デザインとは何かを考える。ビジネスシーンにおけるデザイン思考

2019.03.07

『デザイン』という言葉の定義は非常にあいまいで、難しいと感じるのではないでしょうか。ビジネスにおいてもデザイン思考やデザイン経営という概念が注目されています。デザインとは何か、またビジネスへの適用方法をまとめて紹介します。

デザインとは?

『デザイン』とは、日常でもよく使われる大変身近な言葉です。改めてその意味をまとめてみました。

デザインの意味

まずは、デザインの意味を知っておきましょう。

辞書で調べてみると、三省堂の大辞林では『作ろうとするものの形態について,機能や生産工程などを考えて構想すること。意匠。設計。図案。』と書かれています。

抽象度が高いですが、読むと納得はできるでしょう。もう少し具体的にすると、作ろうとするものの対象として、洋服・絵画・建物・機械・ウェブサイトなどをイメージするとわかりやすいでしょう。

また、それらの機能や工程について考えることだけでなく、その結果としてのアウトプットもデザインと呼ばれます。

さまざまな分野で使われるデザイン

上記で例に出したように、デザインという言葉はあらゆる場面で使われます。

仕事のシーンで考えると、製造業などではデザインを製品の意匠として使用します。製造業においては、自社の製品デザインこそが要となり、非常に重要です。

また、広告業界でもデザインは重要で、顧客獲得などの目的を達成するためにも利用されます。商品やサービスの魅力を伝えるために制作されるクリエイティブ、またその作業のことを表します。

ほかにもアパレル業界、建築業界をはじめ、あらゆる分野でデザインは大切な役割を担っています。

アートとデザインの違い

次に、デザインと同じようなイメージを持つ人も多いであろう『アート』についてまとめてみました。デザインとの違いも確認しておきましょう。

アートは表現を意味する

まず、『アート』を三省堂の大辞林で調べると『特殊な素材・手段・形式により、技巧を駆使して美を創造・表現しようとする人間活動、およびその作品。』と書かれています。

つまりアートとは、何かを表現するためのものということができます。

アートの目的は、あくまでも伝えたいことを表現するためであり、何の制約も受けず、利益を求めることでもありません。アートは、主観的なものでよいのです。

デザインは問題解決に用いられる

一方で、デザインは前述のように、何かを伝えるために行われるものですが、表現することよりも伝えることに焦点が置かれます。

つまり、適切に意図したことが伝わらなかったり、伝えることによって達成したい目的が達成できなかったりでは意味がありません。ビジネスでいうと、顧客獲得や商品購買につながらなければ失敗ともいえます。

目的をもって、その目的達成のための問題解決としてデザインは用いられ、アートとは異なり、客観的である必要があるのです。

境界線があいまいな部分もある

アートは表現すること、デザインはその先で問題解決することに重きが置かれているということですが、その二つに明確な境界線はありません。

アートの結果として、意図したことを適切に受け手が感じ取ることで問題解決につながれば、それは結果的にデザインということもできるのです。

また、職業としてもアーティストとデザイナーの両方が存在します。アートは0から何かを生み出す人、デザイナーは目的達成のためにあらゆる制約の中で何かを生み出す人ということになります。

しかし、先ほど例で示したようにアーティストとしての活動がデザインとなることもあれば、逆に優れたデザインはアートの領域に達することもあります。問題解決もしながら、自分の心を表現し、人の心を動かしてしまうのです。

ビジネスシーンにおけるデザイン

最近では、デザインの概念や考え方を、ビジネスに適応するためのビジネス書も多く出ており、『デザイン思考』という言葉が話題になっています。

デザイン思考とは

『デザイン思考』とは、製品やサービスをよりよいものへと昇華させるために用いる思考法です。

これまでにある物事の枠組みにとらわれず、ユーザーの視点に立ち、ユーザーのニーズを理解することからはじまるのがデザイン思考です。ニーズを捉えることができれば、それに対する解決策もいろいろと発見できます。

デザイン思考では、見つけ出した解決策に優先順位を決めて実行していきます。

つまり、デザイン思考はデザイナーのように物事を考えることでありながら、デザイナーだけが使う思考法ではないわけです。デザインに限らず、問題解決の手段を考える時にも役に立つのです。

デザイン思考の定義

デザイン思考とは、ユーザー目線で製品やサービスの課題を見つけ、その解決策に対する仮説を立てることを指します。定義は、人によって異なりますが、抽象化するとこのように要約されます。

一つ意識しておきたいのは、デザインすることと、デザイン思考は同じではないということです。ユーザーの課題を解決するために行う施策の一つとして、デザインをすることはあっても、デザインはデザイン思考の一部にすぎないのです。

デザイン思考は問題解決のプロセス

デザイン思考は、問題解決の手段を考える際の思考法と説明しました。

これについては、ハーバード大学デザイン研究所のハッソ・プラットナー教授が提唱している『デザイン思考の5段階』を見ると、より理解しやすいでしょう。

5段階の一つ一つは奥深いので、詳しくは後述し、ここでは概念のみを紹介します。

  1. Empathise(共感):ユーザーの行動を理解し、ユーザーの目線に立って考えること
  2. Define(定義):ユーザーのニーズや課題をはっきりと定義すること
  3. Ideate(概念化):解決策の仮説をより多く排出すること
  4. Prototype(試作):前段階で出した課題への解決策の試作に取り組むこと
  5. Test(テスト):試作でユーザーに対してテストを行い、適宜改善を繰り返すこと

この5段階はおおよそこの時系列で進められます。ただ、必要に応じては前のプロセスに戻って定義や概念を考え直することもあります。

実は、この行動こそが大切なのです。先入観を捨ててユーザーの心理をひもときながら試行錯誤することでよりよいデザインを生み出して行くのです。

デザイン思考が必要な理由

デザイン思考がこれほどまでに取り上げられているのは、現代のビジネスに必要とされているからにほかなりません。いまやビジネスマンとして必須スキルといえます。

過去のビジネス

パソコンやインターネット・スマートフォンの誕生によって、情報収集の難易度が下がり、物に関する情報も得やすくなりました。

現代人は、あらゆる物を手に入れることができていて、どうしても手に入れたい物というのが少なくなりつつあります。

技術革新によってさらに便利なものが日々生み出されてはいるものの、実は今あるものでも十分に満足感を得ているともいえるのです。

数十年前を振り返ると、物への憧れが強く、新たな物が発売されるたびに人々はそれを求めていました。

携帯電話でいうと、ポケベルから電話機能のついたガラケー、さらにカラー液晶、カメラやインターネット・動画・着メロなどと進化し、人々はそのたびに新たな機種へ買い換えていました。

つまりビジネスでは、新たな機能をつけることで未来を感じるものを発売すれば、売れる時代だったのです。

現代におけるビジネス

最近では、スマートフォンで調べれば世界中の情報に触れることができ欲しい情報が簡単に手に入ります。また、物も十分に満たされているので、ユーザー行動は本当に欲しいものだけを厳選して選ぶという方向に変化しました。

新たなものを発売しても、ユーザーは十分に満足しているので売れなくなってしまったといえます。

ユーザーの視点に立つビジネス思考

そこで重視されているのが、ユーザーの視点に立ち『どんなユーザーの、どんな課題を、どうして解決するのか』をしっかり考えることです。

『ユーザーファースト』という言葉もよく用いられますが、ユーザーを第一に考えて、製品やサービスをしっかりデザインすることが求められています。

デザイン思考を構成する五つのプロセス

先ほど少し触れましたが、デザイン思考の五つのプロセスを掘り下げてみましょう。これらを理解することで、日常のビジネスにも生かすことができます。

ユーザーを理解する

デザイン思考の出発点は、何といってもユーザーをしっかり理解することです。常にユーザーの視点で物事を考えることで、本質的な課題に気づくことができます。

具体的には対象となるユーザーへインタビューを行います。ユーザーインタビューも単に質問を並べると、期待する回答へ誘導してしまいがちです。

目的はユーザーを理解することなので、あくまでもユーザーが自主的に話してくれるような質問の仕方をする必要があります。必ずしも1人のユーザーを対象として行う必要はなく、ユーザーを集めて座談会形式で行うことも多いです。

問題点を見つける

ユーザーの声を聞いていると、ユーザーが抱えている課題が見えてきます。それに対して、さらに詳しく、またなぜ困っているのかを把握するため、質問を繰り返します。

このプロセスを通して、ユーザーと課題の定義を行います。

場合によっては、自分たちが持っていたユーザー像と解決しようとする課題が存在しないという結論に至る場合もあります。

はじめは受け入れにくいかもしれませんが、ユーザーの声が真実です。よい情報収拾になったものとして、別のユーザーや課題を探しましょう。

解決法となるアイデアを出す

ユーザーとその課題の定義が終われば、次はその課題の解決策を考えていきます。

まずは、アイデアレベルでよいので「これは違うかな」と考えずに、思いつく限り出し切ることが大切です。仮説を出し切ることに意味があるので、このプロセスはとくに複数人で行うと生産的でしょう。

試作にとりかかる

アイデアが出たら、前段階で出た解決策の仮説を実行し、仮説検証を繰り返していきます。一度で完璧なものを作ろうとせず、まずは必要最低限の試作でよいです。

前段階では課題の解決策をたくさん出していますが、全てを一度に実行するということではありません。たくさん出した解決策のアイデアの中から、精査して、より優先度の高いものから実施しましょう。

検証しながらブラッシュアップする

試作ができたら、さらに精度の高いものへと昇華すべく、ブラッシュアップを重ねます。

特定のユーザーを対象に実際に製品やサービスを利用してもらい、ユーザーインタビューを行うことで仮説検証と改善を繰り返します。

デザイン思考の活用パターン

実際にデザイン思考を活用された事例を紹介します。世の中でヒットしている製品やサービスでも活用されているのです。

AppleのiPod

iPodは携帯型のオーディオプレーヤーで、2001年に初代モデルが発売され、その後も多くのモデルでヒットし続けているAppleの人気商品です。

そんなiPodの開発は、社内外のデザイナー・心理学者・人間工学者などからなる35名のチームで行われました。期間はわずか11カ月と、非常に短期間であったといわれています。

まずは競合製品の機能・価格、それらのどこがユーザーに支持されていて、どこに課題があるのかの分析と、ユーザーがどういう時に、どんな場所で音楽を聞くのかなどの調査が行われました。

その中で、開発チームは「どこでもその場で選んだ音楽を聴きたい」というユーザーニーズを発見しました。当時のオーディオプレーヤーは、あらかじめCDとパソコンを用いて、音楽をプレーヤーにうつすという作業が必要だったのです。

「すべての音楽をポケットに入れて持ち運ぶ」というコンセプトが確立され、それをもとに製品のさまざまなアイデアが生み出されました。

約2カ月間で100以上もの試作が作られ、徹底的にユーザーの視線に立って、改善が繰り返されました。そして発売されたiPodは、世界的なヒットとなりました。

任天堂のWii

Wiiは、日本が世界に誇る任天堂から販売されている家庭用のゲーム機です。

任天堂では自社の社員を通して行った調査で、ゲーム機が親子関係を悪化させる原因となっており、子どものリビングでの滞在時間が短くなるという問題を発見しました。

そこで「家族で楽しむことができるゲーム機」というコンセプトのもと、さまざまなアイデアの仮説が出さました。

家族がみんなで使えるようにリモコンのようなコントローラー、リビングに置いていても邪魔にならない小さなゲーム機といったアイデアが出されたのです。

これらのアイデアをもとに、1000回以上の試作が作られ、重さや形状など細かな改善が繰り返されました。こうして2006年に発売されたWiiは、大人気の家庭用ゲーム機として多くの家族に、新たな楽しみを与える製品として人気を獲得しています。

デザイン思考だけでなくデザイン経営も必要

会社経営にもデザイン思考を取り入れようとする『デザイン経営』も注目を集めています。その背景やデザイン経営とはどういうものなのかを紹介します。

デザイン経営とは

17年に経済産業省と特許庁が『産業競争力とデザインを考える会』を発足し、そのなかで『デザイン経営宣言』という報告書がまとめられたことをきっかけに、デザイン経営が注目され始めました。

その中で、デザイン経営とは『デザインの力を、ブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法』と定義され、またその本質はユーザーを中心に考えることであると名言されています。

会社経営にもクリエイティブなデザイン思考を取り入れることで、さらに企業価値の向上を目指すというものです。

デザイン力を高めることで企業力が向上する

先の報告書のなかで、デザイン経営の効果は具体的に『ブランド力向上+イノベーション力向上=企業の競争力の向上』であると書かれています。

製品やサービスのデザインは、そのものだけでなく、企業イメージにも直結します。つまり、その企業が販売する製品やサービスのデザインの積み重ねが、企業のイメージ、ブランドへと中長期的につながっていくのです。

たとえばAppleは、スマートで無駄のない先進的な製品をいくつも生み出すことで、それがAppleのブランドへとつながっています。また、無印良品はシンプルで洗練された製品が企業のブランドにもなっています。

また、先述のようにユーザーが積極的に新しい製品やサービスを欲さず、十分に満足しているという時代において、イノベーションは研究開発によって新たな技術を搭載することだけでは不十分です。

そこにデザイン思考を用いて、ユーザーのニーズを見極め、新しい価値を提供することが必要です。それがイノベーション力です。

このブランド力とイノベーション力によって、企業の競争力が向上し、最終的に企業価値の向上にもつながると考えられています。

ビジネスにデザインの考え方を取り入れる

デザイン思考という言葉を見聞きする機会も増えているものの、その本質を理解していなければ、生産的に活用することはできません。

デザイン思考の定義と、五つのステップ、またケーススタディを参考にぜひ日常のビジネスに取り入れてみましょう。

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