普段の生活で俳句を作ることはありませんが、学校の課題として、趣味として、俳句を作りたいと思う人は少なくありません。俳句は伝統的なものですが、難しく考える必要はありません。奥深き俳句の世界の基本的な知識をお伝えします。
俳句の基本ルールは2つ
俳句には基本的なルールがあり、どちらも難しくはありません。逆に、これだけ覚えておけば俳句は作れるということです。
五七五の十七音で作る
まずは基本中の基本、五七五。それぞれ五音・七音・五音を並べて言葉を紡ぐのが、定型(俳句の決まった形)とされています。
ここで注意したいのは、「字で書いた時に十七字になる」のではなく「読んだ時に十七音になる」のが定型だということです。例を見てみましょう。
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺(正岡子規)
これは有名な正岡子規の俳句です。これを五七五に分けてみましょう。
かきくえば かねがなるなり ほうりゅうじ
ご覧の通り、「法隆寺」は字にすると六字ありますが、声に出すと五音になるので五七五になっています。
もう1つ例を見てみましょう。
名月をとってくれろと泣く子かな(小林一茶)
こちらもまた有名な小林一茶の俳句です。これを五七五に分けてみましょう。
めいげつを とってくれろと なくこかな
この「とってくれろと」の中には「っ」を含みますが、これは一字に数えます。
実際に読んでみると「とってくれろと」「とてくれろと」では音の数が違うことがわかります。つまり、こちらも定型を守っている俳句ということです。
- 「ゃ」「ゅ」「ょ」などの拗音は一字として数えない
- 「っ」促音は一字として数える
これを覚えておきましょう。
季語を入れる
季語とは、季節を感じさせる語で一定の季節と結び付けられています。
例えば、春の季語である「桜」が俳句に入っていると、それだけで出会いの季節や儚げな情景などを連想することができます。
俳句はたった十七音と、とても少ない字数しか使うことができません。季語を有効活用することで、季節のもつ雰囲気や細やかな心の機微、まざまざとした光景を表現することができ、多くの情報を読み手に与えることができるのです。
ルール違反ではない字余り、字足らず
定型は五七五と説明しましたが、これに当てはまらない俳句もあります。
- 字余り…音の数が五七五より多いこと
- 字足らず…音の数が五七五より少ないこと
例文を見てみましょう。
目には青葉山ほととぎす初鰹(山口素堂)
最初が「めにはあおば」と六音になっています。特に字余りは最初の五音で使うと違和感が少ないと言われています。
虹が出るああ鼻先に軍艦(秋元不死男)
こちらは最後が「ぐんかん」と四音になっています。
字余り、字足らずは定型に比べてやや収まりが悪くリズムが崩れてしまいます。だからこそ、その語を強調できるので、より印象深くしたい時には効果的です。
しかし、原則は五七五の定型であり、それに外れたものはルールを守っているものよりも一段低い物として扱われる場合もあります。
よほど字余りや字足らずが効果的で俳句として意味を持つものでないと良い句にはなりづらいので、まずは五七五を守って作ることをおすすめします。
俳句を上手に作るコツは?
ルールが分かっても、いきなり俳句を作るのは難しいでしょう。何を題材にしたらいいのかさえ悩んでしまいます。肩に力を入れず、気楽に作ってみましょう。
いきなり十七音にしなくてもいい
最初から五七五に当てはまる語を探すのはかえってよくありません。何を伝えるかよりも定型に当てはめることが目的になりかねないからです。
感じたままに文章にしてみよう
まずは感じたまま、見たままを文章にしてみましょう。そのまま作品になるわけでも、人に見せるわけでもないので、どのような形でも構いません。日記のようでも、話し言葉でも大丈夫です。
「お腹が空いた。寒いからおでんが食べたいなぁ。」
「明日は楽しみにしていた旅行の日だ。何を着て行こうかなぁ。」
など、特別なことでなくて構いません。思うがままにまずは書いてみましょう。これよりも長い文章で大丈夫です。
一番伝えたいことを考えよう
感じたままを文章にしたら、何が一番伝えたいことかを考えましょう。どの言葉を使いたいか、どんな感情を大事にしたいかなどです。それを一文にしてみましょう。
それが出来たら、五七五の形に変えていきます。例えばこのような感じです。
古い池に蛙が飛び込んで、水の音がした。
これは単に事実を説明しているのに過ぎない文章です。 これを以下のようにするとどうでしょうか?
古池や蛙飛びこむ水の音 松尾芭蕉
これで俳句としての形が出来上がります。五七五に当てはまらない場合は、同じ意味の別の語などに変えたり、言う必要のない無駄な言葉を削ったりしながら調整していきましょう。
心情や強調を伝える切れ字を使おう
切れ字とは俳句の中で切れを生み出す語で「や」「かな」「けり」「なり」などがあります。文を切断することで感動や呼びかけ、語を強める意味を持ちます。
これまでに紹介した俳句にも切れ字を使った俳句はありましたが、気付きましたでしょうか?
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺(正岡子規)
名月をとってくれろと泣く子かな(小林一茶)
古池や蛙飛びこむ水の音(松尾芭蕉)
それぞれ「なり」「かな」「や」が切れ字だとわかります。このように有名な句を読むとどのように使うかがわかりやすく、良い俳句に触れる機会にもなるので、名句と言われる俳句を読んでみるのもおすすめです。
特に「や」「かな」「けり」はよく使われるので、まずはこの3つを使えるようになると良いでしょう。これらはすべて『詠嘆』を表す切れ字であり、何かに強く心を動かされたり感動したりするときに使われます。
春夏秋冬の季語を確認しよう
季語は陰暦(昔使用されていた暦)で考えられており、ざっくり分けると1~3月が春、4~6月が夏、7~9月が秋、10~12月が冬とされています。
例えば、7月7日を七夕と言いますが、これは秋の季語です。このように一般的にはわかりづらい季語もあるので、季語がわかる歳時記を用意するのがもっともわかりやすいでしょう。
季語の入門書としては、カラー写真やコラムと共にわかりやすく楽しめる『大人も読みたい こども歳時記』がおすすめです。これで先ほど紹介した切れ字についても理解が深まるはずです。
俳句は英語でも作れるって本当?
昔からある日本の物、というイメージがある俳句ですが、なんと英語でも俳句を作れるのです。
そのまま「HAIKU」として知られており、英語での俳句は日本語と同じルールもあれば違った部分もあるので、そこを見ていきましょう。
日本語と英語の俳句のルールの違い
まずは同じルールから見ていきましょう。
- 五七五のリズムで作る
- 季語を使用する
- 切れ字を用いる
次に異なるルールです。
- 五七五の一音は音節で表す
- 季語は季節をイメージするものであれば良い
- 通常は3行書きで、五七五に必ずしもこだわる必要は無い
- 切れ字はダッシュ(―)やコロン(:)、エリプシス(…)で表す
とういことです。一つ一つ見ていきましょう。
- 五七五の一音は音節で表す
音節とは、英語で話した時に一つの音だと感じる単位のことで、単語とはまた別のものです。
母音を中心としたまとまりとなっており、基本的には単語の中にいくつ母音(a,i,u,e,o)が含まれているかで何音になっているかがわかります。
例えば、tomatoは三音節です。
- 季語は季節をイメージするものであれば良い
明確に決まりは無く、季節を感じさせる語を入れれば良いとされています。これは俳句を作りなれていなくても作りやすく、親しみやすいルールでしょう。
- 通常は3行書きで、五七五に必ずしもこだわる必要は無い
日本の俳句は縦一行ですが、英語は横3行で書きます。
また、五七五を音節で数える分、情報を盛り込みすぎになってしまう可能性があるため、三四三などでも良いとされています。
- 切れ字はダッシュ(―)やコロン(:)、エリプシス(…)で表す
切れ字の使い方は日本と同じですが、使うのはダッシュやコロン、エリプシスなどです。行の最後に用いることで俳句の切れ目を作ります。
全体のルールとして、英語の俳句はその言語の特性上、日本語の俳句よりもルールが緩和されていると思って良いでしょう。
日本語の有名な俳句が英訳に
What stillness!
The voices of the cicadas
Penetrate the rocks.
訳:Reginald Horace Blyth
これは日本文化研究者のレジナルド・ホーラス・ブライスが、日本の俳句を訳したものです。何の俳句かわかりましたでしょうか?正解は、松尾芭蕉の有名な俳句です。
静けさや岩に滲み入る蝉の声(松尾芭蕉)
日本語俳句の英訳は人によって訳し方が違うのも趣があって面白いものです。
今人気の俳句を作ってみよう
俳句の基本中の基本をお伝えしました。もちろんここで述べられていることさえ守れば素晴らしい俳句が作れるわけでは全くありませんが、特別なスキルがなくても俳句は作れることがわかっていただけたと思います。
ぜひあなたも何気ない日常を俳句で読んでみるのはいかがでしょうか?日記を書くのは長くて大変という人も俳句なら続くかもしれませんし、脳も活性化されますよ。