日本には風呂文化が根づいています。自宅で気兼ねなく風呂に入るのも気持ちよいですが、銭湯でしか味わえない大浴場でゆったりするのもよいものです。そこで今回は、気軽に楽しめるおすすめの銭湯や、銭湯でのマナーなどを紹介します。
銭湯のよさとは
銭湯は、リーズナブルな料金で大きな風呂を満喫できる、風呂好きにはたまらない施設です。残念ながら銭湯は減りつつありますが、近年は銭湯の人気が高まっています。
数は減少も人気は増している銭湯
最盛期には東京都内に2600軒以上もあった銭湯ですが、2016年には約600軒にまで減少しています。
要因として考えられるのは、風呂つき住宅が一般化したことや、銭湯経営者の高齢化に伴う後継者不足などが挙げられます。
こうした時代の流れに揉まれ、多くの銭湯が廃業を余儀なくされた一方で、銭湯人気は逆に高まりつつあります。これは、家風呂が生活必需品ともいうべき存在になったからこその現象です。
日課として入浴するだけの家風呂に対して、現在の銭湯には、家風呂以上の癒しや娯楽が求められています。
つまり、身体を清潔にするという本来の役割以上の要素を求めて、銭湯に行く人が増えているということです。
機能や雰囲気など求められることはさまざま
一口に銭湯といっても、さまざまな雰囲気の銭湯が存在します。どの銭湯でも足を伸ばして、ゆったりと湯に浸かれることには変わりませんが、人によって銭湯に求めるポイントには違いがあります。
大きな傾向としていわれているのが、男性は機能やサービスを求め、女性は情緒を求めるという点です。
男性は、家風呂では味わえない炭酸泉や水風呂、サウナなどに魅力を感じ、女性は銭湯の建物やレトロな雰囲気に惹かれる傾向にあります。
しかし、人気のある銭湯は、男女を問わず支持されています。こうした銭湯は、古くても清潔であることや、さらなる人気を呼ぶための企業努力を惜しまないことなどが、特徴として挙げられます。
社会的な役割の見直し
庶民のための大浴場という以外にも、最近の銭湯は、主に3つの社会的役割を担っています。
まずひとつ目が、災害時の避難拠点となることです。脱衣所を休息スペースとして開放したり、貯水タンクの豊富な水を飲料水として活用したりなど、銭湯としての機能を、災害時に役立てることが期待されています。
次に、高齢者の見守りに貢献する役目が挙げられます。地域コミュニケーションの場となる銭湯だからこそ、高齢者が自宅に引きこもるのを防いだり、毎日通ってくる高齢者の異変を、いち早く察知したりすることが可能です。
そして近年、特に注目されているのが、銭湯の観光資源としての役割です。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、歴史ある銭湯の風呂文化を、アピールしていこうとする動きが活発になっています。
料金は一律
温泉は宿によって料金が異なり、サービス・施設料なども含めると割高なことが多いですが、銭湯の場合は地域ごとに一律料金となっており、温泉よりもはるかに安価です。
基本的には、都道府県ごとの公衆浴場組合が料金を設定しており、東京都の場合は大人(12歳以上)は460円で入浴できます。
ただし、休憩スペースで飲み物を買ったり、タオルや石鹸などをレンタルした場合は、その分追加で料金がかかります。
銭湯がもたらす効果
銭湯での入浴には、どのような効果があるのでしょうか。
身体がしっかり温まる
家庭サイズの小さめの浴槽で入浴するのに比べて、銭湯の大きな浴槽で入浴したほうが、体がしっかり温まるというデータが出ています。
その理由は、浴槽のサイズが大きいほど、湯からあがった後、皮膚温度が20~30分高く、保温効果が長く続くからです。
そのため、家の風呂と銭湯とでは、同じ入浴時間でも銭湯のほうがしっかり体が温まり、その結果肩こりや関節の負担の軽減などに繋がっています。
また、一般的に銭湯の湯の温度は42℃以上です。そこに薬湯やジャグジーなど、効率的に温まることができる機能が付加されていることも、家庭の風呂との大きな違いです。
大きな浴槽で心も体もリラックス
大きな浴槽は体がよく温まるだけでなく、心にもリラックス効果をもたらします。広い浴槽で湯に浸かることで、心身に対してプラスに働くα波という脳波が、多く出るようになるからです。
α波の占める割合が多くなると、体中の細胞が活性化します。さらに、脳の働きも活発化し、創造力や記憶力などが豊かになり、仕事の能率もアップします。
入浴に際してα波がもっとも多く放出するのは、銭湯のような広い浴槽に浸かって一息ついたタイミングです。また、大浴槽で入浴することで、お湯からあがった後も長時間α波が出続けます。
HSP入浴方法とは?
銭湯は、HSP入浴法を実践するのに最適な場所です。HSP入浴法とは、入浴して体温を上げることによって、HSP(Heat Shock Protein)というタンパク質を増やそうとする入浴方法を指します。
HSPが増えると、疲れが取れやすくなったり免疫力がアップしたりします。また、アンチエイジングや美肌効果、デトックス効果など、美容に嬉しいたくさんの効果が見込まれます。
HSP入浴法に最適な湯の温度は40~42℃で、入浴時間の目安は40℃であれば20分、42℃の場合は10分程度です。また、体を冷やさないために浴室内は温暖であるほうがよいとされています。
そのため、湯の温度が一定に保たれており、浴室内が暖かい銭湯は、家庭の風呂よりもHSP入浴法に適しているのです。
知っておきたい銭湯でのマナー
多くの人が利用する銭湯では、マナーにも気を遣わなければなりません。ここでは、銭湯に行く前に知っておきたいマナーを確認しましょう。
入浴のマナー
まず、湯に浸かる前にかけ湯をして、体の汚れを落としましょう。また、髪が長い人は、湯船に髪が入らないよう束ねてから入浴するのが基本です。湯に髪の毛が浮いていると、不快感を与えてしまうので気をつけましょう。
また、1人用の湯船を独占したり、お喋りなどをして他の人のリラックスタイムを邪魔したりしないようすることも大切です。
なお、子ども連れの場合は、子どもから目を離さないようにしましょう。
洗い場でのマナー
持参したシャンプーやタオルなどを洗い場に置いて、席をキープしようとするのはNGです。洗い場は席数が限られているので、使った後は速やかに次に利用する人に譲りましょう。
体を洗うときは、シャワーや泡が周囲の人にかからないよう配慮しましょう。また、手鼻をかんだり歯を磨いたりなども厳禁です。
洗い場を使い終わったら、椅子や桶などは簡単にすすいで元の位置に戻し、自分が出したゴミはきちんと回収しましょう。次の人が気持ちよく使えるよう、心配りをすることが大切です。
英語表記の注意書きもある
日本の風呂文化を象徴する銭湯は、外国人観光客にとっては、立派な観光スポットのひとつです。そのため、銭湯によっては、店内に英語表記の注意書きが貼り出されているところもあります。
海外にも銭湯はある
銭湯といえば日本独自のものと思われがちですが、海外にも存在します。
トルコの公衆浴場文化
トルコには、蒸し風呂を意味する『ハマム』という風呂文化が古くから存在します。ハマムではマッサージをしてくれるスタッフがおり、丁寧に体を温めて発汗させるのが特徴です。
トルコの公衆浴場は、単に入浴の場としてだけではなく、友人とお喋りをして楽しむ場としても利用されています。
アメリカではロサンゼルス周辺にスパが多い
アメリカの家庭の風呂は、シャワーと一体になっているものが一般的です。そのため、ゆっくりと湯に浸かって疲れを癒したいときには、ロサンゼルス周辺に点在しているスパを訪れるのがおすすめです。
日本の銭湯とは違い、24時間営業しているところも多いため、宿泊施設の代わりに利用することもできます。また、岩塩や紫水晶などを使った低音サウナ『チムジルバン』を併設した韓国スパが多いのも特徴です。
また、お酒が飲めるスパや高級志向のスパなど、幅広いニーズに対応しているスパがたくさんあるので、お気に入りの一軒を探してみるのも楽しいでしょう。
ドラマでも使われた東京の人気銭湯を紹介
東京都内の銭湯の中には、ドラマの撮影場所として使われたところもいくつかあります。どの銭湯に行こうか迷ってしまう人は、名物銭湯を訪れてみるのもよいでしょう。
黒湯で有名な蒲田温泉
源泉から湧き出た黒湯で有名な『蒲田温泉』は、昭和12年創業の老舗銭湯です。入浴すると足先が見えなくなるほどの黒い湯は、神経痛や筋肉痛などに効くだけでなく、湯あがりの肌をしっとりサラサラにしてくれます。
45℃以上の熱湯風呂や電気風呂など、バラエティに富んだ風呂が魅力的です。また、昭和の古きよき風情を醸し出す宴会場で、手作り料理を堪能するのもおすすめです。
- 施設名:蒲田温泉
- 住所:東京都大田区蒲田本町2-23-2
- 電話番号:03-3732-1126
- 営業時間:10:00~翌1:00
- 定休日:なし(平日の水曜日のみ2Fの大宴会場が利用不可)
- 公式サイト
富士山のペンキ絵がレトロな鶴の湯
『鶴の湯』は、かわら屋根の重厚な渋みが感じられる外観に違わず、建物内も正統派の銭湯です。
昔ながらの番台式で、脱衣所にはテレビを見ながらくつろげるソファや黒電話があり、レトロな雰囲気が感じられます。
浴室の壁には、銭湯の定番である富士山が描かれており、湯に浸かりながらしみじみと眺めているだけで、ゆったりとした気分を味わえます。薬湯やボディマッサージ風呂のほかに、銭湯としては珍しく露天風呂があります。
- 施設名:鶴の湯
- 住所:東京都江戸川区北小岩7-4-16
- 電話番号:03-3658-5378
- 営業時間:15:00~24:00(受付は23:30まで)
- 定休日:水曜日
- 公式サイト
日本庭園が素晴らしいタカラ湯
昭和2年創業の『タカラ湯』の魅力は、男湯から眺められる美しい日本庭園です。瑞々しく茂る緑に黒々と濡れた石畳、池には色鮮やかな錦鯉が泳ぎます。
浴室内は、淡い桃色のタイルに薄く描かれた松の木が、壁には堂々たる富士山が描かれており、店主の美的センスが伺えます。また、天井が高いため解放感も抜群です。
ゆっくりと湯に浸かりながら、美しい庭園やこだわり抜かれた建築美を堪能でき、目にも身体にも心地よい銭湯です。
- 施設名:タカラ湯
- 住所:東京都足立区千住元町27-1
- 電話番号:03-3881-2660
- 営業時間:15:00~23:30
- 定休日:金曜日
- 公式サイト
大阪で銭湯に行くなら
食い倒れの街大阪で美味しいものを楽しんだ後に、銭湯でゆっくりと心身ともにリラックスするのもよいでしょう。ここでは、大阪でおすすめの銭湯を紹介します。
有形文化財にも指定されている源ヶ橋温泉
『源ヶ橋温泉』は、国指定の有形文化財に登録された和洋折衷の建物で有名です。屋根上にある自由の女神像は、入浴とニューヨークをかけたシャレで、大阪らしさを感じさせます。
電気風呂や漢方薬風呂、スチームサウナなど、さまざまな種類の風呂が揃っているのが特徴です。種類の違う風呂をゆっくりと楽しみたい人におすすめの銭湯です。
- 施設名:源ヶ橋温泉
- 住所:大阪府大阪市生野区林寺1-5-33
- 電話番号:06-6731-4843
- 営業時間:15:00~24:30
- 定休日:月曜日
- 大阪府公衆浴場組合の公式サイト
昔ながらの風情が楽しめる第二末広湯
『第二末広湯』は、戦時中から地域に寄り添ってきた歴史ある銭湯です。女湯の木製ロッカーや脱衣所のプロペラ扇風機など、昔ながらの銭湯らしいアイテムを随所で目にすることができます。
レトロなタイル絵が出迎えてくれる浴室内を進むと、御影石浴槽内で1960年代ものの気泡発生器が、今でも活躍しているのが見られます。
- 施設名:第二末広湯
- 住所:大阪府大阪市淀川区新高5-7-19
- 電話番号:06-6391-5266
- 営業時間:15:00~22:00
- 定休日:【冬場】日曜日、木曜日/【夏場】日曜日
今も湯鉢の残る万代湯
『万代湯』は、床も浴槽も石造りとなっており、浴室内に一歩踏み入れると、一昔前の大阪の銭湯にタイムスリップしたかのような感覚が味わえます。
浴槽周りには、湯を汲んで体を流すための『かて』と呼ばれるへりがついています。また、湯からあがる際の、身体を清める用の湯を貯めておく『湯鉢』も用意されています。
どちらも大阪の昔ながらの銭湯でよく使われていましたが、今ではとても珍しいものとなっています。また、浴室奥の岩風呂では、ラドン湯を堪能できます。
- 施設名:万代湯
- 住所:大阪府大阪市住吉区万代6-9-26
- 電話番号:06-6672-0071
- 営業時間:15:30~23:30
- 定休日:金曜日
京都で銭湯に行くなら
京都といえば温泉宿のイメージがありますが、手軽に行ける銭湯もたくさんあります。
ここでは、京都でおすすめの銭湯を紹介します。観光の合間に訪れて、ゆっくりするのもよいでしょう。
源泉掛け流しの天翔の湯
『天翔の湯』は、源泉かけ流しの天然温泉が満喫できる銭湯です。温泉は薄茶の濁り湯で、筋肉痛の緩和や疲労回復などの効能があります。風呂は、ジェットバスや電気風呂などのほかに、露天風呂もあります。
- 施設名:天翔の湯
- 住所:京都府京都市右京区西京極大門町19-4
- 電話番号:075-316-2641
- 営業時間:14:00~翌1:00
- 定休日:火曜日
- 公式サイト
健康ランド並みの五香湯
『五香湯』の魅力は、健康ランドに引けを取らない充実した設備です。銭湯の定番である薬湯や岩盤浴はもちろん、泡風呂や超微細気泡によるミルキーバスなど、普通の銭湯にはない風呂が揃っています。
そして、待合室や広々とした飲食スペースのほかに、指圧マッサージロボットや治療用マッサージチェアなども設けられており、風呂あがりの休憩もゆっくりできます。
- 施設名:五香湯
- 住所:京都府京都市下京区黒門通り五条上ル柿本町590-12
- 電話番号:075-812-1126
- 営業時間:平日14:30〜24:30 、日曜日7:00〜24:00、祝日11:00〜24:00(変更の場合有り)
- 定休日:月曜日、第3火曜日
- 公式サイト
ジェットバスが名物の鞍馬湯
『鞍馬湯』がある伏見は、名水の地として有名です。この伏見の天然水を使った鞍馬湯は、湯あがりの肌がしっとりと潤い、さらに保温効果が長く続きます。
名物の風呂は、エステ・マッサージ効果のあるハイパワースーパーソニックジェットバスです。
きめ細かい泡がパチパチと弾けて、肌をきれいにしてくれます。美肌効果に特化した銭湯を探している人におすすめです。
- 施設名:鞍馬湯
- 住所:京都府京都市伏見区大津町730
- 電話番号:075-611-1393
- 営業時間:15:30~22:00
- 定休日:月曜日
- 公式サイト
銭湯で身体も思考もリフレッシュ
古くから日本の風呂文化の中核を担ってきた銭湯ですが、現代では、単に身体を清潔にするためだけでなく、娯楽や癒しが求められる場所になっています。広い湯船に浸かって一息つけば、心身の疲れもほぐされるでしょう。