手には刀を握り、右の拳を後方に出す格好です。

『石投げの見得』は左足を上げ、頭上で右手をパッと開く姿勢のことで、『勧進帳の弁慶』が行うポーズとして知られます。

『不動見得』は文字通り、不動明王をまねた見得です。『柱巻きの見得』は、座頭俳優が用いる見得で、柱や立木をかかえ、片足をからませるポーズをとります。

また、2人の演者が上と下で同時にポーズをとる『天地の見得』もあります。

歌舞伎の表現 にらみとは

歌舞伎の表現といえば『にらみ』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。にらみがどのようにして生まれ、特別になったのかを解説します。

見得の中でも特別なにらみ

にらみとは、目を見開いてにらみつける目つきのことで、見得の1つとされています。そして歌舞伎ファンの中には、このにらみを、『特別なもの』・『ありがたいもの』として楽しみにしている人が大勢いるのです。

歌舞伎役者は全員にらみをすると思われがちですが、そうではありません。昔から、このにらみを披露する役者は限られていました。

なぜにらみが特別なのかを以下で詳しく説明していきます。

にらみは成田屋だけが唯一できる

『にらみ』は、代々、市川團十郎家(成田屋)のみに伝わっている伝統的な所作なので、他の屋号の役者は当然、にらみを披露することはありません。現在は、市川海老蔵のみができる見得となっています。

歌舞伎といえば、にらみをイメージする人が多いでしょう。昔から歌舞伎界において市川團十郎率いる成田屋の存在や影響が大きかったことを示しています。

にらみには厄落としのありがたさがある

江戸時代は、「團十郎に睨んでもらえば、一年間無病息災で過ごせる」ともいわれたほどで、にらみを利かせる團十郎を前に、ありがたさで手を合わせる人々もいました。

にらみは、歌舞伎の場面だけでなく、成田屋の襲名やご祝儀のときなどにも披露され、『邪気払いや厄除け』の意味があるといわれています。

にらみは目がポイント

にらみの最大の特徴といえば、不動明王のように大きく見開いた『目』です。『目力』という言葉がぴったりであるように、にらみに込められるパワーは相当なものです。にらみにはどのような意味があるのかを解説していきます。

ただの寄り目ではない

にらみは、見方によっては寄り目にも見えます。しかし、にらみのときの目は、左右がそれぞれ別の方向を向いているのがポイントで、決して寄り目ではありません。

右目が寄り目のときは左目が中央を向いていて、逆に左目が寄り目のときは右目が中央を向いているのです。つまり『片方の目だけが寄り目になっている』ということです。

そう考えると、このにらみは誰もが容易にできるわけではなく、役者の訓練の賜物といえるでしょう。

片目ごとの意味がある

にらみは、右目と左目が別の方向を向いていますが、それぞれに意味や目的があるといわれています。

たとえば、『天と地を同時に見渡す』・『光を受けるのではなく、光を放射させる』という意味や、視点を敢えて定めないことで、観客の多くに目を向けているように見せる目的などがあります。

歌舞伎メイクは表情を際立たせる効果

歌舞伎の独特のメイクは『隈取り』とよばれ、江戸時代から受け継がれてきたものです。

顔面の骨格や血管を誇張して描くのが特徴で、役柄や性格によって決まった形や色があります。つまり、表情を際立たせる効果や役どころを分かりやすくする目的があるのです。

隈取りの種類をいくつか紹介しましょう。まず、若く正義感のある男性役をあらわす『むきみ隈』は、顔を白塗りにし、目頭・目尻に赤い線を入れます。

力強い荒事の隈取りは、何本もの赤い線が特徴的な『筋隈』であらわされます。この赤い線が多いほど、血気盛んで、感情が激しい役柄であることの証拠です。

また、青い隈取りは『藍隈(あいぐま)』といわれ、血も涙もないような冷血で、且つ位の高い悪人に使われます。

歌舞伎の隈取にはこのようにそれぞれ意味があり、色やデザインも多種多様です。見得とセットで理解しておくと、歌舞伎のシーンに対する理解がよりいっそう深まるでしょう。

歌舞伎役者のメイクの意味とは。隈取の種類や体験方法をご紹介

にらみ以外にも代々伝わる家の芸に注目

歌舞伎の『にらみ』は市川團十郎家(成田屋)に代々伝わる所作です。このように、その一門だけで行われる所作や、個人が得意とする演技を『家の芸』といい、歌舞伎の醍醐味の1つとなっています。

それぞれの家に伝わる芸がありますが、ここでは、成田屋の家の芸で代表的な『歌舞伎十八番(かぶきじゅうはちばん)』を紹介します。

成田屋の歌舞伎十八番

成田屋の『歌舞伎十八番』は、7代目市川團十郎(当時は5代目海老蔵)が市川宗家のお家芸として選定した歌舞伎の演目のことです。

この演目は元々、初代・2代目・4代目の市川團十郎が演じ、得意とした『荒事芸』を集めたものです。

具体的には、『勧進帳・助六・鳴神・毛抜・解脱・嫐・関羽・鎌髭・暫・矢の根・景清・蛇柳・象引・不破・不動・押戻・七つ面・外郎売』の18の演目を指しています。

中には、内容が分からなくなってしまったものも含まれていますが、明治以降に創作が加えられ『復活上演』されています。

現代でも、得意な芸などを『十八番(おはこ・じゅうはちばん)』といいますが、この歌舞伎十八番に由来しています。

伝統芸能の技を知ってさらに歌舞伎を楽しむ

近年は日本の伝統文化や歌舞伎に注目が集まり、様々な世代が興味を持ち始めています。

歌舞伎を始めて鑑賞する人は、歴史や演目の内容、歌舞伎の基本的な動作について予習しておくと、より歌舞伎を楽しめるでしょう。またはイヤホンガイドを借りたり、無料のパンフレットに目を通したりして理解を深めるのもおすすめです。

舞台衣装、メイク、見得、にらみなど、歌舞伎のみどころは1つではありません。人によって目の付け所も異なります。ぜひ、細かい部分にも注目して、歌舞伎を存分に楽しみましょう。

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