大人の歌舞伎入門。基本を押さえて伝統芸能に触れてみよう

2018.07.31

歌舞伎初心者に向けた『歌舞伎の楽しみ方』について解説します。歴史や舞台の仕組み、屋号などを理解すると、より歌舞伎が身近なものに感じられます。東京ではほぼ1年中、歌舞伎を鑑賞することができます。チケットの購入方法も確認しておきましょう。

歌舞伎とは

『歌舞伎』は世界的に有名な日本の伝統芸能で、1965年に国の重要無形文化財に指定されています。しかし、歌舞伎の語源や歴史、役柄など、「名前は知っているが中身は知らない」という人は少なくありません。

歌舞伎とは一体どのようなものなのでしょうか?まずは、3つの視点から見ていきましょう。

歌舞伎の語源

『歌舞伎』という漢字だけを見ると、歌い舞う華やかな世界を連想させます。しかし、この文字は全くの当て字で、語源は『傾(かぶ)く』という連用形を名詞化した『かぶき』からきています。

この言葉が生まれたのは、慶長年間(江戸時代)です。派手で奇抜な格好を好んだり、常識外れの行動をしたりすることを指し、そうした者は『かぶき者』とよばれていました。

時代が経ると、かぶき者の格好をして踊る『かぶき踊り』が流行し始めます。これが現在の『歌舞伎』の始まりだといわれています。

ちなみに、かぶき踊りは女性が踊るものだったため、『歌舞伎』の『伎』には『姫』や『妃』の当て字が使われていました。

狂言も歌舞伎の1つ

江戸時代、『歌舞伎』は俗称で、公式的には『狂言』や『狂言芝居』などと呼ばれていました。といっても、一般的な『狂言』は『狂言=歌舞伎』ではなく、歌舞伎の1つと考えるほうがよいでしょう。

狂言は、『狂言綺語(道理に合わないたわごと、飾り立てた言葉)』という仏教用語を語源とし、後に『滑稽な振る舞いをする芸』という意味で定着しました。

歌舞伎は、このような狂言や人形浄瑠璃、演劇、舞踊など様々な要素を取り入れ成長し、現在は多様性に富んだ『総合芸術』という地位についています。

歌舞伎の役柄

歌舞伎では、登場人物を年齢・性別・職業・役割・性格(善か悪か)などで分類します。これを『役柄』とよび、大きく分けると以下のようなものがありますが、実際にはさらに細分化されます。

  • 立役(たちやく)…男の善人
  • 敵役(かたきやく)…男の悪人
  • 女方(おんながた)…女性役
  • 道化方(どうけがた)…笑いを誘う役
  • 老役(ふけやく)…老人役

たとえば、『立役』は荒々しく勇猛な『荒事』と、物腰のやわらかい色男『和事』に分けられます。『敵役』は悪の中の悪である『実悪』や、位の高い悪人『公家悪』、ハンサムな悪人『色悪』などに分けられます。

これらの役柄には、人物の特徴を代表するような装飾が施され、一目で何を演じているのかが分かるようになっています。

歌舞伎の歴史

歌舞伎は、江戸時代に一斉を風靡した『かぶき踊り』がはじまりですが、その後はどのような変遷をたどってきたのでしょうか。

歌舞伎が誕生した時代から、戦前・戦後を経て、今の『総合芸術』や『無形文化財』になるまでを振り返ります。

出雲の阿国が始まり

江戸時代に流行した『かぶき踊り』は男性に扮した女性が踊る奇抜な踊りでした。1603年(慶長8年)、出雲の巫女を名乗る女性が、京にのぼり、かぶき者の扮装をした男姿で踊ったのがはじまりです。

巫女の名前は『クニ』といい、出雲大社勧進のために諸国を巡回している途中だったといわれています。

クニの踊りには、『念仏踊り』の要素があったという説もありますが、京の茶屋遊びなどを演じる遊女的な側面もあり、多くの人々を魅了していきました。

出雲の阿国(クニ)が広めたかぶき踊りは、のちに『女歌舞伎』とよばれ、主に三味線を伴奏に遊女たちが踊るスタイルへと変わっていきます。

その後、社会の風俗を乱すという理由や、男尊女卑の考え方から、女性が舞台で踊る『女歌舞伎』が禁止されるようになるのです。

新歌舞伎の流行と古典歌舞伎の復活

『女歌舞伎』が禁じられてからは、成人前の少年が演じる『若衆歌舞伎』、そして成人男性が演じる『野郎歌舞伎』へと変遷していきます。

歴史の流れから見て、歌舞伎は大きく2つに分けることができます。江戸時代末期までの歌舞伎で、歌舞伎専門作者による作品を『古典歌舞伎』、そして明治、大正、昭和の歌舞伎で、狂言作者以外による作品を『新歌舞伎』といいます。

明治から大正にかけては、近代思想や人物などを反映させた『新歌舞伎』が盛んに上演され、学生などの若い世代も歌舞伎に興じるようになりました。

一方『古典歌舞伎』は一度は下火になり、戦後すぐは歌舞伎の主要演目が禁じられたこともありましたが、戦後第1世代の俳優の活躍で見事復活を遂げます。

戦後の復興を経て現在の歌舞伎へ

1951年に歌舞伎座が再建され、1966年代には国立劇場が開場します。また、この頃には60年も途絶えていた市川團十郎の名跡が復活します。このように戦後の復興と共に、『古典歌舞伎』が熟達し、洗練されていくのです。

昭和の後半になると、舞台にも新しい演出技法が取り入れられるようになりました。最新の照明や、音響などを駆使した現代風歌舞伎は『スーパー歌舞伎』と呼ばれ、多くのファンを獲得していきます。

このように、歌舞伎は常に時代の思想や文化を取り入れながら、紆余曲折を経て、現在の『総合芸術』の形に磨き上げられてきたといえるでしょう。

歌舞伎役者の屋号や演目

歌舞伎の歴史や背景を学んだ後は、実際に歌舞伎芝居を楽しむためのポイントを紹介します。

歌舞伎で欠かせないのが『歌舞伎役者』です。屋号や、演目、歌舞伎の作家と代表作についても見ていきましょう。

主な作家と代表作

江戸から明治にかけて活躍した、代表的な作家を3人紹介します。

まずは、人形浄瑠璃の作者『近松門左衛門』です。1695年(元禄8年)からの10年間は『坂田藤十郎』のために、多くの歌舞伎作品を書きました。人形浄瑠璃の『曽根崎心中』や『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』は、現在でも歌舞伎の演目に取り入れられています。

1804年からの文化・文政年間には『鶴屋南北』が活躍します。作品は独創性に富み、怪談物や生世話(きぜわ)とよばれる、庶民のリアルな生活を描いた作品を多く書き残しました。代表作として最も有名なのが、『東海道四谷怪談』です。

幕末から明治時代には『河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)』が名を挙げました。江戸の庶民生活を描いた作品が多く、三味線音楽や七五調のセリフを入れ込むという特徴があります。

四代目市川小團次のために書いた『都鳥廓白波(みやこどり ながれの しらなみ)』が出世作となっています。

歌舞伎役者と屋号

歌舞伎役者は、それぞれ自分の屋号や家紋を持っています。屋号は『名字のかわり』となるもので、上演中に観客席から『〇〇屋!』と声がかかる光景がよく見受けられます。

数多くある屋号の中でも、代々荒事の役を勤める『成田屋』が別格とされ、現在は市川海老蔵が成田屋の当主を勤めています

とはいえ、屋号ごとに明確なランク付けがあるわけではありません。主な屋号と中心人物は以下の通りです。

  • 成田屋(市川團十郎)
  • 高麗屋(松本幸四郎)
  • 音羽屋(尾上菊五郎)
  • 播磨屋(中村吉右衛門)
  • 松嶋屋(片岡仁左衛門)
  • 成駒屋(中村歌右衛門)
  • 成駒家・山城屋(中村鴈治郎・扇雀)
  • 中村屋(中村勘三郎)
  • 萬屋(中村錦之助)
  • 大和屋(坂東玉三郎)

有名な若手歌舞伎役者として、高麗屋の市川染五郎、音羽屋の尾上菊之助や尾上松也、松嶋屋の片岡愛之助などが挙げられます。

それぞれの屋号の歴史や成り立ちについては、こちらの記事でさらに詳しく解説されています。

歌舞伎の屋号と序列を知ろう。歴史も知ってさらに楽しく観劇

著明な演目

歌舞伎で著名な演目は、役者や配役を変えて何度も上演されます。歌舞伎の初心者は、代表的な演目から入り、徐々に自分の好みを見つけていくのがよいでしょう。

上演頻度の高さでいえば『勧進帳(かんじちょう)』が有名です。源義経と弁慶が平泉に落ち延びていく様を描いたもので、安宅(あたか)の関所を通過する際の息詰まる『山伏問答』や弁慶の『飛び六方』などが見どころです。

また、歌舞伎演目の金字塔と称される『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』は、赤穂浪士による仇討ちを描いたもので、各時代の名優によって何度も上演されています。

その他、『曾根崎心中』や『東海道四谷怪談』、襲名披露公演で多く上演される『連獅子』などもチェックしてみましょう。

歌舞伎と関連する言葉

普段何気なく使う言葉の中にも、歌舞伎と関係が深い言葉が沢山あります。

襲名とは

歌舞伎界でよく耳にするのが『襲名』という言葉です。襲名は歌舞伎界に関わらず、落語や能楽、文楽の世界などで多く見受けられ、『師匠の名をそのまま受け継ぐこと』を意味しています。

先人の名跡をそのまま受け継ぐということは、『それに恥じない技芸を得た証』であり、観客の期待も大きくなります。出世魚のように、年齢や能力に応じて名前を継ぎ、どんどん成長していくのが特徴です。

歌舞伎由来の言葉は多い

現代語の中にも歌舞伎に語源を発する言葉は多く存在します。もちろん、現代語での意味と、歌舞伎中での意味とが若干違うものもあります。

しかし、そのほとんどは歌舞伎に由来しているのかと驚くようなものばかりで、歌舞伎文化が日本語の中に脈々と受け継がれてきているのを感じるでしょう。

得意な芸という意味の『十八番』は現代語では『おはこ』とも呼ばれ、なじみ深い言葉となっています。歌舞伎では『じゅうはちばん』と読みます。これは、市川團十郎家の芸を『歌舞伎十八番』と称したことに端を発しています。

また、犯罪者などが雲隠れする『ドロン』は、歌舞伎中、怪物などが消える際の効果音『どろんどろん』が由来です。

歌舞伎揚げの由来は?

東京都武蔵村山市に本社を構える製菓会社『天乃屋』では『歌舞伎揚げ』という揚げせんべいが作られています。

パッケージには定式幕を模した色が使われ、せんべいの表面に歌舞伎の家紋をデザインした刻印が施されているのが特徴です。

この歌舞伎揚げは、日本伝統芸能の『歌舞伎』と日本の伝統製菓『せんべい』を後世に残したいという創業者の想いに端を発しています。

歌舞伎の舞台

歌舞伎役者の立ち回りやストーリの他に、ぜひ注目したいのが『歌舞伎の舞台』です。舞台の仕組みを理解するとより歌舞伎が楽しくなるでしょう。

本舞台とセリ

歌舞伎のメインとなるのが『本舞台』です。この本舞台の一部は、床がくり抜かれており、上下に動かすことができる構造になっています。

これを『セリ』とよび、大きなセリは大きく舞台転換する際に使われ、小さいセリは幽霊や妖怪などが忽然と現れたり消えたりするのに使われます。

これらのセリがあるおかげで、舞台はダイナミックかつ臨場感に溢れたものになるといえるでしょう。

花道と奈落

『花道』とは本舞台から客席を縦断するように作られた廊下のような部分で、俳優が出入りする通路や舞台の一部として使われます。

一方で、『奈落』は、本舞台などの『地下部分』のことを指し、舞台装置などを動かす作業場として用いられます。地下部分にあたるため、暗くてジメジメしていることから、『奈落』という名前がつけられました。

劇場の移り変わり

歌舞伎の歴史は400年以上ですが、時代によって舞台や劇場の形が移り変わっています。

江戸時代初期は、能舞台を模した構造となっており、舞台には屋根がありませんでした。そのため、雨天時は公演ができなかったといわれています。

江戸時代後期になると、瓦葺の屋根で覆われた芝居小屋が誕生し、舞台には花道が設けられるようになります。

明治時代中期に入ると、劇場の洋式化の影響で、外観がレンガ造りとなりました。舞台の間口が広くとられ、照明器具などが導入されることで、演出にも大きな飛躍が見られるようになったといわれています。

歌舞伎を見に行ってみよう

現代において、歌舞伎はいつ、どこで上演されているのでしょうか。場所の選び方やチケットの購入の仕方などについての基本を解説します。

歌舞伎座以外にも劇場は多い

歌舞伎が鑑賞できるのは、東京だけに限ったものではありません。全国の主要都市には歌舞伎の施設が点在し、現在約21施設があります。

歌舞伎の公演は年間を通して行われているので、ふらりと立ち寄り当日券を購入することもできます。

有名どころとしては東京銀座にある『歌舞伎座』、松竹の主要劇場である『新橋演舞場』があります。また『国立劇場』では歌舞伎入門講座や鑑賞教室なども定期的に開催されているので足を運んでみましょう。

地方劇場としては、大阪道頓堀にある『大阪松竹座』、京都・四条にある『京都四条南座』が有名です。京都四条南座は、日本最古の劇場として国の登録有形文化財に指定されており、外観を見るだけでもその価値を感じることができます。

チケットの購入の仕方

チケットは前売り券と当日券があります。当日券は劇場の窓口で直接購入することも可能ですが、人気の上演演目のチケットは、プレイガイドやインターネットで調べ、事前に購入しておくのがおすすめです。

1等席、2等席、またはS席、A席など、席にはランクがあり、チケットの価格が異なります。価格が手頃な良い席はどんどん予約が埋まっていきますので、早めにチェックしておきましょう。

一幕見席で試しに見てみるのもアリ

初めて歌舞伎に触れる人は『一幕見席』がおすすめです。一幕見席は、歌舞伎の好きな演目(場面)だけをかいつまんで見ることができるので、歌舞伎の雰囲気を楽しむのに最適です。

一幕見席は、『歌舞伎座』の4階にあり、本舞台からの距離はかなり離れています。しかし舞台全体が見渡せ、チケットも1,000円~2,000円とリーズナブルです。

歌舞伎を楽しむために

歌舞伎は敷居が高いと感じる人もいるのではないでしょうか。しかし、日本の由緒ある伝統芸能でありながら、庶民の娯楽でもある歌舞伎には、鑑賞の特別なルールはありません。楽しむためのポイントをお伝えします。

特別な決まりはない

まず、歌舞伎にはドレスコードなどの特別な決まりは存在しません。おめかししても構いませんが、基本は普段着のままでOKです。歌舞伎は長時間の上演になるので、堅苦しい服装では逆に楽しめないこともあるかもしれません。

歌舞伎に限ったことでありませんが、後ろの席の人を邪魔するようなつばの大きな帽子や髪飾りは避けましょう。また、カメラ、携帯電話の使用、私語、食事などはNGとなっています。

筋書きやイヤホンガイドを活用しよう

歌舞伎で使用される言葉は、現代語とかけ離れている上、声の大きさや抑揚にも特徴があります。それが歌舞伎の醍醐味といえますが、「ストーリが分からず楽しめない」という人も少なくありません。

歌舞伎初心者は、あらかじめチケットボックスで『筋書き』や無料のチラシを手にいれておくことをおすすめします。

また、舞台の進行に合わせたあらすじや、配役を説明する『イヤホンガイドのレンタル』を活用するのもよいでしょう。イヤホンガイドを利用するのは初心者に限りません。より一歩踏み込んで歌舞伎を楽しみたいという人に支持されています。

字幕ガイドは英語にも対応

『歌舞伎座』では英語の『字幕ガイド』を導入しています。あらすじ、せりふ、長唄、浄瑠璃の詞章までもが簡単な英文で表示されるので、外国人の歌舞伎への理解を大きくサポートしてくれるでしょう。

保証金500円~1,000円を払うことで貸し出してもらえ、機器返却時に保証金が返されます。一部の席では身分証明証や運転免許証などが必要となります。

歌舞伎を見に行くときに知っておきたいポイントやおすすめの席などは、こちらの記事でさらに詳しく解説していますので、参考にしてみてください。

歌舞伎の公演を楽しむポイント。覚えておきたいマナーと全国の劇場

伝統芸能の良さを味わえる大人に

歌舞伎は、あらすじや見どころが分かってくると、その楽しさや魅力にはまる人が多いようです。『大人の楽しみ』や『大人の趣味』の1つとして歌舞伎を取り入れてみてはいががでしょうか。

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