奥が深い能面の世界。基礎知識から作り方や種類まで詳しく紹介

2019.05.14

『能』と聞いて真っ先に思い浮かぶのが生々しい無表情をかたどった仮面、『能面』でしょう。「能面のような顔」といった表現があるように、能面は「無表情」の代名詞的に扱われていますが、実は多様な表情と意味があるものなのです。この記事ではそんな能面について解説します。

能面とは

日本の工芸品としても名高い能面。その使用用途は、能の登場人物をわかりやすくするというものです。能楽師は役割や曲目によって様々な能面を付け替えて印象を変え、多種多様な役をこなします。基本的には『神、男、女、狂、鬼』の5役で付け替えられるのが定番です。

また能面の歴史は古く、最初は鎌倉時代の春日大社で使用されたのが始まりといわれていますので、その歴史はおよそ800年ということになります。古い時代に作られたものの中でも、出来が良く歴史的に価値があるものは「国宝」として厳重に保管がなされています。

能面ができるまで

基本的に面打ち師の手作業で作られる能面。その工法は数多くの名匠によって確立され、受け継がれてきました。展示などで見ることができる国宝の能面は、芸術品としても非常に完成度の高いものです。

機械技術はもちろん、プラスチックなどの材料もない時代に、面打ち師はどのような方法で能面を打っていたのでしょうか?ここからは能面ができるまでについてを詳しく解説します。

能面の素材

気になる能面の素材は、当然ですが『木』となっています。

木の中でも、主に「硬く、軽く、変形しにくい」という特徴を兼ね備えているヒノキが使われています。その理由は、薄い椀状の形をしている能面の性質上、変形などが起こってしまうと表情が変わり、使い物にならなくなってしまうためです。なお現代においては木材を専門に取り扱う業者が、能面制作用のサイズに切り出したヒノキを販売しています。

能面を作る手順

能面を作る手順は以下のようになっています。

  1. 木材彫り、面を形成する
  2. 着色
  3. 完成

これだけを見ると非常にシンプルな工程ですが、それゆえに1つ1つの作業に細心の注意を払う必要があります。面を掘る工程では、寸分の歪み・へこみも許されないため、非常に細かいノミさばきが必要であり、能面師は細部までの掘り込みのために大きさが少しづつ違うノミを大量に使いこなします。

彫り終わった後の着色は、面打ちの中でも特に細心の注意を払う工程かもしれません。この工程で失敗してしまうと、せっかく彫ったものでも使い物にならなくなってしまいます。着色料には『胡粉』など、現在ではあまり使われていない天然由来のものが使用されており、独特のツヤや発色を生み出しています。

能面での感情表現方法

コレといった表情は無いにも関わらず、たった1枚で様々な表現を演出する能面。展示などで能面を見た経験がある人は、見る瞬間や角度によって違う印象を受けたことはないでしょうか?

実際に能面が持つ表情の力は、現代でも研究がなされるほど、不思議で謎の多いものとなっています。能面の魅力について掘り下げるため、ここからは不思議な能面の感情表現方法について詳しく解説します。

能面は無表情?

全く表情が変わらない、読めない人のことを「能面のようだ」と表現するほど、能面の顔には『表情がない』とされています。しかし実際に能を鑑賞してみると、まるで能面が生きているかのように様々な感情を表現しているように見えてきます。これは光の加減とみる角度で、印象が移り変わるように作られているためなのです。

この能面の作りについて、名古屋大学と東京大学のチームによる研究があります。研究では「能面の顔のパーツはそれぞれが違う情動を持っており、さらに角度によってその情動が変化する」という分析がなされました。口や目、眉といったそれぞれのパーツが、それぞれ別々に喜びや悲しみの表情に見えるようになっており、だからこそ見る角度・見るタイミングによって様々な表情をくみ取ることができるということです。

無表情でありながら多種多様。能面はその顔に複雑な矛盾を秘めているのです。

能面の感情表現。テルとクモル

能面においての感情表現。前述にもある通り、能面はみる角度などによって多種多様な表情を表現します。その中でも明確に使い分けがされているのが『テル』と『クモル』です。

照りと曇りになぞらえたその表現方法は、喜びを表現する際に能面を上に傾けるのがテル、反対に悲しみなどを表現する際に下に傾けるのをクモルと呼称します。能面を傾けるだけで一気に表情が変わる瞬間は圧巻です。

能面の種類

数多くある能面の種類。一般的に知られているものは白い顔にお歯黒を塗った女性の能面や、彫り深くおどろおどろしい顔つきの鬼『般若』の能面でしょう。

しかし、これらの他にも基本的なもので約60種類、特殊なものを入れれば約200種類以上の能面が存在します。果たしてどのような表情、役割を持った能面が存在しているのか気になるかと思います。そこでここからは、そんな能面の種類について解説します。

能面は大きく6つに分類される

数多くある能面の種類は、大きく6種類の系列に分類できます。それぞれが曲目の中で重要な役割を果たすものであり、進行とともに移り変わっていくように設定されています。この設定は演じる流派、家元で変わることが多く、同じ曲の同じ場面でも全く違う能面を使う場合があるのです。

爺(おきな)は能の他に神様に奉納する『神楽』などにおいても使われることがあります。その顔つきはどこか人間離れした老人であり、基本的に整ったヒゲ、余裕を感じるおおらかな笑みを浮かべているほか、能面の中で唯一上下でパーツが別れているのが特徴です。

尉面

尉面(じょうめん)は翁面と同様に老人を模した顔つきの能面です。翁との違いは、尉面の方がやや痩せ型で感情は無表情に近く、頰の痩け方が非常にリアルな人間味あふれる作りになっている点です。神聖な雰囲気もあるため、流派によっては翁と同じ配役で使われることもあります。

鬼神面

鬼神面(きじんめん)は、地獄からの使者などといった怪物を表現している面です。現代の『鬼』のイメージとは少し異なり、ツノが生えているものは少なく、より人間らしい風貌と役回りとなっています。

怨霊面

怨霊面(おんりょうめん)は能面の中でもっとも恐ろしい顔つきをしています。『般若(はんにゃ)』もこの一種で、死霊などの恐怖心を煽る存在としての役割を担います。ちなみに怨霊面にはそれぞれ性別があり、般若は「嫉妬により怨霊となった女性」とされています。

女面

女面は、文字通り女性を表す面です。「能面」と言って多くの人が想像する女性の面、『小面(こおもて)』もこれに含まれます。小面は厚い白粉(おしろい)の独特の発色で、見る人を魅了します。顔つきなどは様々ですが、年齢によってシワの寄り方や髪の毛の質感なども大きく変わってくるのが特徴的な能面です。

男面

男面は男性の顔の能面です。女面に比べて輪郭がしっかりしており、薄い顔つきながらも男性らしさを感じる作りとなっています。武将や貴族など、位の高い男性の役が使用することが多い能面です。また有名な武将を演じる場合などでは、その登場人物専用の能面が作られることもあります。

能面の魅力を知ろう

無表情で恐ろしいイメージの能面ですが、その歴史や繊細な表現方法を知るとイメージが大きく変わります。能面は1つで多くの表情を表現でき、それを最大限に生かす能楽師の手腕によって、何通りもの演出が可能になるのです。ぜひ能面師がその手1つで作りあげる珠玉の能面と、能楽師による能面を使った優美な演出を、ぜひ生で見てみてください。

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