狂言師の世界に浸る。能や歌舞伎との違いや人気の狂言師を紹介

2019.05.07

日本独自の文化が生んだ舞台芸術『狂言』。演じる方は「狂言師」と呼ばれています。彼らが持つエンタメ性と気品溢れる立ち回りは、長い時間をかけて生み出された伝統であるのと同時に、狂言師個人の才覚によるものです。近年、世界的にも話題になることが多い日本の伝統芸能の中でも、彼らの存在は必要不可欠なものでしょう。本稿ではそんな狂言師について詳しく紹介していきます。

狂言師とは

狂言の演者であり、その全てを担っているといっても過言ではない狂言師の存在。近しいジャンルである歌舞伎などと比べ、あまり馴染みのない人が多いことでしょう。

狂言は予備知識なしで観にいっても十分に楽しむことができますが、やはり狂言師のことについてあらかじめ知っておいたほうが、狂言をより一層楽しむことができるはずです。そこでここからは狂言師の実態を知ると共に、同じく伝統芸能演者である『能楽師』と『歌舞伎役者』との違いについて解説していきます。

狂言師と能楽師の違い

能楽師とは、文字通り『能楽』を演じる役者のことを指します。この能楽とは、「能と狂言」を包含した言葉であることに注意しなければなりません。つまり厳密には能楽師と狂言師とは別物ではなく、能楽師と呼ばれる役者の中の一役割として狂言師がいるということになります。それでは能と狂言はどのように異なっているのでしょうか?

この違いは、一つには「題材」に見て取ることができます。狂言はその演目の多くが庶民の日常を切り取ったコメディであるのに対し、能は歴史上の人物にまつわる悲劇的な逸話がメインとなってきます。狂言の演目では仮面を被ることが少ないのに対し、能楽師は特徴的な仮面を被って武将や帝、あるいは神を演じます。

演じる際の言葉遣いなども大きく違い、基本的に会話劇である狂言では、時代劇などでおなじみの『ござる』言葉で展開するのに対し、決まった楽器による演奏と歌がメインとなってくる能では特徴的な声色で『候』言葉で展開します。

このように能と狂言は様々な点で異なっています。能が『陰/静』のイメージであるのに対し、狂言が『陽/動』のイメージであるととらえることもできるでしょう。

狂言師と歌舞伎役者の違い

狂言や能と同じ日本の舞台芸術である歌舞伎。演じる方は「歌舞伎役者」と呼ばれます。その始まりは江戸時代であるとされ、奈良時代に端を発する狂言や能に比べると新しいものです。能と狂言はともに『猿楽(さるがく)』と呼ばれる古典舞台芸術から派生したもので共通点が多いのに対し、歌舞伎は全くの別物と言っていいでしょう。

狂言と歌舞伎の違いを紐解く一つのヒントとして、それぞれが「想定している客層」の違いがあります。江戸時代、城内や神社で行われる神聖かつ厳格なものだった狂言や能に対して、歌舞伎は庶民に親しまれる『大衆芸能』でした。

大勢の人を相手にする歌舞伎は、多くの舞台装置や奇抜な衣装・化粧を駆使し、大衆を楽しませることを目的に発展してきました。演目も、英雄譚や庶民の恋愛模様・人情話など多種多様なものです。一方、少人数かつ比較的身分の高い客を相手にする狂言は、派手な演出や細工を用いることは少なく、洗練されたシンプルな演出で人を笑わせる「喜劇」として発展していきました。

狂言師が演じる狂言の登場人物

狂言における役柄には、様々な種類が存在します。基本的には『仕手(シテ)』と呼ばれる主人公と『挨答(アド)』と呼ばれる相手役を軸に物語が展開されていきますが、こうした呼称よりもむしろ後述する役名で呼ばれることの方が多いでしょう。

細かい役柄とその立ち位置を知ればさらに狂言を楽しむことができるようになります。ここからはそんな狂言師が演じる登場人物について詳しく解説します。

太郎冠者(たろうかじゃ)

太郎冠者は後述する大名役などと一緒に登場することが多い役柄です。主に召使いの長としての役割を果たしており、その人柄は意地悪であったり優しかったり、賢かったり間抜けであったりと曲目によって様々です。狂言の中ではもっともポピュラーな存在であり、260ある曲目の中で48目が太郎冠者メインのものになっています。

主(しゅう)

主は前述した太郎冠者の主人に当たる役柄です。身分の高さを示すために衣装の袴は引きずるほど長く、太郎冠者と共に登場することが多いです。基本的に太郎冠者に命令を下す場面が多いですが、その内容は毎回わがままであったり、おもわず笑ってしまうようなものであったりと、笑いのタネになる役割を果たします。

大名(だいみょう)

大名は狂言に登場する登場人物の中でもっとも位の高い役柄です。その格好は時代劇で登場するようなものではなく、室町時代の侍らしく烏帽子をかぶった身綺麗な佇まいです。主よりも偉く立ち振る舞いも横暴な曲目もありますが、その性格は滑稽で間抜けな面が強調されることが多く、太郎冠者などに騙されて失敗してしまうこともしばしばです。

狂言師になるには

魅力溢れる伝統芸である狂言とそれを演じる狂言師。彼らの演技を見ているうち、職業として興味が湧いた方もいるかもしれません。他の伝統芸能と同様、狂言師の世界も世襲制が通例となっており、一般の方が狂言師になることは例外的と言っていいでしょう。

しかし必ずしもなれないというわけではなく、覚悟を持って正式な手順を踏んだ上で努力を重ねれば、狂言師になることができます。ここからはそんな狂言師になるための方法を解説します。

狂言の養成学校に入る

狂言師になるためには、まず日本芸術文化振興会が運営する『国立能楽堂』の研修生になる必要があります。1984年の募集開始以来、総勢27名の卒業生が能楽の世界に足を踏み入れています。入学資格は「中学卒業以上23歳以下」となっており、作文、実技、面接によって選考が行われます。

研修期間は6年間で、能楽の世界における専門的な授業を受けることができます。前半の基礎研修、後半の専門研修を全て終えると無事に『能楽協会』への入会をすることができるのです。授業料は無料となっており、教材なども支給されるため金銭的な心配は少なく研修を受けることができます。応募要項は公式サイトで公開されているため、興味のある方はぜひチェックしてみてください。

公式サイト

流派に弟子入りをする

狂言師になる方法として1番シンプルなのは「直接弟子入りする」というものです。前述した国立能楽堂の研修生として能楽の世界に入る方法が常識的ですが、自ら狂言師の元に赴き、弟子入りを懇願する方法も決して不可能ではありません。しかしこの方法には狂言師の方としっかりとしたアポイントメントが必要となるため、業界に通ずる人脈が必須となってきます。

狂言師に女性はなれるの?

基本的に男性中心である能楽の世界。「歌舞伎などと同様に女人禁制なのでは」と思う方もいるでしょう。もともとは女人禁制とされていましたが、現在では能楽の世界において女人禁制を敷いている流派はむしろ少数派であり、完全に閉じられた道というわけでもありません。数は多くはないですが、実際に女性で狂言師になっている方もいます。

実際に女性狂言師になられた方に、和泉元彌さんの姉であり史上初の女性狂言師である『和泉淳子(いずみじゅんこ)』さんがいらっしゃいます。伝統を重視しながらも、このような開かれた一面があることも、狂言の一つの魅力でしょう。

有名な狂言師を紹介

ここまでは狂言師のあれこれについて詳しく解説してきました。ここからはそんな狂言師の中でも、世界規模で知らない人はいないであろう著名な狂言師を3人紹介していきます。

和泉流狂言師・野村萬斎

『野村萬斎(のむらまんさい)』氏は和泉流の名門である野村家に生まれた狂言師です。本業である狂言師としての活動をする傍らで俳優業なども営んでおり、狂言師特有の豪快な発声方法や高い演技力などが世界的に評価されています。近年では映画作品などにも出演し話題となっている人物です。

大蔵流狂言師・茂山宗彦

『茂山宗彦(しげやまもとひこ)』氏は大蔵流の家元である茂山家の狂言師です。名門に生まれ3歳で初舞台に立った生粋の狂言師であり、実弟や従兄弟も同じく狂言師として活動しています。2019年現在は狂言師としての活動に専念していますが、俳優としての活動歴もありますので、狂言に興味がなくても知っている方がいらっしゃるかもしれません。

大蔵流狂言師・五世 茂山千作

『五世 茂山千作(しげやませんさく)』氏は江戸時代から続く大蔵流の名家である茂山家の名跡の5代目です。人間国宝である父『四世 茂山千作』の才能を十分に継承しており、御年74歳ながら今だに衰えを知らない声量を生かした大迫力の演技が魅力の狂言師です。

狂言師のことをもっと知ろう

メディア露出が少なく知る機会が少ない狂言師のことですが、知れば知るほど魅力的な職業です。能楽の世界は厳格なイメージとは裏腹に、人々に寄り添ってきたものなのです。この記事を参考にぜひ狂言の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。

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